漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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明けましておめでとうございます!
遅ればせながら、ご挨拶させて頂きました。

本編の方をお待ちの方はもう暫くお待ち下さい。




 困惑しながらティアナとスバルは、気絶しているタバネの首に手を掛けているシャリオを見つめた。

 目の前にいるシャリオが発している気配は、何時も会っているシャリオと同じもの。姿形、そして発している雰囲気が全く同じなのだ。

 だが、二人は知っている。デバイスルームに居たもう一人のシャリオを。

 そして何よりも。

 

「どうしたの、二人とも? そんなに怖い顔をして」

 

「動かないで!! 少しでも動いたら撃つわよ!」

 

 首を傾げるシャリオに、ティアナはクロスミラージュを構えた。

 スバルも拳を構えて、シャリオを睨みつける。

 

「タバネさんを離せ! この偽物!!」

 

「フフッ、やっぱり本物の()は見つかっていたんだ。目標以外を殺すのを控えるのが仇になっちゃったなぁ」

 

「目標?」

 

「うん、このタバネ・シノさんを殺すのが目的。その為に何日も時間を掛けたんだから」

 

「何日も? まさか!?」

 

「あっ、気がついた? うん、そう……何日も前からだよ、ティアナ」

 

『ッ!?』

 

 一瞬の内にシャリオだった者の姿が変わり、執務官服を着たフェイトになった。

 

「驚いた? そう、何日も前から私は機動六課に潜入していたんだよ……こんな風に姿を変えてな」

 

 再び姿が変わり、今度はフェイトから機動六課の制服を着たシグナムに変わった。

 

「多少だが、この姿は楽だ。私本来の口調に近いおかげかも知れんな」

 

「……何者なの、アンタ?」

 

「答える義務は無い。悪いがタバネ・シノは此処で死んで貰う」

 

「そんな事をさせるか!」

 

 タバネの首を絞めている手に力が籠もるのを目にしたスバルは、シグナムの姿をしている何者かに向かって飛び出した。

 だが、今からでは間に合わない。フェイトのように瞬間移動染みた速さを持っているならともかく、スバルには其処までの速さは無い。

 スバルが間に合う前にタバネの首を折る方が早い。その事を知っているシグナムに扮する者は、スバルとティアナが狙っている事を瞬時に悟る。

 

(私となのはの背後に二つの気配。ソレに上空に潜むのが二つか……なるほど、無鉄砲にやって来た訳では無いようだな)

 

 ティアナ達の狙いを悟るが、あえて対処はせずに相手の動きを待つ。

 次の瞬間、足元から鎖が飛び出し、タバネの首を絞めている手に巻き付いた。

 

「何ッ!?」

 

「ストラーダ!!」

 

 足元から出現した鎖に右手を拘束されたと同時に、シグナムに扮する者の背後からストラーダを構えたエリオが突然姿を現して飛び出して来た。

 そのまま高速でシグナムに扮する者の手の中から、タバネを救い出し、スバルと入れ替わるように通り過ぎた。

 

「ハアァァァァッ!!」

 

 人質がいなくなった事で手加減する必要がなくなったスバルは、シグナムに扮する者に向かって殴り掛かる。

 

(決まる!)

 

 タバネをティアナの下へと運んだエリオは、スバルの拳が当たると確信した。

 ティアナが予め使っていた幻影魔法によって姿を消していたキャロの無機物召喚により召喚された鎖で、相手は右手を拘束されているため思うように動く事は出来ない。

 しかも、突然現れて人質だったタバネも救出されて動揺している。

 この状況ならば確実にスバルの拳は決まるとエリオは確信していた。

 だが、その確信は。

 

「フン!」

 

『ッ!?』

 

 スバルの拳が届く距離になる直前、シグナムに扮する者は右足を振り抜き、足元から出現していた鎖の根元部分を破壊した。

 金属製の、しかもキャロの補助魔法で強化されていた鎖を簡単に破壊した事実に、スバル達は目を見開く。

 その動揺を見逃さず、シグナムに扮する者は勢いよく右手に巻き付いたままの鎖をスバルに向かって振り抜く。

 

「ハァッ!」

 

「ウワッ!」

 

 慌ててスバルは自身に向かって振り下ろされた鎖を、両手を使って防御した。

 

(ッ!? お、重い!?)

 

 防御したと同時に感じた鎖から伝わる異常な重さにスバルは驚き、後方に下がった。

 スバルが下がった事で鎖はそのまま屋上の床に当たり、次の瞬間、鎖が当たった場所の床に亀裂が走った。

 

『なっ!?』

 

 亀裂が走った床にスバル達は驚きの声を上げてしまった。

 そしてスバル達が声を上げると共に、シグナムに扮する者の背後からも動揺の声が聞こえた。

 

「其処か!」

 

 シグナムに扮する者は後方に振り返ると同時に、右手に巻き付いていた鎖を投げ放った。

 破壊された事に寄ってキャロの制御下に無い筈なのに、鎖はまるで意思を持っているかのように何もない筈の空間に巻き付いた。

 

「キュルゥッ!?」

 

「フ、フリード!!」

 

 驚く声が響くと共に姿を消していたキャロと、鎖に巻き付かれて地面に落下したフリードリヒが現れた。

 

「凍てつけ、氷天!」

 

「キュィッ!! ……」

 

「そ、そんな!? フリード!?」

 

 シグナムに扮する者が何らかの印を組みながら術を唱えると同時に、何時の間にか鎖に張り付いていた札が輝き、次の瞬間、フリードは凍り付いた。

 キャロはその事実に動揺し、慌ててフリードを助けようとする。だが、そうはさせないと言うようにシグナムに扮する者は何処からともなく、右手に五枚の札を出現させた。

 

「あ、危ない!」

 

「クッ!」

 

 キャロを襲うつもりだと判断したティアナは、急いで射撃を行なおうとする。

 だが、クロスミラージュの引き金を引く直前、ティアナは見た。シグナムに扮する者が札を構える右手とは別に、隠すように左手を高速で動かしているのを。

 

(アレはフリードを凍らせていた時にもやっていた……あの動作がアイツの魔法の発動条件だとしたら、どんな魔法を……待って!? もしもコイツが最初からエリオとキャロに気がついていたとしたら、何でタバネさんを簡単に助けられたの!? ま、まさか!?)

 

 ティアナは慌ててエリオが抱えている気絶しているタバネに顔を向けた。

 そして、タバネの着ている上着の背の部分が不自然に発光している事に気がつく。

 

「ッ!? エリオ! タバネさんの上着を破り捨てて!!」

 

「えっ!?」

 

「早く!!」

 

「チッ!」

 

 ティアナの叫びを耳にしたシグナムに扮する者は舌打ちしながら、ティアナ達に振り向いた。

 術が発動するまで邪魔はさせないと言うように右手に持っていた札を投げつける。だが、札が届く前に空から何者かが降り立ち、ティアナ達を護るように防御魔法を発動させた。

 

「させんぞ!!」

 

 ティアナ達を護るかのように降り立った蒼い狼-ザフィーラが発動させた防御魔法と札は激突し、爆発を起こした。

 だが、爆発したにも関わらずザフィーラの防御魔法は揺るぐことなく張られ続ける。

 シグナムに扮する者は僅かに動揺したように動きを鈍らせる。同時に空から声が響く。

 

「その姿は不愉快だ!!」

 

「ッ!?」

 

 聞こえて来た声に空を仰ぐと共に、騎士甲冑を纏いレヴァンティンを構えた本物のシグナムが落下して来た。

 

「ハァァァァァァッ!!!」

 

 迷う事無くシグナムはレヴァンティンを振り抜き 屋上に衝撃が走った。

 同時にエリオはタバネの上着をティアナの指示通りに破り捨て、上着は衝撃に巻き込まれ空高くへと舞い上がり、爆発した。

 

「ウワッ!」

 

「……やっぱり、仕掛けてた」

 

 爆発に驚くエリオに対し、分かっていたティアナは苦い声を上げた。

 あっさりとタバネを救出出来たと思っていたが、ソレが罠だった。もしも罠だと気が付けなければ、タバネは死亡し、自分達も負傷を負っていた。

 その事が分かったティアナは顔を険しくしながら、バリアジャケットのポケットに入れていた待機状態の千変をタバネの手に乗せる。

 同時に千変が輝いたと思ったら、自動的にバリアジャケットが展開され、タバネの服装は私服から白衣型のバリアジャケットに変わる。

 

(……この相手…間違い無く、タバネさんと同じように相手の気配を察せられる。今までの流れも殆ど相手の思惑通りだとしたら、シグナム副隊長達の事にも気がついている筈!)

 

 自分の想像通りだとしたらまだ戦いは終わらないとティアナは直感し、衝撃が発生した場所に顔を向ける。

 其処にはシグナムが振り抜いたレヴァンティンと、白色の無貌の仮面を付けて陰陽師服を纏い、腰の辺りから黄色い毛皮に覆われた尻尾を出した者が長い巨大な筆で競り合いを行なっていた。

 

「クッ!」

 

「やれやれ。この姿を見せず、お前達機動六課の誰かに扮して任務を遂行する筈だったのだがな!」

 

 陰陽師の姿をした何者かは力を込めて巨大な筆を振るい、シグナムを弾き飛ばした。

 

「そ、そんな!?」

 

「シグナム副隊長が力負けした!?」

 

「ヌゥッ!」

 

 弾き飛ばされたシグナムの姿に、他の者達は動揺する。

 屋上の床に着地し、レヴァンティンを構え直すシグナムを仮面越しで見つめながら、陰陽師の姿をした者は巨大な筆の柄本の部分を屋上の床に着ける。

 

「さて、こうして姿を見せたのだ。お前達の隊長には一度名乗ったが改めて名乗ろう。我が名はタオ」

 

「……タオ。そうか。テスタロッサが言っていた者は、貴様か」

 

「そうだ。宣言通りタバネ・シノの命を貰いに来た」

 

「させると思うか!」

 

 シグナムは叫ぶと共に飛び出し、タオと名乗った者に斬りかかった。

 それに対してタオは右手に持つ巨大な筆を重さを感じさせないように素早く動かし、シグナムが振り抜いたレヴァンティンを防ぐ。

 

「ハァッ!!」

 

「フッ!!」

 

 シグナムとタオは自らが手に持つ武器を幾度もぶつけ合い、周囲に衝撃が巻き起こる。

 

(クッ! 一撃一撃が重い!)

 

 タオが振るう巨大な筆を防ぎながら、シグナムは一撃の重さに顔を険しくする。

 自らが攻めていた筈なのに、何時の間にか状況はシグナムの方が防戦に回っていた。

 その様子を見ていたティアナ達は、シグナムを援護しようと自身のデバイスをそれぞれ構えようとする。だが、ティアナ達が援護する前にタオが口を開く。

 

「気がつかないのか?」

 

「何がだ!?」

 

「私が振るっている物が何かをだ!」

 

「ッ!?」

 

 言われてシグナムは改めてタオが振るっている巨大な筆に視線を向けた。

 地球に住んでいた時に主である八神はやても使っていた事が在る物。その用途は。

 

「まさか!?」

 

「遅い!! 梵・筆・閃ッ!!」

 

 一瞬の隙を衝き、タオはシグナムとぶつかり合いながらも空中に少しずつ書いていた梵字を書き終えた。

 書き終わった梵字は空中を飛び、シグナムにではなく、空へと高く舞い上がると共に大爆発する。

 

『グゥゥゥゥッ!!』

 

 身を低くする事で、大爆発の衝撃から逃れようとする。

 その隙を逃さず、タオは懐から本のページのような紙を四枚取り出し、シグナムから離れる為に後方に飛び去る。

 

「面白いモノを見せてやろう。特に其処の守護騎士(・・・・)二人にとってはな」

 

「何!?」

 

 タオの発言にシグナムは目を見開き、ザフィーラも動揺した。

 機動六課の者ではなく、守護騎士とタオは発言した。それが意味する事は、タオはシグナム達の正体を知っている。

 その事実にシグナムとザフィーラは驚愕するが、次の瞬間、更に言葉を失う光景が広がる。

 

「魔力を込められしページよ。刻まれし記述を用いて、我を護る守護者へと姿を変えよ!」

 

 何らかの詠唱をタオが唱え終えると共に、四枚のページが光り輝いた。

 四枚のページは勝手にタオの手から離れて空中に浮かび上がり、タオを護るかのように目の前に移動する。

 そして一際輝いた瞬間、ページを覆っていた魔力が人型に変わって行き、人型はそれぞれスバル、ティアナ、エリオ、キャロに成った。

 

『なっ!?』

 

「コレこそがロストロギア。【複製の書】の力だ」

 

 何でも無いようにタオは驚愕するシグナム達に伝えながら、ゆっくりと袖に隠していた自らの手を出す。

 その手を見たシグナム達は更に目を見開く。タオの袖から出された手は、人間の手では無く三本の白い毛皮に覆われた動物のような手だった。

 更にその手の先には、一冊の書物のような物が握られていた。その書物から感じる膨大な魔力に、シグナム達は目を見開く。何故タオが出すまで感知出来なかったと思えるほどに、書物からは膨大な魔力が発せられていた。

 

「特別に教えてやろう。この書には疑似的な魔導生命体を造り出す力が備わっている。書のページに詳細な情報を刻む事により、限りなく本物に近い魔導生命体を造り出す事が可能なのだ」

 

「詳細な情報だと? ……まさか!? お前の目的は!?」

 

「今頃気がついたか。そうだ。私にとってタバネ・シノの命を奪う機会は幾度もこの何日かで在った。だが、それ以外にも任務……『機動六課内の詳細な局員達の情報入手及び、可能ならば機動六課を崩壊』。ソレこそが私の今回の任務だ」

 

『ッ!?』

 

 明かされたタオの任務内容に、シグナム達は絶句した。

 機動六課を崩壊させる。高ランクの魔導師が複数居る機動六課を崩壊させる事など、普通ならば出来る筈が無い。だが、今の状況ならば出来る。

 その為のお膳立ては既に整っているのだから。

 

「お前達機動六課はまんまと私の手の中で踊ってくれた。唯一の予想外は、まさか、タバネ・シノが本当にアグスタで目撃していなかった事ぐらいだ」

 

「……まさか……テスタロッサが貴様の犯行を目撃出来たのは?」

 

「あぁ、ソレも私の手だ。あの執務官の行動を監視して、機動六課に戻るタイミングを見計らい、目撃者だと思ったタバネ・シノを保護させるように動かせた。設立された時から機動六課には注目していたのでな。お前達の行動パターンは殆ど把握出来ていた。特にあの執務官は、外回りにどれだけ時間が掛かっても必ず機動六課に戻って来る。策に盛り込むのに簡単な人物だったぞ」

 

 最早シグナム達は言葉を発する事は出来なかった。

 機動六課はまんまとタオの術中に嵌まっていたのだ。タバネを保護した時から、機動六課はタオの手の中で踊っていたに過ぎない。

 そう思わされようとしている事に気がつかず。

 

(やれやれ……私らしくない行動も疲れる)

 

 仮面で表情を隠せていて良かったとタオは思った。

 確かに機動六課が自分達の策通りに動いていたのは事実だが、タオ達は今のところ機動六課を潰す気は無い。

 今シグナム達に語ったのは、今回の襲撃が終わった後でタバネの扱いが悪くならないようにする為と、FWメンバーを鍛える為だ。

 襲撃する事を決めた時、タバネが頼んで来たのだ。隊長陣はともかく、FWメンバーは出来るだけ鍛えられるような形で襲えないかと。無論、其処まで器用な事はタオには出来ない。寧ろ手加減しながら戦い、更には複数を一人で戦うのだ。

 流石に無理だと告げたのだが、其処で某マッドが一冊の本を渡して来た。

 ソレこそが【複製の書】である。詳細なデータを入れさえすれば、戦闘力だけは限りなく本物に近い疑似魔導生命体を造れる。現代から見れば確実にロストロギア指定を間違い無く受ける代物。

 最も造った本人であるマッドからすれば、簡単に造れるのは良いけど、疑似魔導生命体は自力では魔力回復も出来ず、刻まれたデータ以外の行動は出来ない不良品だと告げていたのだが。

 

(コレで不良品か……やはりフリート・アルードの正体は……いや、ソレは良いか)

 

 脳裏に浮かんだ答えを振り払いながら、タオは【複製の書】を袖にしまう。

 

「無駄話は終わりだ。我々の目的の為に、機動六課は此処で終わらせる。行け。複製達よ!!」

 

 タオが指示を発すると同時に、ティアナ達に扮する疑似魔導生命達はシグナム達に襲い掛かったのだった。

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ東海上。

 その場所では激しい戦闘が行われていた。

 戦闘が始まってから空には金色と赤色、そして桜色の光が幾度も空を駆け抜けた。だが、その光は全て突如として消え去って行く。まるで最初からそんなものなど存在していなかったと言わんばかりに、消え去って行く。

 

「この!!」

 

「くそっ!!」

 

 高町なのはが放った渾身のディバインバスターを打ち消した全身を蒼色に輝かせている人型ガジェットに、フェイトとヴィータは悔し気な声を漏らした。

 戦闘が始まってからまだ一度もフェイト達の魔法は人型ガジェットには効果が出ていない。その原因は人型ガジェットが纏っている蒼色の輝きが原因だった。

 

『アンチ・マジックアーマー解除』

 

 機械音声と共に人型のガジェットが纏っていた蒼色の輝きが消えた。

 ソレが意味する事をコレまでの戦闘で察しているヴィータとフェイト、そして高町なのははすぐさま自分達が留まっていた場所から移動し、次の瞬間、フェイトが直前まで居た場所に短距離転移で瞬間移動した人型ガジェットが拳を振り抜いた。

 

「またっ!!」

 

 ギリギリのところで拳をフェイトは避けた。

 しかし、避けられる事が分かっていたとばかりに人型ガジェットは別の腕を回避した直後のフェイトに向ける。

 

『キャンセル』

 

 音声が発せられると同時にフェイトに向けられた腕の手のひらから振動のようなモノが発生し、フェイトが使っていた飛行魔法が解除された。

 

「ッ!?」

 

「フェイトちゃん!!」

 

 飛行魔法が解除されたフェイトは、当然飛ぶ力が失い海に向かって落下して行く。

 その光景を見た高町なのはは人型ガジェットに追撃させない為に、レイジングハート・エクセリオンを構える。

 

「アクセルシューター! シュート!!」

 

『……アンチ・マジックアーマー展開』

 

 自身に高速で迫って来るアクセルシューターを認識した人型ガジェットは、再び全身に蒼い輝きを纏うと、両腕を左右に伸ばし高速回転し出した。

 アクセルシューターは高速回転する人型ガジェットに構わず殺到するが、やはり蒼い輝きに触れた瞬間に消失して行く。

 行く手を阻む攻撃が消え去ったのを感知した人型ガジェットは、高速回転を続けながら高町なのはに向かって行く。

 

「させるかっ!!」

 

 高町なのはを護るようにヴィータが立ち塞がり、グラーフアイゼンを振り被る。

 

「オラァァァァァァ!!」

 

 独楽のように回転する人型ガジェットにヴィータは、グラーフアイゼンを振り抜いた。

 蒼い輝きは確かに魔法に寄る攻撃を無効化するが、AMF同様に物理的な攻撃には弱いとヴィータは考えたのだ。

 実際にその考えは合っていた。人型ガジェットが纏っている蒼い輝きはフィールドでは無く、バリアタイプに変更したAMF。フィールドとして広範囲に展開するのではなく、自らのボディに纏うように凝縮する事で魔法を無効化させているのだ。

 故に物理的な攻撃が得意なベルカ式魔導師ならば、人型ガジェットにダメージを与える事は、確かに可能なのである。だが、そのヴィータの考えは、高速回転しながらも伸ばしていたアームでグラーフアイゼンを人型ガジェットが受け止めた事に寄って否定される。

 

「なっ!? ウワァァァァァァァァーーーーーー!!!!!」

 

「ヴィ、ヴィータちゃん!?」

 

 グラーフアイゼンを掴み取りながらも人型ガジェットは高速回転を止める事は無く、そのまま回転を続けてグラーフアイゼンを握っているヴィータを振り回す。

 高町なのははヴィータを助けようとするが、蒼い輝きを纏っている人型ガジェットには魔法は通じず、更に今はヴィータも巻き込んで高速回転している。下手に魔法を放てばヴィータも巻き込んでしまう。

 どうすれば良いのかと高町なのはの動きが一瞬だけ止まった瞬間、人型ガジェットは高速回転を突如として止めてヴィータを投げつける。

 

「ッ!? ホ、ホールディングネット!!」

 

 あの勢いのまま海にぶつかるのは危険だと判断した高町なのはは、慌てて桜色の網を発生させてヴィータを受け止めた。

 だが、投げつけられたヴィータの勢いは高町なのはの予想を超える勢いで、ホールディングネットが引き延ばされる。

 その隙を人型ガジェットは逃さず、右アームを引き絞るように力を込め出す。

 

『……無限拳!!』

 

 電子音声と共に人型ガジェットの蒼い輝きが一際強まった瞬間、人型ガジェットの右アームが凄まじい勢いで伸びた(・・・)

 

「嘘ッ!?」

 

 右アームを伸ばし続ける人型ガジェットの姿に、高町なのはは叫んだ。

 しかし、すぐに驚いている場合ではないと思い、ヴィータを捕えていたホールディングネットを解除した。

 高速回転させられていたせいで気絶していたヴィータは、海へと落下して行くが、人型ガジェットの右アームの攻撃を食らうのを避ける事は出来た。

 コレでヴィータが致命傷を受ける事は無いと高町なのはが思った瞬間、外れた筈の人型ガジェットの右アームが関節など無いと言わんばかりに直角に曲がり、ヴィータへと向かい出した。

 

「そ、そんな!?」

 

 予想外の出来事に高町なのはは驚き、慌ててヴィータの救援に向かおうとする。

 だが、人型ガジェットが右アームを伸ばすスピードの方が速く、ヴィータの腹部めがけて突き進んで行く。

 

「ヴィータちゃん!?」

 

 次に広がるであろう光景に高町なのはは叫んだ。

 人型ガジェットはそんな声など気にせず、ヴィータを葬ろうとする。

 しかし、右アームがヴィータに突き刺さる直前、金色の閃光が走り、右アームはヴィータから外れた。

 

「フェイトちゃん!」

 

 気絶しているヴィータを抱えたフェイトの姿に、高町なのはは喜びの声を上げた。

 しかし、飛行魔法を再び発動させて復帰したフェイトは、高町なのはの返事を返す事も出来ず、気絶しているヴィータを抱えながら、背後から追って来る拳から逃れようとする。

 機動六課で随一の速さを持っているフェイトをもってしても、人型ガジェットが伸ばしている右アームの拳から逃げ切る事が出来なかった。

 突如としてフェイトが方向転換したり、直角に曲がったり、上昇や下降をしても瞬時に右アームは対応して追い縋って行く。

 空にはフェイトが駆け抜けた後が描かれるように、右アームが伸び続けた。

 そして更にフェイトはスピードを上げて上昇し、人型ガジェットが右アームを伸ばそうとした瞬間、伸び続けるアームが桜色の閃光に呑み込まれた。

 

「ディバインバスターーー!!」

 

『ピピッ!?』

 

 高町なのはが放ったディバインバスターに右アームを破壊された人型ガジェットは、悲鳴のように電子音声を響かせた。

 当たれば確かに一撃必殺に近い威力を誇る人型ガジェットの【無限拳】だが、伸ばせば伸ばすほどに引き戻しに時間が掛かってしまう弱点が在る。

 フェイトはその弱点を見抜き、ギリギリのラインで逃げ回り続けていた。更に言えば右アームを伸ばせば伸ばすほどにAMFを張る部分が増えると言う狙いもあった。

 だが、攻撃した高町なのはは今の攻撃で気がついた。

 

(フェイトちゃん! 今あのガジェットはAMFを張ってないよ!)

 

(ッ!? なら、あの光は偽装!)

 

(うん! AMFを張っていると私達に思わせようとしていたんだよ!)

 

 瞬時に高町なのはは念話で人型ガジェットの弱点をフェイトに報告した。

 高町なのはの念話を聞いたフェイトは、すぐさま自身の周りに複数のスフィアを発生させて撃ち出す。

 

「プラズマランサーー!! ファイヤ!!」

 

『ア、アンチ・マジックアーマー展かッ!?』

 

 ボンッっと言う音と言う共に、人型ガジェットの破壊された右アーム部分から爆発が起きた。

 内部動力として使っている物が発揮する出力に、人型ガジェットの装甲が耐え切れなかったのだ。

 高町なのはとフェイトは知らない事だが、人型ガジェットは絶妙なバランスでその機体を支えられていた。それでも一定レベルでの破損には耐えられるように設計されていたが、右アームの完全破損は限界を超えていたのだ。

 故に人型ガジェットに備わっていた特殊機能は全て使用不能になっていた。

 短距離瞬間移動も、左アームからの魔法キャンセルも使用不可能になった人型ガジェットは次々とプラズマランサーにその身を撃ち抜かれて行く。

 その隙に高町なのははフェイトの傍に近寄り、気絶しているヴィータを宙に浮かせる。

 流れるようにフェイトと高町なのはは、自らのデバイスを左アームと右足も失い、各所から火花を上げている人型ガジェットに向かって構える。

 

「決めるよ、フェイトちゃん!」

 

「うん!! コイツは絶対に破壊する!!」

 

 二人は人型ガジェットの危険性を理解していた。

 今回は運よく追い込めたが、もしもこの人型ガジェットが量産でもされてしまえば、全ての魔導師にとって脅威となる。

 ネジ一本も残させはしないと決意を固めた二人は、リミッターを付けた現在の状態で放てる最大の魔法を放つ。

 

「全力全開」

 

「疾風迅雷」

 

『ブラストシュートッ!!』

 

 二人が放った協力魔法であるブラストカラミティは、人型ガジェットを飲み込み、一瞬の内に消滅させた。

 完全に破壊出来たと確信しながらもブラストカラミティの影響が治まるのを二人が待っていると、人型ガジェットがいた場所に輝く蒼い光を捉える。

 

「……アレって?」

 

「うん……ジュエルシードだよね」

 

 宙に浮かぶ蒼い宝石型のロストロギアである【ジュエルシード】に、フェイトと高町なのはは複雑そうな顔をする。

 管理局が回収し、今はスカリエッティに奪われてしまった物。しかも、今二人の前に浮かんでいる【ジュエルシード】は、Ⅲ型に組み込まれていた劣化品では無く本物の【ジュエルシード】。

 だからこそ、人型ガジェットは異常としか言えないレベルの機能が使えていたのだ。

 

「とにかく、封印して回収しよう」

 

「そうだね。それから機動六課に急いで戻らないと」

 

(いや~、ソレは無理ですよ)

 

『ッ!?』

 

 突然高町なのはとフェイトに、聞き覚えの無い女性の声で念話が送られて来た。

 誰かいるのかと周囲を二人が警戒した瞬間、宙に浮かぶ【ジュエルシード】の頭上に黒い穴のような物が発生し、穴の内部から女性の手が伸びて来た。

 

「ッ!? させない!!」

 

 何者かが【ジュエルシード】を回収しようとしていると悟ったフェイトは、瞬時に飛び出した。

 再び【ジュエルシード】を悪用させる訳には行かないと、バルディッシュを構えて魔法を【ジュエルシード】を掴んだ手に放とうとする。

 だが、フェイトが魔法を放つ直前、【ジュエルシード】を掴んでいた手が突然掴んでいた【ジュエルシード】を離し、フェイトに見えるように【ジュエルシード】に刻まれている刻印のナンバーを見えるように動かした。

 

「……えっ?」

 

 【ジュエルシード】に刻まれていた刻印ナンバーを目にしたフェイトは、魔法を放つのも忘れて呆然としてしまった。

 在ってはならない筈の物を目にしたかのようにフェイトが固まってしまう。ソレを背後から目にした高町なのはは、一体どうしたのかと疑問を抱くが、このままでは不味いと自身も飛び出そうとする。

 その瞬間。フェイトと高町なのはの脳裏から防御と言う考えが消えた瞬間、二人を中心に黒い球体が広がり、気絶しているヴィータを含めて三人は飲み込まれたのだった。




登場したオリジナルの物に関する設定。

名称:【複製の書】
詳細:フリートが造り上げた簡易型の魔導生命体製造機。
形状は本の形をして、情報収集機能も備わり、魔導生命体として造り出す対象の情報を記録し精製する。しかし、使い魔や守護騎士と違い、自我が目覚める事は無く、またページ一枚ずつに宿っている魔力が切れると消滅してしまう。更に言えば詳細な情報が記録出来なければ、行動も単調になってしまう上に、複製する本人が出来ない事を記録しても他の記録と矛盾してしまえば、ちぐはぐな行動で自滅してしまう。
造った本人であるフリートも実戦では役には立たない代物だと考えていて、なのはの模擬戦相手を出現させる以外に使った事が無い。
話の中で出たスバル、ティアナ、エリオ、キャロは、高町なのはが記録していた訓練データから精製されている。

名称:人型ガジェット(正式名称パチェット)
世代/なし、属性/なし、必殺技/無限拳
詳細:フリートが捕獲した偵察用のガジェットⅠ型、Ⅱ型、Ⅲ型を分解して新たに造り上げた機動兵器。形状は魔導師の天敵という事と、そう言えば人型のガジェットは無かったなと言う思い付きでギズモン:XTをモチーフにしている。短距離瞬間移動、両手からの魔法キャンセル波、高濃度AMFによる鎧精製など、魔導師にとって天敵としか言えない機能が備わっている。ソレを支える出力として【ジュエルシード】が組み込まれている。
しかし、機能を同時に使用する事は出来ず、一つの機能を使用した場合、別の機能を使用する為には三十秒のインターバルが必要になっている。必殺技は【ジュエルシード】の【願いを叶える】と言う特性を利用した本当に無限に伸びるパンチ。但し伸ばし過ぎると即座に戻せないと言う弱点がある。

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