漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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今回の話でも違う点が在ります。


中編

 アースラ内部に在る会議室にいる機動六課隊長陣及びFWメンバ ーは、目の前のモニターに映された光景に対して信じられないと言う気持ちしか抱けなかった。

 目の前のモニターに映されている光景。AAランクの魔導師でさえも苦戦するガジェット、しかも大軍との三体の巨大な生物達-【デュークモン】、【スレイプモン】、【メタルガルルモンX】の戦い。いや、一方的な戦いは戦いとは呼べないだろう。

 映されている光景はデュークモン達に寄る圧倒的なガジェットの蹂躙劇。

 グラニの背に乗ったデュークモンは上空に浮かぶゆりかごの周りを飛び回りながら、グラムに寄る一閃を放ち続け、それに寄って十数体のガジェットが一度に砕け散って行く。

 市街地の上空に浮かんでいるスレイプモンは両手に握った二挺の巨大な銃型デバイスと思われる武装で、人々に襲い掛かっているガジェットを正確無比の射撃で撃ち砕いて行き、廃棄都市に居るメタルガルルモンXは全身に装備した重火器に寄る一斉射撃で大量のガジェットを氷づけにしている。

 それは正に圧倒的と言う言葉すら生温いと呼べるほどに繰り返されて行く蹂躙劇。

 その様子を見た機動六課の面々は誰もが恐怖に体を震わせる。

 映像を見ただけでこれなのだ。デュークモン達と戦っているスカリエッティ達が感じている恐怖は計り知れないだろう。

 

「……何だよこいつ等……こんなの……化け物じゃねえかよ!!!」

 

「落ち着けヴィータ!!」

 

 恐怖に耐え切れず叫んだヴィータに向かって、シグナムは落ち着かせる様にヴィータの肩に手を置くが、シグナムの手も恐怖で震えていた。

 目の前に映しだされた光景は、長い時を生きた『ヴォルケンリッター』で在るシグナムとヴィータでさえも見た事が無い、圧倒的と言う言葉でさえも生温いほどの力を持った存在に寄る蹂躙劇。しかも一体ではなく、同時に三体も出現したのだから恐怖にを感じられずには居られる訳が無い。

 誰もが言葉も出ずにモニターに映し出されたデュークモン達による一方的なガジェットの蹂躙劇を見つめる中、はやては公開意見陳 述会の前に渡された新たなる予言の詩文について思い出していた。

 

“天に死せる王の嘆きが響き渡る時、交わる事無き、異界の者達は怒り狂い、無限の欲望の野望は砕け散る。

 不屈の心を胸に宿す蒼き鉄の狼、星を打ち砕く光を解き放ち、死者達を沈黙に伏させる。

   絆の果てに現し、赤き鎧にその身を包み込んだ聖なる騎士、全てを撃ち抜き、人々を脅威から護らん。

    王をその身に宿す聖騎士、赤き鎧船にその身を乗せ、天に浮かぶ翼の内より、死せる王を救わん。

     世界に否定されし深き闇を従えた黒き竜人、その身の因子を宿しし異形、古の地より与えられし力を宿す者と共に、世に出す事さえ憚れる深き闇を打ち砕く”

 

(あの予言はこの事やったんか!? だとした後三体!! 深き闇を従えた黒き竜人に、その身の因子を宿した異形と古の地より与えられし力を宿す者がおるはず! 冗談や無いで!! こんな凄まじい力を持った存在が他にも居るやなんて!!)

 

 予言に書かれていたデュークモン達以外の規格外の存在を示唆する事を示す内容を思い出したはやては、更に恐怖を感じて体を震わせた。

 既に目の前に映し出されたデュークモン達だけでも規格外だと言うのに、それ以外にも絶大な力を持った存在が存在している事に恐怖を感じずには居られない。

 その間にも映像は続き、ゆりかごの周りにいた全てのガジェットを消滅させ終えたデュークモンが自身の体を三メートル位の大きさに変化させると、乗っていたグラニから飛び降り、事前に見つけていた突入口からゆりかご内部へと入って行った。

 それを見たなのはは慌てて椅子から立ち上がり、はやてに向かって叫ぶ。

 

「はやてちゃん!! のんびり見ている場合じゃないよ!! あの生物達の目的が何かは分からないけど!? このままじゃヴィヴィオが危ない!!」

 

「ッ!? そうや!! 機動六課全員!! すぐに出撃や!!」

 

『了解!!』

 

 はやての叫びに対して全員が頷き、なのは、ヴィータ、はやては ゆりかごへと、スバル、ティアナ、エリオ、キャロは地上本部に向 かっている戦闘機人達の下に、フェイトはスカリエッティのアジトへと、そして最後にシグナムとユニゾンデバイスで在るリインフォ ース・ツヴァイは中央本部へと向かい出した。

 だが、この時にはやては重大な事を忘れていた。予言の最後の行に書かれていた一文。

 

“されど、彼の者達は法の味方に在らず、彼の者達は自身の胸に宿る真の思いのままに、動く者達なり”

 

 デュークモン達は決して管理局の味方ではない。

 彼らは自分達の胸に秘めた信念の下に戦う者達。その信念を阻むのならば、それがどの様な存在であろうと彼らは排除する。

 そしてそれを最も阻む可能性が高いものの存在に、はやては全く気が付いていなかった。

 

 

 

 

 

 ゆりかご内部へと潜入したデュークモンは迷わずに玉座の在る部屋の場所へと進みながら、自身に群がって来る大量のガジェット三型を全て一撃の下に粉砕していた。

 

「邪魔だ!!」

 

 デュークモンが右手のグラムを一閃する度に群がるガジェット三型は次々と粉砕され、デュークモンの歩みは止まる事は一瞬たりともなかった。

 

「この程度で私の歩みは止まらんぞ!!」

 

 デュークモンは叫ぶと共に自身の後方の空間にグラムを突き出し、ステルス性能を持った多脚生物のような姿をして鋭い鎌を持った機械-ガジェットⅣ型-を破壊し、デュークモンは背中のマントを翻しながら更に奥へと歩みを進める。

 

 その様子をゆりかごの最深部から見ていたナンバーズ4-クアットロ-は、恐怖に震えながらモニターに映し出されているデュークモンの姿を見つめた。

 

「……何なんですの? この生物は? ……Ⅳ型の魔力探知さえも無効にするステルス機能さえも見破るなんて……それに……何故ゆりかご内部の防衛システムが……この生物には反応しないんですの?」

 

 ゆりかごにはガジェット以外にも幾つかの防衛システムが存在し、それはもちろんナンバーズやヴィヴィオ以外には必ず発動する仕組みに成っている。だが、デュークモンに対しては全く反応しなかった。

 その理由はデュークモンと融合している異世界のヴィヴィオに在る。デュークモンはヴィヴィオを融合した事に寄って、ヴィヴィオのレアスキル【聖王の鎧】さえも自身のものにしている。そう、デュークモンもまたゆりかごの真の主で在る『聖王』なのだ。

 当然ながら、主を攻撃する船は存在しない。ゆりかごの防衛システムは、玉座に居るヴィヴィオも、玉座へと歩んでいるデュークモンも主と認識しているのだ。

 その事を知らないクアットロは更にデュークモンに恐怖を覚えるが、自身には最強の手駒で在る聖王の存在が在る事を思い出して余裕の笑みを浮かべる。

 

「クス、そのまま先に進みなさい。その先にはディエチちゃんが居る上に、ベルカ最強の王も存在している。貴方がどれほど強くても聖王には敵わないわ。せいぜい束の間の愉悦に浸りなさい」

 

 クアットロはそう呟くと玉座の前の扉に居るディエチに連絡を取るが、彼女は知らない。

 例えベルカ最強の聖王でも、デュークモンに勝つ事は不可能な事を。そしてその行動が最もデュークモンの逆鱗に触れる行動で在る事を、クアットロは全く分かっていなかった。

 

 

 

 

 

 地上本部の手前に在る廃棄都市の内部をナンバーズ、ノーヴェ、 ウェンディ、オットー、ディード、そして地上本部襲撃の時にナンバーズ達に捕らえられ、洗脳されたギンガが走っていた。

 

「それにしても、一体何ッスかね? さっきのウーノ姉の通信に在った。蒼い機械の巨大な狼に気をつけろって?」

 

「さぁな。とにかくあたし等は、地上本部を目指して、機動六課の連中を叩くだけだ!!」

 

 ライディングボードの上に乗りながら質問したウェンディの言葉に、ノーヴェは素っ気無く答えると、他の者達と一緒に遠く離れた 地上本部を目指す。

 だが、突如としてナンバーズ達の目の前にビルの屋上から飛び降りた一人の女性が降り立つ。

 

『ッ!!』

 

 軽い音を立てながら着地した女性の姿にノーヴェ達は慌てて足を止め、自分達の目の前に立つ女性の顔を見つめる。

 何故ならばノーヴェ達の前に着地した女性は、自分達の仲間に成ったギンガと瓜二つと言っていいほどに良く似た女性-クイント・ ナカジマ-だったのだ。

 

「……随分と異世界とは言え、人の娘をそんな人形みたいな姿にしてくれたわね? 覚悟して貰うわよ」

 

「テメエッ!! 何者だ!?」

 

 クイントに向かってノーヴェは険しい表情を浮かべながら質問するが、クイントは答えずに指を三本、ノーヴェ達に向かって立てる。

 

「私がこの世界のスカリエッティに対して赦せない事が三つ在るわ。 一つは異世界とは言え、私の娘を人形の様にした事」

 

 言いながらクイントは立っていた三本の内の指を折り曲げ、ギンガを見つめる。

 

「二つ目は同じ様に異世界だけど、私の親友の娘を利用した事」

 

 常人では見る事さえも不可能な遠くに在るビルの屋上の上に立っている紫色の髪を持った黒いドレスを着た少女-ルーテシアを見つめながら、クイントが更に指を折り曲げる。

 同時に無表情だったギンガが突如としてクイントに向かって飛び出し、高速回転するドリル状の左腕をクイントに向かって突き出す。

 

「ヘッ、無駄話なんかしてるからだよ。おい! 行くぞ!!」

 

 ギンガの一撃がクイントに決まったのを見たノーヴェは他のメンバーに向かって叫び、地上本部へと急ごうとするが、再びクイントの声が響く。

 

「三つめよ」

 

『ッ!?』

 

 聞こえて来たクイントの声に全員がクイントとギンガの方を見てみると、ギンガの左腕のドリルの高速回転を右手で押さえているクイントが存在していた。

 その上、何時装着したかクイントの両手足にはナックルとローラーブーツが蒼銀に輝いていた。

 

『なっ!?』

 

 ドリルの回転をまるで箸でも掴む様な感じを出して受け止めているクイントの姿を見たノーヴェ達は、信じられないというようにクイントを見つめた。

 その上、高速回転しているドリルに触れているのに、蒼銀に輝くナックルには傷一つ付く事は無く、寧ろ本来ならば削る筈のドリルの方が悲鳴を上げるように金属音と火花を鳴り響かせている。

 異常としか言えない光景だが、クイントはそんな事には全く構わず、ギンガに笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「ヴィヴィオを泣かせて苦しめた。これが三つ目の理由よ。さて、ギンガ?」

 

「ッ!?」

 

 クイントの笑みと静かな声に、感情をなくされた筈のギンガが何故か恐怖を感じたように震えるが、クイントは構わずにギンガに優しげな表情を向ける。

 

「母親が話をしている時にドリルをぶつけるなんて、お母さんは悲しいわ。少し反省しなさい!! デジバイス!」

 

《サンダーエレメント・セットアップ》

 

「ッ!?」

 

 クイントは叫ぶと共に握っていたドリルを力を込めて砕いた。

 驚愕して固まるギンガに対し、瞬時にクイントは懐に潜り込み、一切の容赦の無い連撃を叩き込んで行く。

 

「ハアァァァァァァァァァーーーーーー!!!」

 

 目にも止まらないと言う速さで叩き込まれる蹴りや拳によって、ギンガの体は浮き上がる。

 余りに無慈悲に叩き込まれる一撃の数々にナンバーズは茫然とするが、クイントは構わずに最早的になっているとしか言えない状態のギンガに、最後の一撃を繰り出す。

 

「雷撃・繋がれぬ拳(アンチェイン・ナックル)ッ!!」

 

 全身を使い、更に右拳から電撃を迸らせながら繰り出されたクイントの一撃はギンガの腹部に直撃し、強烈な電気を全身に流されながらギンガは空高く舞い上がった。

 そのままギンガは地面に激突し、クイントはゆっくりと息を吐く。

 

「はい。お仕置きは御終い……さて、アレだけ食らわせたんだから、流石に解けていると思うんだけど」

 

「な、何を言って……」

 

 ノーヴェはクイントの一切の容赦ない行動に声を上げるが、クイントは構わずに地面に突っ伏しているギンガの頭を掴み上げ、再び優しげな笑みをギンガに向ける。

 

「ギンガ? 目は覚めた? それともまだ、目覚めないのかしら?」

 

「……ヒィッ!? 止めて!! お母さん!!!」

 

『なっ!?』

 感情在る、しかも恐怖に染まったギンガの叫びに、ノーヴェ達は驚愕に満ちた声を上げて、恐怖に震えているギンガと、そのギンガの髪の毛を掴んでいるクイントを見つめる。

 ギンガに行われたのはスカリエッティに寄る再調整。その実は完全なる人格の書き換え。

 当然ながらちょっとやそっとの事では解ける代物では無い。しかし、クイントは力技では在るが解いてしまった。

 実際のところクイントがやった事は電撃ダメージを大量に叩き込んで、洗脳を無理やり解くと言う力技以外の何物でも技だった。

 装備している『デジバイス』に雷属性を与え、拳や蹴りで叩き込む。ギンガが成すが儘にクイントの攻撃を受けていたのも、雷属性を魔力に与える事で発揮する麻痺追加効果のせいである。戦闘中に一瞬でも麻痺すれば、それだけで叩き込んだ相手は有利になる。

 接近戦を主体に戦うクイントにとっては助かる属性で在り、この戦法で完全体のデジモンを殴り倒したと言う逸話までもクイントは作り上げていた。

 

「ギンガ。お母さんは悲しいわ。例え異世界でも親子の絆は変わらないと思っていたのに……お母さんに向かって高速回転をしているドリルを突き出すなんて……本当に悲しくて、手加減を忘れてしまったわ」

 

「……そ、それに……したって……やり過ぎじゃ……」

 

「何か言ったかしら?」

 

 笑みを浮かべながらクイントは質問し、ギンガは首をブンブン振って押し黙った。

 下手な事を言ったら、またさっきの連撃地獄が待っていると感じたからだ。その様子にクイントは頷き、次にノーヴェ達にギンガに向けた優しげな笑みを向けながら声を掛ける。

 

「さてと、そろそろ終わりね」

 

「何言っているんッスか?」

 

「そうだぜ」

 

「例え、タイプゼロファーストの洗脳が解けたとしても」

 

「まだ、こっちが有利だよ」

 

 ウェンディ、ノーヴェ、ディード、オットーはそれぞれ自身の固有武装やISを発動させる構えをクイントに向かって取った。

 しかし、それを見てもクイントは優しげな笑みを向けながら上空を指差し、ノーヴェ達がその行動に疑問を覚えながら、クイントが指差した方を見て見る。其処には。

 

「レイジングハート。集束開始」

 

 右手にレイジングハート・エレメンタルを握り締めたメタルガルルモンXが、常識を外れているとしか思えないほどの魔力を球体状に集束させていた。

 

『ッ!?』

 

 メタルガルルモンXと集束されていく膨大な魔力を見たノーヴェ達は目を見開き、慌ててその場から逃げようとする。

 しかし、時すでに遅く魔力の集束を終えたメタルガルルモンXは逃さないと言うように、桜色の巨大砲撃を討ちだす。

 

「全力!!」

 

(全開!!)

 

「スターライトブレイカーーーーー!!!!!」

 

『ウワァァァァァァァーーーーーー!!!!!』

 

 メタルガルルモンXとその身と融合しているなのはが叫ぶと共に、レイジングハートの先端から巨大としか言えないほど桜色の砲撃-スターライトブレイカーが放たれた。

 放たれたスターライトブレイカーにノーヴェ達は悲鳴と共に飲み込まれ、同時にノーヴェ達が立っていた場所に巨大な爆発が起きる。

 因みに放たれた砲撃は非殺傷設定。死ぬ事は無いが、恐らく 死ぬまで治らないトラウマとしてノーヴェ達の心に深く刻まれただろう。在る意味、死ぬよりも酷い。この世界のノーヴェ達は今後桜色を見る度に、この砲撃の事を思い出し続けるのだから。

 

「う〜ん……相変わらずとんでもない威力ねフリートが究極体に成ってもデバイスでの攻撃なら非殺傷設定を使える様にしたって言っていたけど。此処まで来ると、非殺傷設定が正しいのか悩むわね。これだけの一撃を受けて死ねないんだから、在る意味拷問よりも酷いわ……(その上、コレだけの威力でリミッター付きとか……なのはちゃん、完全に人外道まっしぐらね)」

 

 爆発が収まった場所で倒れ伏しているボロボロのノーヴェ達の姿を興味深そうながらも、内心で冷や汗を流しているクイントがそう呟くと、先ほどの桜色の砲撃を見て恐怖に震えているギンガに声を掛ける。

 

「ギンガ。貴女もこう成りたくなかったら、もっと精進した方が良いわよ」

 

「ハイッ!!!」

 

 クイントの言葉に全身を襲う痛みも忘れてギンガは直立不動で答えながら頷いた。

 その間に傍に、クイントの前にメタルガルルモンXはクイントの前に降り立ち、クイントは迷うことなく肩に飛び乗り、ギンガに顔を向ける。

 

「其処の子達はギンガに任せるわ。私はやらないと行けない事が在るから。後でスバル達も来るでしょうから、ちゃんと見張っておいてね」

 

「エッ? ……アッ! ちょっとお母さん! まだ私思うように動けな……」

 

 抗議の声を上げるギンガにクイントは構わずにメタルガルルモンXと共に空へと飛び立ち、ギンガの前から遠く離れて行った。

 この後、救援に来たスバルとティアナがギンガから全ての事情を聞き、クイントとメタルガルルモンXの使用したデバイスと砲撃魔法に驚愕しながらも、爆心地で気絶しているノーヴェ達を拘束したのだった。

 

“不屈の心を胸に宿す蒼き鉄の狼、星を打ち砕く光を解き放ち、死者達を沈黙に伏させる”

 

 

 

 

 

「急げ! 早く避難しろ!!」

 

「大丈夫よ! 絶対に逃げられるから!!」

 

 クラナガン市街地にも多数のガジェットが出現し、未だに避難出来なかった人々が、ガジェットの攻撃や倒壊するビルの瓦礫などに寄って傷ついていた。

 本来ならば管理局が人々を護る筈だが、数日前の地上本部襲撃やAMFを搭載した大量のガジェットの前に局員は成す術もなく蹂躙されていき、魔法など使えない一般人は襲い掛かって来るガジェッ トに逃げ惑うのが精一杯だった。

 

『ヒィッ!!』

 

 目の前に現れた大量のガジェットⅠ型の姿に、逃げ切れなかった人々は恐怖の声を上げ、子供抱えた親などは我が子を強く抱き締め、自身が盾に成ると言う様にガジェットに背を向け、男性などは力が無くともガジェットから妻子を護ろうとガジェットに駆け出す。

 だが、ガジェットは関係ないと言う様に無慈悲にエネルギーを集め始め、人々に向かってレーザーが-放たれなかった。

 

『ッ!?』

 

 突如として上空から飛来したオレンジ色の弾丸に人々の行く手を阻んでいた全てのガジェットは撃ち抜かれ、全機が爆発を起こして 消滅をしてしまった。

 それを見た人々が突然の事態に困惑していると、人々の前に巨大な体を持ち、赤い鎧を身に纏った六本足の獣-スレイプモンが降り立ち、人々に自身の右手を差し出す。

 

「早く乗るのだ。安全な場所まで私が送ろう」

 

「……アッ! ああ、分かった」

 スレイプモンの姿に誰もが信用していいのかとその巨体を見つめたが、スレイプモンの背に乗る多くの人々の姿に気が付いた者達は、 スレイプモンが差し出した右手の乗り込む。

 スレイプモンは人々を右手を使って自身の背に移すと、空へと駆 け上がり、人々を安全な場所まで運び続ける。

 

“絆の果てに現し、赤き鎧にその身を包み込んだ聖なる騎士、全てを撃ち抜き、人々を脅威から護らん”

 

 

 

 

 

 ゆりかごの中で大量のガジェットⅢ型とⅣ型を相手に戦い続けていたデュークモンは遂に目的の場所で在る玉座の間へと近づいていた。

 

「ムン!!」

 

 グラムの一閃に寄って通路を埋め尽くしていたガジェットは消滅するが、デュークモンは構わずに歩みを続け、ゆりかごの中を見回していた。

 

「……寂しく悲しいものだ。このゆりかごとて私と同じ様に主君を護る物だと言うのに、今は利用される物……哀れな」

 

(……うん。ゆりかご、可哀想だよ。本当は……誰かを護る為の物なのにね)

 

「そうだ。だからこそ、私はこの世界のヴィヴィオを救った後にゆりかごを眠らす。もう利用される事が無い様にな……それがこの世界のゆりかごにしてやれることだ」

 

 自身の内にいるヴィヴィオの言葉に答えながらデュークモンは更に先を進み、内心で別の事を考える。

 

(そしてもう一人、この世界の高町なのはよ!! 私は貴様と戦うぞ!! 貴様がこの世界のヴィヴィオの母に相応しいのかを、見極める為に!!)

 

 デュークモンは戦いに介入する前にこの世界のなのはの情報を知った時から決めていたのだ。

 この世界のなのはがヴィヴィオの母親に相応しいのか如何かを戦う事で見極めると。

 本来ならばそのつもりは最初は無かった。この世界のヴィヴィオ はデュークモンが主君と定めたヴィヴィオではない。だからこそ、 関わる気は無かったのだが、あの泣き叫ぶヴィヴィオの姿を見た時、デュークモンの心は変わった。

 嘗て味わった悲しき結末。友だったデジモン達の死と、その後に引き起こしてしまった悲劇を思い出してしまった。故に何が何でもこの世界の高町なのはを見極める。

 なのはは知っていた筈なのだ。ヴィヴィオがスカリエッティに狙われている可能性が在る事に。

 だが、その可能性を忘れ、ヴィヴィオがいた機動六課隊舎を無防備同然の状態にしていた。

 その状況だけでもデュークモンがこの世界のなのはに不信感を抱くには十分だった。

 デュークモンはこう思ったのだ。

 

“この世界の高町なのはは、母親と慕っているヴィヴィオの事を何とも思っていないのでは無いのか”

 

 勿論そうとは限らないが、この世界の高町なのはは時空管理局員。

 自身の世界の管理局の悪行を知り過ぎているデュークモンに取っては、この世界のヴィヴィオを生み出した真の闇の存在を知っている。

 自分の世界ではその前にブラックに寄って救われ、リンディ達に大切に育てられたが、この世界では実験動物の様に闇に潜む者達に扱われていた筈だ。だからこそ、尚更デュークモンはこの世界のヴィヴィオには幸せに成って欲しい。

 

(闇の方はブラック達が破壊するだろう。成らば私は高町なのはを試す!! その為の準備は既に終えているからな。早く来るのだぞ、高町なのはよ)

 

 デュークモンは歩みを進め玉座の間に近づくが、突如として前方から強力なエネルギー弾が飛んで来る。

 

「ハァッ!!」

 

 自身に向かって高速で飛んで来たエネルギー弾を、デュークモンはグラムに寄る一閃で霧散させながらエネルギー弾を放った人物を探す。

 そして100メートル先の通路で巨大な砲門-【イノメースカノン】-を構えたディエチを発見する。

 

「其処を退くのならば、九割殺しが八割殺しに変わるが、如何する?」

 

「……2……1」

 

「残念だ」

 

 イノメースカノンにエネルギーをチャージしながらカウントを取り始めたディエチに、デュークモンは構えも取らずに立ち続ける。

 防御も行わないデュークモンに訝しみながらも、エネルギーをチャージし終えたディエチは収束砲を発射する。

 

「0」

 

 カウントを終えると共にイノメースカノンから、Sランクに匹敵する砲撃が放たれ、デュークモンに向かって直進する。

 しかし、自身にSランククラスの砲撃が迫って来ていてもデュークモンは防御せずに無防備なまま歩みを進め、砲撃がその身に直撃する。

 デュークモンに砲撃が直撃すると共に通路に巨大な爆発が起き、通路は煙に埋め尽くされた。

 それを見たディエチは安堵の息を吐き、イノメースカノンを床に降ろした。

 この行動は在る意味仕方ないだろう。ディエチの砲撃はこの世界で【エース・オブ・エース】と呼ばれている高町なのはの砲撃に匹敵する威力を持った強力無比の砲撃。その様な砲撃を防御も行わず直撃したら、幾ら【エース・オブ・エース】と呼ばれる高町なのはでも落ちる。

 因みにデュークモンの世界のなのはは落ちない。フリートの手に寄って生まれ変わったレイジングハート・エレメンタルの生み出すバリアジャケットは、レイジングハート・エクセリオンが発生させるバリアジャケットよりも遥かに強度が高いのでディエチの砲撃を同時に二発食らっても、余りダメージは受けないのだ。

 話は戻すが、ディエチの砲撃は強力無比で在る為に、大抵の敵は落ちる。だが、デュークモンには。

 

「今のが貴様の最強の一撃なのか?」

 

「ッ!!!」

 

 煙の中から響いて来た声にディエチは驚愕に目を見開き、吹き上がる煙の中を見つめてみると、煙の中から直撃したはずなのに鎧に傷一つ付いていないデュークモンが姿を現す。

 そのままデュークモンは、驚愕で動きが止まってしまっているディエチに向かって聖なるエネルギーが集まったグラムを突き出す。

 

「セーバーショット!!!」

 

「そんな!? ば…」

 

 全ての言葉を言い終わる前に、ディエチはセーバーショットに飲み込まれ、背後に存在していた壁を幾つも突き破りながらその姿は、デュークモンの視界から消え去った。

 

(……殺しちゃったの?)

 

「案ずるな。死んではいない。だが、この世界の技術では数年は再起不能だろう。フリートならばあっさり治療出来るだろうがな……最もそれが幸いとは絶対に言えんが」

 

(そうだよね。フリートお姉ちゃんだから)

 

 デュークモンの言葉にヴィヴィオは呆れながらも、安堵の息を吐く。

 如何に異世界の自分自身を傷付けたとは言え、やはりヴィヴィオには相手を傷付ける事や殺す事には躊躇いが在る。戦いの場に出ればその事を忘れて戦うが、それでもヴィヴィオは相手を傷付ける事には消極的なのだ。

 その事が分かっているデュークモンは、宣言どおりディエチを九割殺しで済ませたのである。

 

「さて、先を急ぐか!!」

 

 デュークモンは叫ぶと共に、その身を空中に浮かばせ、音速を超えるスピードで玉座へと急ぎ向かうのだった。

 

 

 

 

 

 廃棄都市区間の一つのビルの屋上に立っていたルーテシアとその使役魔-虫人間のガリューは、自分達の目の前に浮かんでいるメタルガルルモンXに険しい視線を向けていた。

 遠目で見ていたがノーヴェ達を一瞬の内に戦闘不能に追い込んだのは、先ず間違いなく自身の目の前にいるメタルガルルモンXだと分かっているのだ。何時でも最大の切り札を使えるように身構えるが、メタルガルルモンXの肩に乗っていたクイントは構わず、ルーテシアの目の前に飛び降りる。

 

「こんにちは、ルーテシアちゃん」

 

「……誰?」

 

「私はクイント・ナカジマ。貴女のお母さんの親友よ。ガリューは知っているわよね?」

 

「……ガリュー、本当?」

 

 クイントの言葉にルーテシアは疑問を覚えてガリューに質問すると、ガリューは無言で頷く。

 

「私が此処には来たのは貴女を止める為よ。もう貴女は戦わなくて 良いわ。メガーヌは私達が助けるから」

 

「……幾らお母さんの親友でも信用出来ない」

 

 ルーテシアには行き成り現れたクイントの言葉が信用出来なかった。

 確かに目の前にいるクイントは異世界でもルーテシアの母親で在るメガーヌの親友だ。

 しかし、行き成り現れてメガーヌを救うと言われても信用する者は誰も居ないだろう。

 その事はクイントも分かっているのか苦笑を浮かべながら、自身の右手の先にモニターを映し出し、ルーテシアに良く見えるように掲げ、ルーテシアがその映像を見て見ると、スカリエッティのアジトの映像が映し出された。

 モニターに映ったリンディがクイントに報告する。

 

『クイント。こっちは言われたとおり、メガーヌさんを救い出したわ。それと通信機を使ってフリートさんに簡易スキャンして貰ったら、レリックなんて必要も無く目覚めるそうよ。スカリエッティの言った事は真っ赤な嘘だって断言したわ』

 

『ッ!?』

 

 リンディが告げたメガーヌの真実に、ルーテシアとガリューは驚愕で動きが止まってしまう。

 スカリエッティの話では自身の母親であるメガーヌはレリックナ ンバー11が無ければ目覚めないという話だった。それなのにリンディの話が事実だとすれば、自身が今まで行って来た行動は全て無意味だと言う事に他ならない。

 その事実に気が付いたルーテシアは自身がこれまで行って来た事を全て思い出し、体を恐怖に震わせ泣きそうな顔を浮かべるが、クイントは優しくルーテシアを抱き締め、頭を優しく撫で始める。

 

「……辛かったわよね。メガーヌと話がしたいだけだったのに、それさえも叶わず、その小さな体で戦い続けていたのね。私には貴女の辛さは分からないけど、絶対にメガーヌに会わせて上げるわ。そうしたら思う存分甘えなさい。知っている? メガーヌは任務の時でもずっと貴女の事を気にしていたのよ。貴女の事を本当に大切に思っている優しいお母さんなんだからね」

 

「……ア、……アァァァ……ウワァァァァァァァーーーー!!!」

 

 ルーテシアはクイントの胸の中で大声で泣き始めた。

 今までの辛さ、悲しさを表すように大声で泣き続け、クイントはその様子に優しげな笑みを浮かべたままルーテシアの頭を撫で続け、メタルガルルモンXも優しげな瞳でルーテシアを見つめ続けるのだった。  

 因みに、この様な状態に成りながらもクアットロが干渉しないのは、ゆりかご内部で暴れ続けているデュークモンの対処に追われている上に、フリート特製のジャミングがルーテシアとクイントの周りに張り巡らされてるので、状況を全く知る事が出来ないからだった。

 

 

 

 

 

 スカリエッティのアジトではスカリエッティの逮捕に向かったフェイトが漸くアジトの入り口に辿り着いていた。

 だが、その足はアジト内部に侵入する前に止まり、入り口の前に存在している無数のガジェットの残骸を困惑したように見つめていた。

 

「……何なのこれは? アコーズ査察官とシスターシャッハは何処に?」

 

 入り口の前で合流する筈だった二人の姿が無い事にフェイトは心配しながら辺りを見回すが、二人の姿は発見出来ず、もしや中に居 るのかと思い、フェイトは急ぎアジトの中へと入って行った。

 そして少しすると山の様に積み上がっていたガジェットの残骸の中からボロボロに成った女性-聖王教会のシスター、シャッハ・ヌエラが這い出てきて、フェイトが入っていた入り口に向かって力無く右手を伸ばす。

 

「……フェ…イト……執務…官……行っ ては……いけません……その先には……闇が……黒い…竜人の……姿を…し……」

 

 全ての言葉が言い終える前に、フェイトが向かった入り口の方に伸ばしていたシャッハの右手は地に落ち、気絶してしまった。




この時点でのなのはの実力は某マッドと某チート戦闘一家の家主の鍛錬の結果、アルハザードの魔導技術無しで完全体の上位から成りたての究極体と互角レベル。アルハザードの魔導技術仕様で中の上レベルの究極体とほぼ互角。ガブモンとの究極進化では間違いなくロイヤルナイツ級です。エレメントシステムの扱い方は属性ダメージを主にして使用します。

クイントに関してはとある事件で記憶を取り戻し、非人格型のデジバイスを扱えています。更にエレメントシステムをなのはとは違う方向で使いこなし、属性を与える事で魔力に発生する追加効果に加え、疑似的な魔力資質変換まで引き起こせるレベルに到達。

エレメントシステムの扱いに関しては、力のなのはと技のクイントみたいな感じです。

次の投稿は24日の0時予定です。

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