漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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とりあえず筆を進めてみたら原作一巻までの話が出来てしまったので、投稿する事にしました。
ですが、この話の主人公はあくまで一誠なので、ブラック達は裏方でしか活躍しません。


竜人とマッド、そして電子の弟子は赤龍帝2

 冥界に存在する居城で魔王サーゼクス・ルシファーは、自身の妻であり【女王(クイーン)】である女性からの報告を聞いていた。

 

「……そうか……遂に【赤龍帝】が動くのだね」

 

 豪華な椅子に腰掛けた赤い長髪の男性は、真剣な眼差しを目の前に立って見ていた長い銀色の髪をポニーテールにして纏めているメイド服を着た美女-グレイフィアの実姉である【フィレア・ルキフグス】-に向ける。

 

「はい。グレイフィアから連絡が届きました」

 

「グレイフィアからか……彼女が無事で居てくれていた事は本当に良かったと思っているよ」

 

 サーゼクスにとってグレイフィアは義理の妹であり、同時にフィレアと結ばせてくれた恩人でも在った。

 嘗て冥界で起きた旧魔王派と改革派との内戦の中で、サーゼクスとフィレアは敵同士として出会い、互いに思いあった。だが、二人の立場が許さず、二人は思い合いながらも戦うしかなかった。

 その状況にグレイフィアが一石を投じた。ルキフグス家の恥として姉であるフィレアを追いやり、内通者として断罪しようとまでした。だが、ソレは姉を改革派に入れる為の策だった。

 断罪の場を事前に秘密裏にサーゼクスに情報を流し、フィレアを救い出させて自身はルキフグス家の役目の為に旧魔王派に残った。そして内戦の最後の戦いで、姉であるフィレアに討たれる演技を行ない、表舞台からは姿を消した。

 その後は、改革派の中の大王派の派閥の闇の調査を行なっていたのだが、大王派に生存を知られ命を狙われる立場になった。

 サーゼクスとフィレアはグレイフィアを助ける事は出来なかった。秘密裏に連絡は取り合っていたが、グレイフィアは内戦で改革派に甚大な被害を及ぼした旧魔王派の女性悪魔。立場故に救う事は出来なかった。

 そして大王派からグレイフィアの死が確定したと知らされた時には、二人は内心では悲嘆にくれた。だがある日、その報告は誤りだったとグレイフィア本人からの連絡に寄って判明したのだ。同時に世界に迫る脅威に関しても報告された。

 

「はい。【赤龍帝】の少年と彼らには感謝してもしたりません」

 

「あぁ、しかし、同時に私達は知ってしまった。異世界侵攻と言う恐るべき脅威をね」

 

 最初は何を馬鹿なと報告を聞いたサーゼクス達は思った。

 しかし、その後サーゼクスと同じ魔王の立場にあるアジュカ・ベルゼブブから、【次元の狭間】に存在するグレートレッドが全身に傷を負って動かずにいると知らされ、異世界侵攻は事実だと判明した。

 世界最強に位置するグレードレッドを動けない状態にまで追い込む存在が居ると言うだけで、サーゼクス達は深刻な状況にあると理解出来た。例え悪魔勢力が全てを賭けてグレートレッドに挑んでも勝つ事など出来ないのだから。

 その後、グレイフィアと共に行動している者達から異世界が存在している事の証拠の数々を見せられた。

 その証拠の一つがグレイフィアが主と仰ぐ一誠と、駒王町に居る【異界の存在】だった。

 

「グレイフィアからの報告を聞いて監視用の使い魔を放ってみたら、人の身で前魔王級の魔力を持ち、一つしかない筈の【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】がもう一つ存在していると知った時には、驚くしか無かったよ。今代の【赤龍帝】は二人居るのかと思わず思ってしまったね」

 

「サーゼクス様。あの者を【赤龍帝】と表するのは間違っています。グレイフィアが知れば、例えサーゼクス様であろうと怒りで睨みつけるでしょうから」

 

「……分かった。二度と言わないよ」

 

 濃密な恐ろしいオーラを纏ったグレイフィアを思い浮かべたのか、サーゼクスは全身を思わず震わせる。

 フィレアも恐ろしいが、その妹であるグレイフィアも怒らせると怖い。特に本物の【赤龍帝】を愛しているグレイフィアが、件の人物を【赤龍帝】とサーゼクスが表した事を知れば、間違いなく怒る。

 魔王であるサーゼクスに直接手は出さないだろうが、サーゼクスがフィレアに知られたくない事を教える可能性がある。何せあっちには隠し事をアッサリ見破る恐ろしい人物達がついて居るのだから。触らぬ神に祟りなしだと思いながら、話を逸らす意味も込めてフィレアに話しかける。

 

「それで、グレイフィアが生涯を捧げた【赤龍帝】君は既にあの街に?」

 

「はい、入ったようです。暫くは件の人物を観察する予定らしいです」

 

「困ったものだね。さっさと消し去りたいと言うのに、状況がソレを許さないとは……幾ら迂闊に動けないとは言え、せめて私の可愛い妹であるリアスからさっさと引き離したいのだがね」

 

 秘密裏に監視していたが故に、駒王町の管理者であるリアスに【異界の存在】に関しては秘密にしていた。

 もしも知って、迂闊な行動をして相手に警戒心を刺激しないようにする為だったが、まさか、妹の眷属に転生するとはサーゼクスは夢にも思ってなかった。

 妹の実力は知っている。故に悪魔に転生出来る筈が無いのに、リアスは【異界の存在】を悪魔に転生させてしまった。恐らくは何らかの特殊な手段を相手側が使用したのだろうサーゼクスは思っている。

 何せ、直前まで〝自身の組織に勧誘しようとしていた堕天使が、急に錯乱したように殺害行動を実行したのだから゛。その後、堕天使は錯乱しながら空に飛んで行ってしまったのである。

 映像越しで詳細は分からないが、何かが起きた事は間違いないとサーゼクスは思っている。

 

「……お気持ちは察しますが、今暫くは我慢を。幸いにもお嬢様達には、アジュカ様が施してくれた精神防壁が在ります。あの堕天使のように精神異常を起こす事は無いと思われます。万が一、精神防壁に異常な反応が出た時には、私が転移するように術式が施されています」

 

「分かって居るさ……とは言え、楽観視は出来ない。最悪の場合を考えてフリート君にはアレを渡して在るが、警戒だけはしておいてくれ」

 

「畏まりました」

 

 頭を下げたフィレアを見ると、サーゼクスはゆっくりと椅子から立ち上がり、フィレアを伴って部屋から出て行くのだった。

 

 

 

 

 

 駒王町の一角に建てられた一軒家。

 サーゼクス・ルシファーとの契約やら対価やらで手に入れた家に、一誠とグレイフィア、フリートは住んでいた。他にも好き勝手に動いているブラックを除いたリンディ、ルインも使っては居るのだが、今日は生憎留守だった。

 早朝の時間帯。一誠はそれなりの広さがある庭先で、フリートが新たに与えてくれた両刃の大剣を使って日課の素振りを行なっていた。

 

「ふん! ふっ! はあっ!」

 

『……精が出るな、相棒』

 

 気合いを入れて素振りを行なっている一誠に、ドライグが話しかけて来た。

 

「あぁ、何でか知らないけど、この剣! 今までの剣よりも凄くオーラが馴染み易いんだよ!」

 

『それは恐らく破片とは言えエクスカリバーが混じっているからだろう。俺とエクスカリバーは縁があるからな』

 

「そう言えば、ドライグはブリテンの守護龍だったんだよな」

 

『昔の話だ。とにかくエクスカリバーは嘗て俺のオーラを浴びた事がある。破片だろうと、ソレを組み込めば相棒のオーラに馴染み易い筈だ。だから、フリートは何とかエクスカリバーの破片を手に入れたいとぼやいていたのだろうさ』

 

「……本当にフリートさんには感謝しないとな」

 

「……感謝しているんだったら、少しは自重して欲しいんですけどね」

 

 一誠の背後から不満に満ち溢れたオーラを纏ったフリートが現れ、一誠は冷や汗を流す。

 今までフリートがやっていた事を知っているだけに、背後を振り向く事が出来ずに震える。

 

「一誠君。幾ら例の日だったからとは言え、私が何でグレイフィアさんと貴方の情事の後のケアをやらないと行けないんですかね?」

 

「い、いや、部屋の片づけはやって……おきましたよ」

 

「肝心のグレイフィアさんがノックダウンで! 私がマッサージを毎回やらないといけないですし! しかも避妊の確認をやらされるこっちの気まずい身を考えて下さい!!」

 

「す、すいません!!」

 

 例の日。一誠の抑えつけられている性欲が暴走する日の翌日は、何時もフリートが苦労する羽目になっている。

 リンディとルインはフリートよりも女性的感情があるので、他人の情事の後始末など行なうのは精神的にきつい。結果的に色々と生物学に詳しいフリートがやる羽目になってしまい、何故か何時も他人に苦労を与えてしまうフリートが苦労すると言う真逆の状況が出来てしまったのである。

 しかも、日に日に一誠の性欲は強くなって来ている影響なのか、例の日はフリートが注意していないと妊娠確率が異常に高くなると言う危険日でもある。

 

「ハァ~、リンディさんとルインさんは全然この件に関して協力してくれませんし。もうさっさと二人目でも三人目でも探して来て下さい。その相手にマッサージを徹底的に教えて、私は自由の研究に羽ばたきたいんです!!」

 

「無茶を言わないで下さい! 第一俺の事情を知って来てくれる相手なんて、グレイフィア以外に居る訳ないでしょうが!? って言うか、貴女が羽ばたいたらリンディさんが倒れますよ! ただでさえ胃薬と頭痛薬の飲む量が増えてるのに!!」

 

(あの操り人形の【異界】の存在がハーレムとかほざいていましたから、居そうな気がするんですけどね?)

 

 後半部分の訴えを聞き流しながら、フリートは一誠を見つめる。

 一誠は【デジタルワールド】で究極体を含め数え切れない程のデジモン達と絆を結んでいる。そんな彼がモテないなんてフリート達は思っていない。リンディ達はグレイフィアだけにしておきなさいと言っているが、フリートとしては、さっさとグレイフィア以外にも相手を見つけて欲しいのだ。

 主に自身が自由に研究出来る環境に戻る為にも、一誠には自らの相手を更に見つけて欲しいのがフリートの本音である。

 

(クゥ~!! 恨みますよ、リンディさんとルインさん!! 流石にそろそろ我慢の限界です!! もうこうなったらあの策を実行してやります!! 例え一誠君に新しい相手が出来たとしても、今までの研究の遅れの恨みは必ず晴らしてやりますからね!! ……とは言っても、リンディさんは怖いですし……どうしましょう?)

 

 本能的にリンディを恐れているフリートは、内心で頭を抱えながら自身の研究の為の策を考えるのだった。

 だが、フリートは重大な事を忘れている。例え一誠が更に相手を見つけたとしても、例の日の後のケアを教える相手がそれを覚えるまでは、結局フリートが苦労する羽目になる事を。

 その事をウッカリ忘れているフリートは、グレイフィアのマッサージの続きをしに行く為に家に戻ろうとするが、ポケットから電子音が聞こえて来る。

 

「ん? おや、アザゼルからですか」

 

(なぁ、ドライグ? アザゼルって確か?)

 

(堕天使の総督を務めている男だ。あっちは神器の研究家だがな)

 

(何だよ、ソレ? フリートさんと合わせたら混ぜるな危険になるんじゃないのか?)

 

 携帯を片手に何かを話しているフリートを見ながら、一誠とドライグは会話をする。

 

「……本当ですか、ソレは? ……分かりました、すぐに向かいます」

 

 話を終えたフリートは携帯をポケットに戻しながら一誠に振り返る。

 

「一誠君。急用が出来ましたんで、数日は留守になります。一応マッサージで在る程度、体力は回復しましたが、グレイフィアさんには余り無理をさせられないので、食事の方は食べさせて上げて下さいね。序に戻って来るまでの間のマッサージは一誠君がやっておいて下さい! それじゃ、さらばです!」

 

「はや!?」

 

 一瞬で家から大量の荷物を背負って飛び出して行ったフリートの背を一誠は茫然と見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 【異界の存在】-以後は兵藤-は、僅かに困惑を覚えてオカルト部の部室に居る面々を見つめていた。

 十年前に本物の兵藤一誠を抹殺してから成り代わった彼は、兵藤家で過ごしていた。本来ならば一誠の幼馴染である紫藤イリナを堕としたいと思っていたが、残念ながらイリナは既に外国に出て行て堕とすのは無理だった。

 最も何れ会うことが出来るので、その時に改めて堕とせば良いと思っていた。十年の間に、転生特典で与えられた力を使いこなし、時には気に入った女性に手を出すと言う行為を行っていた。そしてつい先日遂に彼の知識通りに堕天使が現れ、物語の始まりである転生悪魔になる事が出来た。

 駒王学園の【二大お姉様】と呼ばれ、悪魔でも名家出身の【リアス・グレモリー】の眷属悪魔になった。

 問題はその後から始まった。先ず悪魔についての説明を終えた後に在る筈だった堕天使の襲撃が無く、普通に家に帰れた。其処までなら多少の変化だと納得出来ただろうが、次の日の他の眷属紹介で兵藤は更に困惑する事になった。何故ならば。

 

「行くよ! ギャスパー君!」

 

「お願いします! 祐斗先輩!」

 

 木々に囲まれた場所にある旧校舎の庭で、リアス・グレモリーの【騎士(ナイト)】木場祐斗は、木々の間を駆け抜けながら女子の制服を着た女の子に見えるような容姿をした男子である【僧侶(ビショップ)】ギャスパー・ヴラディと訓練を行っていた。

 

(何でギャスパーがもう表に出てるんだよ!? アイツが外に出られるようになるのは、リアス達がコカビエル戦を超えてからだろう!?)

 

「あらあら、二人の訓練に驚いてますのね」

 

 自身の知る現状との違いに困惑している兵藤に、リアスと同様に駒王学園で【二大お姉様】と呼ばれている【女王(クイーン)】の長い黒髪をポニーテルにしている姫島朱乃が声を掛けた。

 

「……あ、あの……姫島先輩……二人は何時もこんな訓練をしているんですか?」

 

「えぇ。ギャスパー君は最初は部室に引き篭もっていたんですけど、ある日突然部屋の結界を破壊して部長に土下座して『僕を鍛えて下さい』って、頼み込みましたの」

 

「本当はギャスパーの神器が強力過ぎるせいで再封印も上から言われそうだったんだけど、お兄様に相談したら神器研究の過程で造られた封印用の眼鏡を日常で掛ける事を義務付ける事で許可を貰えたのよ」

 

「ぶ、部長」

 

 朱乃の説明を補足するように紅髪の美少女-リアス・グレモリーが説明した。

 

「ひ、引き篭もっていたのに、どうして出る気になったんですか?」

 

「ギャスパー君はパソコンを介して悪魔の契約を取っていたんですけど、ある日そのパソコンに外部から画像が届いたそうなんです」

 

「私達は見れなかったけど、ギャスパーが言うには幼馴染が縄で縛られて、自分に助けを求めるような映像だったそうなのよ」

 

(ギャスパーの幼馴染って、ヴァレリーの事だよな!? 何でソイツの映像が今ギャスパーに届くんだよ!? どうなってるんだよ!?)

 

 自身の知る知識との違いに兵藤が困惑している間に、木場との訓練が終わったのか、今度は小柄な銀色の髪の少女-塔城小猫が用意していた沢山のボールをギャスパーに向かって振り被る。

 

「……行くよ、ギャー君」

 

「うん! 小猫ちゃん!」

 

 小猫が投げるボールをギャスパーが見つめると、ボールが宙に停止する。

 ギャスパーの神器【停止世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)】の力。視界に映るモノを停止させる能力。強力過ぎる力故にギャスパーは眷属悪魔になった後も暴走する危険性から封印処置されていた。しかし、今はギャスパーのやる気とサーゼクスが渡した神器封印眼鏡で制禦出来るようになっていた。

 全ては自分が見た映像で苦しんでいたヴァレリーを救う為に。

 

(待っていてヴァレリー! 絶対に助けに行くから!)

 

 ギャスパー・ヴラディは自らの大切な人の為に頑張るのだった。

 

 

 

 

 

 別世界の地球である日本の海鳴市市内にある喫茶店『翠屋』。

 美味しいコーヒーやスイーツが有名な喫茶店で、ウェイトレスも可愛い女子が多くて海鳴市では有名である。

 最近更に外国からやって来た金髪の美女が加わり、更に繁盛していた。

 

「ヴァレリーちゃん! 三番テーブルにシュークリームとコーヒーをお願い!」

 

「はい!」

 

 渡された物をウェイトレス服を着たヴァレリーが指示通りに手早く笑顔で片づけて行く。

 その様子を見ていた店長である桃子は夫である士郎と頑張っているヴァレリー・ツェペシュを見つめる。

 

「本当にリンディさんの紹介で来る子は頑張り屋で助かるわ」

 

「そうだな。しかも、幼馴染の子と一緒に暮らす時に迷惑をかけたくないと言っているし、彼女に想われている子は幸せだろうね」

 

「そうね」

 

 桃子と士郎は頷き合うと、仕事に戻って行く。

 その間に休憩時間になったヴァレリーは休み、桃子の娘であるなのはが声を掛けて来る。

 

「頑張ってるね、ヴァレリーちゃん」

 

「はい。ギャスパーと再会した時に世間知らずで迷惑をかけたくないから」

 

「ギャスパー君って子は幸せ者だね。そう言えば、前にフリートさんに頼んで動画を送ったそうだけど、どんな風に送ったの?」

 

「え~と、何でもギャスパーが引き篭もっていたそうなんで、フリートさんに相談して元気が出るようにしたらどうしたら良いのかって聞いて」

 

「うん。何か凄く相談したら不味い人に相談しているけど……それで?」

 

「はい。前に着ていたドレスを着て目隠しして腕と体を鎖で縛って、『ギャスパ~』って言えば絶対に元気になるって教えられて送りました」

 

「ありがとう、ヴァレリーちゃん。お母さん! 私ちょっとフリートさんの研究室に行って来るから!」

 

「あんまり派手にやっちゃ駄目よ、なのは」

 

「分かってる。フリートさんがリンディさんに隠している秘密を沢山教えて来るだけだから! それじゃ行って来ます!」

 

 なのはは『翠屋』を出て行き、残されたヴァレリーは首を傾げるのだった。

 因みにこの後、事情を聞いたリンディがフリートに説教したのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 宵闇に染まった駒王町の街中を、買い物を袋を両手に持った一誠が歩いていた。

 

「ハァ~、まさか、夕食の食材を買い忘れていたなんてな」

 

『フリートの奴も急に呼ばれたようだから仕方が無いだろう』

 

「一体何があったんだろうな?」

 

『分からん。だが、基本的に秘密裏にしか接触しない筈のフリートを呼び出すほどの事態だ。急を要する事態には違いあるまい』

 

「だよな……んで、何時まで隠れてるんだよ」

 

 嫌な気配を感じて通り掛かった廃屋に一誠は目を向ける。

 同時廃屋の扉が吹き飛び、中から上半身が裸の美女で下半身が太い四本足の合成獣のような生物が一誠の前に現れた。

 

「……はぐれ悪魔か」

 

『そのようだ。しかもかなり醜悪なタイプだ』

 

 険しい視線をはぐれ悪魔に向けながら、一誠は両手に持っていた買い物袋地面に下ろす。

 『はぐれ悪魔』。爵位持ちの悪魔に下僕となった者が、反旗を翻して主を裏切り、もしくは主を殺して逃亡した悪魔の総称である。与えられた力に溺れ、好き勝手に暴れる者が大半で在り、各勢力にとって見つけたら即座に抹殺対象に指定されている。

 例外的に事情があって主を裏切る転生悪魔も居るが、そう言う類の悪魔は体に変化が起きる事は無い。

 だが、目の前にいる異様な悪魔は間違いなく力に溺れたタイプのはぐれ悪魔に違いなかった。

 

「キヒヒヒッ! 変わった匂いがするぞ? 旨いのかな? 不味いのかな?」

 

「いや、俺なんて食っても体悪くするだけだぞ」

 

『確かにな。寧ろ相棒は喰らう側だ。最も貴様のような雑魚では獲物にもならんな』

 

「……そうか。貴様神器持ちか!?」

 

 ドライグの声から一誠が神器所持者だと察したはぐれ悪魔は、上半身の両腕に槍を出現させて構える。

 

「ヒヒヒッ!! 神器所持者は食えば旨いからな! 貴様も食らってやるぞ!」

 

「……悪いんだけど、もう終わってるんだよ」

 

「……ハァ?」

 

 一瞬言われた事が分からず、はぐれ悪魔は茫然と一誠を見つめる。

 そして気が付く。何時の間にか一誠の右手に両刃の赤い大剣が握られている事に。更に気が付く、何時の間にか自身の視界が二つにずれている事にも。

 

「俺の事をただの食い物と認識している時点で、アンタは世界を舐め過ぎていたんだよ」

 

『そういう事だ。次はどんな相手でも最初から警戒するようにした方が良いぞ。最も、お前に次は無いがな』

 

 一誠とドライグが言い終えると同時に、はぐれ悪魔の体は中心から真っ二つに崩れ落ち、消滅して行く。

 消滅後に地面に残されたはぐれ悪魔が握っていた二本の槍と、破壊された【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】を一誠は確認し、何かを確かめるように両刃の大剣を見つめる。

 

「……かなり馴染んで来たな」

 

『あぁ、その証拠に聖剣の波動も出て来ている。コレは面白い事になりそうだぞ、相棒。旨くすれば相棒が望む剣になるかも知れん』

 

「俺が望む剣か……そんなの一振りだけだ」

 

 尊敬する剣の師が扱っている剣を思い出しながら、一誠は両刃の大剣を【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】に収納する。

 そのまま立ち去ろうとするが、フッと地面に落ちている【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】が目に入り、拾い上げる。

 

「……そう言えば、フリートさんが【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】を欲しがっていたよな」

 

『壊れて力を失っているが、何かの役には立つかも知れんな。回収して置けばいいだろう』

 

「だな。さてと、さっさと帰って夕食の準備をしないと」

 

『グレイフィアも待っている。急ぐぞ、相棒』

 

「あいよ、ドライグ」

 

 地面に置いておいた買い物袋を拾い上げ、急いで我が家に帰るのだった。

 

 十数分後。一誠とはぐれ悪魔との一方的な戦いとすら呼べない出来事在った場所に、紅い魔法陣が出現した。

 魔法陣が消えた後には、リアス・グレモリーとその眷属達が転移して来た。

 

「……これは、どういう事なの?」

 

 破壊された廃屋の扉と、その扉のすぐ傍に落ちている二本の巨大な槍をリアスは茫然と見つめた。

 他の眷属達も同様であり、中でも兵藤は更なる自身の知識と違う出来事に困惑していた。

 

(ど、どういう事だよ!? 今日は、はぐれ悪魔バイサーと戦って、部長が俺に【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】について教えてくれる日の筈だぞ!? なのに、何でバイザーがもう死んでるんだよ!?)

 

「戦闘らしい戦闘を行なった形跡はありませんわね」

 

「えぇ……つまり、この相手はバイサーと出会って、一瞬で倒せるだけの実力を持った何者かと言う事になるわね。そんな相手がこの街に居るなんて」

 

「どうします、部長?」

 

「……警戒するしかないわね。何せこの相手、何の痕跡も残していないのだから」

 

 祐斗の質問にリアスは厳しい視線をバイサーの槍に向けながら一瞬考えるが、すぐにどうする事も出来ない事に気が付く。

 痕跡が残って居れば何かしらの情報を得る事が出来るのだが、痕跡が残っていないとなればどうする事も出来ないのが現実である。

 

(一体何者なのかしら? ……まさか、アレがこの街に来ているの!?)

 

 脳裏に浮かんだ一つの可能性にリアスは蒼白になる。

 数年前から各勢力に現れては、実力の在る者、才在ると言われている者を次から次へと襲いかかる【暴虐の竜人】と表される存在。悪魔勢力も襲われ、レーティングゲームの上位ランカーが数十名眷属を含めて再起不能にされている。

 リアスの婚約者も襲われた事もあるだけに、他人事では済まない。

 

(アレはどう言う訳なのか、獲物と判断した相手をあっさりと見つけて襲い掛かって来る存在。まだ、お兄様にしか伝えていないけど、一誠が【赤龍帝】だと言う情報を知ってこの街に来ているんじゃ!?)

 

 自らが新たに加えた兵藤が【赤龍帝】だと知った時、リアスが感じたのは喜びではなく恐怖だった。

 【歩兵(ポーン)】を八個使わないと転生出来なかった兵藤を知った時、リアスはその才能を信じて眷属に加えた。だが、よりにもよって【赤龍帝】だと知った時は、目の前が真っ黒になるほどの焦りと恐怖を感じた。

 眷属を不安にさせないようにする為に取り繕っていたが、部活が終わった後、すぐさま兄であるサーゼクスに相談したぐらいである。

 

(まさか、こんなに早く来るなんて!? ど、どうしたら良いの!?)

 

「部長」

 

「ッ!? あ、朱乃?」

 

「大丈夫ですわ。このはぐれ悪魔を倒した相手はきっと部長が考えている相手ではありませんわ。だって、もしも部長が考えている相手だったら、もう私達の前に現れているでしょうから」

 

「そ、そうよね。ありがとう、朱乃」

 

 自身の補佐である朱乃の言葉にリアスは、冷静さを取り戻して改めて周囲を見回す。

 言われてみれば、【暴虐の竜人】が暴れた後は必ず大きな破壊の痕跡が残って居る筈なのに、破壊されたと思われる物は、バイサーが出て来たと思われる破壊された廃屋の扉だけ。

 その事実にリアスは安堵の息を溢しながら、改めて自身の眷属に加わった兵藤に目を向ける。

 正直に言えば、リアスは兵藤に不信感を抱いていた。【赤龍帝】が自らの眷属に加わった事は本来ならば喜ぶべき事なのだろうが、【暴虐の竜人】の存在に加え、あまりにも兵藤は世界の裏側を知ったにしては驚きが薄い。まるで知っている事を改めて確認しているような不自然さをリアスは感じていた。

 

(眷属を疑うのは主としては失格かも知れないけれど、どうにも一誠には不自然さを感じるのよね)

 

 暫くは警戒を止める事が出来ないと感じながら、リアスは改めて周囲を見回しながら眷属達に告げる。

 

「とにかく、皆。暫くは注意して行動するように。何が起きるのか分からないんだから」

 

『はい、部長!』

 

 リアスの言葉に眷属達は返事を返すが、その中で兵藤だけは何かを考え込むような表情し、リアスは更に不信感を抱くのだった。

 

 

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人物紹介

 

サーゼクス・ルシファー

詳細:冥界の悪魔勢力の頂点に在る四大魔王の一人。嘗て起きた悪魔の内戦の際に改革派のエースとして活躍。内戦後は魔王ルシファーの座に就き、フィレア・ルキフグスと結婚して息子を得た。内戦の時に陰ながらフィレアと結ばれるように動いてくれたグレイフィアに感謝し、内戦後も悪魔社会の未来の為に裏で動いてくれたことに対しても感謝し切れないほどの恩を感じている。それ故にグレイフィアの生存が古い悪魔達にバレてしまい、処罰された事を知った時には深く苦悩した。現在は生存が判明したグレイフィアからの情報によって異世界侵攻の危機を知り、各勢力との協調と悪魔勢力内の改革に尽力を尽くしてる。因みにプライベートではフリートと非常に懇意にしていて、何かをやっていたりする。

 

 

フィレア・ルキフグス

容姿:グレイフィアと瓜二つだが、髪形はポニーテールにしている。

詳細:サーゼクスの【女王(クイーン)】であり后。内戦の時代にサーゼクスと出会い、互いに思い合ったが立場上敵対していた。旧魔王派では悪魔の未来は滅亡しか無いと分かって居たが、ルキフグス家の役割の為に改革派に入ることが出来ず苦悩しながら内戦に参加していた。だが、サーゼクスへの想いを妹のグレイフィアに見抜かれ、グレイフィアが糾弾して処刑される立場になってしまった。しかし、ソレはグレイフィアの策略で、事前にサーゼクスに情報を送り、フィレアを救い出させて改革派に入る事になった。妹の真意は見抜いていたが、ルキフグス家の役割を全うしようとするグレイフィアを解放する為に内戦の最後に激闘を繰り広げたが、グレイフィアは表舞台から姿を消す結果になってしまい、妹に全てを背負わせてしまった事を後悔した。その後も何とかグレイフィアを表舞台に戻そうと説得を続けていたが、頑なにグレイフィアは裏に残り続け、最終的に大王派に処罰されたと知らされた時は深い悲しみにくれた。

グレイフィアをルキフグス家の役割から解放してくれた一誠には深く感謝しているが、同時にグレイフィアを悲しませたら絶対に赦さないと思っているシスコン的な面がある。最近四大魔王全員と仲良くしているフリートに、非常に嫌な予感を感じている。因みにリンディとはとても仲が良い。

 

 

リアス・グレモリー

年齢:18歳

詳細:原作と変わらず駒王町の管理者。正し【暴虐の竜人】ことブラックの存在に危機感を覚えて居て、町の監視に力を入れていた。その結果兵藤の存在を早期に知り、眷属にしようか悩んでいた。だが、どうにも嫌な予感を感じていたので監視だけに留めていたのだが、堕天使の襲撃事件で死亡した兵藤に眷属化を試したところ、【歩兵】を八個使用しないと転生出来ない事が判明し、眷属入りに踏み切った。しかし、悪魔になった兵藤が裏の事情を知っても驚きが薄いところから不信感を感じている。兄であるサーゼクスには兵藤に関して相談している。

 

 

ギャスパー・ヴラディ

年齢:16歳

詳細:原作と同じように旧校舎の一室に引き篭もっていたが、某マッドがハッキングして送り込んだヴァレリーのドレス姿で目隠しされて縄で縛られている姿と、助けを求める声によって引き篭もりを止めて自らの神器を使いこなす訓練を主であるリアスに願い出た。現在はサーゼクスから送られた神器封印用の伊達眼鏡を付けて学園に通い、何時か酷い目にあっているであろうヴァレリーの救出を考えている。原作登場時よりも成長しているが、【赤龍帝】の血を飲んでいないので覚醒はしていない。

 

 

ヴァレリー・ツェペシュ

詳細:吸血鬼と人間のハーフヴァンヴァイア。デイウォーカーで日光も平気。吸血鬼と言う存在に興味を覚えたブラックが襲撃し、研究の為に動き出したフリートがヴァレリーを実験動物扱いしようとしていた一派から救出した。その身には神滅具【幽世の聖杯(セフィロト・グラール)】を宿している。救出した時点ではかなり精神が不安定になっていたが、三大天使デジモン達の加護に寄って持ち直し、現在は高町家在住。ギャスパーと暮らす事を夢見て社会勉強中である。因みに吸血鬼のツェペシュ一派はブラックに徹底的に叩きのめされ、ヴァレリーに二度と手を出さないと心の底から誓って土下座された後に更にボコボコにされて消滅した。




因みに他の部員は原作通りです。
朱乃の悲劇には関われませんでしたし、子猫に関しても無理。
ただ黒歌が主を殺した原因は判明していますが、証拠が無く、本人も話し合いに応じないので一応殺害命令ではなく捕縛命令にされています。

祐斗は言うまでもなく極秘実験でしたので、知った時には時既に遅く助けられませんでした。トスカに関しては情報を得ているのですが、教会が厳重に護っているので救出は無理。ブラックがその気になれば話は別ですが、余りにも教会の腐敗面が多すぎて動くと完全に潰すまで止まりそうにないので、熾天使達から止めてくれと懇願されているのでやりません。

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