漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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にじファン時代に投稿していた特別篇第四章のリメイク版です。
以前よりもアンチ要素を少なめにしようかと考えています。

また、本編のネタバレが幾つか在りますのでご注意下さい。


第三章 アルハザード最悪にして最凶の兵器


 ミッドチルダとある山岳付近。

 その場所で私服を着て、変装のつもりなのか茶色コートを着込み、伊達めがねを掛けている茶色の髪の女性-八神はやてと綺麗な黒髪を腰の辺りまで伸ばしている女性-レナ・セフィル、そしてはやての肩に乗って同じく茶色のコートを着込んだ銀髪に蒼い目の小人のような少女-リイン-が双眼鏡を構えながら、遠くに見えるリニアレールを眺めていた。

 二人の視線の先に映るのは空中で大量のガジェットⅡ型と戦っているなのはとフェイトの姿。

 しかし、それを見ているはやては顔を険しく歪め、次にリニアレールで繰り広げられている戦いの方に双眼鏡を移動させる。

 目撃して行く光景に刺々しいはやての気配に、リインは怯えてレナの肩へと移動する。

 移動して涙目になっているリインを慰めるように撫でながら、レナがはやてに声を掛けて来る。

 

「……はやて……私は疑問なのだが……アレは本当に高町なのはとフェイト・テスタロッサなのか? 特に高町なのはの方は?」

 

「……私も信じられへんけど……確かにアレはこの世界のなのはちゃんとフェイトちゃんに間違いないわ……だけど、どう見ても魔力リミッター付けてるみたいやね……まぁ、それでもなのはちゃんが普通の魔導師としか思えへんけど……(私らの世界のなのはちゃんが異常過ぎなのかも知れへんけど)」

 

「なるほど……道理で私が知る二人よりも実力が低過ぎる訳だ……だが、動いている者は空に浮かんでいる二人とリニアに居る四人だけなのか?」

 

「レナ。四人だけじゃないですよ。この世界のリインも居ました。でも、シグナムやヴィータの姿が見えませんです」

 

「この世界のリイン姉さんは私達の世界と違って、ただ(・・)のユニゾンデバイスの筈……空中戦を行なっている高町なのはとフェイト・テスタロッサの二人に、リニアに乗り込んだ五人……それだけの人数でリニアレールを護り切れるのか? ……アレだけの機械兵器から?」

 

「……無理に決まっとるわ!! 何考えているんや! この世界の私は!?」

 

 遂に怒りが理性を上回ったのか、はやては持っていた双眼鏡を握り潰し、怒りに染まった相貌を彼方に見える戦いへと向ける。

 そんなはやての姿にレナとリインはこの世界に来る前に感じた嫌な予感が的中したと感じながら、レナは自身の持っていた双眼鏡をはやてに手渡し、自分達がこの世界に来る事になった経緯を思い出す。

 事の起こりは二週間前。アルハザードでフリートがとんでもない兵器を、【平行世界】で見つけた時から始まる。

 

 

 

 

 

 

 アルハザード内部のフリートの研究室。

 その場所の主であるフリートは楽しげに自身の目の前に広がる映像を眺めながら、手を動かして何らかの作業を行なっていた。

 

「フフ~ン♪ もう少しで完成ですよ♪ う~ん、たまには現在の管理世界で造れるレベルで尚且つ普通なら考えないようなテーマを基にデバイスを造るのも面白いですね♪」

 

 そう言いながらフリートは楽しげにデバイスの作製に勤しんで行く。

 余計な行動をせずに静かに研究を続けるフリートの様子は、周囲が平穏を感じるように静かと言える状況だった。だが、その静けさを破るように、突然にモニターの一角からアラート音が鳴り響く。

 

「ん? あっ、確かこれはリンディさんに頼んで許可を貰った平行世界探索用の機器から発せられる警報音ですね。もしかしてアルハザードの技術でも在ったんでしょうか?」

 

 色々とやらかしてしまったせいで、許可なく平行世界に行けなくなったフリートだが、其処はやはり研究狂。

 リンディに頼み込んで平行世界の一つに探索機器を送る許可だけは貰ったのだ。序に『アルハザードの技術』関連だった場合反応するように設定して在った。

 前の時は向かった先のアルハザードの情報抹消に動いたが、流石に今回は無理だろうと思いながら、フリートは探索用の機器に映し出された映像に目を向け、一瞬にしてその顔は恐怖で青褪める。

 

「……んなっ!? な、何ですって!? ま、まさか!? こ、コレは!?」

 

 送られて来た映像を目にした瞬間、フリートは何時もの余裕など完全に消し飛び、モニターに映っている『青色の菱形の宝石』と、その宝石に関するデータを見つめる。

 

「な、何で“コレ”が存在しているんですか!? と言うか管理局が『オークション』の出品予定って!? “コレ”を一般に出品!? 正気ですかって!? って、そう言えばコレはとんでもない隠密能力が在るんでしたァァァァァァーーーー!? ま、不味い!! もしも、コレが起動したら危険過ぎますゥゥゥゥーーーーーーーーー!!!!!」

 

 何時もは何処か余裕が在るフリートだが、今回ばかりは不味いどころの騒ぎでは済まない。

 下手をすれば、情報が送られて来た先の『平行世界』が確実に滅びるほどの危険物なのだ。しかも、ただ滅びるだけでは済まない。

 〝管理局と言う組織が認識している全ての世界が滅びる事態に、発展する危険性を秘めた代物なのだ゛。

 

「どうしましょう!? 如何しましょう!? そ、そうです! 平行世界なんだから、あっちにも私が居る筈! 情報を送って回収して貰いましょう!!」

 

 この場にリンディ達が居れば、死んでも止めるような方法だが、フリートは構わずにコンソールを操作する。

 平行世界に送った探査機器から電波が飛ばされ、あちらのアルハザードと通信を繋ごうとする。

 焦りながらもフリートは通信が届くのを願うが、その願いは届かず、エラー表示だけが空間ディスプレイに表示された。

 

「………ノオォォォォォォォーーーーーーー!!!! つ、通信が届かないと言う事は、あ、あちらの世界には、私が居ないぃぃぃぃっ!! ど、どうしましょう!? 如何しましょうぉぉぉっ!!! ……こ、こうなったら……」

 

 覚悟をフリートは決め、今度はこちらの世界に居る自身が最も苦手な相手へと通信を繋ぐ。

 

「リンディさん! リンディさん!!」

 

 繋がると同時にすぐさまフリートは通信回線を開き、リンディに連絡を取った。

 通信が繋がり、凄まじく不機嫌そうな顔をしたリンディが空間ディスプレイに映る。

 フリートが慌てる時は、大抵禄でもない事に決まっている。しかも、既に事が起きている場合が多い。また、今回もやってくれたのだと思ったリンディは、不機嫌さに満ち溢れた声で質問する。

 

『……今度は何をやったのかしら? 言い訳ぐらいは聞いてあげるわ』

 

「こ、今回は私じゃないです!! ほ、ほら! 前に平行世界の一つに探索機器を送りたいってお願いしましたよね!」

 

『えぇ、確かに在ったわね……まさか、また行きたいなんて言うつもりかしら? 絶対にダメよ! また、禄でもない事が起きるに決まっているんだから!!』

 

 過去の経験から平行世界に向かえば、碌な事にならないとリンディは確信している。

 これ以上、平行世界の問題に関わりたくは無い。故にリンディは絶対に許可しないつもりだったが、フリートが顔を蒼白にして説明する。

 

「ほ、本当に不味過ぎるんですよ!? アレは起動したら最後!! “次元世界全部にとんでもない被害を呼ぶ兵器”なんです!!! 対処なんて向かう先の平行世界の管理局には絶対無理です!! ほぼ間違いなく、起動したら管理局が認識している世界全てが滅びます!! 何せアレは、アルハザードが造り上げてしまった最悪にして最凶の兵器なんですぅぅぅぅーーー!!!」

 

『……な、何ですって?』

 

 フリートが告げた事実にリンディは怒りも思わず忘れて呆然とした声を出したのだった。

 

 

 

 

 

 地球の日本、海鳴市高町家。

 母と父の喫茶店である『翠屋』の手伝いを終えたなのはは、ガブモンと共に家に帰宅し、夕飯の用意をしていた。

 其処に珍しくミッドチルダから八神はやてとユニゾンデバイスであるリインに、はやての秘書であるレナ・セフィルが来訪して来ていた。

 

「休暇が欲しいんよ」

 

「邂逅一番に何を言っているの? はやてちゃん」

 

 自身の目の前に座って言葉を放ったはやてに、なのはは訳が分からないと言うような顔をしながら質問した。

 もしかして仕事が忙し過ぎて遂にノイローゼになったのかと、失礼な事を考えているなのはの隣で紅茶の用意をしていたガブモンも同じなのか、はやてとその隣ですまなさそうに頭を下げているレナとリインを見つめると、はやては暗く顔を俯かせながら、休暇が欲しいと告げた経緯を語り出す。

 

「……なのはちゃんも知っとると思うけど……もう地上はてんてこ舞いな状況なんよ。来る日も来る日も仕事の日々……二十歳の誕生日が迫っている今、私は少しだけ休暇が欲しくなったんや」

 

「(……はやてちゃん。やっぱり、ノイローゼに……此処は優しく声を掛けて上げよう)……でも、そう言う仕事を選んだのは、はやてちゃんでしょう? だったらさぁ…」

 

「……レジアス“大将”は三日休暇貰ってキャロとリュウダモン、フリード、そしてポーンチェスモン(白)とオーリスさんと家族旅行……ゲンヤさんは長期休暇を得て、クイントさんとデート……新しいお子さんが生まれるかもしれない濃厚な数日を過ごしたそうや。休暇が終わった筈なのにやつれとったゲンヤさんと肌がツヤツヤだったクイントさんが印象深かったわ」

 

『……』

 

 はやてが告げた事実になのはとガブモンは言葉が出せなかった。

 つまり、レジアスやゲンヤの幸せとしか言えない休日を知って、仕事の疲れが溜まっていたはやても休日を取りたくなったのだ。だが、ミッドチルダや他の管理世界で有名なはやてが普通な休日を取れる筈もなく、地球でも色々と有名になってしまった為に、はやては歩くだけで人々から見つめられるだろう。

 しかし、どうしても普通な休日を取りたかったはやては自身と同じように休暇が取れたレナとリインを連れて、神頼みではなくなのは頼みでやって来たのである。

 

「お願いや、なのはちゃん!! 一日が数日になるような道具ない!? ほら、私が負った大怪我を治療したり、なのはちゃんのレイジングハートを改造したあの人なら、それぐらい出来そうやろう!」

 

「あのね、はやてちゃん。幾ら、あの人でも今の世界ではやてちゃんが目立たずに休暇を取れるような機械なんて……あるね」

 

「確かにあるけど……アレは……」

 

 はやての要求にピッタリ一致するような機械がなのはとガブモンの脳裏に過ぎった。

 しかし同時に、絶対碌でもない事が起きると確信していた。過去に使用した時の事を思い出しても、なのはは良い思いを最終的にした事がない。巻き込まれてしまったガブモンは尚更に。

 特にあの機械を使用して世界移動し、長時間その世界に留まっていた場合、最終的にその世界の自身に接触してしまう可能性が高いと言う結果が判明したのだ。

 コレに関しては、例の機械を製作した某マッド曰く。

 

『例え歩んだ道筋は違っても、本質は完全な同一人物ですからね。どうやらそれが原因で惹かれるらしいんですよ。いや~、私やブラックとか、特殊な存在は別ですけど、なのはさんとかは使ったら確実に出会うみたいです。間違いなくその世界の自分と』

 

「ッ!? ……ど、どないしたん、な、なのはちゃん?」

 

「こ、怖いです」

 

「アッ、ゴメンね。とっても不愉快な事実を思い出しただけだから」

 

 無意識のうちに魔力を込めてカップを握ってしまったことに気がついたなのはは、皹が入ってしまったカップを横に退かす。

 それを見たはやて、リイン、レナは一体何があったのかと疑問に思い、事情を知っているガブモンは困ったように自身の額に手をやる。わかっていたことだが、やはりあの件以降、なのはは平行世界の自身に対して過剰になっている。

 自らのありえたかもしれない、絶対に認められない自身の姿を二度となのはは見たくないのだ。

 前回の時はソレは酷かった。互いに認められないだけに、常に張り合い、帰る時まで何度も喧嘩し合っていた。仲が良い喧嘩などでは絶対に無く、相手を打ちのめそうとする喧嘩。張り合って大怪我を負いそうになる度にガブモンが止める羽目になっていた。

 それは目の前に居るはやてにも当て嵌まると、ガブモンは直感的に判断し、はやて、リイン、レナに頼まれた件を断ろうとする。

 

「え~と、はやてさんとレナの願いを叶えてくれる機械は、実は全部壊れているんだよ。だから、残念だけど二人の願いは…」

 

「……あろうかと」

 

『ッ!!』

 

 突然聞こえて来た声になのはとガブモンは不穏を感じて目を見開き、はやて、リイン、レナは首を傾げながら声の聞こえて来た方に目を向けてみると、勢いよく扉が開かれ、右手に機械的な銃らしき物を握ったフリートがリビングに足を踏み入れる。

 

「こんなこともあろうかと! 持ってきましたよ、【平行世界にいってらっしゃいガン】!! これさえあれば、時間なんて気にせず好きなだけ休暇が…」

 

「もしもしリンディさんですか? 何だか、いきなりフリートさんがやって来たんで、説明して貰いたいんですけど?」

 

「ヒェェェェェーーーー!! 止めて! 止めて下さい! なのはさん!! ちゃんと説明しますから、どうかリンディさんを呼ぶのだけは許してください!!」

 

 服の中から取り出した通信機を使ってリンディに連絡を取っているなのはに、フリートは慌ててなのはの服を掴んで懇願した。

 訝し気になのははフリートに視線を向ける。一応フリートとなのはは師弟関係に在るのだが、最早なのはの中でフリートに対する師匠の威厳は無い。魔導に関してだけは尊敬しているが、その他では全く尊敬していないのだ。

 

「と言うか、挨拶も無しで家に勝手に入って来たんですか?」

 

「……あの、私が入れたんですけど?」

 

 なのはの声に応えるようにリビングの扉の影から、恐る恐るワンピースを着た銀色の髪の少女-【リリィ・シュトロゼック】が姿を見せた。

 

「あ、あの、何度かインターホンが鳴っていたのに、な、なのはさんが気が付いて無かったんで、それで私が開けたら、リビングから聞こえて来た声を聞いたフリート先生がいきなり飛び出して」

 

「そうだったんだ。ありがとう、リリィちゃん」

 

「……シクシク、何だか弟子が師匠の私に対する態度が最近厳しくなって行きます」

 

 仲良く話し合うなのはとリリィに対して、フリートは部屋の隅でいじける。

 【リリィ・シュトロゼック】。とある事件が起きた時、ブラックがアルハザードに連れ帰った少女である。そのままフリートに治療され、一般的な生活が送れるようになった後は、一般常識を学ぶ為に高町家に居候している。

 翠屋でなのはと並ぶ人気のウェイトレスで、リリィ自身も人と触れ合える職業を楽しみ、充実した日々を過ごしていた。

 落ち込んで部屋の隅で暗くなっているフリートに、はやて達は冷や汗を流し、ガブモンが溜め息を吐きながらフリートに話しかける。

 

「それでフリートさん。今回は一体どうしたんですか?」

 

「ハッ! そうでした! なのはさん、ガブモン! どうか私と一緒に【平行世界】に向かって下さい!!」

 

「嫌です」

 

「即答!?」

 

 打てば響くと言うようになのはは笑顔で答えた。

 実際なのはは【平行世界】に行く気は全く無い。行けば休暇にもならない嫌な目に遭うのは目に見えている上に、フリートと一緒に行く。ガブモンが一緒に居ても、三日で胃に穴が開く自信がなのはにはあった。

 ガブモンも同意なのか、思わずお腹を押さえながら何度も頷く。だが、今回ばかりはフリートも万が一の為に戦力が必要なのだ。

 

「お願いします!! ほ、本当に不味いんですよ!! リンディさんにも説明しましたけれど、不味すぎる兵器が【平行世界】で見つかったんです!! このままだとあっちの世界は確実に滅んじゃうんです!!」

 

「……どういう事ですか?」

 

 本当に珍しいフリートの必死な表情に、なのはは疑問を覚えて質問し、横で静観していたはやて、リイン、レナ、ガブモン、リリィもフリートに疑問に満ちた視線を向けた。

 話を聞いてくれると思ったフリートは、青色に輝く菱形の宝石のような物が映し出された空間ディスプレイを展開して説明を開始する。

 

「戦略型世界破壊兵器【寄生の宝珠】……その昔、私の世界が開発した世界破壊兵器の一つでして、送った先に存在している兵器に寄生して自己進化を開始し、その後に自己判断で動く兵器です。しかもこの自己進化のレベルが半端じゃないんです……例えばスカリエッティが開発したガジェットⅠ型に寄生した場合ですけど……魔力の結合が全く出来ないレベルのAMFは当たり前のように広範囲に展開して、リミッター付きのなのはさんのスターライトブレイカークラスの砲撃なんてバンバン撃ちますね。因みに連射可能で。装甲も多分艦砲射撃ぐらいは耐えられるかもしれません」

 

『ブゥッ!!』

 

 顔色を暗くしながらフリートが告げた【寄生の宝珠】の機能に、なのは達は噴き出した。

 余りにも兵器が強力になり過ぎている。ガジェットⅠ型と言えばスカリエッティが開発した兵器の中では一番弱いはずの兵器。AAランクの魔導師でさえも脅威にはなるが、AMFさえなければ簡単に破壊出来る兵器である。

 だが、フリートが告げた【寄生の宝珠】に寄生された場合、例えSランクオーバーの魔導師でも倒すことが出来なくなる。ガジェットⅠ型でそれなのだ。もしも他の兵器に寄生したら、どんな兵器に進化してしまうのかは、フリートでさえも恐怖を感じるほどだった。

 

「ガジェットⅡ型ならば、常時音速飛行を行ってソニックムーブを引き起こして、通り過ぎた街などは跡形も無く崩壊。ガジェットⅢだったら全長五十メートルクラスの大きさに進化して、周囲のビル群を崩壊させるだけの攻撃力に加え、ミッドチルダが魔法を全く使えない世界になるでしょう……後はスカリエッティが保有しているガジェットのオリジナル。向かう先の世界では何故かⅣ型と呼ばれているモノだったら……いかなる探知機を持っても発見することが出来ないステルス性能を手にいれ、数百メートル以上を一瞬にして切り裂く機能を得るでしょう……因みにですけど、あるんですよ。その世界にはまだ……あの【聖王のゆりかご】が」

 

「う、うそ……フリートさん……もしも【聖王のゆりかご】に、その【寄生の宝珠】が寄生したら……どうなるんですか?」

 

「……多分ですけど。月のエネルギーなんて気にせずに強化された兵器類で……ミッドチルダは一時間とかからずに廃墟になるでしょう……まぁ、これはあくまで私の推察ですけど、あっちの管理局が保有しているデータ次第では、更なる今説明した進化以上の事が起きる可能性は高いです……まさか、【寄生の宝珠】が残っていたなんて予想外でした。何せ【寄生の宝珠】は禁断の兵器の一つとしてデータだけでしか存在していない兵器だったんです……良く思い出してみると、此方の世界でずっと昔のことですけど、そのデータを盗んだ奴がいたんです。何とか作られる前に犯人は発見……そのすぐ後に処断しましたけど……多分アチラの世界では製造されてしまったんですよ」

 

「ちょっと待って下さい? その兵器が開発された世界では、どないなっているんです?」

 

「確認したところ、跡形もなく滅んでましたよ。今は砂漠と荒野だけが広がる無人世界になっていました」

 

『ッ!?』

 

 フリートが告げた事実にはやて達は言葉を失った。

 事前にフリートはリンディに許可を貰った後、向かう先の世界に関する情報を探査機器を駆使して集めた。その結果、【寄生の宝珠】を開発した世界は滅亡。其処に残された唯一の遺跡内部に在った【寄生の宝珠】を管理局が回収した経緯も調べ上げた。

 

「昔、【寄生の宝珠】を盗んだ連中は馬鹿としか言えませんでした。私達の世界でさえも開発を躊躇い、禁忌のデータとして扱っていたのに、強力な兵器欲しさにデータを盗み出した。何せ【寄生の宝珠】には重大な欠陥が在る事がデータから読み取れたからです」

 

『欠陥?』

 

「えぇ、欠陥です。【寄生の宝珠】は、相手側のデータを読み取ると言う過程のせいで、兵器を送った側のデータも調べ上げてしまう。つまり、敵味方の区別が付けられない虐殺兵器にしかならない。使うとすれば、本気で全ての世界を滅ぼす事を望む奴ぐらいでしょう。だけど、盗んだ連中はそれに気が付かずに開発して使用。結果、滅んだみたいですね」

 

「そ、それを知らずに、【平行世界】の管理局は回収してしまったんですね?」

 

「そうです」

 

「……で、でも、かなり昔の兵器なら、既に機能不全に陥っているはずとちゃうんですか?」

 

「甘いですね、八神はやて。一度製造したら一万年は稼動させるが、私の世界の研究者達の誇りでしたからね」

 

「いらへんわ! そんな誇り!!」

 

「同感だが……フリート・アルード。その兵器は何故動いていないんだ? 貴様の世界の全盛期が開発した兵器ならば、管理局の封印魔法程度では抑えきれんと思うのだが?」

 

「そう言えば、そうだよね」

 

 レナの疑問にガブモンも同意するように声を出し、確かにその通りだとなのはとはやても思う。

 幾ら管理局の技術でも、流石にアルハザードの遺産までは封印しきれない。それほどまでにアルハザードの技術は恐ろしく高度なのだ。はやて、リイン、レナは、なのはとフリートが扱っている技術がアルハザード由来の物だとは知らないが、それでも異常過ぎる技術力を持つフリートの世界の産物ならば、管理局で封印出来るとは思えない。

 その疑問に答えるようにフリートは、正座したまま腕を組みながら自身の推測を語りだす。

 

「恐らくですけど、【寄生の宝珠】はその辺の兵器では管理局に関わる全ての世界を滅ぼしきれないと判断したのかもしれません。つまり、運が良いのか悪いのか、【寄生の宝珠】は動きたくても動けない状況に在る訳です。まぁ、それも何時まで持つのか分かりませんけど」

 

『……』

 

 聞かされた面々は顔を蒼褪めさせながら見合わせた。

 核兵器を遥かに超える禁断の兵器が自分達の傍で眠っていると知らされ、平然としていられる者が居る筈が無い。しかも、誰も気が付かずに。

 確実にこのまま行けば、何れ最悪にして最凶の兵器が目覚め、数え切れない人々の命が消え去るだろう

 

「で、でも、そんな危険なロストロギアやったら封印指定に…」

 

「ロストロギアのオークションに出展してお金を手に入れようとしていますね」

 

『…ハッ?』

 

 その場に居る誰もが一瞬フリートの告げた事実の意味が解らず、呆気にとられたように口を大きく開けた。

 フリートはその理由がよく解っているのか、途轍もなく呆れたように溜め息を吐きながら自身が得た情報を話し出す。

 

「『寄生の宝珠』で一番恐ろしい機能は、その隠蔽能力なんですよ。管理局の技術程度ではただの綺麗な宝石程度としか解析出来ない……そして安全だと確認した『寄生の宝珠』を、管理局はオークションに出展しようとしているんです」

 

「……ねぇ? はやてちゃん? ……私、あんまりミッドチルダに行ったことが無いからよく解らないんだけど? ……やってるの?」

 

「……やっとる……確かに管理局はやっとったわ」

 

 なのはの質問にはやては頭を抱えながら、確かに管理局は取引許可を得た【古代遺物(ロストロギア)】の出展を認めている事実を思い出した。

 確かにフリートの言うとおり、管理局は幾つかの検査機構を突破した【古代遺物(ロストロギア)】ならばオークションへの出展を認めているのだ。最もはやて達の世界では、このシステムの危険性を理解したレジアスの手によって二度とロストロギアのオークションは行われないことが決められたのだが、平行世界では平然と行っている。

 そして今回、どんなロストロギアがあるのかフリートが送った探査機器が調べて、見つけたのである。世界を滅ぼしてしまうかもしれない危険なアルハザードの遺産である【寄生の宝珠】を。

 

「でも、行っとった時は、無限書庫でも調べたはずなんやけど?」

 

「そうです。ちゃんと無限書庫で確認されてから出展されていた筈です」

 

 はやてとリインはそう疑問を提示する。

 その疑問にフリートはアッサリと、二人の認識の間違いを告げる。

 

「あの欠陥データーベースで在る無限書庫に、完全に滅んでしまった世界の情報まで詳しく記されているとは思えませんね。特に私の世界は、滅びる前に徹底的に自らの世界の情報の隠蔽に動いてましたから。まぁ、見逃してしまった技術は幾つかありますけど、兵器関係は完全に処理したはずですから【寄生の宝珠】のデータなんてあるわけないです」

 

「……そやった。無限書庫のデータを信じすぎとったわ」

 

 はやてはフリートの説明を理解し、確かにその通りだと頷いた。

 管理局が誇るデータベースである無限書庫が作られたのは、アルハザードが姿を消してから百年ぐらい後。故に【寄生の宝珠】の情報など存在していなかった為に、その世界の管理局は自分達の検査機械を信用しきって【寄生の宝珠】をオークションに出展してしまったのだ。或いは【聖王のゆりかご】の情報を得た【寄生の宝珠】が、情報を操作した可能性も考えられる。

 オークションでロストロギアを手に入れた一般人は、ある程度は安全に管理するだろうが、管理局ほどの管理は行わないだろう。つまり何時何処で【寄生の宝珠】が稼動するのか、全く分からないのだ。

 

「と言う訳で、【寄生の宝珠】は何が何でも回収しないと不味いんです!!」

 

「……事情は分かりましたけれど……フリートさんが態々回収しに行く必要は無いんじゃないですか? 例えばあっちの管理局に情報を送って……はやてちゃん、どうかな?」

 

「……無理やと思うわ、なのはちゃん」

 

 不安になったなのはの質問に、はやては首を横に振った。

 危険なロストロギアの情報ならば、確かに管理局は動くだろうが、問題は内部で既に検査が通ってしまっている事に在る。自分達の技術に自信を持っているだけに、名も知れない相手がいきなり実は危険なロストロギアだと言っても信じてくれるわけがない。

 幹部級の人間が動けば別だろうが、あちらの管理局にコネなどないフリートでは情報を送っても信じられずに検査機器と無限書庫の確認の方が信じられてオークションに出展されるだろう。

 

「一応あちらの世界の私に頼んで回収して貰おうとしましたが」

 

『……えっ?』

 

 なのはとガブモンは思わず顔を見合わせた。

 まさか、そんな手段を取ろうとした居たのかと、一気に二人の顔は蒼白に染まる。

 

「困った事に、どうもあっちの世界には私が居ないみたいなんですよ」

 

『な、なんて平和な世界!?』

 

「……シクシク、リンディさんも同じことを言ってましたよ」

 

 同じようなやり取りにフリートは再びいじけた。

 とは言え、日常的に問題行為やマッド的な事をやっているだけにフリートに対する信頼は全く無い。

 だが、今回ばかりはかなり不味い事になのはとガブモンは気が付く。アルハザードの遺産に対抗出来るのは、アルハザードの技術を全て扱えるフリートのみ。

 そのフリートが【寄生の宝珠】を発見した【平行世界】に居ないとなれば、次元世界の滅亡は先ず間違いない。アルハザードの魔導技術の一端を学んだなのはには、嫌と言うほど理解出来た。

 

「お願いします、なのはさん!! もうなのはさんとガブモン以外に頼る相手が居ないんです! ブラックは話を聞いても、全く興味を示してくれませんでした! 契約が在るにしても、アレはこの世界の私の世界の技術の回収だけですから無理です! ルインさんもブラックが協力しないなら行く気は無いって言われたんです! ヴィヴィオちゃんとあの子はミッドチルダで出来た友達とピクニックの約束が在るんで頼めません! クイントさんは何か知りませんけど、腰を痛めたらしいんで無理! ティアナとクダモンは、あのデジモンと七大魔王デジモンのデジタマの回収で忙しいですし、リンディさんはブラックとルインさんの説得中で、もうなのはさんとガブモンしか居ないんです!! もう最悪私一人で行こうかと思ったら、リンディさんが絶対駄目って言う始末ですし!!」

 

『いや、ソレは当然の事ですよね』

 

「グホッ!!」

 

 異口同音でなのはとガブモンに答えられたフリートは、遂に胸を押さえて崩れ落ちた。

 とは言え、確かに放って置く訳には行かないほどの大事だとなのはとガブモンも理解出来た。

 アルハザードの技術の暴走は現代ではどうする事も出来ない大事なのだ。その事をアルハザードの技術を学び、扱っているなのはは嫌と言うほど理解している。

 平行世界には行きたくはない気持ちは強いが、ソレを上回るほどに放って置けないと言う気持ちが湧いて来た。

 

「……本当に回収するだけなんですよね?」

 

「はい! 一応【寄生の宝珠】に寄って滅びた世界の調査はやりますが、オークションに出される【寄生の宝珠】の回収を終え次第帰還します! リンディさんもその案で許可を頂きました! なのはさんとガブモンに来て貰うのは万が一の事態に対応する為ですから! オークションの時以外は別世界で遊んで居ても構いません! だから、どうかお願いします!!」

 

 完全に師匠の威厳が消えるほどに深々とフリートはなのはとガブモンに土下座した。

 その様子に今回は本気で不味いのだとなのはとガブモンは理解する。何時もは魔導技術関連ならば何処か余裕が在るフリートが、本気で焦っているのだ。

 其処までの危険性が【寄生の宝珠】には秘められている。聞くだけでも起動したら最後、現代の魔導技術全てに対応出来る最悪の兵器。それだけではなく、管理局が保有しているロストロギア全てを解析出来る可能性までも【寄生の宝珠】は秘めている。

 アルハザードは次元世界で過去現在において、最も魔導技術が進んでいる世界なのだから。

 

「………分かりました。ハァ~、会いたくないな」

 

「そうだね。会いたくないね」

 

 暗い溜め息を吐くなのはにガブモンも同意するように頷いた。

 最もガブモンの場合は、出会った時に生まれるであろう被害を思ってなのだが、そんな事を知らないなのはは平行世界に向かう為の準備を行おうとする。

 静かに話を聞いていたはやて、リイン、レナは顔を見合わせると、何かを決意したようになのはにリンディに声を掛ける。

 

「待ってな、なのはちゃん。私、リイン、レナも一緒に行くわ」

 

『えっ?』

 

「いや、此処まで状況知っとって見逃すのは、後味が悪いし。平行世界なら変装さえすれば、自由に動けると思うんよ。だから、リインとレナと一緒に協力するわ」

 

「私も同感だ。それに私とはやて、そしてリイン姉さんも加われば、万が一の事態に陥った時にも対抗しやすいだろう」

 

「そうです! リインも協力します!」

 

「……いや、確かに戦力が在った方が万が一の事態に対抗出来ますけど」

 

 はやてとレナモンの説明にフリートは同意しながらも、困ったように顔を歪めた。

 万が一の事態とは、【寄生の宝珠】が【聖王のゆりかご】に寄生した場合だった。【聖王のゆりかご】は幾つかの欠点はあれど、世界を滅ぼす兵器である。

 【聖王のゆりかご】と【寄生の宝珠】が融合したら、それこそ、その力は確実に究極体の領域に到達する。失敗したらフリートも全力で動き、ブラック達全員が出張らなければならない事態に発展してしまうかもしれない。その点を考えれば、戦力は在った方が良い。

 はやてとレナは、究極体へと進化する事が出来る。そしてリインは。

 

(……ルインさんの問題点を改修して造られたユニゾンデバイスですからね)

 

 はやてがデジモンとの戦いの為にリインフォースと管理局、聖王教会の技術者達と協力して造り上げたユニゾンデバイス。それこそがリインの正体。

 ルインフォースを人間が使う為の問題を全てクリアしてリインは造られた。その為にルインとはやて達の関係は決定的に破局する事になったが、ソレでもはやてはリインを造り上げた。

 デジモンに対抗する為にはやてはその道を選んだのだ。おかげで直接出会えばルインからは視線だけで相手を殺せるレベルの殺気をむけられるようになったが、ソレ(・・)だけで済んでいるとはやては思っている。

 

(元々ルインさんとの敵対関係は確実ですから問題は無いと言えば問題は在りませんが……確かに戦力としては助かります)

 

 悩みどころでは在るが、戦力が多いのはフリートとしては助かる。

 【寄生の宝珠】が覚醒した場合は、フリートは最悪の場合、全力で動くつもりだった。

 向かう先の世界では既にアルハザードが滅んでいるので、何れはアルハザードの存在は完全な御伽噺になるので問題は無い。最もフリートが全力を発揮すれば、アルハザードの存在に気が付く者も出るだろうが、例えアルハザードに辿り着いたとしても、其処は既に滅んだ世界なのだ。

 フリートからすれば問題は全く無く、全力を発揮出来る世界なのである。

 しかし、はやて達が戦力に加わるのはフリートには問題は無くとも、なのはとガブモンにとっては違った。

 

「は、はやてちゃん! 止めておいた方が良いよ! ほ、本当に嫌な思いをするから!」

 

「そうだよ! 絶対に不味い事になるから!」

 

 最初はなのはも別世界の自分とは相性が悪いだけだと思っていた。

 だが、違った。経験の差。環境の違い。その他様々な要因と過程に寄って、過ごした日々の違いによって本質的には同一人物で在りながらも全くの別人。しかし、本質的には同一人物の為にいがみ合ってしまう。

 無論別世界の自身に会ったとしても必ず反目し合う訳ではない。なのは以外に別世界の自分で反目し合わず、仲良くなった者も二人いる。

 その件を考えればはやても必ず別世界の自身と反目し合う関係になるとは限らないが、前回の世界の事を考えれば、先ず間違い無く仲良くなれるとは思えない。だから、何としてもはやて達を思い留まらせようとするが、その前にフリートが答えを出す。

 

「構いませんよ」

 

『フリートさん!?』

 

「まぁ、戦力は多いに超したことはありませんから……ソレに……最悪の可能性も考えられますからね」

 

「さ、最悪の可能性って?」

 

「さぁ! 急いで準備をしましょう! あっちに着いたら色々と準備をしないと行けませんからね! いざ、平行世界へです!!」

 

 フリート、はやて、リイン、レナ、なのは、ガブモンはそれぞれ準備を終えると、平行世界に向かうのだった。

 

 

 

 そして現在、【寄生の宝珠】が売りに出されるオークションの日程が判明し、資金の用意も終えた。

 後は【寄生の宝珠】が発見された世界の調査とオークション当日に【寄生の宝珠】を買い終えるだけで目的は完了する。

 その調査は俄然にやる気になっているフリートがやっているので、はやて達は完全に暇になっていた。

 其処ではやて、リイン、レナは、なのはが何故あそこまで平行世界の自身を嫌うのか、その理由を知る為にフリートが教えてくれた機動六課の任務地に訪れたのである。

 因みに強奪や秘密裏に盗むと言うある意味では手っ取り早い方法を使わないのは、どうせ売りに出されるのならば正攻法で手に入れようと言う珍しくまともなフリートの意見を了承したからだった。

 無用な混乱は起こす訳にはいかないので今回は目立たずに動こうと決めたのだが、目の前で繰り広げられるこの世界の機動六課の動きにはやての苛立ちは募っていた。

 

「何でたったの七人だけしか動いてへんの!? しかも、エリオとキャロが二人だけのコンビって危なすぎるわ!?」

 

「確かにな。私達の世界のキャロならばパートナーデジモンが居るから多少の問題は回避出来たが、この世界ではエリオとキャロの二人だけ……ん? そういえば何故キャロはフリードリッヒを真の姿に戻さないのだ?」

 

「フリードが加われば空中戦力が増えるのに、可笑しいですね?」

 

「そう言えばそうやね。何でやろう?」

 

 レナとリインの疑問にはやても確かにその通りだと頷いた。

 この世界にはキャロのパートナーデジモンが居ないので、自分達の世界よりも戦力としては低いが、キャロにはフリードリッヒとヴォルテールと言う二体の竜が存在している。現状の状況ならば一番戦力が低いキャロとエリオの場所には、真の姿に戻ったフリードリッヒの力が必要なはず。

 しかし、キャロは一向にフリードリッヒを真の姿に戻そうと言う様子はない。AMFが原因だとしても、そもそもAMFの範囲外でフリードリッヒを真の姿に解放していれば済む問題なのだ。

 何故なのかとはやて達が疑問を覚えながら、機動六課の動きを注視していると、キャロの顔に浮かぶ僅かな気持ちをレナが読み取る。

 

「……怯えているのか?」

 

「……まさかと思うんやけど……この世界のキャロ……まだ自分の力を制御出来てへんとちゃう」

 

「何?」

 

「前にオーリスさんから聞いたんやけど、キャロが自分の力と向き合えるようになったんは、ブラックウォーグレイモンとの出会いのおかげなんやて。でも、この世界ではブラックウォーグレイモンはおらへん」

 

「なるほど……そのせいでこの世界のキャロは確りと自身の力に向き合わぬまま、あの状態になったのか……だが、そうだとすれば尚更にエリオと二人で行動させるのは危険であろう。力を制御していないと言うことは、暴走する危険もあるぞ?」

 

「そうや。フリードの暴走が起きたら敵も味方もない。それだけやない。失敗したらリニアが崩壊して大惨事になってしまう……其処まで考量しての配置したんやろうか? この世界のなのはちゃんは?」

 

 はやてはそう疑問に思いながら、ガジェットⅡ型と戦い続けているなのはに双眼鏡を構えた。

 その戦いの様子からは、キャロとエリオを気にしている様子はない。寧ろ目の前の戦いだけで精一杯の様子しか見受けられなかった。

 この様子ではレリックの回収に向かったスバルとティアナも、リインに任せっきりだと確信しながら再びキャロとエリオに双眼鏡を向け、目を見開いた。

 はやての視界の先にはエリオがガジェットⅢ型にリニアレールから放り投げられ、キャロがエリオを助けようと飛び降りる姿が映っていたのだ。

 

「なっ!?」

 

「馬鹿な!? 何を考えているんだ!?」

 

 キャロがリニアから飛び降りるのを目撃したはやてとレナは、揃って驚愕に満ちた叫びを上げた。

 二人は知っている。キャロが飛行魔法を使用することが出来ないことを。フリードリッヒが真の姿に戻らなければ、キャロは空を飛ぶことが出来ずに下に落下するしかないのだ。

 一応エリオは空を短時間は飛ぶ事が出来るが、気絶しているから飛ぶことなど不可能。キャロの行動は只の自殺行為にしか見えず、はやてとレナは慌ててなのはとフェイトに双眼鏡を向ける。

 今からでは距離が離れている自分達は間に合わない。間に合わせることが出来るのはなのはとフェイトだけだと思いながら双眼鏡を構え、はやてとレナは信じられないモノを目撃した。

 

「……でや……なんで」

 

「……何を考えているのだ。この世界の高町なのはは?」

 

「何でそんな嬉しそうな顔が出来るんや!?」

 

 はやてとレナが目にしたのは、嬉しそうな顔でエリオとキャロを見続けるなのはの笑顔だった。

 

 それから数十分後。最終的にキャロは運がよくフリードリッヒの解放に成功し、その後に意識を取り戻したエリオと共にガジェットⅢ型の破壊に成功。レリックの回収も成功して任務は成功を収めた。

 だが、遠くから見ていたはやてとレナは任務の内容に非情に不機嫌なオーラを放っていた。

 

「……質問だが、機動六課部隊長として今回の任務結果はどう思う?」

 

「……最低な結果に決まってるやろう。レリックの回収に成功? 確かに一見成功しているようには見える。せやけど、機動六課が今回の任務で敵側に知られたことは大き過ぎる。多分やけど、今回の敵側の目的は機動六課の情報収集が目的やったはずや。じゃなければⅢ型の機動テストってところやろうね。何が何でも欲しいレリックやったら、援軍をもっと送っとるはずやろうから。それに……リニアも破壊しようとしてへんかったし」

 

 先ほどの戦闘の中で、ガジェット達はリニアレールやリニア本体の破壊を行なってはいなかった。

 もしもソレが行なわれていたらどうなっていたかを考えれば、はやては頭が痛くなる思いだった。

 最悪の場合はレリックが暴走してフォワードメンバーは全滅。運よく暴走が起きなくても、リニアの破壊に巻き込まれてスバルとティアナ、リインが負傷していた可能性が高い。

 この世界の機動六課の部隊メンバーの少なさを考えると、負傷者が出て戦線離脱は大損害になってしまう。

 

「……あかん……今回の件で隊長陣達もリミッターが付けられている事は知られている筈や……不味い。不味過ぎる」

 

「はやてちゃん! 待って下さいです!」

 

「……何やのリイン? 私は自分が部隊長だったらどうやって挽回出来るか考えてるんやけど?」

 

「そうです! 確かに今回の件は挽回が難しいかも知れません! でも、全部ソレがこの世界のはやてちゃんの策略の可能性もあります!」

 

「……私の策?」

 

「どういう事だ? リイン姉さん?」

 

 はやてとレナはゆっくりとリインに疑問に満ちた視線を向ける。

 

「良いですか。前提条件が間違っているんです。先ずこの世界のはやてちゃんはわざと機動六課の戦力を見せたに違いありません。きっと裏では地上本部の人達と協力関係に在るに決まってるです!」

 

「……なるほど。地上本部に援軍を頼まなかったのは、不仲と敵側に思わせていざと言う時に協力する為か。部隊内のメンバーに危険は多いが、後々確かに強力な手札になる……はやてならばやるな」

 

「う~ん? ……確かに私ならソレぐらいはやりそうやね。今回の事件の犯人は広域次元犯罪者のスカリエッティや。管理局の闇とも繋がっている危険人物。その相手の裏をかくなら必要な事やけど……(でも、ソレにしたって)」

 

 リインの考えには確かに一理あるとはやても同意する。

 ワザと不仲だと思わせて後々協力して相手側を一網打尽にする。其処までの過程に部隊への危険は多いが、何も知らない一般人を護る為ならばはやてはやる。リインの説明は確かに納得出来る面も在る。

 だが、はやてには先ほどの任務内容を見て、どうにもリインの考えには強い違和感を感じる。

 

(確かに後々の実入りは大きいんやけど……せめてもうちょっと後方支援のメンバーぐらいは居てもええはず。でも、部隊の魔導師保有制限を考えると……確かにリインの言った策以外に相手の意表をつくのは無理や……う~ん? そもそもこの世界の機動六課ってどないな経緯で設立されたんやろう?)

 

 はやて達の世界では対デジモンにおけるミッドチルダでの対策部隊として機動六課は、地上本部と本局が合同で設立された部隊。

 しかし、この世界にはデジモンは居ない。遺失物対策部隊として設立されたようだが、ハッキリ言って保有ランクを無視して部隊を設立するのは弱過ぎる。余り興味を持つのは良くないが、どうにも別世界とは言え自分が造り上げた部隊だけにはやては気になって仕方が無かった。

 

「……なのはちゃんはあんまりいい顔せえへんかも知れんけど、フリートさんに頼んでこの世界の機動六課のデータ全部集めて貰ってみようか」

 

「……はやて。分かって居ると思うが?」

 

「分かってるわ。私らこの世界にとって異邦人。介入する気はあらへんよ」

 

「なら、構わない」

 

 自分達の目的はあくまで禁断の兵器である【寄生の宝珠】の回収。

 その事をはやては忘れていない。幾ら気に入らなくても介入する気は、はやてには無かった。

 冷静なはやての様子にレナとリインは安堵の息を吐きながら、帰路に着く。

 出来る事ならば二度とこの世界の機動六課には関わりたくないと思いながら、三人はフリート、ガブモン、そしてなのはが居る場所に戻って行く。

 数週間後に自分達が参加する予定のオークションの護衛任務を受ける部隊が何処なのかも知らずに。

 

 

 

 

 

 一方その頃、管理局が【寄生の宝珠】を回収した世界で調査を行なっていたフリート、なのは、ガブモンは地下深くに隠されていた何らかの施設の調査を行なっていた。

 当初は【寄生の宝珠】が発見された遺跡の調査を行なっていたが、管理局を上回る探査機器を駆使した結果、地下深くに隠された施設を発見したのである。最も長い年月放置されていたせいで内部はボロボロ。

 何時土の重みで崩落しても可笑しくない状態だった。安全の為になのはとガブモンは地上から観測を続け、施設内部には転移魔法で移動したフリートのみが潜入していた。

 

『此方フリート。なのはさん、ガブモン。聞こえますか?』

 

「聞こえますよ、フリートさん」

 

「映像も届いて録画中ですから、安心して下さい」

 

 届いて来た通信になのはとガブモンは返事を返しながら、明かりに照られている施設内部の映像を見つめる。

 施設内はやはりボロボロで、所々に風化した人骨らしきものが映像の中に転がっているのが見える。その中でもなのはとガブモンが気になるのは、フリートが持つ明かりに照らされている通路の壁に刻まれた文字の数々だった。

 しかもただの文字ではない。見ているだけで怨念を感じるような雰囲気を放つ文字だった。

 

「……ねぇ、ガブモン君」

 

「うん。何か凄くホラーな感じだよね、なのは」

 

「ちょ、ちょっと怖いよね……フリートさん? 壁の文字は何て書いてあるんですか?」

 

『コレですか? ……アルハザードに対する暴言や罵声に、懇願の数々ですよ』

 

「「えっ?」」

 

『とっても恨んだようですね。『呪ってやる』とか『何て物を考えついたんだ』とか、恥も外聞も無く『助けてくれ』とか、その他様々な文字が書き込まれてますね。中には血文字までありますよ』

 

「凄い怖いんですけど、そ、それって……アルハザードの証明になるんじゃ?」

 

『なるでしょうけど、此処の世界は完全に滅んでいますから、文字なんて解析だけで何十年掛かるか分かりませんね。放っておけば何時か勝手に崩落する施設跡ですから、問題は無いでしょう』

 

 フリートはなのはの不安に答えながら、更に奥へと進んで行く。

 進むと共に人骨の残骸が増えて行くが、フリートは構わずに先へと進んで行く。逆に映像から見えるホラーな光景になのはとガブモンは思わず体を震わせてしまう。

 幾ら強くてもホラー的な光景は本能的に恐怖を覚えてしまう。今にもバケモンではなく、本物の幽霊が出て来そうな雰囲気を払拭しようと、なのはは気になっていた事をフリートに質問する。

 

「……フリートさん。そろそろ教えてくれませんか? 何ではやてちゃん達の同行を許可したんですか? この世界ならフリートさんが本気を出しても、問題は少ないのに?」

 

『……私は最悪の可能性をずっと考慮していました』

 

「最悪の可能性? それって一体?』

 

『デジモンであるガブモンには分からないでしょうが……人は兵器を造る時に先ず間違い無くやる事があります』

 

 【寄生の宝珠】を発見した時から、フリートはずっと最悪の可能性を考えていた。

 兵器を造るならば、先ず間違い無く大体の技術者達が行なう事。もしもソレが実行されて居たらと、フリートはずっと考えていた。

 その可能性が外れている事を願っていた。だが、その不安が的中していると言わんばかりに、施設内部を進むごとに確信は深まって行った。そして一際頑丈に造られ、警告のようなマークが刻まれた扉に辿り着く。

 

『最悪の可能性……ソレは、コレです!』

 

 施設内に影響を与えないように注意を払いながら、フリートは扉を魔法で吹き飛ばした。

 

『ッ!?』

 

 なのはとガブモンは映像に映った扉の先の光景に息を呑んだ。

 内部はやはり年月に寄る経年劣化の影響でボロボロになっていたが、ソレでも判別出来る物が確かに残っていた。

 複数並ぶ何かを収めるためのカプセルらしきもの。そのカプセルの残骸の中で光る青い菱形の宝石のような代物。ソレは間違いなく、なのは達が回収のする為に平行世界にやって来る事になった元凶。

 複数の【寄生の宝珠】が、カプセルの残骸の中で光を当てられて光を反射していたのだった。




本編が旧作に追いついていないので相違点があります。


原作との相違点。

八神はやて。
所属:対デジモン対策部隊機動六課部隊長。
詳細:とある事件とデジモンとの出会いに寄って、理想を求めているが現実的に考えて行動する部隊長になった。事件に対する一般人への安全を優先するが、その分、部隊内の犠牲は容認する思考になっている。目的の為ならば自身のプライドも何もかも(この中には友情も)犠牲にする。尊敬する第一はレジアス。第二位はゲンヤ。第三位にはゼストである。究極進化を習得済みで、原作と違い魔導戦闘も行なえるように鍛えている。

レナ
所属:対デジモン対策部隊機動六課部隊長補佐
詳細:腰まで届く長い黒髪を棚引かせる長身の神秘的な美女。正体は、はやてのパートナーデジモンであるレナモンが人間に変身した姿。はやての現実的な思考に共感し、その思考に寄って傷つくはやての心を支える公私のパートナーでも在る。リインの事は姉と呼んでいるが、他の八神家の面々に対しては名前で呼んでいる。因みにスタイルの方は、はやての理想が反映されている。

リイン
所属:対デジモン対策部隊機動六課部隊長補佐
詳細:はやてが管理局の技術者及び聖王教会の技術者達と共同し、リインフォースの協力に寄ってルインフォースの問題点を改修され造り上げたユニゾンデバイス。ルインフォースと違い、単体では夜天の魔導書に記されている全ての魔法は扱えないが、主とユニゾンする事で大半の魔法を使用する事が出来る。

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