漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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コラボ エピローグ

 ブラックとユウの激戦から数日後。

 未だにブラックはユウと戦った世界から元の自分の世界には戻らずに、とある岩山に存在していた洞窟の奥で深い眠りについていた。

 別に元の世界に戻ってから眠っても良かったのだが、戻る前に精神的に暴走してしまう可能性が高かったので、偶然見つけた洞窟の中で精神を安定させる為にブラックは眠りについたのだ。因みに既にブラックの首に何時ものネックレスが装着されている為、管理局がブラックの反応を見つける事は既に出来なくなっている。

 ルイン、ヴィヴィオ、ギルモンは沈黙するブラックを心配そうに見つめるが、ブラックは眠り続ける。

 

「……ルインお姉ちゃん? パパは何時起きるの?」

 

「もうずっと眠っているんだよ? 心配だよ?」

 

「大丈夫ですよ、ヴィヴィオちゃんにギルモンちゃん。ブラック様はもうすぐ目覚めます。今は戦いの疲れが癒えるのを待ちましょう……(最も今回のは戦闘の疲れではなく精神的なものでしょうね。 余程あの少年と女の子が殺せなかった事が気に入らなかったんでしょう……それにしてもあの二人は何があるんでしょうか? ブラック様はどうにもデジモンやウォーグレイモン、そして聖王の事以外でも苛立っていたようですが?)」

 

 ルインにもブラックが本当に苛立っていた理由は分からなかった。

 確かにユウはブラックが怒りを覚える行動を取ってはいたが、それでも戦闘を楽しむ気が失せるほどに苛立つ理由がルインには理解できなかった。

 何よりも。〝選ばれし者゛でもなく、デジモンと関わっても居ないのに何故デジモンの技をユウ達が知っていたのかがルイン達に分かってはいない。

 

(恐らくその全ての源がブラック様が苛立っていた真の理由ですね。 一体彼らには何があるんでしょうか?)

 

 そうルインは内心でブラックとユウ達の関係性に疑問の声を上げるが、答えられるブラックは未だに深い眠りの内に入り込み、答える事はなかった。

 一向に晴れない疑問にルインは困ったように首を傾げ始めると、手を繋ぎながら横に立っていたヴィヴィオが突如としてルインの手を離し、パートナーであるギルモンと共に入り口の方へと歩き出す。

 

「ん? ヴィヴィオちゃん? 何処に行くんですか?」

 

「……あの人達に聞きに行くの。パパが如何してあの人達を嫌っていたのか」

 

「ブラックが答えられないのなら、あの人達に聞いた方が早いよ」

 

「なるほど、確かにその手がありました……とは言ってもですよ? 私達は既に彼らと敵対していますから、絶対に答えてくれるとは思えないんですけど?」

 

 そうルインがヴィヴィオとギルモンに言うのも当然だろう。

 何せヴィヴィオとギルモンはともかく、ブラックとルインはこれ以上に無いと言うほどにユウ達と敵対した。そのルインが赴けば確実にまた戦いが始まるだろう。

 手段を選ばなければルイン一人でもユウ達に勝てるが、その場合一般人が巻き込まれる可能性が出てしまう。それはブラックが最もを赦さない行為なので出来る訳が無い。何よりもこの世界のルインを初期化させたのは間違いなくユウなのだから、迂闊に接触する訳には行かないのだ。

 その事は既にヴィヴィオとギルモンも理解しているが、二人はそれでも向かうつもりだった。

 ヴィヴィオは自分の大切な父親の為に。ギルモンは友であるブラックの為に。

 

「……パパが如何して怒っていたのかを知りたいの……それに……あの人はヴィヴィオと同じ血を引いている人だから」

 

「僕も知りたい。あのユウって子が何者なのかを」

 

「ヴィヴィオちゃん、ギルモンちゃん……分かりました。だけど、私も一緒に行きますよ。まぁ、隠れて聞き出せば大丈夫でしょう」

 

「ありがとう! ルインお姉ちゃん!」

 

 ルインの言葉にヴィヴィオは嬉しそうな声を上げて、ルインに抱きつき、三人は眠りについているブラックに背を向け外へ出て行った。ユウと桜がいるであろうこの世界の地球に向かって。

 

 そしてルイン達が地球に向かってから少し経つと、洞窟の入り口の方から足音が響く。

 その足音は徐々に眠りについているブラックの近寄り始め、ブラックの目の前で足音が止まると共にブラックの目に光が宿る。

 不完全ながらも回復したブラックは自身の目の前に立っている人物-リンディに視線を向けると、リンディは呆れたように溜め息を吐きながらブラックに質問する。

 

「ハァ〜、随分と暴れたみたいね?」

 

「……フン、貴様には関係ない」

 

「そうね、だけど……何をそんなに苛立っているの? 今日の方には何時もとは違って、苛立ちしか感じられないわ」

 

「貴様には関係ないと告げた筈だ……さっさと先に元の世界に戻っていろ……ルイン達が戻ったら俺もすぐに戻るからな」

 

 そうブラックはリンディに苛立ちに満ちた声を出すと、再び目を瞑り深い眠りの内につこうとする。

 しかし、リンディは逆にブラックの様子に不安を覚えた。確かに何時もブラックはリンディに冷たい言葉を言うが、今の言葉からは深い苦悩と悲しみが感じられた。

 その理由までは分からずとも、リンディには今のブラックを放って置くのは危険だと判断し、ブラックの体に寄り添うように体を預ける。

 

「……何のつもりだ?」

 

「別に何でも無いわ……ただ私も少し眠くなったのよ。貴方とルインさん、ヴィヴィオ、ギルモン君の事が心配で眠れなかったんだから・・・・だから少し体を借りるわね」

 

「・・・・・好きにしろ」

 

 ブラックはリンディの言葉に素っ気無く答えると深い眠りに落ちていき、リンディはその様子に僅かに嬉しげな笑みを浮かべながら、ブラックの心を少しでも落ち着かせようと傍に寄り添い続けるのだった。

 

 

 

 

 

 そしてその頃。リンディが訪れた事を知らないルイン達は地球に到着し、ユウ達を捜索しようと始めに翠屋に向かって見ると、翠屋の入り口には『貸切』と言う看板が掛けられていた。

 それの意味に気がついたルインは注意深くヴィヴィオとフードを被ったギルモンと共に、認識阻害の魔法を使用しながら窓から中を覗いて見ると、高町家、テスタロッサ家、八神家、ハラオウン家、 そして月村家にアリサが、バインドによって椅子に縛られながら座っているユウと桜と囲むように立っていた。

 その様子にルインとヴィヴィオ、ギルモンは首を傾げるが、すぐに彼らも自分達が気になっている事を知る為に行動しているのだと気がついた。特に今のユウは治療が終わっているようだが、魔力を全く感じない。話を聞くには今しかないだろう。

 

(やはり、彼らにとってもあの少年と少女がブラック様の事を知っていたのは疑問だったようですね……しかし、見覚えの無い人が三名いますね。一体どういう事なのでしょう?)

 

 プレシア、アリシア、クライドの三名を見ながら、ルインは首を傾げる。

 色々と疑問をルインが覚えて居ると、私服姿のこの世界のリンディがユウと桜に向かって声を掛ける。

 

「では、これより第二回、翠屋尋問大会を行います」

 

「その前に質問だけど、幾ら治療が終わっているとは言え、何で俺達は縛られているんだ?」

 

「君達は先日の相手について何か知っているようだったからな。多分、君のことだから縛っておかないと逃げると思って」

 

 ユウの質問に対してクロノは簡潔に答え、他のメンバー達も同意 するように一斉に頷いた。

 その様子にユウは僅かに冷や汗を流すが、クロノの言葉は正しいので何も言う事は出来なかった。しかし、別の疑問が浮かび、真剣に自分を見つめてくるクロノに再度質問する。

 

「翠屋でやる理由は?」

 

「君達の場合、無理矢理に聞きだすよりも、君達の家族や知り合いから『お願い』された方が効果的だからだ」

 

 クロノは再び迷い無く簡潔に答えた。

 ユウと桜は諦めたように溜め息を吐いた。此処数日は怪我の治療を優先していたので、質問して来る気配は無かったが、それでもブラックの事は全員が気になっていたのだろう。

 あの世界さえも滅ぼしてしまう圧倒的な力。自分達が最強だと思っていたユウさえも圧倒した存在。

 化け物としか評せないブラックの事が気にならない筈は無い。その事が分かった桜は僅かに顔を俯かせながらクロノに質問する。

 

「……聞きたい事は分かるけど、一応聞くわね? 聞きたい事って?」

 

「言わなくても分かってると思うが、先日戦ったあの相手についてだ。管理局のデータベースでも調べたが、あのような生物と遭遇した記録など一度もない。念の為、この場の全員にも尋ねたが、知っている人は誰もいなかった……だが、何故か君達2人はあの相手の名前を知っていた。特にユウは、ブレイズでのバリアジャケットと魔法が、相手の姿形と使った能力に類似点が多すぎる。更に向こうも君達に関しては苛立っていた。言い逃れは出来ないぞ」

 

 そうクロノが真剣な声でユウ達に告げると、ユウと桜はゆっくりと顔を見合わせ、念話で会話を始める。

 

(如何する?)

 

(……まあ、いいんじゃないの。話しちゃって。別に絶対に黙ってなきゃいけないって事はないんだし。信じてくれるかどうかは知らないけど)

 

(そうだな)

 

 桜の言葉にユウは納得の声を上げると、真剣な瞳で見つめてくるクロノの瞳を見つめながら声を出す。

 

「別に話してもいいけどさ、絶対に信じてくれないと思うぞ?」

 

「それを判断するのは僕達だ」

 

「ハァ〜……簡単に言えば、ブラックウォーグレイモンは、俺達が前世で見てたアニメに出てきたキャラクターだ」

 

『…………ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!????』

 

(ブラック様がアニメキャラクターー!?)

 

(パパがアニメのキャラクター!?)

 

 ユウの告げた事実にクロノ達は呆気に取られたような顔をしながら声を上げ、外で話を聞いていたルインとヴィヴィオも驚愕の声を内心で上げた。

 その様な事実はルインは全くブラックから聞いた事は無いと思い、同じように驚いているヴィヴィオとギルモンと顔を見合わせるが、フッとブラックとリンディと共にデジタルワールドを旅していた時の事を思い出す。

 

(…………そう言えばずっと前にブラック様の本当の故郷について聞いた事がありましたね。確かにあらゆる世界の情報を無作為に集めて、物語として語っている世界-“異界”がブラック様の本当の故郷だと……ッ!? と言う事はあの二人もブラック様と同じ“異界”の人間!?)

 

 ルインはユウと桜の正体に気がつくと、再びヴィヴィオとギルモンと共にユウ達を真剣に見つめる。

 同時に混乱が僅かに治まったのかクロノがユウに質問しだす。

 

「ちょっと待て! 言いたい事は沢山あるが、先ず1つ。前世って どういう事だ!?」

 

「言った通りだ。高町家の人は知ってるけど、俺と桜は前世の記憶……つまり、この世界に生まれてくる前に、違う人間として生きてきた記憶があるんだ」

 

「ちょ、ちょっとなのは! 知っていたって本当なの!?」

 

「う、うん」

 

 質問して来たアリサになのはは僅かに戸惑いながらも頷いた。

 その事実に高町家の人々を除いた全員が呆気に取られた顔をし始めると、ユウと桜が更なる事実を告げる。

 

「因みに俺が死んだ歳は26歳だ」

 

「私は25ね」

 

『…………』

 

 もはや告げられた真実に高町家の面々以外は言葉も出せないのか、全員が困惑したように顔を見合わせた。

 その様子に気がついたリニスは全員の困惑を理解しながらユウと桜の言葉に嘘が無い事を補足するように説明しだす。

 

「2人の言っている事は本当ですよ。少なくとも、ユウは嘘は言っていません」

 

「……確かに、それが本当なら、ユウ君が昔から大人びていた事にも説明がつくし、初めて桜さんと話した時に、同年代と会話してるような錯覚を感じた事も納得出来るわね」

 

「まあいい。仮にその話が本当だったとして、その次の話は……」

 

 リンディの言葉にクロノは全面的には納得出来なくても話を進めようと、ユウと桜にブラックについて更に詳しく聞こうとするが、その前に桜が答える。

 

「それも本当よ。こっちの世界じゃやってないけど、ブラックウォーグレイモンは前世で見てたアニメのキャラクターよ。何でこの世界に現れたのかは知らないけど。あ、そういえばブラックウォーグレイモンって、次元の壁を越える能力があったっけ」

 

(やはり彼女とあの少年は異界の人間ですね。赤の他人でありながらブラック様の真実を此処まで知っている人間だとすれば、確かにブラック様の故郷の異界の人間しかありえません……最も知っているのは上辺だけでしょうが)

 

 ルインは桜の言葉から大よその事を判断した。

 ユウと桜が知っているのはブラックウォーグレイモンがどのような存在なのかだけ。其処に存在していた感情までは知らないのだ。

 その事を今の桜の言葉で確信したルインは更に注意深く話を聞こうと耳を研ぎ澄まし、ユウが告げる言葉を耳にする。

 

「それに、俺のバリアジャケットや魔法がブラックウォーグレイモンとそっくりなのも当然だ。俺の魔法は、その前世で見てたアニメの同シリーズに出てたブラックウォーグレイモンの同種族のウォーグレイモンをモチーフにしたものだからな……因みに最後に現れた白い騎士-デュークモンも話は違うけど同じデジモンと呼ばれる種族だ……あの時は本当に運が良かった」

 

「そうね。もしデュークモンまで動いていたら、私達全員この場にはいなかったわよ」

 

「如何言う意味だ?」

 

「……正直に言うわね。あの最後に現れた騎士-デュークモンの実力は……私達が戦ったブラックウォーグレイモンと同等か、それ以上の実力なのよ」

 

『ッ!!!』

 

 桜が告げた事実にブラックと戦ったメンバー全員が目を見開いた。

 ユウが全力で戦っても勝てなかったブラックと互角かそれ以上の実力を持った存在-デュークモン。

 その事実はブラックと戦った全員からすれば信じられない事実だったが、残念ながら真実だった。

 

「デジモンにはそれぞれ世代ってのが在ってね。その中でも究極体って呼ばれる連中がいるのよ」

 

「究極体だって?」

 

「あぁ、その究極体の連中はどいつもこいつも化け物でな。ブラックウォーグレイモンもその中に名前を連ねていて、更にその究極体の中でも上級に名を連ねているのがデュークモンなんだ……因みに言って置くが、その上級連中はその気になれば世界を滅ぼせる連中だ。世界を幾つも滅ぼした闇の書の闇の防御プログラムもその連中からすれば、雑魚だな」

 

『なっ!?』

 

 ユウが告げた事実にリインフォース、シグナム、ザフィーラ、ヴィータ、シャマル、そして管理局の人間であるリンディ、クロノ、 クライドは驚愕した。

 管理局と言う巨大な組織の力を持ってしても滅ぼせなかった闇の書の闇を雑魚呼ばわりする存在。もし本当にそんな存在がいるとすれば確かに脅威としか言えないだろう。

 因みにユウの雑魚呼ばわりの発言を聞いたルインは、ユウを殴り飛ばそうと窓ガラスを破壊して内部に飛び込もうとしていたが、直前に大人モードに変わったヴィヴィオとギルモンによって背後から押さえ込まれて動く事が出来なかった。

 そんな事が外で起こっている事は知らずにユウは真剣な顔つきのまま話を進める。

 

「……まぁ、それは俺と桜が知っているブラックウォーグレイモンの話なんだけどな」

 

「ん? 如何言う意味だユウ?」

 

「……多分だけど、あのブラックウォーグレイモンは俺と桜と同じで前世が人間だった奴なんだと思う」

 

『ッ!!』

 

「多分じゃないわね。先ず間違いなくあのブラックウォーグレイモンの正体は、私達と同じよ。それだったら幾つかの疑問も分かるわ。ユウのウォーグレイモンの姿を模したバリアジャケットに怒った事や、皆がデジモンの技を使用した事に苛立ったのかが分かるわ」

 

「え〜と? 桜お姉ちゃん? 本当にあの人は、人間だったの?」

 

 そうなのはが桜に質問するのも当然だろう。

 何せブラックは本気でユウと桜だけではなく、なのは達も本気で殺そうとしていた。確かに全員生き残ることは出来たが、それでもザフィーラは折れた両手を包帯で吊るしているし、串刺しにされたヴィータは車椅子に座っている状態である。更に他のメンバーも服の中には未だに包帯が巻かれている状態だ。

 その様な状態にされたなのは達には、ブラックの前世が人間だったとはとても思えなかったが、ユウと桜にはブラックが人間だったと確信していた。

 

「信じれないだろうが、本当だろうな」

 

「…………それが事実だとすれば、尚更に謎だ。言うなれば、君達とあの生物は同類なんだろう? ユウの姿に苛立ちを覚えていたようだが、それだけであそこまで君と桜を殺そうとする筈は無いだろう」

 

(いいえ、ブラック様からすれば充分な理由ですね。ウォーグレイモンは体を張ってブラック様を救ってくれた存在。その存在を侮辱されたように感じたのでしょう……とりあえず、これでブラック様が何故苛立っていたのかは分かりましたし、気づかれる前にさっさとこの場から離れましょうっと)

 

 そうルインはクロノとは逆にブラックの行動の真の意味に気がつき、ヴィヴィオとギルモンと共にソッと翠屋の前から移動しブラックがいる世界に戻って行った。しかし、この時にルイン達が戻ったのは運が良かっただろう。どちらかの運など分かりきった事ではあるが。

 その後もユウと桜の話は続き、なのは達の事もアニメで知っていたり、ユウの前世での女性関係の事や、死んだ理由が神のミスだったりした事は説明したが、最終的には全員が受け入れてくれた。

 その事にユウと桜は感謝しながらも、内心ではブラックの告げた言葉の事がずっと気になり続けていた。

 

『その身に教えてやろう。貴様らがどれだけ恵まれて生まれて来たのかを!!!』

 

(………アイツのあの言葉………何が在ったんだアイツに?)

 

(恵まれてか………一体何があったのよ?)

 

 そうユウと桜は内心で疑問の声を上げ続けるが、答えられるブラックは未だに静かに眠り続けていた。

 そしてある程度時が経ち、全員がユウと桜の正体を受け入れ、それぞれ自分達の家に戻ろうとするが、その前にユウはクロノに質問する。

 

「なぁ、クロノ? ブラックウォーグレイモンの奴の事は管理局に説明するのか?」

 

「………本来ならば此処までやられれば、彼は次元犯罪者に登録すべきなんだが、そもそもの原因は僕の部下の攻撃が原因だから、彼の事は管理局には報告するつもりはない………彼と敵対するのは、本気で命を捨てるようなものだからな」

 

「そうか………まぁ、確かに命を捨てるようなものだな。戦って分かった事だけど、アイツは敵に対しては本気で容赦が無い。多分、管理局の人間じゃ誰もアイツを倒す事は出来ないだろう。それだけアイツは強すぎる」

 

「やはりそうか………とにかく上層部には彼の事は内密にして、怪我は負ったけど彼は倒したように報告して置こう。幸いにも彼らの反応は消失していたから、誤魔化すのは何とかなる」

 

「ありがとな、クロノ」

 

「気にするな。正直僕も彼とはもう戦いたくないと言うのが本音だ………それに……〝復活した闇の書の闇゛の存在を知られるのは不味い」

 

「……やっぱり不味いのか?」

 

「不味いどころの話じゃない。管理局が守護騎士達やリインフォース、そして父さんを危険視していないのは、闇の書を『夜天の魔導書』に修復出来たからだ。なのに、肝心の闇の書の闇が生き残っていて、更に途轍もない力と技術まで得て復活しているなんて知られる訳には行かない」

 

 クロノ達、魔導師にとって危険な存在はブラックよりも、寧ろルインの存在だった。

 資質と素質を無視してあらゆる魔法を扱えるようにするユニゾンデバイス。もしもその存在を知ったら、多くの者が手に入れようとする。実際クロノ達は知らないが、ブラック達の世界ではルインを得ようとした結果、【闇の書】になってしまったのだ。

 どういった経緯で復活したにしても、今のルインの存在を知られてしまえば、それを求めて動く連中が必ず出て来る。そうなれば必然的にルインの主であるブラックに接触してしまう。その結果待っているのは、惨劇と言う言葉が生温く感じるほどの地獄の光景である。

 それだけは絶対に避けなければならないとクロノ達は判断し、ブラックとルインの存在を秘匿する事を決めたのである。

 

「……それじゃぁ、僕は帰る」

 

 クロノはそう告げると共にリンディとクライドと共に翠屋を出て行った。

 それを確認したユウも高町家の面々と共に自分達の住んでいる家へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 そしてその日の深夜近く。

 ユウは猫形態になったリニスを膝の上に乗せながら、高町家の屋根の上で何かを悩むような顔をしながら空を見つめていた。

 

「……ユウ? 何をそんなに悩んでいるんですか?」

 

「……ブラックウォーグレイモンの事が気になってな……」

 

「彼の事ですか……正直に言えば私は彼が好きになれません……何故あそこまでユウと桜を否定していたのか、納得出来ませんから」

 

「否定か……多分それが一番の理由なんだろうな」

 

「如何言う意味ですか?」

 

「……アイツは、ブラックウォーグレイモンは多分否定されたんだ。何もかもに」

 

「えっ?」

 

 ユウの告げた言葉にリニスは驚き、思わずユウの膝の上から立ち上がり、ユウの顔を見つめると、ユウは僅かに苦悩したような顔をして話し始める。

 

「俺が知っているブラックウォーグレイモンは、自分の存在意義に悩んでいたんだ。だけどアイツは最初から全部知っていたはずだ。自分が生まれた理由を」

 

「世界の安定を歪めるですか……確かにそんな存在に生まれたいとは誰も思いませんよね。でも彼はその存在として生まれた」

 

「あぁ、だからアイツは俺達が認められなかったんだ……その上、多分その悩みから救ってくれたのが、本物のウォーグレイモンだったんだ。だから、アイツは俺を赦せなかったんだ。自分を救ってくれた者を汚した俺が」

 

「ですが、それはユウも知らなかった事です。彼がしたのは言い掛かり以外の…」

 

「他人からすればそうなんだろうけど、アイツの気持ちが納得出来なかったんだ……多分今も俺と桜の事をアイツは認めていない」

 

「……何時かまた私達の前に現れるのでしょうか?」

 

「……分からない。最後の様子だと、アイツは会う気は無さそうだったけれど……もしかしたらまた俺達の前に現れるかも知れない

 そうユウはリニスに告げると、服の中から修復が終わったブレイズとアイシクルを取り出し、二つのデバイスを見つめながら一つの決意を固める。

 

「リニス……俺は決めたぞ……もう今回のような無様な戦いはしない……今までは持っていた力で満足したけど。アイツが言っていたように【ウォーグレイモン】や【メタルガルルモン】、そして【オメガモン】の名を侮辱するような戦いは絶対にしない……皆を本当に護る為にもっと強くなるつもりだ」

 

「なら、私も一から自分を鍛え直します。もうユウの足手纏いになるのは嫌ですからね」

 

「ありがとうな、リニス」

 

 そうユウとリニスは互いに決意を新たにすると、隠れて二人の会話を聞いていた桜、なのはもユウの足手纏いにはもう絶対にならないと決意を固めた。

 そして他のブラックと戦ったメンバーも、別々の場所で更に上を目指す事を決意しているのだった。

 

 

 

 

 

 深い眠りの淵で微睡みながら、ブラックは自らの内から押し寄せるユウと桜への苛立ちを治めようとしていた。

 自身でもユウと桜への苛立ちは理不尽だと認識出来る。だが、それでも苛立ちは止まらない。自身と同じように【異界】からやって来た者だと分かりながらも、様々な点でユウと桜はブラックとは違う。

 始まりからして全てが違っているとブラックは桜の正体を知った時から理解していた。悪意に寄って誕生したブラックとは違い、桜は温かい家族から生まれた。

 自身の知る高町家の者達は、ブラックから見ても良い家族だと思えた。別世界とは言え、その家族から生まれた桜は一般的な生活を送っていた。

 どういう経緯で、デジモンの技を魔法として教えたのかはブラックには分からない。

 多くのデジモン達と戦い続けて来たブラックは、デジモンがどれほど大変で素晴らしいモノなのかを理解している。桜とユウはただデジモンの技を魔法で再現させていただけ。だから、赦せなかった。認められなかった。

 もしも桜とユウがデジモンの存在を教えた上で、デジモンの技を魔法で再現させていたのならば認めたくはないが、見逃していた。だが、自身の事をこの世界のなのは達が知らなかった時点で、デジモンの存在を教えずに技だけを再現させていたと悟った。其処からは苛立ちの限界だった。

 戦闘において冷静さを失う事の危険性を理解していながらも、ソレを忘れてしまうほどに我を忘れてしまった。

 ユウのバリアジャケットの姿は更に赦せなかった。偶然にしては余りにも多すぎていた。

 

 例え【異界】からやって来たとしても、偶然にも膨大な魔力を宿し、偶然にもソレを扱えるほどの強靭なデバイスを持ち、更に【ウォーグレイモン】と【メタルガガルモン】の技を再現出来るような魔力変換資質を宿し、あまつさえ【聖王家】の血筋。加えて【初期化】や【消滅】を使用出来るロストロギア級のデバイスまで手にしていた。

 此処まで偶然が揃っていれば、何者かの意思が関わっている事が、ブラックには予想が付いた。元々【異界】自体が何者かの干渉を受けない限り、其処に住む者達が他世界に現れる事は無い。だからこそ、ブラックはユウと桜を殺す事でその意思を叩き潰そうとしていた。善意も悪意も関係ない。

 自分の中に残る僅かな人間としての残り香が、ユウと桜の存在を認められなかった。更に、二人は自分達と言う存在への認識が薄かった事にも腹が立った。【異界】の人間は、一般的な者からすれば異常にしか見えない筈。ソレを受け入れてくれる存在が、どれほど尊いのかブラックは知っている。

 

(……だから当たり前に受け入れられ……その大切を理解し切れていなかった奴らが……苛立った)

 

 そしてユウを殺せる直前にまで持って行けた。

 拳を振り下ろせば全てが終わるところまで持って行けた。だが、振り下ろせなかった。

 最後のユウを護る為に動いたこの世界のなのは達の姿に、ブラックは思い出してしまったのだ。

 

 〝ボロボロな姿になりながらも、決死の思いと覚悟で自分を止めようとした【ウォーグレイモン】を゛。

 

 その光景を思い出してしまった為に、拳が振り下ろせなくなってしまった。

 あのまま振り下ろせば、嘗て自身の暴走を止めてくれたウォーグレイモンに対する侮辱に繋がるとブラックは考えてしまった。だが、ユウと桜の存在は見逃せない。

 デュークモンが止めてくれなければ、あのまま拳を構えたままずっと迷っていたかもしれない。それほどまでに苦悩した。

 

(……もう良い。奴らを認める事は無いが……これ以上奴らと戦ったところで楽しめる事は無い……ただ苛立ちが募る戦いなど興味が湧かん……だから、もう眠れ)

 

 ゆっくりと内で疼いていた何かが治まって行くのを感じる。

 恐らくはもう長くは人間だった時の残滓は持たない。前世との在り方の違いだけではなく、デジモンに関する知識以外の全てを奪われてしまった事も原因の一つだった。

 ブラックは僅かに寂しさを覚えるが、疼きは最後に一瞬だけ強くなったと同時に消え去った。

 

 意識がハッキリするとブラックは目を開け、自身に寄り添っていたリンディに視線を向ける。

 

「起きたの?」

 

「あぁ……漸くな」

 

「……そう」

 

 一度起きた時に感じた苛立ちが、ブラックから薄れている事にリンディは気が付く。

 とは言え、完全に消えた訳ではない。一体何が在ったのかとリンディが改めて疑問に思っていると、洞窟の入り口の方から地球から戻って来たルイン、ギルモン、ヴィヴィオが入って来る。

 

「ッ!? リンディさん! それにブラック様!! お目覚めになったのですね!!」

 

「パパッ!!」

 

 目覚めているブラックの姿にルインとヴィヴィオは喜びの声を上げ、ヴィヴィオはブラックの体に抱きつき、ギルモンとルイン、そしてリンディはその様子を微笑ましげに見つめた。

 ブラックは自身の体に抱きついて来たヴィヴィオに僅かに視線を向けると、無言で立ち上がりながらヴィヴィオを左肩の上に乗せ、ヴィヴィオは嬉しげにブラックに寄り添う。

 その様子に更にリンディは微笑ましげに見つめていると、ルインがリンディに質問をしてくる。

 

「リンディさん? 何時の間に来たんですか?」

 

「そうね……大体五、六時間前よ。その後は彼が目覚めるまでずっと傍にいたわ」

 

(やられましたッ!! クゥゥゥゥーーッ!! あの少年と少女が気になっていたとは言えブラック様の傍を奪われるとは!! チャンスを逃してしまいました!!)

 

 そうルインは嬉しげな笑みをしているリンディの横顔を見ながら内心で悔し気に呻くが、リンディはルインの様子には気がつかずに、ヴィヴィオの相手をしているブラックを見つめる。

 悔しがっても仕方がないと思ったルインは渋々と自分の心を落ち着かせて、ブラックに声を掛ける。

 

「ブラック様。今回ブラック様が戦っていた相手は、ブラック様と同じ【異界】の人間だったのですね?」

 

「ッ!! 何ですって!? この世界に彼と同じ【異界】の人間がいたと言うの!?」

 

 ルインが告げた事実を耳にしたリンディは心の底から驚き、大声でルインに質問した。

 リンディもブラックの本当の故郷-“異界”の異常さは理解している。その世界はブラックの記憶を見たリンディでさえも信じられないと言う想いしか抱けなかった世界。

 その世界の人間が、平行世界とは言え他にもいるとなればリンディからすれば驚く以外の何ものでもなかったが、同時にブラックが何故苛立っていたのかも僅かに理解出来た。同類である存在と出会った事で、ブラックの心が乱れたのだ。

 その事が分かったリンディは険しい視線をルインに向けると、ルインは肯定するように頷く。

 

「えぇ、そうです、リンディさん。今回ブラック様が戦った相手は、ブラック様の本当の故郷である【異界】の人間です。最もそれ以外にも私達からすれば赦せない理由が存在していましたけどね」

 

「……そう、詳しい話は戻ってから聞くわね。この場で聞くと私も赦せなくなりそうだから」

 

「賢明な判断です」

 

 リンディの言葉にルインは険しい顔をしながら同意を示した。

 その様子を横目で見ていたブラックは、静かに抱えていたヴィヴィオから目を外し、ルインに視線を向ける。

 

「……連中に聞いてきたのか?」

 

「いえ、丁度彼らが自分達の正体を他のメンバーに話しているのを隠れて聞いただけです」

 

「そうか……戻るぞ。この世界は俺を苛立たせるだけだ。このままいれば、また奴らと戦う事になるからな」

 

「……宜しいのですか? 今から向かって彼らを殺さなくても?」

 

「フン、確かにそれは簡単だ……だが、少しだけ奴らには興味が湧いた。あの二人が一体どんな道を歩むのかな。このまま大切な奴らを護り切れるのか、それとも己の力のせいで全てを失うのかをな」

 

「なるほど、そう言う事でしたか……確かにあの二人、特にユウと言う少年の未来は気になりますね。絶望に堕ちるのか、それとも全てを護り抜いて幸せになるのか……興味深い対象です」

 

 ルインはブラックの言葉に納得した。

 ユウと桜。特にユウはその身に宿している血と力のせいで戦いに巻き込まれる可能性が高い。

 本人が望むの望まないに関わらず、ユウはその身に戦いを呼んでしまう要素を多分に含んでいるのだ。巨大な力を宿している者は本人の意思などに関わらずに戦いに巻き込まれる。その事を経験しているルイン、ヴィヴィオ、ギルモン、そしてどのような戦いあったのかは分からないが、僅かに状況を推測出来たリンディもブラックの言葉の意味を心から理解し、納得したようにブラックに頷く。

 その様子を確認したブラックはルイン、リンディ、ヴィヴィオ、 ギルモンの顔を見つめながら深く頷く。

 

「そう言う事だ。分かったら戻るぞ」

 

「はい」

 

「仕方が無いわね」

 

「帰ったら遊ぼうね、パパッ!!」

 

「ギルモンも!!」

 

 ブラックの言葉にルイン、リンディ、ヴィヴィオ、ギルモンはそれぞれ答え、ブラック達はこの世界から去って行った。

 この先にユウ達に何が待ち受けているのかはブラック達にも分からない。

 だが、必ず戦いが起きるのだけは確信していた。

 それを乗り越えられるかどうかは、ユウ達の心次第なのだった。




次は本編の方を更新します。

第三章の方も修正点を加えてから投稿予定です。
しかし、魔法戦記リリカルなのはForceは長期休載なってしまったんですね。

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