漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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コラボ5

「ハァアアアアアアアアアッ!!」

 

「オオォォォォォォォーーーーーーーーッッッッ!!!!」

 

 互いに同時に高速で突進したブラックウォーグレイモンXとユウはそれぞれ武器を相手に向かって突き出し、ユウは自身に左腕の竜の頭部のような手甲から出現させているグレイソードに炎を纏わせながらブラックウォーグレイモンXに向かって振り抜く。

 

「グレイソーーードッッ!!!」

 

「下らん!!」

 

 ユウが全力で振り抜いて来たグレイソードに対してブラックウォーグレイモンXは無造作に左手のドラモンキラーをグレイソードに叩きつけ、グレイソードの刃は甲高い音をたてながら跡形も無く砕け散った。

 その現象にユウだけではなく桜達も目を見開いた。ユウのグレイソードは今まで一度も砕けた事は無かった。少なくともX進化していないブラックのドラモンキラーとぶつかり合っても罅が入らないほどの頑強を備えていた。

 しかし、今そのグレイソードはブラックウォーグレイモンXが、全く力を込めず無造作に振るった一撃の下に砕け散ってしまった。その事実だけでもユウ達が呆然とするには充分な出来事だったが、ブラックウォーグレイモンXがその隙を逃す筈も無く、ユウに向かって右手のドラモンキラーを振り下ろす。

 

「ドラモンキラーーー!!!!」

 

「ハッ!! クッ!!」

 

 自身に向かって振り下ろされようとしているドラモンキラーに気がついたユウは負担が掛かるのを承知で、地面を全力で蹴りつけ、その勢いを利用して後方へと飛び退き、ドラモンキラーの射程から逃れた。

 しかし、ブラックウォーグレイモンXは全く慌てる事無く右手のドラモンキラーの爪先の照準をユウに向かって構え、そのまま爪を射出する。

 

「ッ!! しまっ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXが射出したドラモンキラーの爪先をユウは避ける事が出来ず、背中に棚引かせていたマントへとドラモンキラーの爪先は突き刺さり、そのままユウはジェット推進で進む爪先の影響で背後へと吹き飛んで行く。

 

「ガハッッ!!!」

 

 射出されたドラモンキラーの爪先によって遥か後方へと吹き飛んだユウは、その先に存在していた瓦礫に背中から激突し、苦痛の声を上げた。

 ユウは背中に走る苦痛を堪えながら何とか顔を上げて前を見てみると、一瞬の内にユウの目の前に移動していたブラックウォーグレイモンXが瓦礫に磔状態になっているユウに向かって右腕を振り抜く。

 

「ハァッ!!!」

 

「ガアァァァァァァァァッ!!!」

 

『ユウッ!!』

 

「ユウ君ッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXに殴り飛ばされ、ユウは瓦礫ごと空へと舞い上がった。

 吹き飛ぶユウを目撃した桜達は悲鳴を上げ、その悲鳴に吹き飛び掛けていた意識を繋ぎ止めたユウは、全身を襲う激痛に堪えながら右手の狼の手甲から展開していた砲身を地上に留まっているブラックウォーグレイモンXに向ける。

 砲身が耐え切れる限界までの魔力を注ぎ込み、ユウは圧縮魔力弾を放つ。

 

「ガルルキャノン!!!!」

 

 今まで以上の魔力が込められたせいか、ユウが放ったガルルキャノンの大きさはブラックウォーグレイモンXが通常状態で放ったガイアフォースを上回る大きさを持って、高速で地上に立っているブラックウォーグレイモンXに迫る。

 しかし、ブラックウォーグレイモンXは迫り来るガルルキャノンを見ても慌てる様子は全く見せずに、左手のドラモンキラーの爪先に黒く輝くエネルギー球を作り上げ、ガルルキャノンに向かって投げつける。

 

「失せろ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXが投げたエネルギー球は目前に迫っていたガルルキャノンに激突し、そのまま巨大な大爆発が起きた。

 その様子を離れてた所で見ていた桜達はもはや言葉を出す事も出来ないのか、誰もが絶望に染まった表情をして、爆発の衝撃波を受けても全く揺るぐ様子を見せずに立っているブラックウォーグレイモンXを見つめる。

 

「ば……馬鹿な……あれだけの巨大さを持つユウの攻撃を……ただの小さなエネルギー弾で相殺しただと?」

 

「……悪魔……違う……化けものだよ……アイツは本当の……」

 

「勝てへん……あんな化けものに……勝てる筈があらへんよ」

 

 シグナム、フェイト、はやてはそれぞれ絶望に満ちた声を出し、なのはと桜もブラックウォーグレイモンXの圧倒的としか言えない力に恐怖を覚えて体を震わせる。

 ブラックォーグレイモンXは桜達の様子など構わずに、 上空に存在している煙の中に隠れているユウに向かって攻撃を開始しようとする。だが、その直前に煙を切り裂きながら左手の竜の手甲に激しい炎を、右手の狼の手甲に凄まじい冷気を発生させているユウが一直線にブラックウォーグレイモンXに向かって飛び出して来た。

 

「オォォォォォォォォォッ!!!!」

 

「ほう」

 

 左手に炎を、右手に冷気を纏っているユウに、ブラックウォーグレイモンXはユウが考えている作戦に瞬時に気がつき、感心した声を上げながらユウを見つめていると、ユウは激しい炎を纏っている左腕を振り被る。

 

「ダブルッ!!」

 

「ムン!!」

 

 ユウが振り下ろして来た左腕の一撃を、ブラックウォーグレイモンXは右腕のドラモンキラーで防御した。

 激しい炎纏うユウの一撃はブラックウォーグレイモンXの右手のドラモンキラーを炎で炙る以外の効果は全く無く、ブラックウォーグレイモンXには何のダメージも無かった。

 その姿にユウは僅かに悔しそうな顔をしながらも、ブラックウォ ーグレイモンXに反撃されまいと連続で左腕を繰り出す。だが、ブラックウォーグレイモンXはやはり右腕だけでユウの攻撃を防いで行く。

 そしてある程度攻撃を繰り出し終えると、ユウは今度は凄まじい冷気を纏っている右手をブラックウォーグレイモンXの右手に向かって振り被る。

 

「トレントォッ!!」

 

「無駄だ!!」

 

 ユウの右手がブラックウォーグレイモンXの右手に激突しようとする直前に、ブラックウォーグレイモンXは瞬時に左腕をユウの右手の前に出し、ユウの一撃を左腕で防御した。

 その事にユウは心の底から悔しそうな顔をしながらも右手を叩きつけた反動を利用して、ブラックウォーグレイモンXから離れようと後方に飛び去る。

 だが、ブラックウォーグレイモンXはユウの動きに対応して、地面を陥没させるながら踏み込み、渾身の蹴りをユウの腹部に叩き込む。

 

「ハッ!!」

 

「ガアァァッ!!」

 

「そ、そんな! ユウ君!!」

 

「イヤァッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXの地面が陥没するほどの威力を持った蹴りを叩き込まれたユウは、鎧の破片を撒き散らしながら苦痛の叫びを上げ、なのはとフェイトは悲鳴を上げた。

 地面に倒れ伏すユウを見ながらブラックウォーグレイモンXは、止めを刺す為に暗黒のエネルギーを両手の先に集中させ、苦痛のせいで立ち上がることも難しいユウに向かって放とうとする。

 だが、その直前に ユニゾンしているルインと戦いが始まってから初めて自身の本能が警告を発する。

 

(ブラック様!! 下がって!!)

 

「ッ!! クッ!!」

 

 ルインの警告と自身の本能の警告に従い、ブラックウォーグレイモンXは集めていたエネルギーを霧散させながら後方へと飛び退くと同時に、一筋の閃光がブラックウォーグレイモンXの立っていた場所に走った。

 それと共にユウはゆっくりと立ち上がり、右手に白い長剣-【オメガブレード】を握りながら自身のバリアジャケットを【オメガモン】を模した姿から、白を基調として所々に金色の装飾が成され、背中に天使の翼を思わせる純白の翼を備えたバリアジャケット-【インペリアルドラモン・パラディンモード】を模した姿へと変わった。

 新たに変化したユウの姿にブラックウォーグレイモンXは目を細めながらも、先ほどの訳の分からない警告の意味をルインと共に確認する。

 

(ルイン。先ほど奴の攻撃は一体なんだ? 避けていなければ危なかったようだが?)

 

(私にも詳しい事は分かりません。ですが、急に膨大な魔力を感じたので思わず警告を発してしまったんです)

 

(いや、お前の判断は間違っていない。俺の本能も警告を発していたからな…………しかし、一体何故だ?)

 

(…………ブラック様。恐らくですが、あの少年の持つデバイスには、私達の知る本物の【オメガブレード】と同じように【対象を初期化する】能力が在るのでは無いでしょうか?)

 

(……何だと?)

 

(この世界の生真面目が言っていました、〝この世界の私はあの少年に初期化させられた゛と……信じ難い事ですが、アレだけは真似ではなく、あの少年が持つデバイスの力なのでは無いでしょうか? 此処は平行世界です。私達の知らないロストロギアが在っても可笑しくは無いと思います)

 

(……なるほど……言われてみればそうだ)

 

 ルインの言葉にブラックウォーグレイモンXは納得したように声を出しながら、膝をついて荒い息を吐いているユウを見つめた。

 “対象を初期化させたりする能力を持ったデバイス ”。 確かにそれならば先ほどのルインの警告も、自身の本能が発した警告の意味が分かる。幾ら絶大な力を持っているブラックウォーグレイモンXでも、問答無用で初期化か消滅されたりすれば死んでしまうだろう。

 しかし、種が割れてしまえば恐れる事は無い。攻撃が当たらないように戦えばいいのだから、ブラックウォーグレイモンXからすれば簡単な事だった。

 

「随分と面白いデバイスだ。アイツが欲しがりそうなデバイスだな」

 

「ッ!! ……悪いが……このデバイス-【オメガ】は、この世界の俺の両親の形見なんだ……手放す気はない!!」

 

 自身のデバイスの能力が気づかれた事に驚きながらも、ユウは【オメガブレード】を両手で握り締めながらブラックウォーグレイモンXに向かって構えた。

 一撃さえ当てられれば【オメガ】の持つ固有能力でブラックウォーグレイモンXを倒す事が出来る。体力的にキツイが、それでもカウンター狙いと言う手段が在る。そう思いながらユウは【オメガブレード】を構えるが、更なる絶望の光景が次の瞬間、目の前に映る。

 

「……パンツァーガイスト」

 

「なっ!?」

 

 黒く輝く光に全身を包んだブラックウォーグレイモンXの姿に、ユウは驚愕した。

 

「この状態の俺をただ進化した姿だと思うな。完全に馴染むのには時間が掛かったが、今では【闇の書】の力を全て扱えるまでになっている」

 

「……嘘だろう」

 

 ブラックウォーグレイモンXの言葉の意味を悟ったユウは絶望感に満ち溢れた。

 ただ破壊にしか扱えない【闇の書】の力を完全に己の物にしている。つまり、【夜天の魔導書】に記載されている魔法も扱える。膨大な数の魔法を自由自在に扱えると言うだけで戦略の幅は無限に等しいほどに広がる。

 同時にユウは悟った。何故今、ブラックウォーグレイモンXがパンツァーガイストを使用したのかを。

 言うなればパンツァーガイストはセンサー替わりなのだ。確かにユウの【オメガブレード】は、本物の【オメガブレード】に近い力を宿している。だが、嘗て一時的にも本物の【オメガブレード】を目にし、そして扱った事が在るブラックウォーグレイモンXは、【オメガブレード】の弱点を見抜いていた。

 【オメガブレード】は全てを【初期化】する。【消滅】ではなく【初期化】。つまり、何かに触れれば【初期化】と言う現象が発生する。そして今、ブラックウォーグレイモンXにはパンツァーガイストと言う膜が張られてしまった。

 例えユウが【オメガブレード】を用いて【初期化】を発動させたとしても、最初に【初期化】されるのはパンツァーガイスト。発動を見極め、瞬時にユウの傍から離れるのは、今のブラックウォーグレイモンXからすれば簡単な事だった。

 この瞬間、ユウは悟った。例えパラディンモードを使って戦ったとしてもブラックウォーグレイモンXを倒せる可能性はゼロだと言う事を。確かに【オメガ】の真の能力-【消滅】や劣化能力である【初期化】ならばブラックウォーグレイモンXを倒せる可能性は存在していた。だが、既にブラックウォーグレイモンXは【オメガ】の能力を見破ったばかりか、あっさりと対処法を実行して見せた。

 【オメガ】の能力が知られた時点で、ユウに残されていた勝てる可能性は完全にゼロとなったのだ。

 その事が分かっているユウは、油断なく警戒しているブラックウォーグレイモンXに【オメガブレード】を構えながら遠く離れた場所で戦いを見ている桜に念話を送る。

 

(桜……俺が時間を稼ぐから皆を連れて逃げろ)

 

(ッ!! 何を言っているのよ!?)

 

(分かっているだろう!! ブラックウォーグレイモンの狙いは俺とお前だ!! だから、他の皆は逃げる事が出来る……俺が此処に残って時間を稼げば、少なくとも皆とお前は助かる……もしかしたら、お前の事を追って来るかもしれないけど、時間が在ればブラックウォーグレイモンに対する対抗策も考える事が出来る……プレシアさんやリンディさんがいるんだ。何か方法を見つけてくれるさ)

 

(馬鹿!! そんな事をして皆が喜ぶと思っているの!? 悲しむだけでしょうが!! もちろん私も!!)

 

「(……そうだよなぁ……皆絶対に悲しむだろうな……辛い思いをさせるな……だけど!! だけどそれでも!!)……それでも俺は!! 皆が死ぬ所なんて見たくないんだよ!!! オォォォォォォォーーーーーーー!!!!!」

 

「フッ、良い覚悟だ。俺も全力で答えてやる!! ハァアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

 互いに叫び合うと共に相手に向かって突進し、ユウはオメガブレードで、ブラックウォーグレイモンXは両手のドラモンキラーを使って衝撃波を撒き散らしながら凄まじい剣戟を繰り広げる。

 しかし、その剣戟の中で繰り広げられるのはブラックウォーグレイモンXが振り抜くドラモンキラーをユウが【オメガブレード】を使って防御すると言う一方的な展開だった。その上、徐々にユウの握る【オメガブレード】の刃は欠けてゆき、刃毀れだらけの状態に変わって行く。

 ユウは【オメガブレード】と鎧の破片が周囲に散るのを目にしながらも、全力でブラックウォーグレイモンXの攻撃を防御し続け、少しでも時間を稼いで桜達の逃げる時間を稼ぐ為にユウは死力を振り渋りながらブラックウォーグレイモンXの攻撃を防いでいく。

 その様子を離れた所で涙を流しながら見つめていた桜は、事前に送られて来たユウの念話の事を考え続け、突如として涙を手で拭きながら横に落ちていたレイジングソウルの柄を握り締める。

 

「……皆……私とユウがブラックウォーグレイモンXを少しでも押さえるから……皆は傷ついているヴィータ達を連れてアースラに避難しなさい」

 

『桜ッ!?』

 

「桜ちゃん!?」

 

「さ、桜お姉ちゃん!? 何を言っているの!? 逃げるんだったら、桜お姉ちゃんとユウ君も一緒に逃げようよ!?」

 

「……無理よ……例え此処で運が良く逃げられても……アイツは……ブラックォーグレイモンXは何処までも私とユウを追って来るわ……それに皆が此処まで傷ついたのも、もとはと言えば、私とユウがデジモンの技を教えたせいだし……責任を取りに行くだけよ」

 

「ッ!! 嫌だよ!! 行っちゃ嫌だよ、桜お姉ちゃん!!!」

 

 なのはは目から大量の涙を溢しながら桜に抱きついた。

 桜は悲しげな顔をしながらも、ユウと戦う前にブラックウォーグレイモンXが発した言葉の意味が漸く僅かながらも理解出来た。

 

『俺は貴様らが気に入らんのだ。自分達がどれだけ護られているのかを知らない貴様らがな』

 

『その身に教えてやろう。貴様らがどれだけ恵まれて生まれて来たのかを!!!』

 

(……そうね。私とユウは確かに護られていた……私達はこの世界に本当はいない存在……それが当たり前のようにいられたのは、なのは、母さん、父さん、恭也兄さん、美由希姉さん、そして皆が受け入れてくれたから……今頃になって気づくなんて、私も馬鹿よね……確かに恵まれていたわ……だから!)

 

「ッ!!」

 

 突如として突き飛ばされたなのはは目を見開くが、桜は構わずになのは達に向かって寂しげに微笑む。

 

「……皆……さよなら」

 

Accel(アクセル) Fin(フィン)

 

「桜お姉ちゃん!!」

 

「桜ちゃん!! 行ったらあかん!!」

 

「駄目だよ、桜!!」

 

 ユウとブラックウォーグレイモンXが激突しあっている地点に向かって飛び立つ桜の背になのは、はやて、フェイトはそれぞれ叫ぶが、桜は止まるどころか更にスピードを加速させ戦いの場へと向かい出す。

 その間にもユウとブラックウォーグレイモンXの戦いを続けていたが、既にユウの纏っていたバリアジャケットはボロボロな姿に変わり、両手で握っていた【オメガブレード】も刃毀れだらけの姿に変わっていた。

 それでもユウは諦めずに戦い続けていたが、遂にそれも限界が訪れ、完全に無防備な隙が僅かに出来てしまう。当然ながらその隙をブラックウォーグレイモンXが逃す筈が無く、右腕に全力を込めながらユウの胴体に向かって撃ち込む。

 

「ムン!!」

 

「ガッ!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXの拳をモロに食らったユウは口から血を吐き、空中に体が浮き上がった。

 次で決める為にブラックウォーグレイモンXは、動きが取れなくなっているユウに向かって両手を向け、背中のバーニアを噴かそうとする。

 しかし、その動きは直前で止まり、自身の背後へと即座に振り返り、レイジングソウルをバーストモードに変形させながら突撃して来る桜の姿を目にする。

 

「A.C.S起動!!」

 

「フン」

 

「馬鹿!! 止めろ、桜!!!」

 

「エクセリオンバスターーー!!!! A.C.Sッ!!!」

 

 桜はユウの叫びに耳を貸す事無くブラックウォーグレイモンXに向かって突撃し、ゼロ距離でエクセリオンバスターを撃ち込んだ。

 ブラックウォーグレイモンXにゼロ距離でエクセリオンバスターを撃ち込んだ桜は、凄まじい衝撃に襲われる。だが、ブラックウォーグレイモンXが纏うパンツァーガイストを破る事は出来ず、逆に衝撃によってダメージを受けていた桜を左手で捕まえる。

 

「ッ!!」

 

「捨て身の攻撃か。確かにそれならば俺にもダメージが少しは与えられただろうが、残念だが今の俺は違う」

 

「クッ!!」

 

 捨て身の攻撃を持ってしてもダメージを与えられなかった事に桜は悔しそうな声を上げ、何とか拘束から逃れようとするが、ブラックウォーグレイモンXは桜の行動など気にせずに左腕にエネルギーを集中させ始める。

 その膨大な負のエネルギーに気がついたユウは桜を助けようと動こうとするが、ダメージからか、動く事は出来なかった。その間にもブラックウォーグレイモンXはエネルギーを集め続け、目を細めながら暴れている桜に声を掛ける。

 

「順番は変わったが、貴様も俺が気に入らん奴には違いない。先に、消えろッ!!! 暗黒のッ!!」

 

「さくらーーーーーーッ!!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXが行うとしている事が分かったユウは悲痛な声を上げるが、ブラックウォーグレイモンXは止まらずにゼロ距離からガイアフォースを桜に-放てなかった。

 

「セブンズヘブン!!!」

 

「ムッ!!」

 

 背中に突如として七つの魔力弾-セブンズヘブンを食らったブラックウォーグレイモンXは驚き、背後へと目を向けてみると、ボロボロな姿になりながらも目から光を失っていないリニスが瓦礫の上に立っていた。

 ブラックウォーグレイモンXは僅かに驚いていると、何時の間にか上空に移動していたシグナムがレヴァンティンを桜を掴んでいるブラックウォーグレイモンXの左腕に向かって振り下ろす。

 

紫電一閃(しでんいっせん)ッ!!!」

 

「グッ!! 舐めるな!!」

 

 シグナムの放った紫電一閃を食らったブラックウォーグレイモンXは、僅かに声を上げるが桜を離す事は無く、逆に近づいて来たシグナムに向かって右腕のドラモンキラーを振り下ろそうとする。

 しかし、その直前に何とか体を襲っている激痛から逃れたユウが、ブラックウォーグレイモンXの左腕に当てたままのレヴァンティンの上から【オメガブレード】を振り下ろす。

 

「ハァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

「グゥッ!!」

 

 二度目の同じ箇所の衝撃によってパンツァーガイストが破られ、ブラックウォーグレイモンXは思わず桜を手放してしまう。

 その隙にシグナムは桜とユウの腕を握り締め、ブラックウォーグレイモンXの傍からすぐさま離れる。

 しかし、衝撃は受けてもダメージは無かったブラックウォーグレイモンXはすぐさま桜とユウを連れて離れて行くシグナムの後を追おうと、背中のバーニアを噴かそうとする。

 だが、その直前に空から数え切れないほどの砲撃がブラックウォーグレイモンXに向かって降り注ぐ。

 

「全力全開!! スターライト……」

 

「雷光一閃! プラズマザンバー……」

 

「響け! 終焉の笛! ラグナロク!」

 

「集いし星よ、月となれ……」

 

『ブレイカーーーーーー!!!!!!!』

 

夜天の煌き(ルナライトブレイカーファランクスシフト)ッ!!!!!」

 

 上空から放たれた凄まじい威力を持った集束砲の全ては地上に立っていたブラックウォーグレイモンXへと向かって行き、ブラックウォーグレイモンXを飲み込むと共に凄まじい大爆発が起きた。

 その影響を離れた所の瓦礫の影にリニスが張った防御結界の中に隠れながらシグナムはユウと桜を大切そうに抱え、砲撃の影響が治まるのを待つ。

 そして少しして砲撃の影響が完全に治まるのを確認すると、その場にいる全員が安堵の息を吐き、リニスは傷ついているユウに治療魔法を掛けながら声を掛ける。

 

「ユウッ!! 大丈夫ですか!!」

 

「あぁ、何とかだけど……何で逃げなかったんだ?」

 

「前にも言った筈です!! 私はもう、あなた以外を主とするつもりはありませんよ!! あなたが死ぬぐらいなら私は命を賭けても戦います!!」

 

「同感だ……お前達二人を見捨てて逃げるぐらいならば……この場で奴と戦った方がマシだ。高町、テスタロッサ、主も同意見だ。何とかこの場で奴を倒す!! 全員で掛かればあるいは…」

 

「無理だな」

 

『ッ!!』

 

 シグナムの言葉に覆い被さるように響いた低い声に全員が目を見開いた瞬間に、シグナム達が隠れていた瓦礫を突き破り、ダメージを全く負った様子がないブラックウォーグレイモンXが瓦礫を粉砕しながら姿を現した。

 その姿にシグナムは驚愕するが、すぐさま右手に握っていたレヴァンティンをブラックウォーグレイモンXに振り抜こうとするが、その前にブラックウォーグレイモンXが右腕のドラモンキラーを振り抜き、レヴァンティンの刀身を砕く。

 

「ッ!!」

 

「邪魔だ。失せろ!!」

 

 レヴァンティンが砕かれた事に動きが止まってしまっていたシグナムにブラックウォーグレイモンXは迷う事無くドラモンキラーの爪先に作り出していた黒いエネルギー球を叩きつけ、シグナムは叫ぶ事も出来ずに吹き飛んで行った。

 更にブラックウォーグレイモンXは、その場で呆然としているユウと桜に向かって叩き潰す勢いでドラモンキラーを振り下ろそうとするが、その直前にリニスが魔力で強化した拳をぶつけて来る。

 

「ハアッ!!」

 

「……何かしたか?」

 

「ッ!! クッ!! アアアアアアァァァァァァァァァッッッ!!!」

 

 リニスは叫びながら、次々とブラックウォーグレイモンXに向かって拳や蹴りを撃ち続ける。

 しかし、ブラックウォーグレイモンXには全くダメージが与えられずに、逆にリニスの拳から血が飛び散る。それでも構わずにリニスは殴り続けるが、ブラックウォーグレイモンXは煩わしそうに殴り掛かって来たリニスの右腕を簡単に掴み取る。

 

「ッ!!」

 

「煩わしいッ!!」

 

『リニスッ!!!』

 

 腕が掴み取られると同時にリニスは地面に勢いよく叩きつけられ、ユウと桜は悲痛な声で叫ぶが、リニスは答える事無く気絶したままだった。

 その様子にユウと桜は怒りは振り切れ、全身を襲っている激痛など気にせずにブラックウォーグレイモンXに飛び掛ろうとする。しかし、ブラックウォーグレイモンXはその前に両手の先に巨大な黒いエネルギー球を作り上げユウと桜に向かって連続で放つ。

 

「消えろ。ハデスフォーーース!!!!」

 

『ッ!!!』

 

 ブラックウォーグレイモンXが放ったハデスフォースは、凄まじいスピードでユウと桜に迫り、ユウと桜は驚愕に目を見開きながらも避けようとする。

 だが、数え切れないほどの数で放たれたハデスフォースの範囲から逃れる事は出来ず、悔しそうな顔をして目の前に迫って来ているハデスフォースを見つめる。

 此処で終わりだとユウと桜が諦めを覚えた瞬間、突如としてユウと桜は横から強く押され、ギリギリのところでハデスフォースの影響範囲から逃れる。

 

「ッ!! ……フェ……」

 

「……はや……」

 

 横から押された事にユウと桜は驚きながらも目を横に向けてみると、寂しげながら嬉しげな微笑みをしているフェイトとはやての姿が存在していた。

 その姿にユウと桜は目を見開き、二人が自分達を押したと思われる手にゆっくりとまるで時間が極限に遅くなった感じを受けながら手を伸ばすが、突如として時間は戻り、ユウと桜の目の前でフェイトとはやてはハデスフォースに飲み込まれた。

 

「アッ……アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 

「フェイト!! ハヤテェェェェェェェェッ!!!!!」

 

 ハデスフォースに飲み込まれ、遥か遠くへと消えて行ったフェイトとはやてを目の前で目撃したユウと桜は悲しみに満ちた叫びを膝をつきながら上げた。

 その姿に上空で様子を見ていたなのはとリインフォースも悲しみに満ちた顔をして涙を目から溢すが、ブラックウォーグレイモンXだけはフェイトとはやてが消えた場所を不機嫌そうに見つめていた。

 ユウや桜は気がつけなかったが、ブラックウォーグレイモンXは捉えていた。

 “ハデスフォースがフェイトやはやてに直撃する瞬間に、急速で接近し、ハデスフォースとフェイト、はやての間に割り込んだ白い影を”

 

「(奴が来ているのか)……邪魔が入ったか。今ので決めるつもりだったがな」

 

「ッ!! ウワアァァァァァァァァァァーーーーー!!!!!」

 

「ッ!! いけない!! 戻って下さい!!」

 

 ブラックウォーグレイモンXの感情の全く篭っていない言葉を耳にしたなのはは、怒りの叫びを上げながらブラックウォーグレイモンXに突撃し、その余りにも後先考えていない行動にリインフォースは危機感を覚えてなのはを止める為に叫びながら飛び出した。

 しかし、リインフォースが追いつく前になのははブラックウォー グレイモンXに向かってレイジングハートの先端を向け、自身の体の影響など考えずに今出せる最大の威力の砲撃を撃ち出す。

 

「エクセリオンバスターーーーーー!!!!!!!」

 

「消えろッ!!」

 

「ッ!!」

 

 なのはが放った全てを込めたエクセリオンバスターは、ブラックウォーグレイモンXが無造作に振るった右腕の衝撃波によって、一瞬の抵抗も無く四散した。

 その全てを込めた砲撃さえもただの衝撃波によって四散した事実に、なのはの中の何かが完全に圧し折れ、絶望に心が塗り潰されそうになるが、ブラックウォーグレイモンXは構わずになのはの目の前に移動する。

 

「アッ……」

 

「良い攻撃だった」

 

「グフッ!!」

 

『なのはッ!!』

 

 ブラックウォーグレイモンXに殴り飛ばされたなのはを目にした ユウと桜は悲痛な声でなのはの名を呼ぶが、なのはは答える事無く地上へと落下していき、地面に激突する直前にリインフォースがなのはを受け止める。

 

「高町!! 高町!!」

 

「……」

 

 リインフォースは腕の中に抱えているなのはに向かって叫ぶが、なのはは答える事無く絶望に染まった顔だけをしていた。

 その事実にリインフォースは辛そうに顔を俯かせ、急いで近寄って来たユウと桜もなのはの絶望に染まった瞳に悲しげに顔を俯かせ、地面に膝をついてしまう。

 次々と大切な人達が目の前で消えて行く事にユウと桜の心は暗く深い闇に堕ちそうになるが、その前にブラックウォーグレイモンXはゆっくりとユウ達の背後に近寄る。

 

「そろそろこの戦いを終わりにする。貴様らの死をもってな」

 

 ブラックウォーグレイモンXはそうユウ達の背に告げると共に、再び黒い巨大なエネルギー球を両手の間に作り始める。

 その事に気がついたユウは顔をゆっくりと上げ、なのはを抱えたままのリインフォースに覚悟が決まったと言うような顔をしながら声を掛ける。

 

「……リインフォース。力を貸してくれ」

 

「えっ? ユウ? アンタ何を言って?」

 

 ユウの呟いた言葉に桜は疑問を覚えて質問するが、ユウは答えずに真剣な顔をリインフォースに向け続ける。

 そのユウの顔を瞳にリインフォースも覚悟を決めると、抱えていたなのはを桜の腕の中に渡し、ゆっくりとユウへと手を差し出し、ユウもリインフォースに手を伸ばし始め、互いの手が触れ合おうとする。

 その間に5メートルぐらいの大きさを持った黒いエネルギー球-ハデスフォースを作り上げたブラックウォーグレイモンXは、ハデスフォースをユウ達に向かって投げつける。

 

「ハデスッ!! フォーーースッ!!!」

 

『……ユニゾン……イン』

 

 ハデスフォースが直撃する直前にユウとリインフォースは同時に声を出すが、ハデスフォースは止まらずにユウ達を飲み込んで爆発を起こした。

 確実に息の根を止めたと確信したブラックウォーグレイモンXは、もうこの場には用は無いと思い背後へと振り返り歩き出そうとする。だが、その足は突如として止まり、険しい視線を煙が噴き上がっている場所に向けると同時に煙の中から風が吹いてくる。

 

(何だ?)

 

(これは……まさか!? あの生真面目!?)

 

「ンッ?」

 

 煙の中から聞こえて来た足音にブラックウォーグレイモンXは疑問の声を上げながら足音が聞こえて来る場所を見つめていると、煙の中から虹色の魔力光を全身に纏い、機械的な白い鎧と兜を身につけ、左腕には機械的な黄金色輝くアーマーが装着され竜の頭部を模した手甲が備えられ、右腕には蒼く輝くアーマーを装着し、狼の頭部を模した手甲が装備されたバリアジャケットを纏ったユウがゆっくりと歩いて来た。

 その姿はユウがパラディンモードの前に着ていた【オメガモン】を思わせるバリアジャケットながらも、より鋭敏に機械的なバリアジャケットへと変わり、全身から発せられる気配も数段上に上がっていた。

 ブラックウォーグレイモンXは僅からながらも警戒心を上げてユウを見つめていると、ユウは左腕を軽く振るい、新たなグレイソードを出現させ、ブラックウォーグレイモンXに構える。

 

「……俺は確かにアンタの言うとおりだった……自分がどれだけ皆に護られていたのか……こうして皆が傷ついてよ く分かったよ」

 

「ほう、ならば如何する?」

 

「……決まっている。俺は皆を生きて安全な場所に連れ帰る。そしてあいつらの笑顔の為に……ブラックウォーグレイモンX……お前を……この世界から“消滅”させる!!」

 

「……フフフフフフフッ、ハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 良い覚悟だ!! だが、俺は手加減する気は無い!! 俺を消滅させると言うのならば、俺は貴様を殺す!! 此処からが本当の戦いと言う事だ」

 

「……ハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

「オオオオオオオオオオオオォォォォォーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 再びユウとブラックウォーグレイモンXは同時に叫びながら相手に向かって駆け出し、ユウは新たなに文字が刻まれたグレイソード を、ブラックウォーグレイモンXは両手のドラモンキラーを使って凄まじい衝撃波を撒き散らす剣戟を再び始めた。

 戦いは終焉へと近づく。その結末がどうなるのかは、戦っている本人達に分からないのだった。




8月30日の0時に次話を投稿します。

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