漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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後編 上

 スカリエッティのアジトの中に一人で入って行ったフェイトは、奥へと進み続けていたが、その表情は疑問と困惑に満ち溢れていた。

 

(如何言う事なの? スカリエッティのアジトの筈なのに、AMFが全く展開されていない。それにこの夥しい数のガジェットの残骸は一体誰が?)

 

 通路を埋め尽くすほど破壊されたガジェットの残骸。

 敵地で在りながら、全くAMFが展開されていない事にフェイトは疑問を覚えるが、考えても答えは分からず先に進む。

 すると、戦闘機人の生体が入った生体ポットが在る部屋へと到着し、険しい視線を生体ポットに向けて睨み付ける。

 

「……赦せない。こんな命を弄び、ただの実験材料として扱う研究なんて絶対に赦せない!!」

 

 自身の知る情報とスカリエッティの行っている研究が一致した事に、フェイトは怒りに満ちた声を上げ、スカリエッティの逮捕へと向かおうとするが、突如として声が響く。

 

「管理局員の貴女が言える事ではないわよ、フェイトさん」

 

「ッ!!」

 

 聞こえて来た聞き覚えの在り過ぎる声に、フェイトは慌てて声の聞こえて来た通路の先に目を向けてみると、その人物を見つける。

 その人物は翡翠の髪に、翡翠の瞳を持った二十歳ぐらいの整えられた黒いスーツを着た女性。

 フェイトに取っては二人目の母親で在り、現在は本局に居る筈の女性-リンディ-が通路の奥に立っていた。

 

「リンディ義母さん!? 如何して此処にいるの!? 本局に居る筈じゃ!?」

 

 目の前に現れたリンディに向かってフェイトは声を上げながら質問した。

 本来ならば本局に居る筈の人物が目の前に、しかも事件の首謀者であるスカリエッティのアジト内部に居るのだから驚愕するのも当然だろう。

 しかし、リンディはフェイトの驚愕には構わず、自身の横に在る生体ポットの中に居る素体を悲しげな視線で見つめる。

 

「……酷いわよね。勝手に生み出されて、道具の様に扱われる。命を命と思っていない者が出来る行為だわ」

 

「……うん。だから、この先に居るスカリエッティを逮捕する。それで事件は解決する」

 

「……失望したわ」

 

「ッ!?」

 

 リンディの宣言にフェイトは目を限界にまで見開きながらリンデ ィを見つめた。

 失望した。確かにリンディはそうフェイトに向かって告げたのだ。 そんな言葉を、しかも自分を理解している筈のリンディから言われるとは思っても見なかったのだろう。

 しかし、リンディからすればフェイトに失望するには十分だった。 フェイトはこう言ったのだ。

 

“スカリエッティを捕まえれば事件は解決する”

 

 それは事件の本質を全く見ていない事と同意義なのだ。

 

「スカリエッティを捕まえれば、更なる違法研究に寄る犠牲者が生まれるわね」

 

「・・・・それってどういう事なの?スカリエッティを捕まえたら、更なる犠牲者が生まれるって、義母さん一体如何言う事なの?」

 

「一つ言い忘れていたわ。私は『リンディ・ハラオウン』ではないわよ」

 

「ッ!?」

 

 リンディの告げた事実にフェイトはすぐさま自身のデバイス-ザンバーフォームに変えたバルディッシュ-をリンディに向けて構える。

 

「……リンディ義母さんの人造魔導師なのね?」

 

「それも外れ。私はリンディ・ハラオウンの成れの果て、〝リンディ゛よ」

 

「如何言う事なの? 成れの果てって? 一体?」

 

 フェイトは疑問に満ち溢れた声でリンディに質問するが、リンディは答えずにフェイトに失望したと言う視線を向け続ける。

 

「話は戻すけど。貴女が知るスカリエッティの情報を統合すればこうでしょう。“非合法な人体実験などを行なっている科学者”。そうでしょう?」

 

 リンディがそうフェイトに質問すると、フェイトは構えを解かずに無言で頷く。

 それを見たリンディは更に失望したと言うように溜め息を吐きながら、フェイトを見つめる。

 

「この世界のクロノは何を教えたのかしらね? 上辺だけの情報しか見ないなんて、執務官失格も良い所よ。スカリエッティが一個人でこれほどの規模の設備の準備や事件を行えると思っているの?」

 

「ッ!!」

 

 フェイトは慌てて辺りの無数の生体ポットを見つめた。

 リンディの言うとおりこれほどの大規模な設備の準備を一個人で行える筈は無いし、アレほど巨大な聖王のゆりかごも隠せる筈も無い。これほどの大規模な事を行えるとしたら、世界レベル規模の、そう管理局クラスの力も持った組織の協力が必要。

 

「地上本部!? スカリエッティを支援していたのは地上本部のレジアス・ゲイズ中将!!」

 

 フェイトは自身の知る情報から、スカリエッティを支援したのは地上本部の重鎮で在るレジアス・ゲイズがスカリエッティを支援したと判断した。

 それは確かに正しい。レジアスは確かにスカリエッティに依頼して、戦闘機人の技術を手に入れようとしていた。だが、違う。レジアスは依頼者で在って、スカリエッティの背後に居るものではない。スカリエッティの背後に居る者はレジアスさえも手駒にした存在。そう。

 

「“時空管理局最高評議会、及びそれに付き従う上層部一派”。それこそが、スカリエッティの背後に居る黒幕よ。フェイトさん」

 

「なっ!?」

 

 予想以上の黒幕達の正体にフェイトは声を上げながら、リンディを呆然と見つめた。

 リンディの言葉が真実だとすれば、時空管理局そのものが違法研究を推進している事に他ならない。

 

「そう、管理局は自身が否定している違法研究を裏では平然と行っている。場所としては最高の環境よね。自分達が何かしなくても、勝手に違法研究の資料は集まる上に法が犯罪を犯す筈は無いと、多くの人々や一般局員は思っている。本当に違法研究を行うのには最高の環境だと思わない?」

 

 そうリンディはフェイトに告げると、何処からとも無く紙の様な束を取り出し、フェイトの前にばら撒く様に投げ付ける。その床にばら撒かれた資料をフェイトは恐る恐る紙を拾い、内容に目を向けて見る。

 其処に書かれていたのは、フェイトが摘発した筈の違法研究所に在った内容とそれをスカリエッティに伝えた管理局員の名前。管理局が違法研究を推進している事を示すのに充分な証拠の数々だった。

 

「そ、そんな……嘘だ……こんなの」

 

「現実よ。全ては管理局から始まった。そして幾ら違法研究を行っても管理局は裁かれないわ」

 

 リンディの言葉にフェイトは体を震わせながらリンディの顔を見つめるが、リンディからすれば当然の事だった。何故ならば、管理局は法を適用し、法を執行し、法を決めると言う三権分立が集まった組織。

 しかも幾つもの世界を管理している組織。その様な組織に反論で きるものは存在はしていない。

 各管理世界の代表にしても、自分達の世界を管理している管理局に強く言う事は出来ない。失敗すれば戦争に発展してしまうのだから、多くの人々の代表で在る代表者達も強く管理局に抵抗する事が出来ないのだ。

 

「そして今の惨状。魔法技術しかないのに、全くAMFに対する対抗策が成されていない」

 

「それは!? 地上本部が私達の話を聞いて!!」

 

「ハア〜、本当に呆れるわ。ねえ、フェイトさん? 地上は低ランクの魔導師が主流なのよ? そんな状態で、貴女の部隊。機動六課と同じ事が出来ると思うの? AMFに対抗出来る魔法の【多重弾殻射撃』だってAAクラスの魔法だから使いこなせる人間は限られているわ。地上の数少ない上位の魔導師は通常業務に集中しないと行けないから、AMF対策を満足に行えるものは少ない。機動六課と違ってね」

 

「ッ!?」

 

 機動六課は通常では考えられないほど戦力が充実した部隊。しかも日夜ガジェットを倒す為の訓練を行い続けていたのだから、ガジェットは敵ではない。

 だが、一般的な地上の部隊は機動六課の様に戦力が充実しているわけでも、ガジェット対策の訓練を積んでいる訳でもない。当然、ガジェットに地上の部隊が勝てる可能性は低いのだ。

 

「住民の避難も殆どされていない。地上本部襲撃から数日も時間が在った筈なのにね。スレイプモンが住民の避難を行わなかったら、多分、怪我人は続出。数千人以上の死傷者を出しているでしょうね。そしてそれに対しても、管理局は反省なんてしない」

 

「そんな事在る筈無い!! 管理局がそんな事を!?」

 

「……十年前にクロノが言っていたわね。“世界はこんな筈じゃないことばかり”。それは管理局にも適用されるんじゃないの?」

 

 フェイトはハッとしたと言うような顔をしてリンディを見つめた。

 世界はこんな筈じゃないことばかりに溢れている。次元世界を護っている管理局も世界の一部でしかない。しかも管理局は権力が集中している場所。

 当然ながら、自身の権力の為や欲望の為に動く人間も必ず存在している。管理局だけが例外など在りえないのだ。

 

「そして全ては本局上層部の思惑通りに進んでいたわ。私達を除いた全てがね」

 

「本局上層部の思惑?」

 

「そう、本局上層部の真の思惑は、“地上本部の完全掌握”!!」

 

 リンディが告げた本局上層部の思惑にフェイトは目を見開いた。

 〝地上本部の完全掌握゛。同じ管理局で在りながら、本局の真の目的が地上本部の完全掌握だと告げられた。

 しかし、リンディはフェイトの驚愕には一切構わずに、更なる事実を告げる。

 

「陸と海の仲の悪さは知っているわよね? その原因は、地上の人材や予算を本局が吸い上げているから。勿論地上側にも問題点は在るけれど、重要な時に地上に事件が起きても本局は知らん振り。そんな状況では陸と海の仲は悪化する一方。しかも万年人材不足の状況なのに」

 

「そ、それは……」

 

 リンディの言葉にフェイトは反論しようとするが、その通りなので言い返す事が出来なかった。

 陸と海では扱う事件の規模が違うからと言う理由で、本局は地上 から人材や予算を吸い上げている。当然ながら、地上の戦力は減るばかりであり、地上の局員は本局を嫌うと言う状況に陥っているのだ。

 その様な状態に在る事も分かっている本局は、何とかして地上の実権を握ろうと画策している。

 そしてそれに打って付けの状況が舞い込んで来た。

 

「この事件を地上ではなく本局が解決すれば、地上は本局に逆らえなくなるでしょうね。何せ何も出来なかったんだから。その為には地上の無能さを明らかにする状況を作らなければならない。そしてその為に、本局は貴女達の部隊、機動六課を設立した」

 

 フェイトは再び信じられないというようにリンディを見つめた。

 フェイトの知る話では、機動六課の設立の目的は予言に書かれた 管理局崩壊の予言を回避する為だと自身の上司である八神はやてや クロノ・ハラウオン、聖王教会のカリム・グランシアから聞かされていたのに、機動六課設立の真の目的が、地上本部の掌握に在ると言われたのだから、困惑するのも当然だろう。

 

「唯でさえ陸と海の仲は最悪なのに、本局は地上に勝手に部隊を設立した。これに寄って地上は本局に悪感情を更に持ち、地上は更に意固地になる。これが先ずは第一段階よ」

 

「……嘘だ」

 

「次に第二段階。地上の無能さを明らかにして、本局の有能さを明らかにする。この状況を作る為に打って付けの場は、公開意見陳述会場ね。あそこの警備の管轄は地上本部に在るから、ガジェットの襲撃に何の対策も取っていない地上部隊は蹂躙されるしかない。その状況ではガジェットに対抗できる機動六課が動けない状況も作る 必要が在る。思い当たるでしょう? 魔導師なのにデバイスの携帯を禁じられて、内部の警備をさせられたのだから? 予言の件が在るなら、絶対にデバイスの携帯ぐらいは無理やりにでも許可は得るでしょう? でも、肝心な時に許可を得なかった。可笑しいわよね?」

 

「……ア、ア、ア、ア」

 

 リンディが次々に明らかにする本局上層部の思惑に、フェイトは恐怖の声を上げて後ずさりし始めるが、リンディは逃がさないと言 う様に言葉を続ける。

 

「そして最終段階。大規模な事件を起こした者を、本局の人間が捕まえる。はい、これで地上の無能さは明らかに成って、本局の有能さが示されるわね。つまりね、フェイトさん」

 

「……ヤメテ……ヤメテ」

 

 リンディが次に告げる言葉が分かったフェイトは、怯えてリンディの言葉を聞こえないように耳を押さえて蹲る。

 だが、リンディは逃がさないと言うようにフェイトに近付き、耳を押さえているフェイトの両腕を凄まじい力で引き離し、残酷な真実を耳元で告げる。

 

「……全部ね。本局の思惑どおりだったの。この沢山の人々が危険に晒される状況も何もかも、本局上層部の願いどおりだったのよ」

 

「イヤアァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!」

 

 リンディが告げた残酷過ぎる事実にフェイトは否定の叫びを上げて、頭を抑えて蹲り始める。

 自分達-機動六課の行動は全て本局の思惑通りだった。其処に在る犠牲や悲しみの感情なども一切考えずに、本局は自分達の思惑通りに事が進む様に準備を続けていた。

 そして願いどおり、本局は地上本部を掌握出来る状況を作り上げた。その結果、どれほどの犠牲が出ても、本局は機動六課を前に出し、事件を解決した“奇跡の部隊”とでも祭り上げて、民衆に本局こそが世界を護っていると知らしめ、地上を本局が掌握する。

 勿論、失敗すれば全てを失う可能性が在ったが、それでもその見返りは権力に依存する者達からすれば魅力的なものだろう。

 

「最も、まさかあの予言の犯人が、スカリエッティだとは本局も思っても見なかったでしょうけど。あの予言は正に本局上層部に取っては最高のものだった。どうフェイトさん? 貴女達、管理局の縄張り争いのせいで地上の、クラナガンの人々を危険な目に合わせている気分は?」

 

「……ウ、ウゥ、ウワァァァァァァァァーーーー!!!」

 

 フェイトは顔を床に付けて大声で泣き始めた。

 全てが仕組まれた事だった。全ては本局が地上を掌握する為に作り上げた状況。クラナガンの人々が危険な目に合っているのも、ゆりかごの中でヴィヴィオが苦しむ様な状況に合ったのも、全ては本局の上層部達が願っていた状況だと、ハッキリとフェイトには分かってしまった。

 そう考えれば幾つもの辻褄が合う。機動六課の設立を認めた本局の上層部達。幾らクロノやこの世界のリンディ、聖王教会のカリム、そして伝説の三提督の支援が在ったとは言え、本局内部から反対意見が出なかったのにも納得できる。機動六課の後見人以外の思惑が裏で動いていたのだ。

 フェイトが絶望の真実に嘆きの声を上げ続けるが、リンディは慰めの言葉も掛けずに、フェイトに背を向け、ブラックの居る場所へと向かい出す。後には、悲しみの涙を流し続けるフェイトだけが残されるのだった。

 

 

 

 

 

 スカリエッティのアジト一番奥、其処では惨劇としか呼べない地獄が生み出されていた。

 壁からオブジェの様に生えている六本の足。この六本の足の主は、 ナンバーズ6-セインとナンバーズ7-セッテ、そして管理局の査 察官-ヴェロッサ・アコーズだった。

 彼女達は侵入してきたブラックウォーグレイモンXへと挑んだのだが、ブラックウォーグレイモンXは壁に隠れていたセインを逸早く見つけると、壁を粉砕して内部から無理やり連れ出し、振り回しIS-【無機物潜行(ディープダイバー)】を発動させる間際も無く壁にセインを叩き付けて、オブジェの様にセインを壁から生やした状態にした。

 次にセッテ。彼女は自身のIS-【スローターアームズ】-を使って、ブーメランブレードを操り、ブラックウォーグレイモンXに攻撃を仕掛けたのだが、ブラックウォーグレイモンXは両腕のドラモンキラーを使って難なくブーメランブレードを四本全て一瞬で砕き、驚愕しているセッテに一瞬の内に近付き、セインと同様にオブジェの形にして壁に生やしたのだ。序にこの時にヴェロッサも壁に埋め込んだ。

 因みにブラックウォーグレイモンXがヴェロッサを態々運んで来たのは道案内の為だ。何時もならば気にせずに前に進み、手当たり次第に破壊して目的の場所に向かうのだが、今回はルインとリンディが頼んだので、仕方が無く最短の道を聞く為にヴェロッサを利用したのだ。

 ヴェロッサとシャッハは本当に運が無かったとしか言えないだろう。この場所の入り口にさえ居なければ、ブラックウォーグレイモンXに目を付けられる事は無かったのだから。

 そして現在、ブラックウォーグレイモンXは、残されたナンバーズ3-トーレと激戦を繰り広げていた。

 

「クッ!! ライドインパルス!!」

 

 トーレは自身の高速機動のIS-【ライドインパルス】を使用して目の前に居る黒い機械的な鎧を身に纏った漆黒の竜人-ブラックウォーグレイモンXに向かって、両手足から生やしたインパルスブレードを全力で振り下ろす。

 

「ウオォォォォォーー!!!」

 

 トーレが叫ぶと共に振り下ろしたインパルスブレードは、ブラックウォーグレイモンXの鎧にぶつかった瞬間に、粉々に砕け散った。

 ブラックウォーグレイモンXが何かをした訳ではない。ただその鎧にぶつかっただけで、トーレのインパルスブレードは 跡形も無く砕けたのだ。

 自身の武器が簡単に粉々に砕けた事に、トーレは呆然としたするが、ブラックウォーグレイモンXは構わずに、呆然としているトーレに向かって腕を常人では見る事さえも不可能なスピードで振り抜く。

 

「邪魔だ」

 

「ライドインパルス!」

 

 ブラックウォーグレイモンXの一撃が決まる前に、トーレは再び自身のISを発動させ、何とかブラックウォーグレイモンXの攻撃を躱した。

 既にこのやり取りは何十回と繰り返している。トーレは自身のISを既に連続で使用し続け、ブラックウォーグレイモンXの攻撃を躱し続けていたが、その体は既にボロボロだった。

 ブラックウォーグレイモンXの攻撃は躱したとしても、その攻撃に寄る衝撃波に寄って体が傷付いていくのだ。

 しかも、連続でISを発動させ、自身の限界を遥かに超えるスピードを出して躱さなければ行けないほどに、ブラックウォーグレ イモンXの攻撃は速い。そうしなければトーレは既にやられたセッテやセインのように壁に顔から埋められた状態に成っているだろう。

 しかし、トーレは凄まじい勘違いをしている。“ブラックウォーグレイモンXは全く本気を出していないのだ”。

 

(つまらん。この世界のこいつ等はこの程度の力しか持っていないのか?)

 

(仕方無いですよブラック様。私達の世界と違って、この世界はデジモンの存在が表に出て無いんですから、ナンバーズの実力も低いのは仕方ないです)

 

 ブラックウォーグレイモンXとユニゾンしているルインが苛立ちを落ち着かせる様に言葉を言うが、ブラックウォーグレイモンXは不機嫌そうにトーレを見つめる。

 

(……いい加減に飽きた。リンディはまだ掛かるのか? そろそろの筈だぞ?)

 

(もう少しだそうです。アッ! それとデュークモンが、そろそろゆりかごの玉座に着きそうです)

 

(成らば遊びの時間は終わりだ。真の惨劇の始まりだ)

 

(了解です、マイマスター)

 

「なっ!?」

 

 ブラックの言葉に答えるようにルインが了承した瞬間に、動き回っていたトーレは突如としてバインドが巻き付き、体が空中に拘束された。

 それと共にブラックウォーグレイモンXは黒いエネルギー弾をドラモンキラーの爪先に出現させる。

 

「時間が来た。消えろ」

 

「グアァァァァァァァァーーーーーー!!!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXが投げ付けたエネルギー弾を、その身に受けたトーレは悲鳴を上げながら壁へと激突し、そのまま壁を掘り進みながら何処へとも無く消えて行った。

 その様子を見ていたスカリエッティは体を震わせ、ブラックウォーグレイモンXを見ていた。

 恐怖ではなく、歓喜に体を震わせて。

 

「フッ、フハハハハハハハハハハハハッ!! 素晴らしい! 素晴らしい!! 私の娘達が一撃も与えられないとは、君の様な存在にもっと早く出会いたかったよ!!」

 

 スカリエッティはもはや自分が助からない確信していた。

 しかし、それでもスカリエッティは興奮する。目の前にいるブラックウォーグレイモンXの前には、人造魔導師も、戦闘機人さえも、Sランクオーバーの魔導師さえも、そして世界を管理している管理局さえも無力。

 自身の行って来た全ての技術を持ってしても絶対に敵わないと、 断言出来る存在に出会えた事にスカリエッティは心の底から歓喜する。

 

「欲しいよ。小賢しい計算など吹き飛ばす理不尽な力! 無理を通して道理を捻じ伏せる力! 君の力は全てそれに当て嵌まる!! その力だ! その力が私に在れば、こんな馬鹿騒ぎも、ナンバーズも、聖王も、『ゆりかご』もいらなかった!! その力さえあれば、私は、僕は思うままに、夢を追いかける事が出来ただろう!!」

 

 スカリエッティは心の底からブラックウォーグレイモンXの力を欲した。

 全てを破壊し、自身の思いのままに進める圧倒的な力。その力こそスカリエッティが望んでいた力そのもの。

 それが最後の時に見つかった事を心の底から残念に思いながら、スカリエッティはブラックウォーグレイモンXに羨望の眼差しを送るが、ブラックウォーグレイモンXはスカリエッティの眼差しなど気にせずに再び黒いエネルギー球を作り上げる。

 

「貴様の夢など関係ない。俺にアイツの悲しみの声を聞かせた貴様は、消えろ」

 

 言葉と共にブラックウォーグレイモンXは、黒いエネルギー球をスカリエッティに向かって全力で投擲する。

 迫り来る黒いエネルギー球を見つめながら、スカリエッティは羨望の笑みを浮かべて呟く。

 

「……欲しかったなぁ〜」

 

 黒いエネルギー球はスカリエッティに直撃し、トーレ同様に壁を掘り進みながら遠くへと吹き飛んで行った。  それを確認したブラックウォーグレイモンXはスカリエッティの姿を模った壁に開いている穴に背を向け、背後に何時の間にか背後に立っていたリンディに声を掛ける。

 

「最後のナンバーズは如何した?」

 

「もう終わったわ。他のナンバーズと同様に壁にめり込ませて来たわ」

 

「そうか」

 

 ブラックウォーグレイモンXは頷くと、足を出口の方に向けて歩き出し、リンディも同様に歩きながら声を掛ける。

 

「それと管理局の通信を傍受したら予想通りの動きを行っている事が判明したわ。真の惨劇-【プランΩ】を実行する事に成りそうよ」

 

「予想通りか。成らば、その為の準備は如何なんだ?」

 

「クイントとなのはさん、ガブモン君が実行中。その他の準備も殆ど終わり掛けている。後は引き金さえ引かれれば、プランΩは始まり、管理局の崩壊、再誕が始まるわ」

 

 リンディは邪悪な笑みを浮かべながらそう言い、ブラックウォー グレイモンXとその身と融合しているルインも同様に邪悪な笑みを浮かべ、スカリエッティのアジトから出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 地上本部に在る一室。その部屋の中には四名の人物が存在していた。

 一人は茶色のコートを着て槍型のデバイスを持った男性-【ゼスト・グランガイツ】。

 一人は地上本部の重鎮-【レジアス・ゲイズ】中将。その娘であり、 副官の【オーリス・ゲイズ】。

 そして一般の局員である思われる女性局員が一人。地上本部の一室に存在し、ゼストは険しい表情を椅子に座ってい るレジアスに向け、互いに見据え合っていた。

 

「レジアス。聞きたい事は一つだけだ。八年前に俺と俺の部下を殺す様に指示したのはお前なのか?」

 

 ゼストはそう言うと共に、懐から二枚の写真をレジアスの執務机の投げ付ける。

 写真の一枚にはゼストの部下達が写り、もう一枚の写真には地上の平和を理想に頑張っていたレジアスとゼストの姿が写っていた。

 

「俺は良い。俺は、お前の正義になら殉ずる覚悟が在った。だが、俺の部下達は何故死んだ!?」

 

 ゼストの叫びに対して、レジアスは何も答えずに辛そうに顔を俯かせながら写真を見つめる。

 

「どうして、こんな事になってしまった? 俺達が護りたかった世界は、俺達の欲しかった力は、俺とお前が夢見た正義は、何時の間にこんな姿になってしまった?」

 

「ッ!!」

 

 レジアスは更に苦悩の表情を深めた。彼は地上の平和の為に頑張り続けていたが、何時の間にかその理想は変わり、平和の為ならば違法や犯罪者で在るスカリエッティとも手を結び、違法も行い続けていた。

 本局には優秀な魔導師や戦力を奪われていく。その為に、人員不足や戦力不足に追われ、地上の人々を護る力を失っていく現状を変える為に人造魔導師や戦闘機人を使って、地上の人員不足を解消しようとしていたのだ。

 しかし、それを依頼していたスカリエッティにも裏切られ、地上の人々は脅威に襲われ続けている。

 この様な現状が自分の望んだ正義なのかとレジアスは深く苦悩していた。

 

「ワシは……」

 

 ゼストの質問に答えようと、レジアスは苦悩するように声を出す。

 その時に部屋の隅の方にいた女性局員が静かに立ち上がり、右手に鉤爪のような武器を装着させ、右手を隠しながらレジアスの背後に静かに移動し始めた瞬間。

 

「ハアァァァァァァァーーーー!!!」

 

『ッ!!』

 

 部屋の横壁が突如として崩壊し、その中から一人の女性が姿を現し、全員が驚愕に目を見開いた。

 何故ならば現れた人物は、もう既に死んでいる人物。ゼストと共に殉職したとされる女性。

 

「ナカジマッ!!」

 

 女性-クイント・ナカジマの姿にゼストは驚愕と困惑の叫びを上げるが、クイントは気にせずにレジアスの背後に居た女性局員を殴り付ける。

 

「貴女は邪魔よッ!!」

 

「キャアァァァァァァァーーーーー!!!」

 

『なっ!?』

 

 雷を纏うクイントの拳を腹に受けた女性局員は流れ込んで来た電撃と拳の一撃に悲鳴を上げながら、クイントが現れた別方向の壁に激突し、女性の姿はナンバーズと同様の戦闘スーツを着た女性の姿に変わった。

 女性局員の正体は、ナンバーズ2の【ドゥーエ】だったのだ。用済みに成ったレジアスを殺そうと動いていたのだが、クイントに阻まれ、 壁に激突して目を回す様な状態に成っていた。

 その事に全員が驚愕の表情を浮かべる中、クイントは優しげな笑みを浮かべながらレジアスに近付き、肩に手を置く。

 

「こんにちはレジアス中将。さっそくだけど、私のお願いを聞いて貰って良いかしら?」

 

「まっ! 待てナカジマ! レジアスとは俺が話をして!!」

 

 ゼストはクイントを止めようと肩に手を置くが、クイントはレジアスとは打って変わって、険しい視線をゼストに向け、 全力でゼストの腹に向かって拳を突き出す。

 

「この〜馬鹿親が!!」

 

「グフッ!!」

 

 クイントの拳を受けたゼストは苦痛の声を上げて、腹を押さえながら蹲るが、クイントは構わずにゼストの襟首を掴み上げる。

 

「如何言う事ですかゼスト隊長? 何でルーテシアちゃんの父親で在る貴方の事を、ルーテシアちゃんが知らないんですか?」

 

「そ、それは……」

 

 ゼストは気まずげにクイントの視線から顔を逸らした。

 ゼストとルーテシアは実の親子である。当時、ゼスト隊は死亡率が高く危険な任務を負う事が多い部隊だった。その上、組織だった 犯罪者を相手取る機会も多かったので、反管理局主義者のみならず手を逃れた犯罪者やその類型から恨みを買う事も多い。

 その為に隊員の殆どが独身者で占められていた。例外としては子供や夫がいたクイントぐらいだろう。

 しかし、隊員も人間であり、女性局員も当然居たのだから、間違いも犯す。

 そしてその中にいたメガーヌも当然ながら間違いを犯した。上司で在るゼストと一夜どころか何度も間違いを。その結果がルーテシアで在る。しかし立場上、籍をそう簡単には入れられる訳も無く、ルーテシアが生まれてからもズルズルと時が過ぎ、ゼストとメガーヌが籍を入れる事は無かった。

 メガーヌの親友であり、同じ部隊だったクイントはもちろんその事を知っていたし、祝福もした。

 それなのにルーテシアに事情を深く聞いたらゼストの事は知っていても、父親で在る事は知らなかったと告げられ、クイントは元々の用事とゼストを殴る為に急ぎ地上本部に向かい、先ほど到着したのだ。

 

「どうせ、自分の命が残り少ないからと言う理由で、ルーテシアちゃんとしっかりと向き合わなかったんでしょうね?」

 

「グウッ!!」

 

 図星を指されたゼストはうなり声を上げながら、クイントに視線から顔を逸らした。

 クイントの言うとおり、ゼストは自身の残りの命が少ない事を分かっていた為に、ルーテシアの悲しみを少しでも減らす為にと思い、自身が実の父親で在る事を隠していたのだ。

 それを見たクイントは顔に幾つも青筋を浮かべるが、今は時間が無いと思い、ゼストの襟首から手を離し、再びレジアスに顔を向ける。

 

「とにかく、レジアス中将? 私達に協力して貰いますよ? 本局上層部の思惑を潰して、管理局を再誕させる為にね?」

 

「な、何だと?」

 

 レジアスは疑問の声を上げるが、クイントは笑みを浮かべたまま、色々と今回の事件の裏に隠されていた本局の本当の思惑を伝え、レジアスは戸惑いながらも協力を約束したのだった。

 

 

 

 

 

 上空に浮かぶゆりかごへと向かったなのは、ヴィータ、はやて、そして大勢の管理局魔導師隊は、既に全てのガジェットが破壊されたと言うのに未だにゆりかご内部へと一人を除いて突入する事が出来なかった。

 何故ならば、ゆりかごに入ろうとすれば音速を超えるスピードで ゆりかごの周りを飛び回っているグラニの発生させている衝撃波に寄って、ゆりかごへと近付く魔導師達は全員吹き飛ばされるからだ。

 

ーーーピイィィィィィーーー!!

 

『ウワァァァァァァーーーー!!!』

 

「クソッ!! あの野郎のせいでゆりかごに近付けねえ!!」

 

 衝撃波を受けない範囲から様子を見ていたヴィータは、ゆりかごの周囲を飛び回るグラニを睨み付けながら叫んだ。

 既に多くの局員がグラニの発生させている衝撃波に寄って戦闘不能に成っている。その上、何人かの魔導師達がグラニに向かって射撃や砲撃を放っても、グラニのスピードの前にあっさりと躱される上に、はやての広域魔法も威力が足らず、グラニに余りダメージを与える事が出来なかった。

 管理局の魔導師は一人足りとも通さないと宣言する様に、グラニは一人足りとも管理局の魔導師達を通さなかった。ただ一人を除いては。

 

「何であの野郎? なのはだけは通しやがったんだ?」

 

 グラニはこの世界の高町なのはがゆりかごに近付くのを阻まなかったのだ。

 そのお陰でなのははゆりかごへと侵入する事が出来た。それはグラニの主で在るデュークモンの指示なのだが、その事を知らないヴィータは自身の横に居るはやてと共に疑問に首を傾げる。だが、すぐに何とかゆりかごへと入る為に、再びグラニに向かって攻撃を放つ。

 幾重にも魔法が放たれるが、やはりグラニは全ての攻撃を簡単に躱すか、或いは耐え切り、管理局の魔導師達を翻弄し続けるのだった。

 

 

 

 

 

 ゆりかご内部。最奥の玉座の間では、玉座に座らせられて手足を拘束されているヴィヴィオと、その横で微笑を浮かべながら立っているク アットロが玉座の間に通じる頑丈な扉を見つめていた。

 見つめていた強固な筈の扉は突如として反対側から強力な衝撃が与えられたかのように大きく歪み、一瞬の内に砕け散る。

 扉が砕け散ると共に、扉を破壊した者-デュークモンがゆっくりと部屋の中に足を踏み入れ、拘束されているヴィヴィオを視界に捉える。

 

「……すぐに拘束を解くのならば、八割殺しで済ますが?」

 

「怖いですわねぇ〜。でも〜、貴方は此処までですわ。確かに素晴らしい力ですが、私達の切り札に勝てませんからねぇ〜」

 

 そう言いながらクアットロは、ヴィヴィオの頬に向かって指を伸ばすが、デュークモンは全く気にせずにゆっくりと歩みを進め、クアットロはヴィヴィオの頬に後一歩で届くぐらいの距離で指を止める。

 

「良いんですかぁ〜? この子の頬に傷が付きますわよぉ〜?」

 

「幻影にその様な事が出来るのか?」

 

「ッ!!」

 

 自身のIS-【シルバーカーテン】があっさりと見破られた事にクアットロは目を見開くが、すぐに微笑を浮かべながら幻影を消滅させ、デュークモンの頭上にモニターを映し出す。

 

『私のISを見破ったのには驚きましたわ。貴方はやはり危険な存在。此処は切り札を使わせて貰いますわぁ〜』

 

「うぅ〜、あ、あぁ!!」

 

「ッ!? 貴様ッ!!」

 

 苦しみ始めたヴィヴィオの姿にデュークモンは怒り、 ¥ヴィヴィオの下へと急ぎ駆け出そうとするが、突如として強力な虹色の魔力風が吹き荒れ、デュークモンは足は止まってしまう。

 

「ムッ!!」

 

『良い事を教えてあげますわぁ〜。その子は古代ベルカの王族の遺伝子から生まれた人造魔導師。古代ベルカ王族の固有スキル【聖王の鎧】を持ち、レリックとの融合を経て、真の力をこの子は取り戻す。古代ベルカの王族が自らその身を作り変えた究極の生体兵器、 『レリックウェポン』としての力を』

 

「ヤダァ〜!!! やだよぉ〜!! ママ〜!! ママ〜!!」

 

『すぐに誕生しますわ! 私達の王。ゆりかごの力を得て無限の力を 手に入れた究極の戦士。『聖王』がッ!!』

 

 クアットロが叫ぶと共に虹色の閃光が眩いばかりに光輝き、デ ュークモンの視界を埋め尽くした。

 

『ハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 クアットロは喜びの笑い声を上げ続ける。

 自身の最大の切り札で在る聖王が目覚めた事に歓喜しているのだ。 ベルカ最強の王、『聖王』。その存在は長い歴史の置いても最強の武勇を誇った戦士。ヴィヴィオはその遺伝子から生まれた人造魔導師。その力ならば デュークモンさえも倒せる思っている。

 しかも、今のヴィヴィオはクアットロの思いのままに動く人形。最強の手札が自身の手に在る上に、本体で在る自分自身は遠く離れた場所に潜んでいる。デュークモンは何も出来ない。

 だが、彼女は重要な事を忘れていた。聖王はゆりかごの最終防衛システム。敵に対してしか反応しない存在。

 そうクアットロが忘れている事。“デュークモンにはゆりかごの 防衛システムが全く起動していなかった”事実を忘れていた。

 

『ハハハハハハハ……ハッ?』

 

 吹き荒れていた虹色の魔力風はまるで最初から存在していなかったの様に治まり、玉座には静かに座ったままのヴィヴィオの姿しかなかった。

 

『何故!? 何故目覚めないの!? 聖王が何故!?』

 

 ヴィヴィオの姿が全く変わらない事にクアットロは驚愕の声を上げ、自身の手元に在るコンソールを弄り回すが、ヴィヴィオが聖王へと姿を変える事はなかった。

 一連の流れを黙って見ていたデュークモンは、自身の左手のイージスを下に向けて構え出し、静かな声でクアットロに話を掛ける。

 

「聖王が目覚める筈は無かろう。何故ならば、ゆりかごは王同士で戦う事など望んで居ないのだから」

 

『何を言っていますの!?』

 

「こう言う事だ」

 

 クアットロの言葉に答えると共に、デュークモンは自身の体の周りに魔力粒子を漂わせ始め、クアットロは呆気に取られたようにデュークモンの周りに漂っている魔力光を見つめる。

 デュークモンの周りに漂う燦然と輝く“虹色”の魔力光。ヴィヴィオと同様の聖王の血筋を示す魔力光、【カイゼルファルベ】。

 ヴィヴィオ以外に絶対に在り得る事の無い筈の魔力光をデュークモンは、自身の体の周りに纏っていた。

 

『……あ……な……た……は……一体……何者……何ですの?』

 

「私はデュークモン!! 聖王を護る一振りの剣! 貴様は異世界とは言え、私の主君を傷つけ、あまつさえ兵器などと呼んだ。断じて赦さん!!」

 

 デュークモンは叫ぶと共に、下に向けていたイージスにエネルギーを集め始め、クアットロは恐怖に震える。

 デュークモンがディエチを壁を破って吹き飛ばした事を思い出したのだ。その上、集中しているエネルギーはディエチを吹き飛ばした時の比ではない。

 しかし、もはやデュークモンは止まらず、更にエネルギーを集め イージスは寄り強く光り輝いていく。

 

「後悔しながら吹き飛ぶが良い!! ファイナル・エリシオン!!」

 

『イヤアァァァァァァァァァーーーーー!!!!!』

 

 デュークモンの放ったファイナル・エリシオンは一切の停滞も見せずに、クアットロが居る最深部までの壁を破りながら直進し、クアットロは断末魔の叫びと共に光の中に消えて行き、モニターが消失した。

 それを確認したデュークモンはイージスとグラムを何処へとも無く消失させ、急ぎ玉座に拘束されているヴィヴィオの下へと駆け出す。

 

「大事は無いか?」

 

「ヒィッ!」

 

 デュークモンの姿にヴィヴィオは恐怖の声を上げた。

 無理も無いだろう。幾ら聖王家の血筋とは言え、見た事も無い、しかも人間ではないデュークモンの姿に恐怖を覚えるのも当然だ。

 その様子にデュークモンは一瞬悲しげな表情を浮かべるが、すぐにヴィヴィオを拘束している手枷や足枷に手を伸ばし、一瞬の停滞も無く引き千切る。

 

「これで君は自由だ……母親の所に帰りたいのならば、私が君を送ろう?」

 

「……帰れないよ」

 

「何?」

 

 ヴィヴィオの言葉にデュークモンは訝しげにヴィヴィオを見つめると、ヴィヴィオは涙を溜めた瞳をデュークモンに向ける。

 

「……・ヴィヴィオは兵器だもの。なのはマ……なのはさんの下に何て帰れないよ」

 

「……君は兵器などではない。私が保証しよう。君は君なのだ」

 

「違うよ!! 本当の両親なんて私には無い!! 私が子供の姿をしていたのも、誰かに取り入って魔法のデータを収集するためだったんだよ! こんな私が……なのはさんたちのそばに居て良いはずが無いんだ!」

 

 ヴィヴィオは涙を流しながらデュークモンに向かって自身の存在を否定する様な叫びを上げ、デュークモンは心の底からヴィヴィオ の言葉と姿が悲しいと思った。

 ヴィヴィオの言うとおり、ヴィヴィオには本当の両親など存在しない。ヴィヴィオは確かに兵器として望まれて生まれてしまった。だが、デュークモンには何が在っても護りたいと思う存在。

 その存在が異世界とは言え、自身を否定する様な叫びを上げた。 デュークモンはその事が心の底から悲しかった。

 

「……違う。君は優しい子だ。誰より優しい子供だと私は 知っている。だから頼む!! 自分を否定する様な叫びなど上げないでくれ!! この通りだ!!」

 

 デュークモンは言葉と共に自身の頭を深く下げた。

 頭を下げた程度ではヴィヴィオの心は変わらないだろう。だが、それでもデュークモンは自身が出来る最大の行為を行う。

 異世界だとかは関係ない。デュークモンに取ってはヴィヴィオが生きていて、笑顔を浮かべる事が何よりも嬉しいのだ。忘れもしないあの惨劇の日。初めて出来た友を失った異世界のヴィヴィオの悲しみ。そして再び友を失ってしまった時の悲劇を、デュークモンは一日たりとも忘れた事は無い。

 

「君を兵器などと呼ぶ存在を私は絶対に赦さない。君が悲しむのならば、私はそれを止める為に戦おう」

 

「……」

 

 デュークモンの言葉にヴィヴィオは無言で顔を俯かせ、デュークモンは同じ様に無言に成りながらヴィヴィオに背を向け、ヴィヴィオの周りに強力な結界を張り巡らせる。

 

「ッ!?」

 

「安心してくれ。これは君を戦いに巻き込まない為の結界だ。これから起きる戦いのな」

 

 結界が突如として張られた事に驚愕するヴィヴィオに、デュークモンは優しく言葉を言いながら、再びグラムとイージスを出現させ、 部屋の入り口の扉を睨み付ける。

 

「……漸く来たか。高町なのは!!」

 

「えっ!?」

 

 デュークモンの宣言にヴィヴィオは驚愕の表情を浮かべて扉を見つめてみると、破壊された扉から白いバリアジャケット-エクシードモードにレイジングハートを変形させた管理局のエース・オブ・エース-高町なのはが険しい表情を浮かべて玉座の間へと足を踏み入れた。

 それを確認したデュークモンは、ヴィヴィオから離れ始め、グラムをなのはに向かって構え出す。

 

「待っていたぞ。貴様が来るのを」

 

「……貴方は、いえ貴方達は一体何者なんですか? 何でガジ ェットから人々を護ったり、ゆりかご内部に侵入してヴィヴィオを 救い出したんですか?」

 

 なのはは質問すると共にレイジングハートをデュークモンに向かって構え出す。

 

「私はデュークモン。あの子の悲しみの声を聞き、 駆け付けた騎士だ」

 

「……だったらすぐに他の者達に命じて、戦いを止めて下さい。貴方達の行動のせいで管理局は妨害に在っています。このままだと公務執行妨害で貴方達を逮捕する事に成ります」

 

「公務執行妨害か……クッ、クハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

「何がおかしいんですか!?」

 

 突如として大声で笑い始めたデュークモンになのはは怒りの声を上げて、レイジングハートを向けるが、デュークモンは厳しい眼差しをなのはに向け、グラムに聖なるエネルギーを集め始める。

 

「ふざけるな!! 貴様ら管理局こそが人々を苦しめているのだろうが!? そして貴様の行動こそがヴィヴィオを苦しめる現状を作り上 げた!!」

 

「私の行動!?」

 

「そうだ!! 貴様はヴィヴィオがスカリエッティに狙われている事を知っていたはずだ! なのに何故ヴィヴィオを奪われ易い状況など作り上げたのだ!?」

 

「そ、それは!?」

 

 デュークモンの叫びになのははうろたえたように顔を逸らし、デ ュークモンは怒りに満ち溢れながら確信する。目の前に居るなのはは、自分の力を過信し、相手の力を甘く見た愚か者だとハッキリと分かった。

 それはデュークモンの怒りを振り切るほどに最悪な事実だった。

 

「貴様は叩きのめさせて貰うぞ!! セーバーショット!!」

 

「ッ!! ディバインバスターー!!!」

 

 デュークモンのセーバーショットとなのはのディバインバスターは互いの中間で激突し、爆発が起きた。

 今此処に異世界の聖王の忠実な騎士-デュークモンとこの世界の聖王の養母-高町なのはの激闘が開始されたのだった。




次回の更新は予定で25日の0時です

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