漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

14 / 32


 【寄生の宝珠】の手に寄って滅び去った世界。

 その世界の地下深くに隠されていた施設から、多数の【寄生の宝珠】を回収し終えたフリートは地上に戻り、念入りに一つ一つ封印処置を施していた。

 処置の様子を見ているなのはとガブモンは、目的の物が見つかった事に喜べずに居た。何せ本来の目的は数週間後に行なわれるオークションに出展される筈の【寄生の宝珠】の回収だった。なのに、それ以外の【寄生の宝珠】を発見してしまった。しかも、複数と言う数で。

 

「……コレがフリートさんの言っていた最悪の可能性ですか?」

 

「えぇ、そうです……【寄生の宝珠】は兵器です。この世界の目的はもう不明ですが、兵器として使用しようとしたのならば、必ず量産に着手する筈……外れて欲しかった可能性でしたが……当たってしまいました」

 

「でも、こうして回収出来たのは良かったですよ。もしもコレが次元世界に飛散していたら、もう如何する事も出来ませんでした」

 

「うん。その点だけは助かったね」

 

 一つだけでも【寄生の宝珠】は世界を全て滅ぼす可能性を秘めている。

 ソレが複数同時に起動でもしてしまえば、最早どうする事も出来ない。その最悪の可能性を回避出来た事実になのはとガブモンは安堵する。

 だが、その安堵を粉砕するようにフリートは一つの事実を告げる。

 

「……足りないんですよ」

 

「……何がですか?」

 

「ま、まさか?」

 

「……あそこに在ったカプセルの残骸の数と……回収した【寄生の宝珠】の数。そしてオークションに出展される【寄生の宝珠】の数を合わせても……一個足りないんです」

 

『ッ!?』

 

 最悪過ぎる事実になのはとガブモンは息を呑んで、顔色は蒼白になった。

 つまり、次元世界の何処かにもう一つ、未発見の【寄生の宝珠】が存在している可能性が在る。

 ソレが事実だとすれば、悪夢としか言えない。【寄生の宝珠】は一つだけでも次元世界全てを滅ぼせる可能性を秘めているのだから。

 

「すぐに持って来た探査機器を総動員して探し出します! 何としても【寄生の宝珠】が覚醒する前に回収しなければなりません!」

 

 広い次元世界から小さな宝石にしか見えない【寄生の宝珠】を見つけるのは、至難どころか通常ならば不可能に近い事だが、フリートは全力で見つけ出す気だった。

 今回ばかりは遊びなど無い。幾ら他世界とは言え、アルハザードの技術で悲劇を引き起こす訳には行かないのだ。なのはとガブモンもフリートの決意を感じて、改めて【寄生の宝珠】の捜索に対する意欲を燃やす。

 その雰囲気を打ち消すように転移魔法陣が出現し、はやて達が戻って来た。

 

「今戻ったぞ」

 

「ただいまです」

 

「お帰りレナ、はやてさん、リインちゃん」

 

「お帰りなさい……それで、はやてちゃんは如何したの?」

 

 刺々しい気配を発してずっと考え込むように腕を組んで何かを悩んでいるはやての様子に、なのはは質問した。

 レナとリインは顔を見合わせると、一瞬悩むように表情を歪めたが、意を決してはやてが悩んでいる事をなのは達に説明する。

 

「実は……この世界の機動六課の任務内容に関して悩んでいるんだ」

 

 そうレナは告げると、自分達が目にした機動六課の任務での行動に関して説明する。

 聞いて行く内にガブモンとフリートの顔は引き攣っていき、なのはははやて同様に刺々しい気配を発し出した。

 

「……ソレ……マジですか?」

 

「あぁ。少なくとも目にした限りで、私達が受けた印象はその様な感じだ。無論、声までは聞こえなかったから、もしかしたら私達が受けた印象とは違うかも知れないが……可能性は低いと思う」

 

「リインは、この世界のはやてちゃんが早期に事件を解決する為の作戦だと思います。だって、相手はあのスカリエッティですよ」

 

「確かにあのスカリエッティが相手なら、そのぐらいはやらないと行けないと思うけど」

 

 ガブモンもスカリエッティと言う人間を良く知っている。

 油断してはならない相手だと言う事は嫌と言うほどに。スカリエッティの配下だった女性とは長い因縁が在っただけに、その危険性は無視出来ない

 大胆で予想外としか言えない手でも打たない限り、早期に決着を挑めるとは決して思えない相手なのだ。

 

「私もリイン姉さんの策には一理あると思うが……どうにもアレを目にしては素直に頷く事は出来ない。本当に早期解決は可能なのだろうか?」

 

「……スカリエッティですか。そう言えば、【聖王のゆりかご】同様に奴もこの世界では捕まって居ませんでしたね」

 

 ジェイル・スカリエッティ。

 広域次元犯罪者に登録されている違法研究者では在るが、その正体は管理局の闇が産み出した人工生命体。

 しかも産み出されている時に使われた技術に問題が在る。ジェイル・スカリエッティはアルハザードの生命技術に寄って産み出された存在なのだ。

 

(早期に捕まって欲しいですね。まさか、奴の手元に残る【寄生の宝珠】が在ったりしたら、もう終わりですよ)

 

 あって欲しくない可能性を脳裏に浮かべながら、リインの考えた策が正解である事をフリートは願いたくなる。

 だが、前回の世界の事を考えれば楽観視する事は出来ない。そうフリートが思っていると、何かを決意したはやてが話しかけて来る。

 

「フリートさん。お願いがあります」

 

「……お願いの内容は聞くまでも無いですね。この世界の機動六課の情報を集めて欲しいんですよね?」

 

「はい……どうにも違和感が拭い切れません。その違和感を晴らす為にも、お願いします」

 

 深々とはやては頭を下げた。

 余りこの世界に干渉するのは良くない事は、はやても理解している。ソレでも先ほど目にした光景は、はやての中で危険な予感を感じさせる光景だった。取り返しのつかない事態を呼んでしまうような、途轍もない嫌な予感を。

 フリートとしてはさっさと【寄生の宝珠】を回収して帰りたい所だが、先ほど考えた可能性を否定する為にも確かに機動六課への情報収集は必要かもしれないと思う。

 

「……分かりました。早急にこの世界の機動六課に関する情報を集めましょう」

 

「ありがとうございます!」

 

 了承してくれたフリートに、はやては礼を言いながら頭を下げた。

 なのははその様子に嫌な予感を感じるが、確かに必要な事だと思い静かにはやてを見つめる。出来る事ならばリインの考えが当たっていてくれる事を願いながら。

 その場に居る全員が思っても見なかった。まだ、この世界の機動六課は、ガジェットを操る黒幕の正体を全く掴んで居ない事を。誰も夢にも思って無かったのだった。

 

 

 

 

 

 

 時は流れ、【寄生の宝珠】が出展されるオークション会場の場で在る森林に囲まれた場所にあるホテル・アグスタ。

 数日前からフリート達はアグスタに泊まり込み、オークションが開催される日を待っていた。無論、なのはとはやてはフリートから借りた変身魔法が使用出来る道具を使って容姿を変えていた。

 そして用意したオークションへの参加権を使い、黒いドレスを纏ったフリートとスーツ服を着たレナは、オークションの会場であるアグスタ内部を探索していた。本来ならばこの場には変装したなのはとはやても居る筈だったのだが、今日のオークシュンの護衛任務を受ける部隊が、よりにもよって機動六課だと判明したので、二人はガブモンとリインと共に泊まっている部屋の中に隠れていた。

 平行世界の自身を嫌っているなのはは言うまでもなく、はやてもこの前の機動六課の任務内容と、その後にフリートが集めた情報からこの世界の機動六課には関わりたくないと思い、二人は隠れることにしたのだ。

 

「ハアァ~、何でよりにもよって機動六課がオークションの護衛なんですかね……確か機動六課の殆どのメンバーは広い場所で戦わなかったら、とんでもない被害を出すはずでしたけど?」

 

「確かにその通りだ……剣を使うシグナムと拳を使うザフィーラは別だが、ヴィータでは無駄に器物を破損してしまい、高町なのはに至っては砲撃が主力……メンバーの構成から考えても機動六課がホテルの警備など無理だと思うのだが」

 

「ですよね。しかも周りは森林に囲まれているんですから、戦ったら確実に環境破壊でしょうね。特に此方の八神はやての場合は、広域攻撃しか出来ないんですからね」

 

「あぁ……そのことだが、Aランク程度まで魔力が抑えられたら、はやてはどの程度の実力なのだ? 私達の世界だとはやてはリミッターなど付けていなかったから、何処まで実力が下がるのか分からないのだが?」

 

「そうですね……この世界の八神はやてが使うのは殆ど広域魔法だとしたら……アレ? ……何の役にも立たない気がしますね」

 

「何?」

 

「そもそも広域魔法なんて強力な魔法が使えるのは、膨大な魔力があるからですよ。それがAランクまで魔力が下がったら、広域攻撃なんて出来ませんし、私達の世界の八神はやてはあのデジモンに鍛えられたおかげで何とか出来ますが、この世界の八神はやてだと寧ろこう言う戦いの場に出るのは足手纏いですね」

 

「其処までか。確かに指揮官として現場に出るとしても、ある程度の身の護りは必要だから当然だな」

 

 フリートの説明にレナは言っていることの意味を理解し、深く何度も頷いた。

 戦場に指揮官が出る場合は、常に護ってくれる護衛者か、或いは自身の身を護れるだけの実力が必要。しかし、この世界のはやてはAランク程度にまで魔力が抑えられているために身を護れるだけの力がない。

 もし戦場に出て来るのならば、どう言う配置で動くべきなのかと、レナは自身が考えた布陣を話し出す。

 

「私ならばこの場所が襲われた場合を考えるのならば、高町なのは、はやて、シャマルを屋上に配置し、部隊のメンバーにガジェット達を上空に飛ばさせるように指示を出す。それを砲撃の精密射撃が出来る高町なのはと、同じように精密射撃が可能なティアナ・ランスターと言う少女で攻撃。それから逃れた敵をヴィータとスバル・ナカジマ、エリオ・モンディアルで攻撃。リイン姉さんとキャロは補助に徹して貰い、ザフィーラとシグナム、そしてフェイト・テスタロッサ・ハラオウンは万が一の事態の時に備えてロストロギアの護衛とホテルの人々の護衛だな」

 

「それがこの世界の機動六課が出来るベストな護衛配置ですね」

 

「本来ならば私達の世界のようにベテランの部隊員達が居れば、彼らをホテルの護衛に当てて早期決着したいのだが……」

 

「主要の戦力メンバーが十人ぐらいですからね。全員で動いて漸くこのホテルを一つをギリギリ護れる程度でしょうね。クラナガンや世界を護るなんてナンセンスもいいところですよ」

 

 フリートはそう呆れたような声で呟き、レナも同意するように頷いた。

 既に全員がこの世界の機動六課が作られた理由を知っている。いずれ起きるカリム・グラシアが予見した管理局の崩壊を防ぐつもりのようだが、フリート達からすれば管理局よりも事件が起きた時の巻き込まれるであろう一般市民の安全の方が気になっていた。

 機動六課では起きた事件を終わらせるのが精一杯。もしも本当にクラナガンの市民を護る気ならば、何よりも地上本部の協力が必要なのだ。だが、既に機動六課は本格的な地上本部の協力を得る事は出来ないとフリート達は確信していた。

 何せ勝手に本局が無理やりに設立した部隊が機動六課なのだ。元々地上本部と本局の関係が悪い中で、本局は地上本部の縄張りに勝手に部隊を増やした。表立っては嫌がらせなどは行わないだろうが、機動六課に進んで協力しようとする部隊は少ないとフリート達は考えていた。

 

「本気でミッドチルダを護る気があるのか、疑うところですね」

 

「まだ、其処まではいかないだろう。一応は事件を解決する為に作られた部隊なのだから、事件が起きる前に解決すれば…」

 

「以前行った平行世界では結局最後まで事件の解決が出来ず、沢山の犠牲者がクラナガンで出る可能性が高い大事件になりました。何となくこの世界もそうなる気がしますね」

 

「……嫌な予感がして来た……本当に大丈夫なのか? この世界の機動六課は?」

 

 フリートが告げた事実にレナは凄まじく嫌な予感に襲われた。

 まさか、別世界で其処まで大惨事を引き起こしていたとはレナは夢にも思ってなかった。世界が違うと其処まで変わるのかとレナは思いながら、そろそろ時間だと思い、フリートと共にチケットを受付に見せて会場入りする為に受付場に向かい、信じられない光景を二人は目撃した。

 

「……なのはさんとはやてさんには絶対に黙っていましょうね」

 

「……あぁ……もしもしの話だが、私の世界のはやてがこの場であのような格好をするなら……信頼を失っていたかもしれない」

 

「それが正解でしょうね……私も呆れて言葉も無いです」

 

 もはや頭が痛いとしか言えないレナの様子に、フリートは同意を示し、再び目の前の光景に目を向ける。

 二人の視界の先には、ピンク色のドレスを身に纏った高町なのは、黒いドレスを身に纏ったフェイト、そして水色のドレスを誇らしげに着ているはやてが受付に身分証明書を提示していたのだった。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、はやてとなのははアグスタで借りた部屋の一室でピリピリした気配を放っていた。

 ガブモンとリインはその気配に怯えて、揃って部屋の隅に方に移動して嵐が過ぎるのを黙って待っていた。

 昨夜から機動六課の隊員が何名も警護を行なっていた為に、四人は決して部屋から出ようとしなかった。

 隊員達の中にはシグナムとヴィータの姿も在ったので、迂闊になのはとはやてが出てしまえば問題が発生する。一応フリートから借りた変装用の魔法具で容姿は変えているが、ソレでも会いたくない気持ちで二人は一杯だった。

 

「……ハァ~……なのはちゃん。私な……絶対に警護任務なんてこの世界の機動六課は受けへんと思っとたんよ」

 

「同感だね。私もそう思っていたよ。もしも受けるとしたら、他の部隊との連携だと思っていたんだけど……そんな気配は無いよね」

 

「そらそうや……何せこの世界の機動六課は……地上の部隊の大半から嫌われてる」

 

 皮肉げにはやてはこの世界の機動六課の評価を告げた。

 正直リインの考えた作戦が当たっている事をはやては願っていた。だが、フリートが集めた情報に寄ってそんな作戦は存在していない事が明らかになった。

 

「なんやの、あの部隊? どう考えても可笑しすぎるわ。ミッドチルダの部隊なのに、設立は本局しか関わってなくて地上本部は蔑ろ同然……地上の部隊での評判は一部を除いては最悪って……此処まで孤立している部隊に何が出来るんやろう?」

 

「一応レリック関連と本局からの任務には迅速に派遣されるらしいけど……他の地上部隊が関わる任務にはキツイよね?」

 

「キツイどころや無い。地上にも縄張りが在る。ソレを無視して動いたら不満ばかり募って行く。私らの世界は地上のトップのレジアス大将公認の部隊なのと、ゲンヤ副部隊長が協力してくれたからや。じゃないと、私みたいな若輩が部隊長の部隊なんて協力は得られへんよ。それなのに地上本部を敵に回したら、本末転倒やろう……これじゃ、この世界の機動六課が作られた理由が無意味になるわ」

 

 この世界の機動六課の情報に、はやては完全に頭を抱えざるえなかった。

 そもそも機動六課が作られた理由の一つには、管理局の問題点を解消する為の試験運用部隊のはず。だが、それは機動六課だけで解消出来る問題ではないのだ。寧ろ機動六課のような一部隊から考えれば、強力過ぎる戦力を持った部隊が好き勝手に動けば、現場は更に混乱する。

 その混乱を防ぐ為には、その場から近い部隊に協力を申し出て動くのがベスト。しかし、本局が勝手に地上に作り上げられた機動六課は、地上本部や多くの部隊からすれば敵にしか見えない。問題を解消する以前に、この世界の機動六課は周りに敵が多すぎるのだ。

 これではせっかく作り上げても、結局は何も変わっていないとはやては思う。それどころか地上本部の上層部に土下座したい気持ちで一杯だった。

 

「『地上の部隊の動きが遅い』か……ソレは陸だけやないで……この世界の私」

 

 大きな組織ならば往々にして動きが遅くなる。

 陸である地上も、海である本局も結局のところ事件が起きた時に早急に動けない事が多くあるのだ。

 例を挙げるならば、十年前の【PT事件】や【闇の書事件】も本局の部隊が本格的に動けたのは事件発生後なのだ。迅速に事件が解決出来ることは、はやても望んでいる。

 だが、その原因を見誤っては行けないのだ。

 

「ハァ~、前回の任務の時のなのはちゃんの行動。そしてキャロの行動……私がこの世界の機動六課部隊長やったら、即座にこの世界のなのはちゃんを分隊長クビにするわ。キャロも厳重注意して再教育やね」

 

「そうだね。私も同意見かな。せめて、何時でもフォローに入れる位置に居たならともかく、そうじゃなかったんでしょう?」

 

「この世界のなのはちゃんの実力で、リミッターが付い取る状態やと……先ず間違い無く間に合わなかったと思う。もしかしたらなのはちゃんみたいにこっちのなのはちゃんも、飛行魔法を同時(・・)使用出来るなら話は違うけんやけど」

 

「無理だよ、ソレは……私だって何度も練習して五年以上掛かって漸くレイジングハートの補助無しで出来た事なんだから。ソレに普通は考えない事だよ」

 

「せやね。不味いな、このままやと何かが確実に起きる事になると私は思うんよ」

 

 部隊長としてのカンだが、はやては機動六課内で確実に何かが起きると感じていた。

 未熟な部隊長達。ソレを補佐する者が、この世界の機動六課には居ない。今だ致命的な何かは起きていないが、はやての予想では遠からず機動六課内部でぶつかり合いが起きると確信していた。

 

「……さて、この世界の私らは部隊内部で問題が起きた時に、どんな方法で解決するんやろうね」

 

「まさか、力で徹底的に痛めつけて反抗心を奪い取って問題をなくすなんて事はやらないと思いたいけどね」

 

「ハハハハハハハハハッ!! なのはちゃん、幾らなんでも冗談が過ぎるって! ……そんな行動を取る部隊なんて無くなった方がえぇよ」

 

 なのはの予測に笑ったはやてだが、その瞳には機動六課部隊長としての冷徹な光が存在していた。

 自身の仲間ともいえる部隊員を力で従わせるなど、それは支配としか言えない。それは部隊ではなく、ただの自己満足の世界でしかないとはやては思っている。共に戦う者ならば、何かを隠していても話し合って解消すべきなのだ。

 なのはも同感だと思いながら頷く。人は言葉にしなければわかり合えない事が在る。

 言葉にしても分かり合えない事も在るが、力に訴えるのは本当に最終手段なのだ。機動六課内部で起きる問題は、充分に言葉で解決出来る問題。

 何よりもこの世界のなのはは隊長と言う役目を背負っているのだから。自分の部下の把握ぐらいはしなければならない。

 そうなのはが思っていると、フッと窓の外で爆発が発生するのを目にする。

 

「……ガジェットが来たみたいだね」

 

「……そやね。さて、この世界の機動六課のお手並みを改めて見せて貰うとするわ」

 

 はやては空間ディスプレイを展開させ、この世界の機動六課のロングアーチから送られて来る映像をハッキングするのだった。

 

 

 

 

 

 アグスタ内部のオークション会場。

 フリートとレナはその場所の客席に他のお金持ちの人々や大企業の社長などの人物と共に座っていた。

 本来ならばもうオークションが開始される時間の筈だったが、ホテルの外ではガジェットと機動六課の戦いが行われている為に、オークションの開始が遅れることが伝えられていた。

 

「ハムハム……う~ん、オークションが中止になるのは困りますけど、やっぱり機動六課の隊長陣はホテルの中のままですか」

 

「そのようだな……しかし、戦闘が行われているのにドレス姿のまま……FWメンバーを信じているのか、或いは自分達が敗北しないと自惚れているのか……判断に困るところだ」

 

 そうレナは言いながら、戦闘が行われているのに会場内部に居る高町なのはとフェイトに険しい瞳を向けた。

 フリートも右手に持っていたポップコーンの袋に左手を入れながら、高町なのはとフェイトに視線を向け、その顔を不愉快げに歪める。

 

「全く……自分の部下の状態も把握していないのに、良い身分ですね」

 

 フリートとレナは機動六課が居ると分かってから、気づかれないように機動六課の隊員達をそれぞれ観察していた。

 その中に一人。明らかに気負い過ぎている人物をフリートとレナは見つけていた。だが、その事に機動六課の他の面々は気づいている様子は無かった。

 

「不味いですね……機動六課の中で最も必要な人物が焦っているなんて……いえ、あの子の性格を考えると周囲の環境に劣等感を感じていると見ましたけど」

 

「同感だ……前回のキャロとエリオに対する行動と言い……正直私は早く元の世界に戻りたい。それにこのままだと遠からず」

 

「あの二人がキレますね……こんな事になるなら、機動六課のハッキングコードをはやてさんに渡すんじゃ無かったです。まぁ、早めにガジェットの壊滅を終えてオークションが始まり、【寄生の宝珠】を落札したら帰りましょう」

 

「それが一番だろう……(嫌な予感が拭えんが)」

 

 レナはそう内心で自身が感じている嫌な予感について考えながら、機動六課の隊長陣である高町なのはとフェイトの動きに注視するのだった。

 

 

 

 

 

 ガジェットと機動六課の副隊長陣の戦闘を、アグスタ周辺の森の中から見ている二つの影が在った。

 一つはフードを被った大柄な男性。もう一つは紫色の髪の小柄なエリオとキャロと同い年ぐらいの少女。

 二人は激しい戦闘の様子をジッと眺め続ける。その二人の前に空間ディスプレイが展開され、機動六課が負っている次元犯罪者であるジェイル・スカリエッティが映し出された。

 

『ごきげんよう、騎士ゼスト、ルーテシア』

 

「……ごきげんよう、ドクター」

 

「何の用だ?」

 

 平坦な声でルーテシアと呼ばれた少女は答え、ゼストと呼ばれた大柄な男性は嫌悪感を隠さずにスカリエッティに声を掛けた。

 

『冷たいね、相変わらず。近くで状況を見ているんだろう? あのホテルにレリックはなさそうだったが、実験材料として興味深い骨董が二つあるんだよ。少し協力してくれないか?』

 

「断る。“レリック”が絡まない限り、互いに不可侵を守ると決めたはずだ」

 

 スカリエッティの申し出をゼストは即座に冷徹に切り捨てた。

 その答えにスカリエッティは気を悪くしたようすも見せずに、今度はルーテシアに質問する。

 

『ルーテシアはどうだい? 頼まれてはくれないかな?』

 

「……いいよ」

 

(チィッ!!)

 

 何時ものやり取りにゼストは内心で苛立ちに満ちた舌打ちをした。

 スカリエッティの頼みには、ゼストは本当にレリックが関係していないときは断る。そんな時は何時もスカリエッティはルーテシアに頼むのだ。ルーテシアの決定をゼストともう一人の仲間は否定することは出来ない。

 何時もどおり渋々と従うしかないとゼストは苛立ちながら、ルーテシアとスカリエッティのやり取りに目を向ける。

 

『優しいなぁ……ありがとう。今度是非、お茶とお菓子でもおごらせてくれ。キミのデバイス【アスクレピオス】に、私が欲しいもののデータを送っておくよ……そうそう一つは密輸品だが、もう一つは今日のオークションに出展される物だから、手に入れる時は気を付けて行動してくれ。アレは素晴らしい物だからね。価値が分かっていない連中が持つよりも、私が持つ方が役に立つよ』

 

「うん……じゃ、ごきげんよう、ドクター」

 

『ごきげんよう。吉報を待っているよ』

 

 スカリエッティは言葉を告げ終えると同時に通信を切った。

 その様子を腹立たしげにゼストは見ながら、着ていたローブを脱ぎ捨て、黒いゴスロリ衣装を晒しながら手に着けたグローブ型のデバイス-【アスクレピオス】を構えているルーテシアに声を掛ける。

 

「いいのか?」

 

「うん……ゼストやアギトはドクターを嫌うけど、わたしはドクターのこと、そんなに嫌いじゃないから」

 

「そうか」

 

 羽織っていたマントをゼストに渡し、マントの下に隠れていたゴスロリ調の私服姿となったルーテシアは手に着けたアスクレピオスを翳す。

 

「我は請う」

 

 詠唱と共にルーテシアの足元に召喚魔法陣が展開され、粘液のような物が次々と生えて来る。

 

「小さき者、羽ばたく者。言葉(ことのは)に応え、我が命を果たせ! 召喚インゼクト、ツーク」

 

 粘液に保護されるように内部に在った小さな多数の卵。

 すぐにそれらは粘液ごと弾け、昆虫型魔法生物【インゼクト】へと姿を変えた。

 

「ミッション、オブジェクトコントロール。行ってらっしゃい。気を付けてね」

 

 ルーテシアの命と共にインゼクト達は一斉に飛び立ち、健在のガジェット群へと向かって行く。

 そしてインゼクト達はガジェットに取り付き、一体化する。変化はすぐさま訪れた。

 一瞬前まで機械的な動きをしていたガジェット群が、綺麗なフォーメーションを組み、ホテル・アグスタに向けて進撃を開始した。

 

 

 

 

 

「何ッ?」

 

 前線でガジェットⅢ型と戦いを繰り広げていたシグナムは、自身の斬撃が両方のアームで防がれたことに疑問の声を漏らした。

 ガジェットⅢ型はその隙を逃さず、シグナムに向かってレーザー砲を撃ち込む。

 

「クッ!!」

 

 ガジェットⅢ型の攻撃に気がついたシグナムは、素早く後方に飛び退いてレーザーを避けた。

 しかし、その行動もガジェットⅢ型は見切っていたのか、黄色のカメラアイからレーザーをシグナムに向かって発射する。

 

「おのれ!!」

 

 ガジェットⅢ型が発射してきたレーザーをシグナムは瞬時に障壁を展開し、レーザーと障壁は激突しあって爆発を起こした。

 その爆発の影響から逃れるためにシグナムはガジェットⅢ型が追って来れない上空に飛び上がった。

 他の場所で戦っていたヴィータは持っていた四つの鉄球をグラーフアイゼンを使ってガジェットⅠ型達に向かって弾き飛ばす。

 

「シュワルベフリーゲンッ!!」

 

 ヴィータが放ったシュワルベフリーゲンは、真っ直ぐにガジェットⅠ型達に向かって突き進む。

 その攻撃は本来のガジェットⅠ型ならば避けることが出来ないはずの攻撃。しかし、その攻撃をガジェットⅠ型達は余裕そうに簡単に避けて、ヴィータに向かってレーザーを放つ。

 

「急に動きがよくなりやがった」

 

 ガジェットⅠ型達のレーザーをヴィータは避けながら呟いた

 空中に移動していたシグナムは、ヴィータの傍に近寄り、先ほど全く違うガジェット群の動きを眺める。

 

「自動機械の動きじゃないな?」

 

「あぁ、さっきの魔法の効果はコイツだろうぜ」

 

「ヴィータ、お前は新人達が居るラインまで下がれ。相手が何者であるにしても、キャロの報告で召喚士が居るのは間違いない。新人達の方にもガジェットが現れる可能性は高い」

 

「分かった……だけど、大丈夫か?」

 

「問題ない。ザフィーラもこちらに向かっている」

 

「そうか……気をつけろよ、シグナム」

 

 シグナムの提案にヴィータは心配しながらも頷き、新人達が居るアグスタへと後退して行く。

 

 

 

 

 

『囮だね(やね)』

 

 展開される空間ディスプレイで戦場の様子を見ていたなのはとはやては、揃って敵の狙いを悟った。

 最初の方は自動機械の動きだったのに、急に有人操作に切り替わった。その目的は間違い無く、機動六課の隊員達を戦場に釘付けにする為。

 つまり、敵の狙いはアグスタの中に在る。敵側に優れた召喚士が居るのならば、ホテルに召喚獣を送り込む事など造作も無いに違いない。

 

「不味いね。コレでオークションが中止になったりしたら」

 

「ヴィータとシグナム、ザフィーラは前線に出過ぎてすぐには戻って来れへん。隊長陣は今からじゃ外に出ても間に合わんわ。加えて敵が狙っている物がオークションのロストロギアやったら、中止は確定……動くしかあらへんよ」

 

 なのはとはやては頷き合うと、すぐさま立ち上がり待機状態のデバイスを取り出す。

 

「レイジングハート・エレメンタル。セットアップ!」

 

「シュベルトクロイツ、セットアップ!」

 

 デバイスを起動させて二人はバリアジャケットと騎士甲冑を纏った。

 続いてなのははバリアジャケットのポケットの中に入っているディーアークを取り出し、ガブモンに顔を向ける。

 

「ガブモン君は完全体に進化してホテルの地下に向かって。敵の狙いが密輸品の方だった場合。このホテルで密輸品を隠すとしたら、其処しかないと思うから」

 

「分かった。だけど、なのは」

 

「姿は見せないよ。狙撃で召喚士を倒すから」

 

「それなら良いよ。じゃあ、行って来るよ!」

 

 ガブモンは窓の外に向かって飛び出し、空中へと踊り出した。

 同時になのはの持つディーアークから音声が鳴り響く。

 

《MATRIX-EVOLUTION》

 

「ガブモン進化!!」

 

 ガブモンの体をデジコードが覆って行き、繭を形成した。

 繭は大きさを増して行き、四メートルほどの大きさになった瞬間、弾け飛ぶ。

 弾け飛ぶと共に大柄な影がアグスタの壁を蹴りつけて、一瞬の内に地上に辿り着け、俊足の速さでアグスタの地下駐車場へと走って行った。

 その様子を見ていたなのはとはやては頷き合うと、今度は、はやてが肩に乗っていたリインに声を掛ける。

 

「今度はあたしらの番や。幾でリイン」

 

「はい、はやてちゃん! ユニゾン・イン!」

 

 はやてとリインはユニゾンし、はやての目は青色に染まり、髪も白くなった。

 

「探知は私がするから、なのはちゃんは狙撃をお願いするわ」

 

「了解。オークションは絶対に中止させないよ。探知している間に、フリートさんには連絡しておくから」

 

「分かったわ」

 

 二人は頷き合おうと、すぐさま行動を開始するのだった。




リメイク前と違い、フリートは機動六課には行きません。
代わりに別の人物が行きます。

ある意味StrikerSの見せ場のティアナと高町なのはのぶつかり合いは、大きく変えようと思います。ティアナとスバルに勝たせる方向で。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。