漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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竜人とマッド、そして電子の弟子は赤龍帝3

 駒王町に在る廃教会。

 十年以上前には使われていた教会であったが、今は寂れて来る者がいない場所になっていた。

 だが、今、その教会は駒王町に潜入した堕天使達の根城になっていた。内部の座席には胸元が大きく開いたスーツを着用しミニスカートを履いた青い髪のロングヘアの女性と、ゴスロリ衣装を纏った金髪のツインテールに青い瞳の少女が座っている。

 二人とも堕天使であり、不安そうに教会の入り口を見つめていると、教会の扉が開き、スーツを着た男性が入って来る。

 

「ドーナシークッ! レイナーレ様どうなったんスッか!?」

 

「……非常に危険な状態らしい。無事に復帰出来る可能性は低いそうだ」

 

「そんな!?」

 

「クソッ! あの人間め! レイナーレ様に何を!?」

 

 ドーナシークの報告にゴスロリ服の少女-ミッテルトは悲痛な声を上げ、スーツ服の女性-カラワーナは悔し気に声を漏らした。

 三人の上司であるレイナーレは、先日新たに発見した神器所持者を勧誘する為に出て行った。だが、戻って来たレイナーレは精神が錯乱状態で半狂乱になっていた。三人は慌てて所属している組織である【神の子を見張る者(グリゴリ)】の上司に連絡し、レイナーレは即座に緊急搬送された。

 その後、ドーナシークはレイナーレの付き添いに、ミッテルトとカラワーナはレイナーレが勧誘しようとしていた人間を調べたのだが、その結果、信じられない事実が判明した。

 

「どうなっていると言うのだ!? レイナーレ様が勧誘しようとしていた人間を殺すなど、在り得る筈が無いと言うのに!?」

 

 数年前から【神の子を見張る者(グリゴリ)】に所属する堕天使には、トップであるアザゼルから一つの厳命が下されていた。

 『神器保持者を発見した場合、勧誘或いは保護を重要視するように』と言う命令で、抹殺などは絶対にしてはならないと厳命されている。無論命令された当初は破る者も多かったが、そう言う相手はすぐに何故かアザゼルにバレて処罰されている。

 更に付け加えれば、数年前から暴れている【暴虐の竜人】の存在に寄って、【神の子を見張る者(グリゴリ)】と言う組織自体にダメージが及んで居る。厳命を破って処罰されるか、或いは組織から逃げ出すかのどちらかしない現状となれば、素直に命令を聞く者は増えて行った。

 レイナーレ達はアザゼルの命令を素直に聞く側に下り、功績を上げていたので覚えも良かった。そのおかげでアザゼルから密命を受けて駒王町で、とある重要神器保持者の保護任務まで請け負っていた。重要任務に気合いを入れていたところで、レイナーレが強力な神器保持者らしき者を発見し、勧誘に乗り出したのだ。

 だが、勧誘は失敗どころか、神器保持者を殺してしまうと言う結果を作り、更に実行犯である筈のレイナーレが狂って帰還すると言う異常事態にドーナシーク達は見舞われてしまった。

 

「やっぱり何かあの人間がしたんすよ! とっちめてレイナーレ様にした事を吐かせるんす!」

 

「……駄目だ、ミッテルト。奴は既に悪魔に転生し、更には現魔王の妹であるグレモリーの眷属だ。迂闊な事をして戦争に発展でもしたら不味いぞ」

 

「アザゼル様からは例の人物と合流次第にすぐに帰還しろと命令された。腹立たしいが此処は任務を優先だ。明日には合流出来る。目的は果たしきれないが、此処はがま……」

 

『ソレハ……コマルナ』

 

『ッ!?』

 

 聞こえて来た聞くだけで不快感しか感じさせない声に、ミッテルト、カラワーナ、ドーナシークは、即座に振り返って光の矢を教会の入り口に向かって放った。

 声の主は危険過ぎる存在なのだと、本能が感じ取ったのだ。複数の光の矢に扉は粉砕され、静寂が教会内に満ち溢れる。油断なく三人が教会の入り口から人影が歩いて来て、ミッテルト、カラワーナは目を見開く。

 

「アンタは!?」

 

「レイナーレ様が勧誘しようとしていた!?」

 

 虚ろな瞳して左手に禍々しい気配を漂わせている赤い籠手を装着した兵藤の姿に、ミッテルト、カラワーナは警戒心を強める。

 ドーナシークも何時でも攻撃出来るように構えを取ると、赤い籠手に備わっている翡翠の宝玉から先ほどの不快感しか感じさせない声が響く。

 

『コマルゾ……コノ、オロカモノノ……チシキ通りに……ススマナケレバ……ヤツラノ信頼と信用は……エラレナクナル……タダデサエ……ケイカイサレテイルノダ……セッカクノ……イベントヲ……ノガスワケニハ……イカナイカラナ』

 

「貴様は一体何だ!?」

 

『フフフッ……キサマラニハ、我の人形ニナッテモラウ……フリード!』

 

「あいよ、ボス!!」

 

「お前はフリード・セルゼン!? 生きていたのか!」

 

 教会の扉の外側から光の剣と銃を持った少年神父-フリード・セルゼンの姿に、カラワーナは叫んだ。

 

「【神の子を見張る者(グリゴリ)】の方針転換に付いて行けず、逃げ出した筈なのに?」

 

「そりゃ当然しょ!? 好き勝手やる為に入ったのに、また規律を押し付けられるわ。クソ悪魔や手を組むクソ人間に手を出すなっ何て、そんな終わった組織に居られる訳が無いっすよ! で、今ではこっちのボスに仕えっているって訳! もう最高っすよこのボス。なんせ……」

 

『ヨケイナ事をイウナ』

 

「おっとお喋りが過ぎった! さて、アンタらクソ堕天使にはボスの人形になって貰いましょっか!」

 

「舐めるな! 貴様ら如きに負ける私達だと思うな!」

 

「レイナーレ様にした事を全部話して貰うすよ!」

 

「覚悟しろ!」

 

 ドーナシーク達は光の槍を構えて、怪しい笑みを浮かべている兵藤とフリードに飛び掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 早朝の時間帯。幻術魔法で別人になりすました一誠は、日課のランニングを行なっていた。

 十年の間に変わった駒王町を回るのは、時の流れを一誠に感じさせる。ただ、兵藤家の周囲だけは一誠は近づかなかった。もしも近づいて両親に出会ったら我慢出来る自信が一誠には無かったからだ。

 ランニングで街中を走り続けていると、十年前に自身の運命が変わった公園に辿り着く。

 

「……やっぱり修理されたんだな」

 

 十年も経てば修理されているのは当たり前だが、それでも感慨深い思いを抱かざる得ない。

 

(この場所で俺の運命は変わった……もしアイツと出会わずにいたらどんな事になって居たんだろうな?)

 

 変わってしまったと言う自身の運命について、一誠は分からない。

 師の一人で【異界】の出身者でもあるブラックは、残念ながらこの世界についての事を知らなかったのでどんな流れだったのか分からない。だが、どちらにしても一誠は敵の思惑通りに事を進める気は無い。

 必ずやり遂げて見せると誓いを一誠が新たにしていると。

 

「はわう!」

 

「ん?」

 

 悲鳴のような声と空からシスターが被るようなヴェールが飛んで来た。

 一誠はヴェールを掴み取り、声の聞こえた方を振り向いて見ると、其処にはシスター服を着た金髪の美少女がスパークリングホワイトのパンツが丸出しな状態で転んでいた。

 

「ブウッ!! 落ち着け俺! 落ち着け俺!」

 

 美少女のパンツ姿と言うラッキースケベ的な場面に出会った一誠は、思わず胸を押さえた。

 例の日を通り過ぎたので暴走する事は無いが、性欲が高まってしまったのを感じて焦る。グレイフィアがまともに動けない状況で性欲が高まるのは色んな意味で不味いので、一誠は地面に倒れているシスター服の美少女に手を差し出す。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「あうぅ。どうして、何もないところで転んでしまうんでしょうか? ……ああ、すいません。ありがとうございますぅ」

 

 差し出された手を握った美少女が顔を上げた瞬間、一誠は見惚れてしまった。

 多数の美女や美少女と交流を持ち、グレイフィアと言う絶世の美女と一緒に生活しているだけに、美女には慣れている一誠だったが、それでも見惚れてしまった。

 金色のサラサラなストレートヘアに、引き込まれてしまいそうなほどに澄んだグリーン色の双眸。それらによって構成された顔立ち。何よりも内面から滲みだしている美しさに、一誠は息を呑んでしまう。

 

(相棒ッ!)

 

「ハッ!」

 

 内から聞こえて来たドライグの声に、一誠は我に返った。

 そしてすぐさま冷静に立ち返り、手に持っていたヴェールを少女に手渡す。

 

「これ、君のかな?」

 

「あ、はい。ありがとうございますぅ」

 

 一誠が手渡したヴェールを大切そうに少女は抱き締めた。

 見るからに純真そうな少女に、一誠の胸は高鳴る。

 

(ま、不味い! 何でグレイフィアの時のような高鳴りを感じてるんだよ、俺は? とにかく話をして気を紛らわせないと)

 

 胸の高鳴りを誤魔化す為に、一誠は何か話題は無いかと周囲を見回して旅行鞄に気が付く。

 

「えっと、その旅行鞄を持ってる事から察して、もしかして旅行でこの町に来たのかい?」

 

「いえ、違うんです。実はこの町の教会に赴任する事になってやって来たんです。この町の方ですか?」

 

「い、いや俺は……実は少し前に引っ越して来たんだ。それで町に慣れる為にランニングしていたんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「えぇ、まぁ……(俺何でこんな事を喋ってるんだ?)」

 

 自身の行動に疑問に思いながらも、シスターとの少女と一誠は話を続けて行く。

 何となく会話を止めたくないと感じていると、少女は困ったように一誠に話しかける。

 

「……あの実は私、道に迷っていまして……教会の場所とか知っていますか?」

 

「教会? ……あぁ、知ってるけど、案内しようか?」

 

「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございますぅ! これも主のお導きのおかげですね!」

 

「いや、其処まで事じゃないよ。じゃあ行こうか」

 

「はい!」

 

 一誠と少女は共に歩き出し、教会が在る場所へと歩き出す。

 

「私はアーシア・アルジェントと言います。アーシアと呼んでください」

 

「俺は………」

 

「どうされました?」

 

 急に言葉を止めた一誠にアーシアは疑問の声を上げるが、一誠は何かを苦悩するかのように顔を顰める。

 兵藤一誠と名乗る事は出来る。だが、果たしてその名を教えて良いのか一誠には分からなかった。何故ならば今、駒王町には兵藤一誠を名乗る存在が居る。幻術魔法で顔を変えているとは言え、同姓同名の人物が同じ町に居る事は不自然なのだ。

 アーシアから兵藤に伝わる事は無いかもしれないが、それでも危険性は少なくした方が良いに違いない。

 だが、僅かに寂しさを感じさせる表情をアーシアがした瞬間、一誠の口は勝手に動いていた。

 

「俺は……一誠だ。イッセーって呼んでくれ」

 

「イッセーさん。私、イッセーさんに会えて良かったです。この町に来てから困ってたんです。道に迷っただけじゃなくてけど、言葉が通じなくて……やっと、言葉が通じるイッセーさんが見つかって助かりました」

 

「はは、まぁ、外国の言葉を話せる人は中々居ないからな」

 

 苦笑を一誠は浮かべながら、アーシアに話しかけた。

 因みに一誠がアーシアと平然と話せるのは、グレイフィアが施してくれた翻訳魔法のおかげである。一応フリート達の勉強のおかげで英会話ぐらいは問題ないが、流石に各勢力のそれぞれの地域の言葉を覚える余裕は無かったので、グレイフィアが翻訳魔法を使ったのである。

 二人が他愛無い話をしていると、何処からか子供の泣き声が聞こえて来てアーシアが駆け出す。

 

「あっ、アーシア」

 

 一誠も慌てて追いかけると、転んで擦り剥いたのか子供の膝に手を当てているアーシアを目にする。

 

「大丈夫? 男の子ならこのくらいで泣いてはダメですよ」

 

 優しさに満ち溢れた表情をしながらアーシアが子供の頭を撫でると共に、膝に当てていた手の方から淡い緑色の光が発せられ、光に照らされた膝の傷があっという間に消えた。

 

(今のは、もしかして)

 

(あぁ、神器だ。しかもアレは【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】だな。俺も長い間神器に宿っているが、目にしたことが少ないほどレアな神器だ。確か堕天使や悪魔でさえも癒せる力を持っている神器だった筈だぞ)

 

 ドライグが一誠にアーシアの神器について説明した。

 アーシアの持つ【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】は数ある神器の中でも非常に珍しい部類にある。何せ【聖書の神】が造ったのにも関わらず、本来ならば敵対する存在である悪魔や堕天使さえも傷を癒せてしまう。それがどれだけ貴重な物なのかは言うまでもない。

 まさか、アーシアが宿していたのがその神器だったのかと一誠が驚いていると、アーシアは治療を終えた子供を立たせる。

 

「気を付けてね」

 

「ありがとう、お姉ちゃん!」

 

 子供は礼を言い終えると共に元気に走っていた。

 言葉の意味が分からずにキョトンとしているアーシアに、一誠は話しかける。

 

「ありがとうだってさ」

 

 その言葉にアーシアは嬉しそうに微笑んだ。

 見惚れてしまうほどに美しい微笑みに一誠の胸は再び高鳴るが、何とかそれを抑え込む。

 

「……さっきのって?」

 

「はい。治癒の力です。神様からいただいた素敵なものなんですよ」

 

 そう言うアーシアの顔には何処か寂しさを宿していた。

 その表情に一誠はアーシアもまた、神器によって何らかの不幸に見舞われた事を察するが、何も言えなかった。

 寂しさについて問いただしたいと思う気持ちはある。だが、踏み込んで良いのか一誠には分からなかった。

 一誠にも事情が在り、アーシアにも事情がある。特に自身の事情にアーシアを巻き込む訳には行かないと言う気持ちが、一誠には強かった。だからせめて。

 

「そっか……優しい力なんだな」

 

 一誠が告げるとアーシアは微笑んだ。

 だが、やはり、その顔は何処か寂しげで、一誠は先ほどは違う胸の痛みを覚えるのだった。

 そうしている間に目的地である教会が見えて来て、一誠は教会を指さす。

 

「ほら、あそこが目的地だよ」

 

「ありがとうございました! あのお礼をしたいんで、一緒に教会に行きませんか?」

 

「……ゴメン。そろそろ帰らないと一緒に暮らしている相手が心配しそうだから」

 

「……そうですか」

 

 寂しげにアーシアは呟くが、一誠は目を逸らして我慢する。

 このままアーシアと共に居るのは不味いと一誠は判断したのだ。認めたくは無いが、認めるしかない。一誠の内に居る欲がアーシアを欲している事を。グレイフィア以外で初めて一誠の欲が反応してしまった。

 

〝この純真な少女を己のモノにしたい゛

 

(駄目に決まっているだろうが! 出てくんじゃねぇよ!)

 

 自らの欲を一誠は理性で抑えつける。

 例え欲していたとしても、一誠は身勝手な欲望で相手を穢したくはない。更に言えば自身の事情に彼女を巻き込みたくないと言う意思もある。

 急いで家に帰ろうと一誠はアーシアに背を向け、別れの挨拶を交わす。

 

「それじゃ、アーシア。さよなら」

 

「はい! イッセーさん、また会いましょう!」

 

 頭をペコリと下げるアーシアに、一誠は曖昧な笑みを浮かべて去って行った。

 もう二度とアーシアと会わない事を願いながら。

 

 

 

 

 

「……一誠。貴方は暫く契約取りは禁止よ!」

 

「部長! そ、そんな!?」

 

 夕暮れのオカルト部の部室で、リアスは怒り心頭な顔をして兵藤に向かって怒鳴った。

 悪魔の仕事である対価を得て契約を取ると言う仕事。新人悪魔はまず最初にチラシ配りから始まり、見合った依頼主の元に転移で移動して対価を得て願いを叶える。兵藤もチラシ配りを終えて契約取りが始まったのだが、その結果内容にリアスは怒り心頭になった。

 

「子猫のお得先だった契約者を怒らせて、その次の相手も怒らせ、また更に怒らせて契約失敗どころか、二度と悪魔なんて呼ばないなんてアンケート結果が貴方には沢山届いているのよ!」

 

 リアスはテーブルの上に兵藤が行なった契約後のアンケート結果が書かれた紙を沢山広げた。

 内容は全て批判で、罵詈荘厳が書かれていた。これ以上兵藤に契約取りをやらせるのは、他の眷属達の契約取りにも悪影響が出るとリアスは判断し、兵藤は暫くチラシ配りに戻させる事にしたのである。

 

(クソッ! 何でだよ! 原作の一誠だって契約取りに失敗していたのに、何で俺が暴言を書かれないと行けないんだよ!?)

 

 兵藤が契約取りに失敗するのはある意味当然の事だった。

 彼の知識の中にある兵藤一誠も契約取りには失敗続きだったが、アンケート結果の方は好評だった。これは知識の中の一誠が例えどんな契約内容だろうと真摯に向き合い、相手に悪い印象を与えず仲良くなったからだ。

 だが、兵藤は違う。相手の事を全く考えず、自身が世界の中心に居ると思い込んでいるせいで無意識に相手を見下してしまっているのだ。その印象を相手は悟り、話していても相手に不快感しか与えないと言う現状を作り出してしまった。序に言えば契約取りの事も内心では馬鹿にしていて、後々の戦いで功績を上げれば上級悪魔になれると思っているのでおざなりになっている。

 契約取りを兵藤が失敗するのは、当然の結果だった。

 

(寝坊してアーシアにも出会えなかったし、部室では部長に怒られるし、最悪の日だぜ!)

 

「それじゃ、部長。行って来ます」

 

「えぇ、気を付けてね、子猫」

 

 内心で不満に満ちている兵藤と話している間に、リアスと子猫は今日の契約について話していた。

 その会話を聞いた兵藤は、今日がフリードに寄って契約者を殺された日だった事を思い出すが、言える訳もなく黙って考え込む。

 

(どうすっかな? 俺が行けないんじゃ、子猫ちゃんが襲われるんだろうけど……待てよ! 此処は会えて子猫ちゃんをフリードに襲わせて、颯爽をリアスや朱乃と共に現れて俺が助ける! 原作だとアーシアは悪魔だと知っても助けていたし、子猫ちゃんも助けるよな……よし、それで行こう!)

 

 リアス達に見えないように兵藤は下卑た笑みを浮かべ、自身がリアス達の信頼を得る未来を夢想するのだった。

 

 

 

 

 

「んっ……イッセー」

 

 自らの胸の中に居る抱き締める一誠を見つめながら、グレイフィアは甘い声を上げた。

 二人の服はベットの外に散らばっていて、ベットの上でグレイフィアの豊満な胸に顔を埋めながら、一誠は柔らかな感触を堪能する。早朝家に戻って来た一誠は、未だベットの上から起き上がれないグレイフィアに抱き着いた。

 何時もは例の日が過ぎた後は、相手の体を思って求めない一誠が求めて来た事に驚きながらも、グレイフィアは一誠との一時を堪能した。そうして治まった一誠にグレイフィアは質問する。

 

「……何かあったの、イッセー?」

 

「……ゴメン、グレイフィア……俺、グレイフィア以外にも反応したんだ」

 

「ッ!? ……そう」

 

 一誠の言葉にグレイフィアは目を見開くが、すぐさま表情を戻して一誠を強く抱き締める。

 この日が何時か来るであろう事はグレイフィアも覚悟していた。体の殆どがドラゴン化しているだけに、一誠の本能は人間よりもドラゴン寄りになっている。ドラゴンのオスが複数のメスを侍らせるのは珍しくはない。

 無論グレイフィアとしては自身だけを見て欲しい気持ちはある。だが、同時に一誠が反応してしまった女性に抱いた苦悩も理解している。一誠には恐怖がある。どれだけ強くなっても拭えない恐怖。

 それは得たモノを失い、奪われるかも知れないと言う恐怖だった。十年前に全てを奪われた一誠は、精神の根元で親しくなった者を奪われるかも知れないと言う恐怖心がある。グレイフィアと結ばれる前も、グレイフィアを欲していながらも心の何処かで愛した相手を奪われるかも知れないと言う恐怖があって、一歩踏み出すのを恐れていた。もしもグレイフィアから踏み出していなければ、一誠と結ばれる事は無かっただろう。

 

「本当にゴメン……俺ってやっぱり駄目だよな……こんなにグレイフィアに愛されて大切にされているのに……別の相手を欲しくなるなんて……最低だよ」

 

「イッセー……貴方がどんなに自分を卑下しても、私だけは絶対に卑下しないわ。確かに私以外を貴方は欲したかもしれない。でも、私への想いを無くした訳じゃないでしょう?」

 

「当然だ! 俺は絶対にグレイフィアを手放さない! グレイフィア……愛してる」

 

「私もよ、イッセー」

 

 二人は見つめ合い、何方ともなく顔を近づけ深々と口づけを交し合う。

 そのまま続きが始まりそうになるが、ベットの横にある机の上に置かれていた携帯が鳴り響く。

 一誠とグレイフィアは顔を見合わせるが、残念そうな顔をした一誠が携帯を取り、電話に出る。

 

「はい。此方一誠です」

 

『……不機嫌そうね、一誠君』

 

「リ、リンディさん!?」

 

『その様子だとグレイフィアさんとお楽しみだったようね。でも、悪いけれど、すぐに駒王町を見回って欲しいのよ』

 

「……何かあったんですか?」

 

『えぇ、実はその町に潜入していた【神の子を見張る者(グリゴリ)】に所属している三名の堕天使と連絡が途絶えたとアザゼルから緊急連絡が届いたわ』

 

「途絶えたって……まさか!?」

 

『情報に寄れば、その三人の他にリーダー役だった一名の堕天使が精神異常を起こしたそうなの……例の人物と接触した結果でね』

 

「ッ!?」

 

『フリートさんが何とか出来ないか呼ばれて治療しているみたいだけど、もしかしたら三名の堕天使にも同様の事が起こった可能性があるわ。だから、見回って欲しいの』

 

「分かりました。それじゃすぐに見回りに行きます」

 

 電話を切ると共に一誠は手早く着替えを済ませ、外で本格的に活動する時ように用意されていた衣装を着込む。

 無謀の赤色で染めた仮面を付け、同じく赤色に染まったローブを着込む。二つともフリートの作品で認識阻害効果が存在し、更には装着者の持つ魔力に寄って防御力が上がる力を宿している。

 これに寄って一誠だと気が付く者は居ないだろうが、更に一誠は左手に【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】を具現化させ、用意されていた腕輪を装着する。同時に【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】の色や形が変わり、ドラゴン系の神器で知られる【龍の籠手(トワイス・クリティカル)】の形に変わった。

 

『相棒。分かって居ると思うが、この状態では一段階しか倍加出来ない。気を付けて行動しろよ』

 

「分かってるさ」

 

 ドライグの言葉に一誠は頷き、ベットの上に居る僅かに心配さを伺わせているグレイフィアに顔を向ける。

 

「……行って来るよ、グレイフィア」

 

「行ってらっしゃい、イッセー。貴方の帰りを待っているわ」

 

 グレイフィアは見惚れるような笑みを浮かべながら送りの言葉を告げ、一誠は口づけを交わして夜の駒王町に飛び出して行った。

 

 

 

 

 

 駒王町の一角に在る普通の一軒家。

 何の変哲もない一軒家でありながら、内部では戦闘が行われている事を証明する騒音が鳴り響いていた。

 

「中々粘りますなぁ悪魔のおチビちゃぁん! エクソシスト特製の祓魔弾(ふつまだん)を足に食らってんだから、今度はこの光の剣でバラバラに全身切り刻まれろぉ! ひゃはははははははははっ!!」

 

「くっ! このっ!!」

 

 右足から走る激痛に苦しみながら、リアス・グレモリーの眷属の【戦車】である小柄な銀髪の美少女-塔城子猫は、銀髪の少年神父が振るう光の剣を躱し続ける。

 依頼の仕事の為に転移して来た子猫が目にしたのは、全身を切り刻まれて罪人のように上下逆さまで壁に磔にされた無残な依頼主の姿だった。突然の事態に戸惑った隙をつかれ、子猫はフリードが放った祓魔弾(ふつまだん)に右足を射抜かれてしまった。

 【悪魔の駒】にはそれぞれ特性が存在し、【戦車】の特性は馬鹿げた攻撃力と防御力。並大抵の攻撃は子猫には通じない。だが、フリードが銃から放った祓魔弾(ふつまだん)には悪魔の弱点である光の力を宿している。

 その攻撃をまともに受けた子猫は未だに走る激痛に苦しみながら、何か違和感のようなものを感じていた。

 

(何か変です……この神父の光の力……堕天使とも天使とも違う……もっと禍々しい気配を感じます)

 

 子猫が感じる違和感がフリードが纏っている力だった。

 言いようのない違和感。いや、まるでこの世界には存在しないような異質感を子猫は感じ、我知らずに怯えてしまう。

 

「……貴方は何ですか?」

 

「おやおや? 気が付いたみたいですね! 俺様の力に! でも教えてあげませぇん!! ばっきゅぅんっ!」

 

 フリードは再び銃から祓魔弾(ふつまだん)を撃ち出し、子猫の左足の太腿は射抜かれてしまう。

 両足を弱点の力で負傷した子猫は、地面にうつ伏せに倒れ伏してしまう。

 

「ううぅぅ……」

 

「あははははははっ!! 芋虫悪魔チビさん!? 自分の足をご覧なさいな!」

 

 言われて子猫は激痛に苦しみながらも両足に目を向け、目を見開く。

 子猫が負傷を負った箇所は、何かどす黒い気配を発する禍々しい黒に染まっていた。

 

「こ、これは!?」

 

「もうその足は終わりでぇぇぇす! 呪いの光を受けたんですからね!! んじゃ、ボスが来るまで俺様の快楽の為に切り刻ませてもらいまぁす!」

 

「……部長……すいません……」

 

 光の剣を構えて近づいて来るフリードの姿に、子猫は無念そうに言葉を漏らした。

 しかし、子猫とフリードの間に突然人影が飛び出し、フリードの凶行を止めようとする。

 

「もうお止め下さい、フリード神父! いくらなんでもやり過ぎです!」

 

「……アレ?」

 

「えっ?」

 

 飛び出して来た人影-シスター服を着た金髪の美少女アーシア・アルジェントの姿に、フリードと子猫は状況を忘れて目が点になった。

 聖職者と悪魔は相容れない存在。にも拘わらずアーシアは悪魔である筈の子猫を庇った。ある意味天地がひっくり返るような事態にフリードと子猫は戸惑う。

 

「あのさぁ、助手のアーシアちゃん。一体何のマネかな? 何でそこのクソ悪魔を庇うのかな?」

 

 アーシアはフリードの助手としてこの民家に結界を張る役を担ってやって来ていた。

 無論、アーシアには子猫の依頼主を殺す気などなかった。悪魔との契約を止めさせる為の説得の為と言われて手伝いに来たのだ。だが、フリードには最初から依頼主を説得する気など無かった。

 己の快楽の為に依頼主を無残な姿に変え、召喚された子猫を一方的に嬲る気しかフリードには無かったのだ。

 最初その光景を目にしたアーシアは足が竦んで動けなくなっていたが、子猫が殺されそうになった瞬間、足が動き割って入った。

 

「ソイツは俺達教会の宿敵だよ? そこんところ分かってる?」

 

「分かってます……けど、いくら悪魔に魅入られたからって、人をあんな酷い姿にして殺したり、相手が悪魔だからって酷い事をするのは間違ってます!」

 

「はぁぁぁぁああああああっ!? 何バカこいてんだよ、このクソアマ! 悪魔はクソな生き物だって、教会で習っただろうがぁ! おまえ、マジで頭にウジ湧いてんじゃねぇのか!? クソアマ!!」

 

「キャッ!!」

 

 聞くに堪えないと言うようにフリードは銃を持った手でアーシアを横薙ぎに叩いた。

 強烈な一撃にアーシアは悲鳴を上げ、床に転んでしまう。頬に痣が出来ているアーシアの姿を子猫は目にし、フリードを嫌悪の視線で睨む。

 

「ったくよぉ。ボスからキミを殺さないように念を押されているけど、なぁ!」

 

「キャアァッ!!」

 

 光の剣でフリードはアーシアのシスター服を下着ごと切り裂き、上半身の裸をアーシアは晒してしまう。

 そのままアーシアの両腕を上げて残っていた裾にフリードは光の剣を突き刺し、アーシアを壁に磔にする。

 

「流石にムカつきマックスになっちまったぁ。まぁ殺さなきゃ良いみたいだし、ちょっとばかしレ○プ紛いな事していいですかねぇ? それ位しないと俺の傷心は癒えそうにないんでやんすよ」

 

 言いながらフリードは、露になったアーシアの両手に収まるような大きさをした美乳に両手を這わせる。

 

「フフフッ、穢れなきシスターが穢れた神父に穢されるってさぁ、ちょっと良くねぇ?」

 

「いやあぁぁぁっ!!」

 

「……最低です!」

 

 女として見るに堪えない光景に、子猫は汚物を見るような視線をフリードに向けた。

 言われたフリードは思い出したかのように片手でアーシアの胸を揉みながら、もう片方の手で銃を子猫に構える。

 

「おっと、アーシアちゃんを犯す前にチビ悪魔を殺さないとダメですよねぇ。ボスが煩いかもしれねぇけど、ちょっと我慢は無理そうなんで、あばよぉクソ悪魔」

 

 フリードがそう告げると共に引き金が引かれ、銃から祓魔弾(ふつまだん)が撃ち出された。

 無念さと悔しさに塗れた子猫の表情に、フリードは歪んだサディスティックな笑みを浮かべ、アーシアは悲痛さに満ちた顔をする。

 だが、祓魔弾(ふつまだん)が子猫に届く直前、家の天井を突き破って赤い両刃の大剣が子猫の前に床に突き刺さり、祓魔弾(ふつまだん)を弾き飛ばす。

 

「な、何ですとぉ!?」

 

「えっ?」

 

「コレは!?」

 

 いきなり天井をぶち破って現れた大剣にそれぞれ目を見開く。

 次の瞬間、更に天井が破壊されフリードの目の前に無謀の赤い仮面をつけて、赤いローブを纏った男が降り立つと同時にフリードの顔面は殴り飛ばされる。

 

『フレルナッ!』

 

「ガバァッ!?」

 

 機械音声のような声と共に殴り飛ばされたフリードは、そのまま背後の壁を突き破って吹き飛んだ。

 男性はすぐさまアーシアを磔にしていた光の剣を握ると同時に破壊し、アーシアを自由にする。

 

「……あ、貴方は?」

 

『……』

 

 男性は何も答えずにアーシアに顔を向けるが、すぐさま顔を逸らして慌てて周囲を見回す。

 両手で胸を隠しているが、アーシアは上半身が裸になっている。流石に着ているローブは渡す事が出来ないので何かないかと男性は探していると、家の者が使っていたと思われる毛布らしき物を一つの部屋から見つけ出す。

 一瞬の内に男性は移動し、毛布を掴み取るとアーシアに羽織らせて裸体を隠す。子猫とアーシアにはいきなり男性の姿がブレて、いきなり毛布が羽織られたようにしか見えなかった。

 しかし、行なった男性は安堵の息を漏らすと、次にうつ伏せになっている子猫に近づき、両足の怪我を目にすると、籠手に覆われている左手を子猫の足に乗せる。

 

「何を!?」

 

 いきなり足に手を乗せられた子猫は思わず叫ぶが、男性は構わずに手を乗せ続ける。

 

Transfer(トランスファー)!》

 

 音声と共に赤い光が発生し、子猫は両足から痛みが和らいで行くのを感じる。

 

『……チユリョクヲ……タカメタ……アトデショチスレバ……ナオルハズダ』

 

 告げながら男性は子猫の前に突き立っていた大剣を引き抜き、呆然としているアーシアの前に立ち、二人を護るように大剣を構える。

 同時に子猫は男性が持つ大剣から悪寒のような気配を感じ取った。自らの天敵に出会ったような異様な感覚に肌が泡立っていると、壁の向こう側から祓魔弾《ふつまだん》が複数飛んで来た。

 しかし、男性は慌てることなく狭い場所にも関わらず大剣を軽やかに振るい、祓魔弾《ふつまだん》を全て斬り落とした。

 

「ま、マジッすか!?」

 

 壁の向こう側から見ていたフリードは、余りにも見事な剣捌きに目を見開いて叫んだ。

 

『……オマエ……ソノチカラ……ドコデテニイレタ!!』

 

「ッ!?」

 

『ヒッ!?』

 

 圧力さえ放つ怒声にフリードは目を見開き、子猫とアーシアは思わず恐怖から声を漏らしてしまう。

 だが、フリードの驚愕は怒声ではなく、その内容の意味の方だった。

 

(コ、コイツ? まさか、ボスの存在を知っているのか!? 不味い!! ボスの存在を他のクソどもに知られるのは!?)

 

 何とかこの場から逃げる手段は無いかとフリードが頭を悩ませていると、突然屋敷内に真紅の魔法陣が出現する。

 一瞬誰もがその真紅の魔法陣に目を向けた瞬間、フリードは笑みを浮かべて懐から閃光弾を取り出して床に叩きつけながら、祓魔弾(ふつまだん)を子猫とアーシアに向かって撃ち出す。

 

「はい! さよならよっと!!」

 

『チィッ!』

 

 男性は閃光に紛れて逃走するフリードを追わずに、子猫とアーシアに迫る祓魔弾(ふつまだん)を再び大剣を使って薙ぎ払う。

 閃光が治まった後には、やはりフリードの姿は存在せず、悔し気に男性は舌打ちしながら真紅の魔法陣に目を向ける。其処には子猫の危機に駆け付けたであろうリアス・グレモリー、姫島朱乃、木場祐斗、ギャスパー・ヴラディ、そして自分から全てを奪った男、兵藤が険しい視線を向けながら立っていた。

 

 

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人物紹介

 

ミッテルト、カラワーナ、ドーナシーク

詳細:原作と違いアザゼルの密命を受けるほどに立場が向上し、【神の子を見張る者(グリゴリ)】の下級幹部ぐらいの立場になれる筈だった。

 

レイナーレ

詳細:登場はしていないが、原作と違い兵藤を殺す気は全く無く、本心から【神の子を見張る者(グリゴリ)】に勧誘する気だった。だが、レイナーレが兵藤を殺す気が無いと悟った兵藤の内に潜む者が出現し、知識通りに事を進める為に精神操作して兵藤を殺させた。結果、精神操作と敬愛するアザゼルの厳命を破ってしまった事に錯乱してしまい、現在は【神の子を見張る者(グリゴリ)】で治療中。

 

フリード・セルゼン

詳細:原作と違い、方針転換した【神の子を見張る者(グリゴリ)】からも抜け、路頭に迷っていたところを異世界侵攻勢力に勧誘された。その結果、原作よりも強化され、原作第三巻時の時よりも強い。禍々しい呪いの光を操り、食らった相手は治癒力を阻害され、長時間放置すると大変危険な状態になってしまう。因みに異世界の光なので悪魔特攻効果は無い。

 

アーシア・アルジェント

年齢:16歳

詳細:原作通りに教会から追放されたところを【神の子を見張る者(グリゴリ)】が、勧誘して駒王町で落ち合う予定だった。しかし、落ち合う筈だったミッテルト達とは出会えず、フリードに騙されてしまった。




アーシア登場。
原作一巻のヒロイン的な立場なので、この話でもグレイフィアに続くヒロイン候補の一人です。

エピローグを含めて全八話で今回の話は構成していますので、とりあえずそれ以上書く気になったら別作品にします。

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