漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

11 / 32
コラボ6

 凄まじい衝撃波が撒き散らされ、完全に地形が変わり果てた世界。

 しかし、そうなったのにも関わらずに未だに世界を変えた衝撃波は放たれ続け、その中心と呼べる場所で【オメガモンX】を模したバリアジャケットを纏ったユウとブラックウォーグレイモンXは互いに武器を振り抜き続け、凄まじい応酬を繰り広げていた。

 既に出会ってから何度も繰り返されたやり取り。だが、互いにこの攻防の結末で戦いが終わると確信していた。その結末までは分からずとも、ユウとブラックウォーグレイモンXは自身の信念の為に相手を討ち倒そうと凄まじい攻防を繰り広げる。

 

 その様子を離れた所で絶望に染まった瞳をしているなのはを腕の中に抱えながら、桜は祈るような気持ちでユウとブラックウォーグレイモンXの戦いを見ていた。

 

(お願い!! ユウッ!! 勝って!! 皆との何時もの日常に戻る為にも!! お願い!!)

 

 そう桜は内心で祈りながらユウとブラックウォーグレイモンXの戦いを見続ける。

 だが、桜の願いに反して徐々にではあるがユウの方が相手の攻撃を防御する回数が増えて来ていた。

 

「ムン!!」

 

「クッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXが高速で振り抜いたドラモンキラーを、ユウは最小限の動きを持ってグレイソードの刃の端を使い受け流した。

 決してグレイソード全体を使ってブラックウォーグレイモンXのドラモンキラーを防御しようとはユウは思わない。幾らリインフォ ースとユニゾンした事で力が上がっていたとしても、初めてのユニゾンの上に通常の【オメガモン】を模した姿の時でもグレイソードは一瞬の抵抗も無く砕けたのだ。その時点からでもまともにぶつかり合うなど間違っていると言える。だからこそ、ユウはリインフォースの支援を受けながら、グレイソードが砕けないような使い方をして、ブラックウォーグレイモンXの攻撃を防御しているのだ。

 しかし、それはユウの精神力を磨り減らす諸刃の戦法だった。確かにユウの使っている戦法ならば短時間はブラックウォーグレイモンXと戦う事は出来る。だが、あくまでその場凌ぎでしかない。今のユウとリインフォースが行っている戦法では遠からずに限界が訪れて、グレイソードは再び砕け散るだろう。

 その事を理解しているユウとリインフォースは、何とかブラックウォーグレイモンXの隙を探そうと攻撃や防御を行いながら隙を探し続ける。だが、ブラックウォーグレイモンXには全く隙が見当たらずにユウは悔しさを感じる。

 そのユウの様子に気がついた桜は一瞬でもブラックウォーグレイモンXの隙を作ろうと、なのはをソッと横の地面に下ろし、レイジングソウルの先端をユウと攻防を繰り広げているブラックウォーグレイモンXに向かって構える。

 

「一瞬でも良いわ。ユウに絶対にチャンスをつく…」

 

「止めておけ。そんな事をすればブラックは先ずはそなたから殺そうとする。通常状態ならばともかく、X進化しているブラックに行うのは、自殺行為でしかないぞ」

 

「っ!!」

 

 突如として響いた聞き覚えの無い声に桜は慌てて声の聞こえて来た背後へと振り返り、声の主の姿を確かめようとする。だが、声の主の姿を目にした瞬間に、桜は信じられないものを見たと言うように目を見開き、口を大きく開けてしまう。

 桜の背後に立っていた存在-ブラックウォーグレイモンXと同じぐらいの背丈を持ち、背中に赤いマントを棚引かせ、全身を白き鎧で覆った騎士。桜はその存在をブラックウォーグレイモンXと同じように知っていた。

 その騎士がどれほどの力を持っているのかも。そして桜は呆然としながら、その騎士の名を呟いてしまう。

 

「……デュー……クモン?」

 

「何故私の名を知っている?」

 

「アッ!! ……え〜と……それは……」

 

 騎士-デュークモンの質問に桜は自分の迂闊さに気がつき、困ったように目を泳がせる。

 ブラックウォーグレイモンXがそもそも桜の正体に気がついたのは、知らない筈の名を呟いてしまったせいなのだ。その事を思い出 た桜はデュークモンの質問にどう答えれば良いのか悩む。迂闊に答えればブラックウォーグレイモンXの時のように攻撃されてしまう可能性が存在している。

 そう桜は内心で思い、何とかデュークモンの質問に対する答えを考え続けるが、デュークモンはもはや桜には興味がなくなったのか、両手に抱えていたボロボロなバリアジャケットを身につけ気絶しているフェイトとはやてをなのはの横にゆっくりと下ろす。

 

「ッ!! フェイト!! はやて!!」

 

「案ずるな。二人とも命に別状はない。他のそなたの仲間達も既に治療は終わった。少なくとも死ぬ事はない」

 

「よかった……グスッ……本当に良かった」

 

 自分とユウの為に身を投げ出して助けてくれた二人の生きている姿に、桜は目から大粒の涙を流しながら喜んだ。

 その様子をデュークモンは腕を組みながら横目で眺めるが、すぐに視線は衝撃波の中心の方へと目を向けられ、自身と融合しているヴィヴィオと共に溜め息を内心で吐いてしまう。

 

(リンディが言っていた状況に近いな)

 

(そうだねぇ……もうパパは!! 今日はフリートお姉ちゃんの手伝いが終わったら、遊ぶ約束をしていたのに!!)

 

(……そう言う事を言っている状況でもないと思うが、とにかく戦いが終わり次第にブラックを連れて帰る。流石にこれ以上この世界で暴れるのは不味い)

 

(うん! そうだね……だけど、戻ったら絶対にパパと遊ぶんだから!!)

 

(……まぁ、いい)

 

 ヴィヴィオの叫びにデュークモンは戸惑うような声を出すと、静かに戦いを眺め始める。

 デュークモンとヴィヴィオがこの世界にいるのは、簡単に言えばルインだけでは心配になったリンディが二人にブラックウォーグレイモンXを連れ帰るように頼んだからだ。

 本来ならばリンディ自身が赴いてブラックを無理やりにでも連れ帰ろうと考えていたのだが、ブラックウォーグレイモンXがリンディの言う事を聞く可能性など殆どゼロに近い。ならば実力的にも問題なく、尚且つブラックウォーグレイモンXが戦いたくないと思っているヴィヴィオならばと考えて二人を送り込んだのだ。そして二人はすぐに捜索を開始し、ユウと戦い続けているブラックウォーグレイモンXを発見したと言う状況である。

 そんな事を知らない桜は突如として現れたデュークモンを驚きながら見つめていたが、吹き荒れ続ける衝撃波に状況を思い出し、デュークモンの足にしがみ付く。

 

「……何か、私に用でもあるのか?」

 

「お願い!! ブラックウォーグレイモンXを止めて!! 同じ究極体の貴方なら出来るでしょう!?」

 

「……確かに私ならば、あの戦いに介入する事は不可能ではない」

 

「だったら!!」

 

 デュークモンの言葉に桜は喜びの声を上げた。

 究極体であり、ロイヤルナイツの一員であるデュークモンならばブラックウォーグレイモンXと互角に戦う事が出来るのは間違いない。ブラックウォーグレイモンXをデュークモンならば止める事が出来る。

 そう思った桜は漸く戦いが終わると安心するが、デュークモンは全く戦う構えを取らずに、両腕を組みながら静かに戦いを観察し続ける。

 

「……悪いが、私はこの戦いに介入する気はない。例えその結果がどうなろうと私は一切この戦いには手を出す気はない」

 

「ッ!! ど、どうして!?」

 

「少女よ。確かに私が介入すれば戦いは終わる。だが。その結果は必ず両者の心に傷を残す。互いの信念を賭けた戦いだ……部外者の私が手を出すのは侮辱でしかない……(しかし、あの少年は一体何者だ? あの歳で究極体の領域に足を踏み入れているなど、普通は在り得ん)」

 

 人間が究極体の領域に入り込む事は出来る。

 デュークモンが知る限りでも三名の人間が究極体と生身で辿り着いた。【大門卓】や【大門大】、そしてデュークモンの世界の【高町なのは】も究極体の領域に足を踏み入れた。だが、ユウは余りにも年齢的に究極体の領域に入り込むには早過ぎるのだ。

 しかも、それだけではなく、デュークモンとヴィヴィオには見逃せない事もユウには在る。

 

(その上……まさか、あの少年は、よりにもよって“聖王”の血筋とは)」

 

(……)

 

 デュークモンは桜に気づかれないように手を強く握りながら、ブ ラックウォーグレイモンXと戦っているユウを睨みつけ、融合しているヴィヴィオも先ほどとは打って変わり、静かに戦いを見つめる。

 ヴィヴィオとデュークモンが訪れたのは丁度ユウが【メタルガルルモン】を模したバリアジャケットに変わった時だった。その時は二人とも人間の身でブラックウォーグレイモンXと互角に戦っているユウの存在には驚いたが、その驚きはユウが発した虹色の魔力光-【カイゼルファルベ】を目にした瞬間に吹き飛び、介入するタイミングを逸してしまった。

 二人にとって“聖王の血筋”は見逃せず、同時に心を乱してしまう存在なのだ。

 

「……今は戦いの結末を待つのだな。その結果がどうなろうと、それが全てなのだから」

 

「ユウ……」

 

 デュークモンの言葉に桜は両手を祈るように組みながら、ブラッ クウォーグレイモンXと戦い続けているユウの姿を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

「ハァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

「クッ!! ウオォォォォォォォォッ!!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXとユウは互いに鋭く相手に向かって武器を振るい続け、凄まじい応酬を繰り広げ続ける。

 しかし、やはりスペックの違いは大きいのか徐々にユウは後方へと押しやられ始めて行く。

 

(クソッ!! やっぱり強い!! リインフォースとユニゾンして力が上がっている筈なのに、全然差が縮まってない!!)

 

(ユウ!! こうなれば遠距離からの攻撃で行きましょう!!)

 

(駄目だ! ガルルキャノンでも決定的なダメージは与えられない!ブラックウォーグレイモンXを倒すには【消滅】しかない……リインフォースとユニゾンしている今なら使え…)

 

「考え事をしている暇はないと言った筈だ!!」

 

「グッ!!」

 

 一瞬の隙を衝かれ、ユウはブラックォーグレイモンXの蹴りによって空中に浮かび上がった。

 そしてそのままブラックウォーグレイモンXは更なる追撃を加えようと、両手のドラモンキラーを鋭く光らせ、衝撃によって思うように動く事が出来ないユウの体に突き刺そうとする。

 だが、その直前にユウは素早く右腕を振るい、狼の手甲から砲身を展開し、至近距離で圧縮魔力弾をブラックウォーグレイモンXに撃ち出す。

 

「ガルルキャノン!!!」

 

「グッ!!」

 

 流石に威力が上がっている上に至近距離でガルルキャノンを食らった為に、ブラックウォーグレイモンXは僅かに苦痛の声を上げて動きが止まってしまう。

 そしてユウもガルルキャノンを至近距離で撃ち出した衝撃によってダメージを受けてしまうが、逆にその衝撃を利用してブラックウォーグレイモンXから距離を取り、その体勢のまま動きが止まってしまっているブラックウォーグレイモンXに向かって冷気を纏わせたガルルキャノンを連射する。

 

「その程度の攻撃が効くと思うな!!」

 

 ユウのガルルキャノンの連射に対して、ブラックウォーグレイモンXも両手のドラモンキラーの先に黒いエネルギー球を作り出し、迫って来ているガルルキャノンに向かって連続で投げつけて相殺する。

 

「フン!!」

 

(見えた!! 右側だ!!)

 

 ブラックウォーグレイモンXがガルルキャノンを相殺する姿を見ていたユウは、ブラックウォーグレイモンXの攻撃が甘い場所を見つけた。

 

(ブラックウォーグレイモンXの右腕のドラモンキラーの爪は戻っていない。攻めるのなら右側からだよな、リインフォース?)

 

(はい……ですが、それは相手も分かっているでしょう。特に私の半身-ルインフォースはその事を一番理解している筈です。 今までの攻防でも右側に見えない障壁が幾つも展開されていました……狙うのならば一撃必殺しかないです。しかも完全に相手の隙をついての攻撃で)

 

(だよなぁ……だけど一体どうやってアイツの隙を作ればいいんだよぉ?)

 

 リインフォースの言葉にユウは納得したような声を出しながらも、その策の難しさを一番理解していた。

 既にブラックウォーグレイモンXとそのパートナーであるルインは、ユウの最大の攻撃を読んでいる。だからこそ、ブラックウォーグレイモンXはユウの武器であるグレイソードを破壊しようと動いている。

 【オメガモンX】を模したバリアジャケットに、その前の【パラディンモード】での攻防でブラックウォーグレイモンXはユウの最大の一撃に必要な物を理解しているのだ。その為に先ほどの凄まじい攻防でもユウには【消滅】を発動させる隙が存在していなかった。

 その事を理解しているユウとリインフォースはどうやってブラックウォーグレイモンXの隙を作ろうかと悩んでいると、ガルルキャノンとエネルギー弾のぶつかり合いによって発生した煙を切り裂きながら、背中のバーニアを吹かしているブラックウォーグレイモンXがユウに向かって飛び出す。

 

「オオォォォォォォォォォォッ!!!」

 

「クゥッ!!」

 

 煙の中から飛び出すと共に突き出されたブラックウォーグレイモンXの左腕のドラモンキラーを、ユウはグレイソードで受け止め、凄まじい火花が辺りに散った。

 だが、此処でユウにとって不幸な事が起きた。ドラモンキラーと激突し合っているグレイソードに罅が入り始めたのだ。

 

「ゲッ!!」

 

「貰った!!」

 

「グゥッ!!」

 

 グレイソードに罅が入った事で動きが止まってしまったユウを、ブラックウォーグレイモンXは左腕を素早く振るう事で弾き飛ばした。

 ユウは苦痛の声を漏らすが、弾き飛ばされた反動を利用して再び距離を取ろうとする。だが、ブラックウォーグレイモンXはユウが距離を取ろうとしている事を逆に利用し、自身の両手の間に負の力を集中させ、巨大な黒いエネルギー球を作り出し、そのままユウに向かって連続で黒い巨大なエネルギー球を撃ち出す。

 

「ハデスフォーース!!」

 

「ッ!! (避けられない!! なら!! リインフォーース!!)」

 

(はい!!)

 

 ユウの叫びにユニゾンしているリインフォースは即座に応じ、二人は魔力をグレイソードに極限まで集中させ、目の前に迫って来ているハデスフォースに向かって、素早くグレイソードを連続で振り抜く。

 

「(オールデリィィィィーーートッ!!!)」

 

 ユウが縦横無尽に振り抜いたグレイソードとハデスフォースが触れ合った瞬間に、ハデスフォースはその凄まじい威力を発揮する事無く、まるで最初から存在していなかったかのように全て消滅した。

 ユウの持つデバイス-“オメガ”の真の力。対象を全て『消滅』させる力が発揮されたのだ。

 本来のユウには劣化の能力【初期化】しか扱う事は出来ない。未熟ゆえにだが、今はリインフォースと言う戦いと魔法に精通した者のサポートも受けている為に【オメガ】の真の力を発揮出来るのだ。

 しかし、【オメガ】の凄まじい能力をその目で見ても、ブラックウォーグレイモンXは慌てる事無くユウに向かって構えを取り始める。

 

「なるほど。今のが貴様のデバイスの真の力か。中々の能力だが、当たらなければ意味のない技だ。それに、後一度が限界のようだな」

 

「クッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXの言葉を肯定するように、更に罅が広がったグレイソードをユウは悔しげに見つめた。

 

(……悔しいですが、奴の言葉は当たっています……それに私とユウの魔力も底をつく寸前です。このまま戦ったとしても、 全力戦闘では五分持てばいいぐらいです……更に『オールデ リート』の使用を考えたら)

 

(分かっているさ……一か八かに賭けるか……“チャンス”にッ!!)

 

 ユウは覚悟を決めると共にグレイソードの剣先をブラックウォーグレイモンXに向けると共に、ガルルキャノンの砲身を後方に構えた。

 その様子にブラックウォーグレイモンXも次の攻防で戦いが終わると確信するが、同時にユウの行動に疑問を覚えていた。ユウの今の構えから考えて、突進してグレイソードを突き刺そうとしているとしか考えられない。だが、そのような策などブラックウォーグレイモンXからすれば、真っ向からでも粉砕出来ると言う事はユウも理解している筈。にも関わらずにユウは構えを変える事無く、全神経を集中させ隙を探し続けている。

 その事がブラックウォーグレイモンXには疑問以外の何ものでもなかったが、考えても仕方がないと思い、自身も次の攻防で決着をつける為に力を集中させ始める。

 

 そしてブラックウォーグレイモンXとユウの気迫が混ざり合い、辺りの空気が凍りつく気配を感じながら桜が祈るような気持ちで戦 いを見つめていると、意識を失っていたなのは、フェイト、はやての手が僅かに動く。

 

「ッ! !なのは! フェイト!! はやて!! 大丈夫!?」

 

「……桜……お姉ちゃん?」

 

「……桜?」

 

「桜ちゃん? ……アレ? 私ら生きとるん?」

 

「馬鹿!! 死んでるなら、こうやって話せないでしょう!!」

 

 はやての言葉に桜は涙を流しながら怒り、そのまま三人を大切そうに抱きしめる。

 三人も桜の様子に申し訳なさそうな顔をするが、すぐにその視線は遠く桜の背後で構えを取りながら睨み合いを続けているブラック ウォーグレイモンXとユウの姿を捉える。

 

『ユウ君!!』

 

「ユウッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXとユウの姿を目撃したなのは、はやて、フェイトは悲痛な声でユウの名を呼び、すぐにそれぞれデバイスを構えようとするが、その動きを白い槍-グラムが防ぐ。

 

『ッ!!』

 

「それ以上踏み込んではならん。踏み込めば死ぬ事になるぞ」

 

「ど、どう言う事よ!?」

 

「……気が付いて居なかったのか? ブラックは戦いながらも此方に気を配っている。一歩でも足を踏み入れれば、即座に攻撃して来るぞ。今は動くな」

 

 そうデュークモンは桜達に警告を告げると共に右手に出現させていたグラムを何処へとともなく消失させ、再び腕を組みながら戦いを観戦しだす。

 初めて見るデュークモンの姿になのは、フェイト、はやては困惑するが、デュークモンは何も告げる事無く戦いを見つめ、ポツリと呟く。

 

「……動く」

 

 デュークモンが言葉を呟き終えると同時に、睨み合いを行っていたユウが後方へとガルルキャノンを撃ち出し、その反動を凄まじい勢いに変えてブラックウォーグレイモンXに向かって突進する。

 

「ハァアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

「フッ! 正面からとは……望みどおり叩き潰してやるぞ!!」

 

『ユウッ!!』

 

『ユウ君!!』

 

 突撃して来るユウに向かって左腕のドラモンキラーを振り下ろそうとするブラックウォーグレイモンXの姿に、桜達は悲鳴のような声を上げて、ブラックウォーグレイモンXに叩き潰されようとしているユウを見つめた。

 しかし、ブラックウォーグレイモンXのドラモンキラーがユウに向かって振り下ろされる直前に、突如としてユウの進もうとしている前方の左側に障壁が展開される。

 

「させん!!」

 

 突然出現した障壁にブラックウォーグレイモンXはすぐにユウの策を悟り、振り下ろそうとしていた左腕を無理やり動かし障壁を粉砕した。

 その間にユウはブラックウォーグレイモンXの目の前にまで移動していたが、ブラックウォーグレイモンXは慌てる事無く、右腕のドラモンキラーを勢いを完全に殺し切れていないユウに向かって突き出す。

 

「ドラモンキラーー!!」

 

(やっぱりそう来たか!! 此処だ!!)

 

「何ッ!?」

 

 ブラックウォーグレイモンXが突き出したドラモンキラーがユウの体に当たる直前に、ユウはまるで空中に足場があるかのように不自然な動きで“左側”に移動した。

 二人が考えた作戦はシンプルだった。素早く相手に向かって突進し、見えない障壁を利用した急激な方向を転換での隙を衝くと言う単純な作戦。 当初ユウとリインフォースは攻撃の手が甘いブラックウォーグレイ モンXの右側から攻撃し、『消滅』させるつもりだった。だが、当然ながらブラックウォーグレイモンXとその身に融合しているルインも自分達の隙については一番に理解している。だからこそ、ユウとリインフォースはあえて攻撃も防御も完璧な 左側からの攻撃を選択したのだ。

 しかもユウには“聖王”の血の中に存在している高速学習と言う能力も持っていた。その能力のおかげで長時間戦い続けていたブラックウォーグレイモンXが取るであろう行動も先読みし、策を万全な状態にしたのだ。

 その結果、策は成功し、ブラックウォーグレイモンXの動きはほんの一瞬止まってしまい、ユウとリインフォースは自分達の勝利を確信しながら、左腕のグレイソードに残っている全ての魔力を注ぎ込みブラックウォーグレイモンXに振り抜く。

 

「(オーールデリーーートッッッ!!!)」

 

 ユウがグレイソードを振り下ろした瞬間に凄まじい衝撃が発生し、ユウとブラックウォーグレイモンXの動きは止まってしまう。

 その様子に桜達は以前の闇の書の『初期化』の時と同じだと思い、ユウの勝利を確信するが、デュークモンだけは僅かに安堵の息を吐き、静かに桜達にとっての絶望の言葉を呟く。

 

「……勝者は、やはりブラックか」

 

『えっ!?』

 

『ッ!!』

 

 デュークモンの言葉に桜達が疑問の声を上げると同時に、ブラックウォーグレイモンXに斬りかかった筈のユウのバリアジャケットが砕け散り、ユニゾンが解けたリインフォースは地面に倒れ伏してしまった。

 その事実に桜達が慌ててユウとブラックウォーグレイモンXの方を注意深く見つてみると、ユウの鳩尾にブラックウォーグレイモンXの“何も装備されていない左拳”がめり込んでいた。

 

「グフッ!! ……な、何で……ばれて……いたんだよ?」

 

「惜しかったな。確かに今の戦法には驚いたが、貴様の使った戦法は既に経験している」

 

 口から血を吐き出しながら質問して来たユウに、ブラックは冷静に答えた。

 あの瞬間。ユウとリインフォースの【オールデリート】が決まろうとする直前に、ブラックウォーグレイモンXは瞬時にドラモンキラーを装備していた左腕をグレイソードの前に盾にするように翳したのだ。

 当然ながら事前にハデスフォースを消滅させた経緯を覚えていたユウとリインフォースは、盾にされたドラモンキラーごとブラックウォーグレイモンXを【消滅】させるつもりだった。だが、此処でユウとリインフォースにとって完全な予想外の事態が起きた。

 “ブラックウォーグレイモンXはグレイソードとドラモンキラーが激突し合う直前に、左腕からドラモンキラーを外して完全に無手になった左腕をユウの鳩尾に突き刺したのだ”。

 当然ながらグレイソードはブラックウォーグレイモンXのドラモンキラーを消滅させる所で止まり、ユウとリインフォースはグレイソードをブラックウォーグレイモンXには振り抜く事は出来なかった。

 その事実に全身を激痛に襲われながらもユウは悔しそうな顔をするが、ブラックウォーグレイモンXからすれば当然の事だった。

 

「貴様の血筋-“聖王”には散々苦労させられた。俺は自分が戦った相手の事を忘れる事はない。もし奴との戦いの経験が無かったら危なかったがな……貴様の敗因は戦い方でも実力差でもない……自分以上の強い者との戦いの“経験”の無さが貴様の敗因だ」

 

「……お前には……在るのかよ?」

 

「それが……俺の日常だッ!!」

 

「ガハッ!!」

 

「ユウッ!!」

 

 バリアジャケットも無く地面に叩きつけられたユウに桜は悲鳴のような声を上げ、なのは、フェイト、はやては目から大粒の涙を流し始めた。

 しかし、ブラックウォーグレイモンXは桜達の様子になど構わずに、地面の上で苦痛に苦しんでいるユウに向かって右腕の振り被る。

 

「もはや戦いは終わりだ。貴様との戦いは苛立ちだけしかなかったが、それもこれで終わる」

 

「……あぁ、結局駄目だったのかよ」

 

「貴様は確かに力と信念も持っている強い敵だった。だが、俺の中の何かが貴様を赦せん……これで終わりだ!!!」

 

「クソッ!!」

 

 力強いブラックウォーグレイモンXの叫びに、ユウは地面に倒れ伏しながらも悔しげに声を上げるが、ブラックウォーグレイモンXは止まる事は無く、悔しそうにしているユウに向かって拳を-振り下ろせなかった。

 

「ムッ!!」

 

「えっ!?」

 

 ユウにブラックウォーグレイモンXの拳が直撃する直前に、ブラックウォーグレイモンXの右腕に無数の色取りどりのバインドが巻きつき、ブラックウォーグレイモンXの拳は完全に動かなくなってしまう。

 その事にブラックウォーグレイモンXとユウは驚き、慌てて周りを見回してみると、傷つきながらも目から光を失っていない、なのは、フェイト、はやて、リニス、シグナム、リインフォース、シャマル、クライド、クロノに、両手が逆方向に曲がりながらも立っているザフィーラ、ユーノに肩を借りながら傷口を押さえているヴィータ、そして最後に桜がブラックウォーグレイモンXにそれぞれデバイスを構えていた。

 

「ユウ君は死なせない!!」

 

 なのはが。

 

「もうユウを傷つけないで!!」

 

 フェイトが。

 

「お願いや!! 私らにとってはユウ君はとても大切な人なんや!!」

 

 はやてが。

 

「ユウは私の唯一無二の主です!! その主を殺させたりしません! !」

 

 リニスが。

 

「例えこの身に変えても、ユウは死なせん!!」

 

 シグナムが。

 

「彼は私を救ってくれた存在!! 絶対に貴様には殺させん!!」

 

 リインフォースが。

 

「ユウは長き時の中でも稀に見るほどの善人だ! このような戦いでは死なすわけにはいかん!!」

 

 ザフィーラが。

 

「ユウ君にはもう手を出させません!!」

 

 シャマルが。

 

「僕らの親友をこれ以上傷つけさせない!!」

 

 ユーノが。

 

「てめえの好きにはさせねぇぞ!!」

 

 ヴィータが。

 

「……君からすれば僕らの行動が原因だろうが、それでもユウを攻撃するのだけは赦さない!!」

 

 クロノが。

 

「退いてくれ。これ以上の戦いは無意味だ」

 

 クライドがそれぞれ自分達の考えをブラックウォーグレイモンXに向かって叫んだ。

 ブラックウォーグレイモンXはその叫びに無言を貫き、静かに何も叫んでいない桜を見つめると、桜はゆっくりとブラックウォーグレイモンXに近づく。

 

「……貴方が言っていた言葉の意味は分かるわ……私達は確かに貴方に比べれば恵まれ過ぎている……こうやって、死んでしまうかもしれないのに助けてくれる仲間がいるんだから……だけどお願い!! もうこれ以上ユウを、私達の大切な人を傷つけないで!!」

 

 それぞれの言葉にブラックウォーグレイモンXは、黙したまま右拳を構え続ける。

 その様子を見ていたデュークモンは、何時もとは違うブラックウォーグレイモンXに気が付く。本来ならば敵対した相手が命乞いをしようと拳をブラックウォーグレイモンXは振り抜く。

 だが、今は拳を構えたまま何かを迷っているかのように沈黙している。

 

(……デュークちゃん)

 

(あぁ)

 

 内に居るヴィヴィオの言いたい事を悟ったデュークモンは、グラムとイージスを顕現させながら歩き出す。

 桜達の背後にデュークモンは移動し、何処か辛そうにしているブラックォーグレイモンXに声を掛ける。

 

「……もう良かろう……ブラック。これ以上の戦いは……お前にとっても辛いだけだ」

 

「…………そうだな、デュークモン……やはりこの世界は俺を苛立たせるだけか」

 

 ブラックウォーグレイモンXはデュークモンの言葉に同意し、右腕に巻きついていたバインドを一瞬の内に粉砕して、地面に倒れ伏しているユウに背を向ける。

 

「俺は貴様とあの娘を認めるつもりはない。覚えておけ。デジモンの技を使うのならば、そのデジモンに恥じる行為だけは絶対にするな。もしデジモンを侮辱する行為をしたら、その時はッ!! 貴様ら全員をこの世から消滅させてやる!!」

 

『ッ!!!』

 

 叫ぶと共に放たれたブラックウォーグレイモンXの凄まじい殺気に、その場にいた全員の体は竦み上がり恐怖に震えた。

 その様子を横目で確認したブラックウォーグレイモンXはもはや振り返る事無く、静かにその場から去って行く。その余りにも寂しげなブラックウォーグレイモンXの背にユウは言いようのない悲しみを感じるが、ブラックウォーグレイモンXは振り返る事無く歩いていく。

 デュークモンは融合しているヴィヴィオと共にブラックウォーグレイモンXの悲しみを感じ取るが、それを押し隠し地面に倒れ伏しているユウに声を掛ける。

 

「……忠告だ。“聖王”としての力。その力を振るうならば、覚悟を決めて振るう必要が在る。もしも覚悟無きままに振るい続ければ、君だけではなく周囲の者達にまで災いを呼ぶ日が来るだろう」

 

「どういう意味だよ? それは?」

 

「私がするのは忠告だけだ……去らばだ」

 

 デュークモンはユウの質問に答える事無くマントを棚引かせながら、ブラックウォーグレイモンXの後をついて行き、ユウ達は疑問に満ち溢れながらも治療を行う為にアースラへと転移し、後には荒れ果てた世界だけが残されるのだった。




次回のエピローグでコラボ編は完結です。

此処までお付き合い頂けた皆様に感謝いたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。