漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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本編じゃなくて申し訳ありません。
本編の方は必ず近い内に更新出来るように頑張ります。




 ミッドチルダ東海上。

 送り込んだ人型ガジェットと機動六課の隊長陣である三人の戦いを見ていたはやては、発動させたデアボリック・エミッションに高町なのは、フェイト、ヴィータが呑み込まれる光景を見ていた。

 その横に居るフリートは、回収し終えた【ジュエルシード】を白衣の中に仕舞いながら先ほどの戦闘を思い出す。

 

「……ハァ~、分かっていた事ですけどつまらない戦闘でしたね」

 

 予想通り過ぎる結果にフリートは本気でつまらないと言う感想しか抱けなかった。

 確かに高町なのは達は人型ガジェットを破壊出来た。だが、余りにも時間が掛かり過ぎていた。

 しかも、倒せたのは人型ガジェットが弱点を晒したせいに過ぎず、ソレが無ければ戦闘は人型ガジェットが勝っていたかも知れなかった。

 

「あの私が造ったガジェット。確かに特殊な機能が備わっていますけど……一度に一つの機能しか使えない弱点にも気がついてませんでしたね」

 

 短距離瞬間移動。

 両手からの遠距離魔法無効キャンセル波。

 鎧のように纏う高濃度のAMF。これ等は確かに魔導師にとって、どれか一つでも最悪過ぎる機能。

 だが、人型ガジェットはこの機能を同時に使用する事は出来ないのだ。更に言えばどれか一つの機能を使った後、別の機能を発動させる為に三十秒ほどタイムラグが存在していたのだ。

 ソレを悟らせない為に、特殊機能を使用した後には即座に移動を行なうように設定していたが、注意深く観察すれば弱点に気が付ける。

 

「……はやてさんだったら、最後の攻防でどうしてました?」

 

「……私やったら、ヴィータを救出するよりも人型ガジェットへの攻撃を優先します」

 

 最後に人型ガジェットが使った右アームを伸ばして攻撃する手段。

 確かに強力な攻撃だが、同時にあの攻撃は人型ガジェット最大の弱点でも在ったのだ。

 フリートが気づかれないように仕込んでいたが、過酷な戦いを超えて来たはやてには一目見て分かった。

 最後に人型ガジェットが発生させた蒼い輝きが、AMFでは無いと言う事実に。

 

(まぁ、事前にあのガジェットのスペックは聞いてたけど、知らんかったら私も騙されてたかも知れへん。この世界のなのはちゃん達もあの蒼い輝きそのものが罠やったとは気が付けたのは、ダメージを与えられたからやし)

 

 そもそもAMF自体には光を発する特性は無い。

 魔法を使う事や機器による感知で察する事が出来るのだ。

 しかし、フリートは態々人型ガジェットがAMFによる防御を行なう時に蒼く輝くようにしていた。

 最大の必殺技でありながらも、無防備になってしまう【無限拳】を使用出来るようにする為に。

 もしもフェイトがヴィータの救出では無く、人型ガジェットへの攻撃を優先していれば、その時点で勝負は決まっていた。

 出力と組み込まれているAIが桁違いのおかげで誤魔化せていたが、人型ガジェットの装甲自体はスカリエッティが使用している偵察用のガジェット並みでしか無いのだから。

 

「ん~、まさか本当に終わってしまいましたかね?」

 

 デアボリック・エミッションに呑み込まれた高町なのは達が反応を示さない様子に、勝負が決まってしまったのかと首を傾げる。

 事前にはやてに頼んでデアボリック・エミッションの爆発するのを遅らせるようにしていた。

 とは言え、魔力で出来た球体に呑み込まれたのだから、ダメージは大きい。ソレに加えて爆発は流石に止めになってしまうので、態々爆発するのを遅らせているのだ。フリートが(・・・・・)

 

(出来るって言われた時は信じられへんかったけど、ほんまに爆発が起きないなんて……やっぱり、この人は)

 

 フリートの正体はもうはやては分かっている。

 だからと言って、その正体を口に出す気は無い。この世界ではともかく、自分達の世界でソレを口にしたらどうなるかなど分かり切っているのだから。

 

「……おっ!」

 

 僅かに声を上げたフリートに釣られて、はやてもデアボリック・エミッションに視線を戻す。

 次の瞬間、デアボリック・エミッションの内側から桜色の砲撃が飛び出し、デアボリック・エミッションを破壊した。

 同時に内部から気絶したヴィータとフェイトを抱え、所々バリアジャケットが破損した高町なのはが出て来た。

 

「異世界とは言えなのはさんですね。アレぐらいは流石に出来るようですけど……うん?」

 

 デアボリック・エミッションから出た高町なのははフローターフィールドを発生させ、フェイトとヴィータを乗せると、レイジングハート・エクセリオンを掲げた。

 

「広域サーチや! 私らを見つける気みたいやけど」

 

 事前にサーチされないように妨害はしてある。

 故に自分達の居場所がバレる事は無いとはやては思うが、高町なのはは何かを見つけたのか、迷う事無くレイジングハート・エクセリオンの矛先をはやて達が居る方向に向けた。

 

「ッ!?」

 

「あぁ、そう言えばあのなのはさんも【ジュエルシード】を回収した事が在ったんでしたよね」

 

 驚くはやてと違い、フリートはどうやって高町なのはが自分達の居所を察したのか瞬時に理解した。

 自分達は確かにジャミングを張っているが、たった今回収した【ジュエルシード】にはまだジャミングを張っていない。

 加えて言えば、嘗て高町なのはは【ジュエルシード】を回収した事が在るのだ。その頃のデータがレイジングハート・エクセリオンに残っていたのだろう。

 冷静にフリートが推察していると、高町なのはが構えたレイジングハート・エクセリオンの矛先から桜色の砲撃が放たれた。

 

「風の護……」

 

「必要ないですよ」

 

 防御しようとするはやてをフリートは止めた。

 ゆっくりとフリートは、はやての前に移動すると、両の掌を勢いよく合わせて打ち鳴らす。

 

「はい、拍手」

 

 パァンっと言う音が鳴り響くと共に、迫って来ていた桜色の砲撃が一瞬の内に消失した。

 

『ッ!?』

 

 砲撃を放った高町なのはだけではなく、フリートの背後に居たはやても目を見開いて驚愕した。

 

「もう一つおまけに拍手」

 

 パァンっと、再びフリートが両の掌を合わせて音を鳴らした瞬間、高町なのはが発動させていたアクセルフィン、フローターフィールドが消え去った。

 何が何だか分からないと言うように顔をしながら、高町なのは達は海へと落下して行く。

 飛行魔法を再び発動させようとするが、何故か飛行魔法の光は発せられることは無く、高町なのは達は海に落ちて行った。

 

「私達を見つけたご褒美でバリアジャケットだけは残しておきました。気絶している二人も落下の衝撃で目覚めるでしょうから大丈夫ですよ、はやてさん」

 

「……そ、そうですか……(あかん。体の震えが抑えられへん)」

 

 魔導師ならば今、フリートがやって見せた事の異常性を嫌でも理解出来てしまう。

 本人は何でもないと言わんばかりの態度だが、はやてにはフリートがやった事を出来るとは思えない。

 それほどまでに異常な事をフリートは簡単にやってのけて見せたのだから。

 

「それにしても……この世界のなのはさん……厄介な傷を残してますね」

 

「傷?」

 

「えぇ、傷です。本人も周囲も気づいていないようですけどね」

 

 コレまで直接高町なのはの戦闘を見る機会がなかったので気づけなかったが、今の戦闘でフリートは気がついた。

 高町なのはには厄介な、しかも深刻に近い傷が出来てしまっている事に。

 

「……もしかしてこの世界のなのはちゃんは落とされた時の後遺症が残って……」

 

「ソレも在りますけど、もっと厄介な傷です。多分なのはさんも戦ったりすれば気づくでしょう。この世界のなのはさんが抱えてしまっている厄介で、深刻な傷に……ちょっと治すには荒療治が必要になりそうですね。一応薬代わりもやりましたけど、果たして本人や周りが気がつくかどうか」

 

(一体あのなのはちゃんに在る傷って何やろう? この世界のなのはちゃんの経歴は確か……まさか、いやいやありえへんやろう流石に)

 

 一つの可能性がはやての脳裏に過ったが、すぐにその可能性は無いと判断した。

 何故ならばその可能性は、職務に復帰するならば当然治療されているべき事柄だった。

 もしもソレが成されていないとすれば。

 

(もしも当たっとったら、この世界の管理局は超ブラック企業って事になるから、流石にないわな)

 

 そう考えながらはやてはフリートと共に、転移でこの場を去ったのだった。

 

 

 

 

 

 機動六課隊舎の屋上。

 屋上では幾重にも魔力光が走り、激突し合っては衝撃を放っていた。

 しかし、屋上は破壊される事は無く、屋上の四方の隅から発生している光の壁に寄って護られていた。

 だが、光の壁が護っているのは屋上の壁だけ。その内部で戦っている者達を護る事は無く、機動六課の屋上は光の壁に囲まれる牢獄になっていた。

 

「感謝して貰いたいな! お前達の隊舎が無事に済んでいる事を!!」

 

「感謝などせん!!」

 

 戦闘の中で空中で最も激しい衝撃を撒き散らしているタオとシグナムは、自らの得物をぶつけ合いながら叫び合った。

 実際、感謝など出来る訳が無い。四方を囲む光の壁に寄って機動六課の隊舎は確かに護られている。

 だが、同時にシグナム達が逃げる場所も失われてしまった。

 

(事前に此処まで仕込んでいたとは!? 一体コイツはどれ程前から機動六課に入り込んでいたというのだ!?)

 

 敵がタオ一人だけだったのならば、シグナムとザフィーラが相手をしてFWメンバーが安全な場所にタバネを運ぶと言う作戦が取れた。

 だが、タオはFWメンバーの複製を操り、加えて逃げられないように屋上を結界で封じた。シグナム達はまんまとタオが仕掛けた鳥籠の中に飛び込んでしまったのだ。

 その上。

 

「雷符ッ!!」

 

 隙をついてタオは符から雷や炎、或いは尖った氷などを放ち、気絶して屋上に倒れ伏しているタバネに向かって攻撃を仕掛けて来るのだ。

 

「させん!!」

 

 そのタバネの前にはザフィーラが立ち塞がり、障壁で雷を防ぐ。

 タオは冷静に防がれた事を確認すると、再びシグナムに向かって巨大な筆を振るって行く。

 

「クゥッ!」

 

 防ぎながらシグナムは悔し気な声を漏らした。

 巨大な筆の一撃に込められている威力もそうだが、タオに他に気を回されていると言う事実がシグナムのプライドを刺激していた。

 ベルカの騎士は一対一ならば負けないと言う誇りを持っている。生粋の騎士であるシグナムならば尚更に。

 だが、タオはシグナムだけに意識を向けていない。寧ろ符に寄る遠距離攻撃がタバネにだけ向けられているのだから、其方の方に重点が置かれているとさえ思える。

 

「貴様!!」

 

「フン!!」

 

 力を込めて振り抜かれたレヴァンティンを、タオは冷静に防いで行く。

 本来ならば此処まで有利にタオはシグナムと戦えない。本来の世界でのシグナムとタオの実力は互角ぐらい。

 多彩な技を使うタオと一撃の威力ではタオを上回るシグナム。しかも、シグナムには炎熱変化の魔力資質が在るので、符を撒き散らす攻撃が使えないのだ。

 だが、この世界では違う。何故ならば今のシグナムは全力を発揮出来ないのだから。

 

「リミッターは重いようだな、烈火の将!! お得意の蛇腹剣に寄る攻撃も出来まい!!」

 

「ッ!?」

 

 そう、現在のシグナムは魔力リミッターに加えてデバイスにまでリミッターが組み込まれているので中距離攻撃用にレヴァンティンを変形させる事が出来ない。

 リミッター解除の許可には、部隊長の八神はやてよりも上司の許可が必要。そんな事が現状で出来る訳が無い。

 加えて言えば、事前にタオが通信設備を機能停止にしているので尚更リミッター解除は不可能なのだ。

 

(このままでは不味いか!)

 

 形勢が不利だと判断したシグナムは背後へと飛び去り、レヴァンティンを構え直す。

 

「レヴァンティン!! 叩き切るぞ!!」

 

Explosion(エクスプロズィオーン)!》

 

 レヴァンティンからカートリッジが排出され、刀身が炎に寄って燃え上がった。

 ソレに対してタオは瞬時に自らが持つ筆に符を何枚か張り付けて、シグナム同様に構える。

 互いの気迫が最大に高まった瞬間、シグナムがタオに向かって飛び掛かる。

 

「紫電一閃!!」

 

「ハァッ!!」

 

 シグナムの最大の一撃と、タオが振るった筆がぶつかり合い、周囲に衝撃波が撒き散らされた。

 

「……炎が……消えるだと?」

 

 刀身を包み込むように燃え上がっていた炎は、タオの筆から発生した水に寄って打ち消された。

 その事実に呆然としているシグナムを、タオは仮面越しで睨みながら平坦な声で告げる。

 

「五行相克。炎は水に寄って打ち消される。貴様が今発生させた炎では、私の符が発生させる水を破る事は出来ない。何よりも」

 

 タオの言葉と共に、ビキビキっと破砕音が鳴り響き、レヴァンティンの刀身が砕け散った。

 

「なッ!?」

 

「リミッターを付けて本来の力を発揮出来ない貴様の一撃では、私には届かん!」

 

「ガハッッ!!」

 

 突然タオが叫び、先ほどまでとは比べものに無いほどに力を込められて筆が振るわれた。

 筆はシグナムの胴体に直撃し、息を吐き出しながら体が宙に浮かんだ。

 

「主君を護る騎士が自らの力を封じるだと!? 戦いを舐めるな!!」

 

 苛立ちが混じった叫びと共に、タオの両袖から分銅が付いた鎖が飛び出す。

 飛び出した鎖は意思を持つかのように動き、シグナムに巻き付いて身動きを封じる。

 

「雷符ッ!!」

 

「ガアァァァァァァァァァッ!!」

 

「シグナム!?」

 

 鎖を伝って流れた電撃に苦しむシグナムに、ザフィーラは叫んだ。

 しかし、タオはザフィーラの叫びなど構わず、苦しむシグナムに接近し、胸に符を張り付ける。

 

「縛ッ!!」

 

「ッ!?」

 

 張り付いた符だから発せられた力場に、シグナムは封じられてしまう。

 そのままタオは体を勢いよく一回転させ、シグナムの脳天に全力で踵落としを叩き込む。

 

「……ませ」

 

(何を?)

 

 僅かに聞こえた言葉の意味が分からず、シグナムは疑問に思うが、脳天から走った衝撃に寄って意識を刈り取られ屋上に激突した。

 

「シグナム!?」

 

『シグナム副隊長!?』

 

 ザフィーラだけではなく、それぞれ自分の複製体と戦っていたFWメンバーも叫んだ。

 ゆっくりとシグナムを倒したタオは屋上に降り立ち、ザフィーラに向かって筆先を向ける。

 

「次は貴様だ、盾の守護獣。貴様らの将は期待外れだったぞ。お前は如何かな?」

 

「貴様ァッ!!」

 

 自分達の将を侮辱する発言に、ザフィーラは怒りの咆哮を上げると、狼の形態から人型の形態に変化してタオに襲い掛かった。

 

「オォォォォォォッ!!」

 

「ほう、お前にはリミッターが無いのか。なら少しは厄介そうだ」

 

「舐めるな!!」

 

 冷静にザフィーラが繰り出す拳や蹴りの嵐をタオは避けて行く。

 その様子を見ていたティアナは、自分達が追い込まれて来ている事に険しい顔をしながら、自身の複製体を睨む。

 

「クロスファイヤーシュート!!」

 

「この!!」

 

 自らに向かって放たれた自身の魔法を、ティアナはクロスミラージュから魔力弾を撃つ事で対処していく。

 

(コイツら!? 本当に私達のデータを基にしているみたいね!!)

 

 コレまでの戦いで、複製体が使って来るのは、確かにティアナ達自身が扱っている魔法ばかり。

 それは、他の面々も同じだった。

 

『ハァァァァァァァッ!!』

 

 互いに叫び合いながらスバルと複製体は拳をぶつけ合う。

 

『オォォォォォッ!!』

 

 エリオと複製体は高速で屋上を駆け回り、ストラーダを扱って剣戟を繰り広げている。

 

『我が乞うは、疾風の翼。若き槍騎士に、駆け抜ける力を』

 

 キャロとその複製体は、エリオとその複製体に補助魔法を使って戦いの援護を。

 まるで鏡写しのような戦い。同じ戦い方と魔法。決着が着かないとさえ思えるような戦いだが。

 

「ウワッ!!」

 

「エリオ君!?」

 

 拮抗し合っていた戦いの中で、徐々にでは在るが複製体達がFWメンバーを押し始めていた。

 先ずは高速戦闘を繰り広げていたエリオが、最初だった。

 高速戦闘は意識を集中させる戦闘なだけに、神経を使う。人間で、しかもまだ幼いエリオでは、休息無しでの長時間の高速戦闘は持続出来ない。

 だが、複製体は違う。意思無き人形で、命令に忠実な彼らは戦闘にしか意識が無い。故に人間と違って、常に集中出来て体の事など気にしない彼らは、戦い続ける事が出来る。

 その差が出始めたのだ。

 

「我が乞うは、城砦の守り。若き槍騎士に、清銀の盾をッ!!」

 

Enchant(エンチャント) Defence(ディフェンス) Gain(ゲイン)

 

 防戦に回り始めたエリオに気がついたキャロは、防御を固める事を選択した。

 それに対して複製体が、即座に対抗魔法を使用する。

 

「猛きその身に、力を与える祈りの光を」

 

Boost(ブースト) Up(アップ) Strike(ストライク) Power(パワー)

 

「あぁっ!?」

 

 エリオの複製体に掛けられた魔法に気がついたキャロは、自身の失敗に気がついた。

 防御力が高いのならば、攻撃力を上げるのは当然の事。先ほどエリオに掛けるべきだったのは、負担を少しでも軽減出来る回復魔法の類にすべきだったのだ。

 今更その事実に気がつくが、既に遅く、攻撃力と速度が強化されたエリオの複製体は、更にエリオに攻撃を加えて行く。

 キャロは慌てて回復魔法を唱えようとするが、その前にエリオからの念話が届く。

 

(キャロ! 僕に構わずにフリードを本当の姿にするんだ!)

 

(フリードを!?)

 

(うん! 確かにこいつらは僕らのコピーみたいだけど、フリードだけはコピーされていない!)

 

 届いた念話にキャロは、自身の横の床に置かれている鎖で巻かれて凍り付いているフリードに目を向けた。

 エリオの念話通り、確かにフリードの複製体は存在していない。故に、キャロの複製体はキャロの切り札である【竜魂召喚】を使用する事は出来ない。

 フリードが本来の姿に戻って戦いに参戦すれば、戦況は自分達の有利になる。

 

(キャロ!)

 

「……うん! 蒼穹(そうきゅう)を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ」

 

「ッ!?」

 

 聞こえて来たキャロの呪文の詠唱を聞いたティアナは、自身に向かって放たれる誘導弾を回避しながらキャロに顔を向ける。

 

「馬鹿! キャロ!! 止めなさい!!」

 

 戦況を有利にしようとキャロが動いた事を、ティアナは悟りながらも強い声で叫んだ。

 確かにフリードが【竜魂召喚】に寄って真の姿に戻れさえすれば、戦況は自分達の有利に変わる。

 だが、そんな簡単な事をタオをが気がつかない筈が無い。

 

()よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!」

 

 キャロの詠唱が終わると共に巨大な魔法陣がフリードを中心に広がり、環状魔法陣も発生した。

 だが、フリードの体が浮かび上がろうとした瞬間、鎖に張り付いていた符だが輝き、魔法陣は霧散する。

 

「……そ、そんな……」

 

「やっぱり、アレはただ凍り付かせたんじゃなくて、封印!!」

 

 フリードを本来の姿へと召喚する事が出来なかったキャロが呆然とする中、ティアナはフリードに使われていたのが封印だと悟った。

 しかし、そうだと分からないキャロは肝心な時に失敗してしまったのかと呆然としてしまい、複製体が操る鎖に雁字搦めに縛られてしまう。

 

「錬鉄召喚。アルケミックチェーン」

 

「キャアッ!!」

 

「キャロ! ウワアッ!」

 

 フリード同様に鎖に囚われたキャロを目にしたエリオが動揺した瞬間、複製体の強力な一撃が決まり、エリオは背中から屋上のフェンスに激突した。

 

「エリオ!」

 

「スバル! 撹乱行くわよ!! フェイクシルエット!!」

 

 相棒の返事もまたず、ティアナは幻影魔法を使用して自身とスバルの幻影を複数発生させた。

 複製体達は僅かに動揺したように、幻影達を見回す。

 

(今の内にアンタはエリオとキャロを救出して! 私はタバネさんを!)

 

(うん! 任せて!)

 

 ティアナの指示に従い、スバルは即座に屋上を駆け出した。

 続いてティアナもタバネの安全を確保しようとするが、その前に自身の幻影がタバネに銃口を向けているのを目にする。

 

「ッ!?」

 

 複製体達はティアナ達のデータを基に造られている。

 故に現在の状況で最もティアナがやりそうな事を悟り、先んじて動いたのだ。

 使用されようとしている魔法は、【ヴァリアブルシュート】。タバネが纏っているバリアジャケットを貫いて、確実に殺傷しようとする為に複製体は構える。

 その光景を目にしたティアナは、キレた。

 

「……ふざけるなぁぁぁぁぁッ!!」

 

 咆哮と共にティアナはクロスミラージュの引き金を引き、ティアナの複製体は吹き飛んだ。

 無意識の内にティアナは【レールショット】を使用した。コレまでは使用する為には集中しなければならなかったのに、初めてティアナは集中せずに【レールショット】を撃ったのだ。

 だが、ティアナは構わずにタバネを護るように立ち塞がり、両手にクロスミラージュを構えて複製体達を睨みつける。

 

「……さっきからふざけてくれるわよね、アンタら。複製だが、何だか知らないけれど……私達の努力を侮辱するんじゃないわよ!!」

 

 自分達が日々鍛えているのは、決して誰かを理不尽に傷つける為ではない。

 誰かを護る管理局員として、そして自身の兄が誇りにしていた魔法は、理不尽に傷つけられる人々を護る為に。

 

「掛かって来なさい! タバネさんには傷一つ付けさせはしない!」

 

 ティアナの宣言と共にエリオとスバルの複製体が襲い掛かり、キャロの複製体が補助魔法を使って援護する。

 しかし、ティアナは慌てる事無くカートリッジを一発使用し、右手に持つクロスミラージュをキャロの複製体に向ける。

 

「レールショット!!」

 

 ドンッと言う音と共にキャロの複製体が吹き飛んだ。

 本来のティアナ達ならばキャロを心配する。だが、複製体達には仲間を心配する気持ちなど存在しない。

 吹き飛んだキャロの複製体になど構わずに、スバルとエリオの複製体はティアナに襲い掛かる。

 

「でしょうね! なら、クロスファイヤー…」

 

 慌てる事無くティアナは、クロスミラージュを前に向かって構えて誘導弾を撃ち出す。

 

「シュート!!」

 

 放たれた誘導弾は、真っ直ぐにスバルの複製体に向かって行く。

 スバルの複製体はプロテクションを張り、誘導弾の威力に負けないように足を止めて踏ん張る。

 ティアナの狙い通りに。

 

(そう、スバルならそうしてしまう。威力がありそうな攻撃には、思わず全力防御をしてしまう癖! でもね!)

 

「ハアァァァァァァッ!!」

 

 クロスファイヤーシュートが全弾直撃したと同時に、エリオとキャロの救出を終えて幻影の中に紛れていたスバルが飛び出した。

 

「その癖はもう本人も自覚して、克服しているのよ!」

 

「リボルバーキャノンッ!」

 

 ナックルスピナーを高速回転させながら、スバルはリボルバーナックルを自身の複製体に叩き込んだ。

 強力な一撃にスバルの複製体は吹き飛んで行く。だが、残ったエリオの複製体だけはスバルの横を高速で通り過ぎ、ティアナとその背後に居るタバネに迫る。

 本来ならば高速で移動する相手に対して、ティアナが取れる対処は少ない。ましてや今は気絶しているタバネが背後に居る。移動する事は出来ない。だが。

 

(今です! ティアナさん!!)

 

「了解よ!!」

 

 届いて来た念話に従い、ティアナはクロスミラージュを連射した。

 放たれた複数の魔力弾は直進し、高速移動していたエリオの複製体に直撃した。

 

(タバネさんが言っていた。基本的な行動は良いけど、そのパターンが分かっていたら対処は容易いって!)

 

 ましてや、その動きを毎日訓練しているエリオが居る。

 目が良いエリオからの念話で合図を貰い、ティアナは発砲したのだ。

 

(エリオ。今度からは少しぐらいアレンジを加えた方が良いわよ)

 

(は、はい!)

 

 ティアナの念話に返事を返しながら、エリオは立ち上がり、ティアナの横に並ぶ。

 スバルも追撃は行なわず、ティアナ達の方に移動して護りを固める。

 その様子を上空でザフィーラの拳や蹴りを躱しながら見ていたタオは、感心したように呟く。

 

「隊長陣は期待外れだったが、FWの方は中々のようだ」

 

「クゥッ!! オォォォォォォッ!!」

 

 幾ら拳や蹴りを振るっても当たらないどころか、他に余裕さえ見せるタオに、ザフィーラは咆哮を上げて攻撃速度を上げる。

 だが、タオはザフィーラの攻撃を見切っているのか、一発も当たらないどころか、防御さえする事は無かった。

 

(馬鹿な! 一体どうなっている!? シグナムだけではなく、俺の動きも見切られている! この者は一体!?)

 

「……私はこの機動六課に潜入していた時、一番警戒している者が居た」

 

「何を!?」

 

「ソレは、貴様だ! 盾の守護獣!!」

 

 叫ぶと共にタオは符も筆も使わず、右拳をザフィーラの顔面に叩き込んだ。

 

「ガハッ!!」

 

「この機動六課で唯一リミッターを付けず、全力を発揮出来る貴様は危険だと思っていた」

 

「グアッ!」

 

 タオの膝蹴りを受けてザフィーラは息を吐き出す。

 しかし、タオはザフィーラのダメージなど構わずに、ザフィーラの腹部に手を押し当てる。

 

「だが、貴様は変身した私が近くに居ても何も気がつかなかった。拍子抜けだったぞ……藤八拳ッ!」

 

「ガハッ!」

 

 体を貫く衝撃に息をザフィーラは吐き出した。

 タオは苦痛に苦しむザフィーラを仮面越しに睨みながら、右袖を振るい、数珠つなぎのようになった霊符を巻き付ける。

 

「こ、コレは!?」

 

「貴様も眠れ。狐封殺!!」

 

 霊符が光り輝くと同時に大爆発を起こした。

 同時に爆発をまともに受けて気絶したザフィーラは、シグナム同様に屋上に激突する。

 

「……今のお前は狼でも、盾でもない。少なくとも……(私が知る盾の守護獣ではない)」

 

 ゆっくりと倒れ伏すザフィーラの前に降り立ちながらタオは呟いた。

 タオにとって、本当にザフィーラは警戒すべき相手だった。機動六課で唯一リミッターを付けず、更には管理局に所属している訳でも無い。つまり、侵入していたタオを怪しんで、独自の判断で攻撃する事も出来た。

 無論確証も無く攻撃する事は犯罪行為になるが、ソレが侵入していたタオだった場合は、寧ろザフィーラの手柄になる。故にタオはこの世界のザフィーラを警戒していた。だが、ザフィーラはタオの存在に気が付けなかった。

 演技には自信が在るが、ソレでも一片の疑いも持てなかった機動六課の者達には、失望と言う感情しかタオは持てなかった。

 

「……さて、コレで残りは貴様ら四人……いや、三人か」

 

 今だ立ち上がれずにいる呆然としているキャロをタオは確認した。

 

(やはり、予想通りだったか)

 

 タオ達の世界のキャロと違って、この世界のキャロは自身の力を完全に受け入れてない。

 本当の意味で受け入れている事が出来ているのなら、フリードを本来の姿で召喚する事が出来るのだから。

 

(……頃合いか)

 

 複製体達と必死に戦っているティアナ達を確認し、タオは空へと舞い上がり、両手で印を組み出す。

 同時に複製体達は自らが攻撃を食らうのも構わず、スバル、ティアナ、エリオにしがみ付く。

 

「なっ!?」

 

「急に動きが!」

 

「クッ! この!」

 

 しがみ付いて来る複製体達を引き離そうと、ティアナ達は暴れる。

 だが、そうはさせないと言うようにキャロの複製体が再び鎖を召喚して複製達ごと縛り付ける。

 

「錬鉄召喚! アルケミックチェーン!!」

 

「ま、不味い!」

 

 明らかに自分達を身動き出来ないようにさせようとしている事に、ティアナは焦る。

 しかし、焦るティアナなどに構わずに印を組み終えたタオが宣言する。

 

「終わりにさせて貰う……解ッ!!」

 

 力強い気迫がこもった声が響いた瞬間、屋上を囲っていた光の壁が消失した。

 ソレだけではなく、ティアナ達の足元も一瞬光り輝き、次の瞬間には屋上の床全体に数え切れないほどの符が張り付いている光景が広がった。

 

「……こ、コレって……まさか」

 

「……全部、アイツの」

 

「そう。私の仕掛けた爆符だ」

 

『ッ!?』

 

 数え切れないほどの爆符の数に、ティアナ達は絶句した。

 自分達が爆符の上で戦っていた事も驚きだが、何よりも爆符の枚数。屋上の床全体に張られているのだからが、その枚数は百枚では足りない。

 その爆符が全て爆発すればどうなるのかなど分かり切っている事だ。

 

「さらばだ、機動六課……爆ッ!!」

 

『ッ!?』

 

 別れの言葉を告げながら、タオは呪を唱えた。

 ティアナ達は目を見開き、次の瞬間に起きるであろう爆発に思わず目を瞑ってしまう。

 しかし、幾ら待っても起きる筈の爆発が起きず、タオは動揺したように体を震わせる。

 

「何ッ!? どう言う事だ! 爆ッ! 爆ッ!」

 

『……えっ!?』

 

 明らかに困惑して呪を何度も唱えるタオに、ティアナ達は目を開けて見つめる。

 そのティアナ達の耳に、苦し気な声が届く。

 

「……ハァ、ゴホ、ゴホ……ジャミング……せ、成功だね」

 

「ッ!? タバネ・シノ!?」

 

『タバネさん!?』

 

 聞こえて来た声にティアナ達とタオが顔を向けてみると、屋上の縁に何時の間にか移動して指輪型に変形させた千変を輝かせているタバネの姿が在った。

 

「……ゴホ……貴方の見た事も無い魔法の正体は……分からないけれど……ハァ、ハァ……念話みたいに思念を……お、送っているんでしょう?」

 

「お、おのれ!!」

 

 自らの力の正体を悟られて怒ったのか、タオは符を何枚か取り出して雷撃や炎をタバネに向かって放つ。

 

「死ね!!」

 

「千変! 指輪形態は維持して盾を展開!」

 

《OK! shield(シールド)!》

 

 タバネの指示に千変は了承の音声を発し、盾がタバネの前に展開された。

 展開された盾からカートリッジが排出され、プロテクションが発生する。

 

Protection(プロテクション)!!》

 

 張られたプロテクションとタオが放った雷撃と炎がぶつかり合い、タバネに衝撃が襲い掛かる。

 

「クゥゥゥゥゥ!!」

 

「タバネさん!! この離せ!!」

 

 辛そうなタバネの声にスバルは鎖と自らの複製体を引き離そうと暴れる。

 ティアナとエリオも暴れるが、複製体達は絶対に行かせないと言わんばかりに更に力を込める。

 次々とタオは符を取り出しては雷撃や炎を放ち、タバネのプロテクションを破ろうとする。

 プロテクションを貫いて襲い掛かる衝撃に苦しそうな顔をタバネはするが、自らの辛さなどに構わずにキャロに向かって叫ぶ。

 

「ルシエちゃん!! 呼ぶだけじゃダメなんだよ!!」

 

「……えっ?」

 

「そう。呼ぶだけじゃダメ! 知り合いの召喚士が教えてくれたの! 召喚魔法の本当の神髄は、呼ぶだけじゃないの! 呼ぶ相手の声を聞くんだよ!!」

 

「貴様!!」

 

 タバネの発言に何故か急にタオは焦ったように叫び、符での攻撃を止めて筆を取り出した。

 ソレが意味する事にティアナ達は目を見開く。戦いの最初の頃にタオが使った筆に寄る攻撃を思い出したのだ。

 だが、身動きが出来ないのかタバネは構わずにキャロに告げる。

 

「召喚する相手にだって、心が在る! その心の声を聞ければ、どんなに邪魔をされていても……パートナーの声は……届くんだよ」

 

「……声は……届く」

 

 ゆっくりとキャロは、自身の横で鎖に巻かれて凍り付いているフリードに目を向ける。

 タバネが言っている召喚魔法は制御ではない。召喚する相手と真に心を合わせる事を言っている。

 出来ると思っていた召喚が失敗した事は予想以上に心に衝撃を受けた。二度と失敗はしないと思っていた。

 だが、召喚出来なかった。もしかしたら二度とフリードの意識が戻らないのではないのかと考えてしまった。だから、立ち上がれなかった。しかし、立ち上がれないままで居れば、もっとフリードに会えない。

 意識がハッキリしたキャロは、両手のグローブ型のデバイスであるケリュケイオンを構える。

 

「……ゴメンね。フリード。そうだよね。フリードの声も聞かないと。竜魂召喚!!」

 

「もう遅い!! 梵・筆……」

 

「させるかぁぁぁっ!! レールショット!」

 

 何とか右手だけ自由になったティアナが叫びながら、クロスミラージュの引き金を引いた。

 超高速で撃ち出された魔力弾は真っ直ぐ進み、タオが振るっていた筆に直撃したことで宙に書かれていた文字にいらない横線が走った。

 

「しまった!」

 

 必要ない横線が走ると同時に、宙に書かれていた文字が消失した。

 【梵筆閃】は梵字を書く事で成立する技。故に書き損じれば技として成立はせず、不発になってしまう。

 其処までティアナには分からなかった。せめて少しでも邪魔をする為に筆を撃ったのだ。

 ソレが正解だった。キャロが召喚魔法を詠唱する時間は確かに稼げたのだから。

 

「(お願いフリード!!)……蒼穹(そうきゅう)を走る白き閃光。我が翼となり、天を駆けよ!」

 

(……キュクルーーー!!!!)

 

 全身全霊を持って召喚魔法を唱えるキャロに、フリードの声が頭の中で響く。

 

「(そうだよね。フリードも悔しいよね。だからお願い! 力を貸して!)……()よ、我が竜フリードリヒ。竜魂召喚!」

 

 キャロが詠唱を唱え終えると共に、フリードを巨大な桃色の魔法陣が包み込んだ。

 フリードに巻かれている鎖と符は妨害しようと光り輝くが、その光を呑み込むように桃色の光が包み込み、符は燃え上がり鎖は砕け散った。

 同時にフリードの体は巨大化し、白銀の竜へと変貌してタオを睨みつける。

 

「グオォォォォォォッ!!」

 

「……私の封印術を破るとは」

 

 怒りに満ちた咆哮を上げるフリードを見下ろしながら、タオは呟いた。

 

「だが、今更遅い!! 今度は当てさせて貰うぞ!」

 

「フリード!!」

 

「グオォォッ!!」

 

 筆を構えるタオに対して、フリードは口の前に火炎球を発生させる。

 だが、撃たせはしないと言うようにタオは凄まじい速さで筆を振るう。

 

「梵・筆……」

 

 最後の線を書こうと筆をタオは振るう。

 だが、文字を書き切る前にタオの両腕を白いに輝くバインドが捕らえる。

 

「ッ!? バ、バインドだと!?」

 

「……ハハハハッ……私の事も忘れちゃ……こ、困るよ」

 

 辛そうに顔を歪めながら、タバネはタオに笑みを浮かべながら告げた。

 

「タ、タバネ・シノォォォォォォッ!!」

 

「ブラストレイ!! ファイヤッ!!」

 

 怒りに満ちた声を上げるタオに向かって、フリードのブラストレイが放たれた。

 

「グアァァァァァァァァァァーーーー!!」

 

 ブラストレイの炎に包まれたタオは苦痛の声を上げながら屋上に落下した。

 同時に【複製の書】にもダメージが及んだのか、ティアナ達を押さえていた複製体達と支援していたキャロの複製体が消失し、元のページに戻った。

 自由になったティアナ達は即座に立ち上がり、炎に包まれているタオに向かってデバイスを構える。

 

「キャロ! アンタはタバネさんの回復を急いで!」

 

「は、はい!」

 

 ティアナの指示に従い、キャロはタバネの下に走る。

 ソレを確認したティアナ、スバル、エリオが改めてタオに顔を向けてみると、タオを包んでいた炎が水に寄って打ち消され、所々服が黒く焦げ、仮面の右目の部分に罅が入りながらタオが立ち上がる。

 

「グゥゥゥッ……ゆ、油断したか。だが、まだ終わらん!」

 

「いや、終わりや!」

 

『ッ!?』

 

 突然響いた声にその場に居る全員が目を見開いた瞬間、タオの体を緑色に輝くワイヤーが巻き付いて拘束する。

 

「……コレは……」

 

「戒めの鎖よ。もう好き勝手にさせないわ!」

 

「シャマル先生!」

 

 【戒めの鎖】の使い手であるシャマルが屋上に姿を降り立った。

 ソレと共に髪が白く染まり、瞳を蒼く輝かせ、バリアジャケットを纏った八神はやてがシャマルの横に降り立つ。

 

「八神部隊長! 無事だったんですね!」

 

「皆、よう頑張ったわ……さて」

 

 怒りに満ちた視線をタオに八神はやては向ける。

 シグナムとザフィーラが気絶して倒れ伏しているのも視界で捉えるが、今は胸の内に押し込んでタオに向かって口を開く。

 

「もう逃げられへんよ。大人しくして貰おうか?」

 

「……タバネ・シノを警戒していなかったのが、失敗だったな。次は気を付けるとしよう」

 

「……次なんてあらへん! アンタには色々と聞かせて貰う!」

 

「良い事を教えてやろう、八神はやて。確かに私は切り札までは見せたが……奥の手(・・・)は見せていないぞ!」

 

「ッ!? シャマル!」

 

 何かをタオがやろうとしていると思った八神はやては、即座に指示を発してタオを気絶させようとする。

 だが、シャマルが何かをする前に何かの力強い足音と破砕音が響き、次の瞬間、屋上の端から何かが駆け上がって来た。

 

『ッ!?』

 

 破砕音が響いた方に屋上に居る全員が顔を向けると、黒いローブで全身を包んだ体長三メートルほどの何かが屋上に降り立った。

 

「何や!?」

 

「やれ!!」

 

 降り立った者に驚愕する八神はやて達に構わず、タオは叫んだ。

 その声に黒いローブは頷き、金属製の小手を装着している両手を出して振り上げる。

 

「カイザーーーー!!!!」

 

「ッ!? アレはまさか!! 皆、逃げるか、防御して!!」

 

 突然キャロの治療を受けていたタバネが叫んだ。

 その声にスバルとティアナは即座に反応し、スバルはザフィーラを抱え、ティアナも必死になってシグナムを抱えて黒いローブの前から移動しようとする。

 フリードは本能からか、エリオの襟首を口に加えて空に飛び立ち、八神はやてとシャマルも何かの気配を感じたのか防御魔法を発動させようとする。

 黒いローブは視界でソレを確認すると、迷う事無く両手を振り下ろした。

 

「ネイルッ!!」

 

 次の瞬間、十の閃光と衝撃が走り、機動六課隊舎の屋上は吹き飛んだのだった。




因みに次回で明らかになりますが、話の中のタバネ事なのはは、肋骨に罅がマジで入ってます。

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