GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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勢いのまま書いてたら妙な展開になりました。
あと話数表示に小数点がついてない回は戦闘無し回にするという自分ルールでやってましたが、しばらく戦闘がなさそうなのであえなく断念…

※後書きにこれまでの感想の一部への抜粋返信を追加しました。


8:Thousand Yard Stare/戦場でワルツを

 

<イタリカ防衛戦から12時間後>

 伊丹耀司 第3偵察隊・二等陸尉

 フォルマル伯爵家の館

 

 

 

 

 

 ――そして過去から目を覚ます。

 

 

「……タミ様。イタミ様!」

 

「――――はっ!?」

 

 

 名前を呼ぶ女の声を認識するなり伊丹は飛び起きた。

 

 ベッドの傍らでは老メイド長、それからモームと紹介された人間の少女にアウレアというメデュサ族の少女、2人のメイドが驚きと心配が半々になった表情を浮かべて伊丹を見ていた。

 

 勢い良くベッドの上で上半身を起こした伊丹の全身がじっとりとした汗に覆われている。

 

 

「先程から魘されておられましたが、お気分は大丈夫でしょうか?」

 

「ああいやごめん、夢見が悪かったみたいでさぁ」

 

 

 片手で後頭部を掻きながら日本人お得意の曖昧な笑みを浮かべて誤魔化す伊丹であるが、反対側の手は右胸に残る傷跡へと自然に伸びていた。マカロフのデザートイーグルから放たれた弾丸による銃創である。

 

 薔薇騎士団による暴行を伴った連行で付けられた傷の手当を受けた伊丹であるが、ボロボロにされた迷彩服をフォルマル家のメイドが修繕してくれるという事で現在メイド達に預けっぱなしである。

 

 加えて治療の為に脱がされた姿のまま休息を取った伊丹の今の格好は、トランクス一丁に首や手首に巻かれた包帯のみという、シチュエーションが違えば露出狂扱いされかねない姿であった。

 

 だが伊丹を見た者は、30代男性のストリーキング姿に不快感を覚える以前に、彼の肉体に刻まれた痕跡にハッと息を呑んで驚愕するであろう。

 

 右胸の銃創を筆頭に、まるでボロボロになるまで扱われた上で破けた部分を雑に縫い合わされたぬいぐるみのように、大小様々な傷跡が伊丹の肉体に刻まれているのである。

 

 それらはほとんどが世界の戦場を駆け巡ったほんの1年足らずの間に受けたものであった。『銀座事件』で負った傷については、対爆スーツによって直接的な負傷はしていないので表面には残っていない(ただし飛竜のランスチャージや魔法などの攻撃を受けた際の衝撃によって広範囲の打撲・骨折など、表に見えない部分で相応のダメージを負いはした)。

 

 

(我ながらここまで傷だらけになってよくぞまぁ生きてたって感じだよなぁ)

 

 

 1番の深手となった傷は、やはり夢でも体験したマカロフのデザートイーグルによる銃創であった。

 

 右胸に着弾した銃弾は、胸郭を構成する鎖骨・肋骨・肩甲骨といった骨のいずれに命中しない奇跡的な弾道によって貫通。それでもマグナム弾の着弾によってショック状態を起こし、加えてこれまでの出血も重なった伊丹は、ホテルオアシスの屋上で意識不明の危篤状態に陥ったのである。

 

 その後、伊丹同様マカロフに撃たれ、更に腹部を鉄筋が貫通する重傷も負いながらも意識は健在だったユーリからの連絡により、ニコライと彼が用意した医療チームがヘリで駆けつけ伊丹らを回収。どうにかこうにか死なずに済んだのである。

 

 もし着弾位置が数センチ正中線に寄っていたら胸骨ごと気道や大動脈を破壊されて即死していただろうし、逆にもう数センチ外側に寄っていたら肋骨が粉砕され、その破片が腋下の神経叢を破壊し(腋には神経の束や動脈が密集しているのだ)重篤な後遺症を招いたであろう……治療してくれた医師が伊丹に語ってくれた。

 

 つまり伊丹は幸運であった。マカロフに撃たれる以前にも護衛がぶっ放していたロケット弾の爆発と破片からどうにか生き延びれたし、それよりももっと前、世界を転戦としていた頃も死にそうな経験は何度も体験している。それでも伊丹はこうやって生き延びられていた。

 

 生命活動的な面で言えば、マカロフに撃たれた時が最も命の危機に瀕しはしたものの、どうにかこうにか持ちこたえて回復、生還できていた――そうならずに死んでいった仲間のなんと多い事か。

 

 例えばそう、ソープのように……そこまで考えて大きな溜息を吐く。

 

 盗賊戦の後遺症か、思考が妙な方向に傾いてしまっているようである。特地では高級品の部類に入るであろう綺麗なシーツと掛け布団がひどく汗で湿って気持ち悪い。

 

 

「イタミさま、オカラダをおフきさせていただきマス」

 

 

 そんな伊丹の肉体をタオルを手にしたアウレアがタオルで甲斐甲斐しく拭ってくれる。

 

 文字通りファンタジーな亜人族のメイド少女手ずから素肌をフキフキしてもらえるという展開は、生粋のオタクからしてみればまさに夢のような体験なのかもしれないが、伊丹は彼女の視線がしきりに彼の肉体を覆う数々の傷へ向いているのに気付き、気まずさを覚えてしまう。

 

 

「あのー、そこまでしてもらわなくてもタオルさえ貸してもらえば自分で拭くからー……」

 

「そう仰らずに。これもまたメイドの役目ですので」

 

 

 きっぱりと老メイド長に言い切られてしまったものだから、それ以上の抗議を言えなくなってしまう伊丹であった。

 

 ちなみにベッドの反対側ではモームが寝汗をかいて水分を消費した伊丹の為にリンゴをカットしてくれている。

 

 

「ところで申し遅れましたが、先程イタミ様のご配下と思われる方々がこの屋敷に入り込まれたのをマミーナが察知しました為、ただいまマミーナとペルシアを案内に向かわせたところです。もうすぐイタミ様のご配下共々戻ってくるでしょう」

 

 

 伊丹の部下なり他の自衛隊なりが迎えに来たら起こして欲しいとメイドらに頼んだのは伊丹自身である。

 

 まぁおそらく第3偵察隊の面子だろうなぁ、と伊丹はぼんやりと予想していた。イタリカ周辺に残っていた自衛隊は第3偵察隊が最後だったし、第4戦闘団がまた戻ってきたとすればヘリコプターのエンジン音が伊丹の下まで聞こえている筈だからだ。

 

 

(野盗相手に戦ったばかりってのに、徹夜続きで大丈夫かねあいつら。特に栗林と黒川はさっさと基地に帰らせてソーシャルワーカーにメンタルケア受けさせたかったんだけど。富田はアルヌスでの戦いを経験してるし性格も兵士向きだからまだマシなんだろうが……)

 

 

 

 

 それから少しして、伊丹の予想通り、マミーナとペルシアに案内された栗林や富田といった伊丹の部下達にロゥリィとレレイとテュカらを加えた面々が、次々に姿を現したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<その少し前>

 栗林 志乃 第3偵察隊・二等陸曹

 イタリカ郊外

 

 

 

 

「隊長、大丈夫かなぁ」

 

 

 双眼鏡で街の様子を監視していた栗林がそう呟くと、彼女の両隣で同じように地面に伏せながら双眼鏡を覗いていた倉田と富田が一斉に、信じられないものを見たかのような視線を栗林へ向けた。

 

 男性陣の反応に栗林は目つきを剣呑な感じに細めながら抗議を行う。

 

 

「ちょっと何よその反応? 傷つくんだけど」

 

「いやぁクリボーの事だから『オタクな隊長の事だからあんなキャラにいじめられて本望なんじゃないの』とかなんとか言いそうだったからつい」

 

「ぬわんですってぇ!?」

 

「ぐえーっ!? ギブ、ギブー!」

 

 

 声マネ込みで馬鹿正直に聞き捨てならない予想内容を口走った倉田の胸倉を、栗林は格闘徽章を与えられるほどのその腕力でもって締め上げた。

 

 じゃれ合う、というよりは体格の小さい方が大きい方を一方的になぶっているその光景を、イタリカの様子を偵察し続けながらも横目に見た富田は疲れを帯びた溜息を漏らした。実は富田も倉田と似たり寄ったりな想像を栗林に対して抱いていたのは秘密である。

 

 そしてそんな自衛隊員達が繰り広げる寸劇を、引き続き彼らと同行中のレレイにテュカにロゥリィはクスクスと小さく笑い声をあげたり、何を考えているのかイマイチ読み取れない表情を貼り付けたりしながら見物しているのである。

 

 彼ら、あるいは彼女らが街の外で何をしているのかといえば、もちろん捕虜にされた指揮官を奪還すべく、街を偵察しつつ隠密行動に最適な闇夜が訪れるまでじっと待っているのだ。そんな一行は皆顔を暗緑色の迷彩ドーランで顔をペイント済みであった。

 

 

「まぁ伊丹隊長、あれでもレンジャー持ちだし、野盗相手にもあれだけ暴れるぐらいの実力はあるんだから、あの程度なら大丈夫じゃないか?」

 

「そうだけどさー」

 

 

 街からはそれなりとの距離を置いている上、太陽も地平線の彼方へ大半が沈んで夕闇に包まれつつあるとはいっても、自分達は一応住民から隠れている身であるので騒ぎ過ぎるのは不味いと思い至った栗林はようくや倉田を解放すると、今度は富田の発言に唇を尖らせた。

 

 その反応がまた意外だったものだから、双眼鏡から目を離した富田も喉を押さえて咳き込んでいた倉田も、ついつい何とも言えない表情を浮かべてしまうのである。

 

 

「あのー富田二曹、もしかしてクリボーのヤツ、野盗相手に暴れた時に頭を思いっきりぶっ叩かれたとか、第4戦闘団の空爆に巻き込まれて頭をぶつけたりとかしたんじゃ……」

 

「いや、そんな事は無かった……と思う。どちらかといえば戦闘が終わった直後に伊丹隊長から怒鳴られた直後から様子がおかしかったな。あの時の隊長は、見てるこっちも怖いぐらいに殺気立ってたな……」

 

「伊丹隊長も切れる時は切れるんですねぇ……」

 

「ふーんだ、そう言うんなら好きに言ってれば良いのよ」

 

 

 コソコソボソボソ、迷彩服に完全武装の男2人が顔を寄せ合い小声でヒソヒソ話をしているその姿に、へそを曲げた様子でプリプリしながら、栗林は喉を潤そうと腰の水筒へ手を伸ばす。

 

 だが揺らした水筒から水の手ごたえを感じなかったので「あちゃー」と顔を顰めた彼女は立ち上がる。その際、

 

 

「……イタミも野盗相手に暴れたの?」

 

「凄かったわよぉ? なんてったってクリバヤシ共々、私の戦いに平然と付いてきて背中を預けられるんですものぉ」

 

「亜神であるロゥリィに普通の人間が付いていけるの!?」

 

 

 などなど、特地娘3人組も伊丹の話題で盛り上がっているのが聞こえてきた。

 

 

(でもこれまでの言動考えればあの2人がああ言っちゃうのも仕方ないのかもしれないけどさぁ)

 

 

 仲間内の前では常々伊丹のオタク趣味をけなしたり、彼がレンジャー持ちでしかも特殊作戦群にも所属していたのかもしれないという予想がされた時は「あの隊長がそんなのガラじゃない」などと否定意見ばかり述べたりと、伊丹に対して憎悪とまではいかないが少なからず嫌悪感を抱いているのは栗林自身も認めるところである。

 

 しかしだからといって、尊敬の念を抱かないかどうかはまた別の話なのである。

 

 

「流石にああも間近で見せつけられちゃうとねぇ……」

 

 

 栗林はよく知りもしない癖にオタク傾向ありとちょっとでも認識しただけで「キモオタ死ね」と脊髄反射反応を示すタイプであるが、同時に目の前で別の側面をまざまざと見せつけられても頑迷に現実から目を逸らし続けるほどの愚か者ではなかった。

 

 そして野盗を相手にしていた時の伊丹の戦いぶりは、彼に偏見のまなざしを向けていた栗林から見ても、極限まで研ぎ澄まされた兵士の見本であると称せざるをえないぐらいの活躍であったのである。

 

 各々の暴れる様子を例えるならばロゥリィが暴虐の化身で栗林が野生の獣、伊丹の暴れ具合は如何に素早く的確に命を奪うかだけの精度を追求した殺人機械か。

 

 何より栗林が伊丹へ抱いていた印象を塗り替えたのは、野盗を殲滅完了した直後に彼女の胸倉を掴みあげ、叱咤した際の伊丹の態度と雰囲気である。

 

 正直、剣や槍を携えて迫る数百人の盗賊集団の殺意よりも、あの時伊丹1人から向けられた怒気の方がよっぽど鋭く、恐ろしく、栗林の肝胆を寒からしめたのだ。今なお当時の事を思い出しただけで背筋が震えてしまうぐらいだった。

 

 

「普段からあの千分の一でもいいからキリッとしてれば……いやいや何言ってるんだろう私」

 

 

 とかなんとか独りブツブツ言いながら第3偵察隊に栗林含め2人しかいない女性自衛官、その片割れである黒川の下へ向かう栗林。

 

 

「ゴメンクロ、水筒の水切らしちゃったからちょっと貰えないかな?」

 

「ええ構いませんわよ」

 

 

 差し出された水筒を「ありがと」と受け取ると大きく呷り、細い喉を鳴らして生温い中身を流し込んでいく。

 

 そんな小柄な友人の様子を黒川はジッと見つめ続けた。その視線はどこか暗い感情を帯びていた。

 

 

「ぷはーっ。ありがとう助かったわー」

 

「…………」

 

「……? クロ、どうかした? 私の顔どっかペイント塗り忘れてたりする?」

 

「クリは元気そうね。あれだけ暴れた後なのに」

 

 

 黒川の呟きに栗林は違和感を覚え、忍び寄りつつある夜闇に紛れそうになっている長身の友人の顔をまじまじと見た。彼女の声も今の時間帯に負けず劣らず暗かったからである。

 

 

「だ、大丈夫クロ? 何だか様子がおかしいよ」

 

「ごめんなさい、どうやら疲れているようですわ。目の前で人が死ぬ経験は『銀座事件』や炎龍騒動の時に耐性がついたと思っていましたけれど――自分の手で人を殺すのは、あの時が初めてでしたから」

 

「あっ……」

 

 

 彼女らのような女性自衛官が特地へ派遣されたのはアルヌスの丘に一定の安全が確保されてからである。『門』の奪回目指して侵攻してきた諸王国連合軍の壊滅が確認されて以降であり、栗林も黒川が派遣された頃にはアルヌスでの戦闘は終結していたのだ。

 

 つまり栗林も黒川も、このたびのイタリカでの戦闘が初めての対人戦であった。

 

 そして黒川は派遣前には『銀座事件』直後の自衛隊中央病院で人の命を救うべく奔走していた経験を持つ、れっきとした医療従事者である。

 

 命を救うための手で命を奪うという体験が黒川の精神へ多大な影響を及ぼすという事態の発生に、栗林は遅まきながら気づいたのである。

 

 

「てき弾が直撃すると、本当に人体ってバラバラに吹き飛ぶものなのですわね。色んな死体も見てきましたけれど、あのように死ぬ瞬間を見るのも初めての体験で――」

 

「く、桑原曹長ー!」

 

 

 迷彩ペイントで夕闇に半ば溶け込んでいてもどうにか判別できた黒川の目は虚ろであった。明らかに異常な精神状態へ踏み外した友人の様子に、栗林は慌てて部隊最年長の桑原を呼ぶ。

 

 そんな、生気が急速に失われつつある黒川の瞳が、不意に栗林を見据える。

 

 そして彼女はこう尋ねたのだ。

 

 

 

 

「ねぇクリ。貴女も私と同じ、初めて人を殺したばかりなのに、どうして貴女は平気でいられるのかしら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<それから少し後>

 倉田 武雄 第3偵察隊・三等陸曹

 イタリカ市内

 

 

 

 日が完全に沈みちょうど良い頃合いになったので、自衛隊員と現地3人娘は今度は夜間における潜入という形で、再びイタリカへと足を踏み入れていた。

 

 が、ぶっちゃけイタリカを守る兵達の警戒はあってないようなものであった。現地の警備兵は夜を徹して行われた野盗との戦いに疲れ果てていたし、遅れてやって来たピニャ配下の騎士団の兵士は兵士で知らない顔は地元側の人間としか思わず、潜入側の先導役として外から入ってきたロゥリィとテュカとレレイらをそのまま素通りさせてしまったのである。

 

 それでも彼女らはともかく、自衛隊員が騎士団の兵士あたりに見つかってしまうと流石に騒動になるのは間違いないので、エルフであるテュカの精霊魔法により見張りを眠らせた上で自衛隊員もイタリカ潜入を果たす。

 

 建物の陰から陰へ順番に身を滑り込ませながら夜の街を進む。人の気配もなく、警備兵が街中まで巡回している様子も見られなかった。

 

 しかしこうも人気のない夜のゴーストタウンじみた場所に身を置いていると、敵兵に見つかりやしないかという緊迫感とはまた別種の、薄ら寒い感覚を覚えてしまう者も出てきてしまう。

 

 

「まさかクロがシェルショック(戦闘ストレス反応)起こすなんて思ってもいませんでしたよ、俺」

 

「馬鹿、今はそういう話してる時じゃないだろ倉田」

 

「スンマセン、こういう中世っぽい夜の街ってこんなに不気味だとは思わなくて、黙ってると心細くてつい……」

 

「気持ちは分かるがもうちょっと別の話題があるだろ」

 

 

 小声で倉田を叱り付けた富田は焦りを押し殺して栗林の方を横目で見やる。無言で周囲を警戒しているが、小柄なシルエットがほんのわずかに肩を落として気落ちしているように見えた。

 

 倉田のその発言は彼女の耳に届いており、いささか無遠慮に過ぎる倉田の発言に忸怩たる感情を抱いていた。だが同時に彼女自身も実は倉田と全く同じ感想が浮かんでおり、タイミング的にも現在の彼女の心境的にも食ってかかる気になれなかったのだ。

 

 一方で倉田は富田に注意されたにもかかわらず話を止めないどころか、その矛先を今度は富田へと向けていた。

 

 

「でも富田二曹の方は大丈夫なんすか? 嫌ですよ俺、錯乱してラ○ボーみたい暴れだした仲間を射殺するなんて展開」

 

「安心しろ、そうなりそうだったらその前にお前を撃ち殺してから自分で頭を撃ち抜くから」

 

「それだと今度はフル○タルジャケットじゃないっすか。勘弁して下さいよ~」

 

「あの、2人が話してるラン○ーとかフルメタル○ャケットって何の事なのかしら?」

 

 

 するとテュカが倉田へ尋ねてきたので、異世界のエルフ娘からの質問に「あー……」と倉田は若干言い辛そうな素振りを見せながらも、結局は正直に答えてしまう。

 

 

「ラ○ボーとフル○タルジャケットっていうのはね、戦場や兵士になる為の訓練所を舞台に、登場人物が過酷な経験をしたせいで心に傷を負ってしまってそのせいで悲劇を招いてしまうって展開の、俺らの世界で作られた有名な創作話の題名なんだよ」

 

「『門』の向こうの世界ではそんな御話が流行ってるの?」

 

「うーん、流行ってるっちゃ流行ってる、のかな? 戦争での悲劇やトラウマを扱ったその手の作品は一定の評価は得てるし、中には『心理学の専門家も絶賛!』なんて宣伝もしてる作品だってあるけど、自分はもっと明るい話が好きかなぁ」

 

「そのような創作物に一定の評価を下す専門家が存在するという事は、戦場における兵士の心理的要素についても『門』の向こうでは学問として認められている?」

 

「うぉっ!? び、ビックリしたぁ」

 

「倉田! 騒ぐな!」

 

「す、すいませぇん」

 

 

 いつの間にやらレレイまで忍び寄ってきて急に声をかけてきたので、察知していなかった倉田は奇声を上げて飛び上がってしまった。でもって富田に叱られたのであった。

 

 

「あービックリした」

 

「クラタ、さっきの問いに回答して欲しい」

 

「あ、ああ。レレイの言う通り、俺達みたいな戦場での兵士の心の変化なんかを分析して分かりやすくしたのを、俺らの世界では軍事心理学ってカテゴリに分類して研究してるんだよ。専門的に研究してる学者さんなんかもいっぱいいるし、特にこの数年で一気に広がった分野じゃないかなぁ」

 

 

 軍事心理学の急速な進歩と規模の拡大が進んだ原因は間違いなく中東の独裁者が引き起こした核爆発や第3次大戦にある。

 

 地球でそのような出来事があった事までレレイに教えてやる気には、流石の倉田もなれなかった。

 

 

「なるほど……非常に興味深い」

 

「私も気になるわぁ。戦場で命をかけて戦う戦士達の心を学問として分析するなんてぇ、私も長く生きてきたけど初めて聞くものぉ」

 

 

 しまいにはロゥリィまで話に食いついてきた。驚く倉田であったが、冷静に考えてみると彼女は死と断罪と狂気と戦いを司る神エムロイに仕える敬虔な神官であり教えを実践する使徒なのである。

 

 そんなロゥリィが異世界の産物にもかかわらず(いや、逆に異世界産だからこそ)戦に関わる未知の知識に興味を惹かれるのは、むしろ当然の帰結であったのかもしれなかった。

 

 

「その軍事心理学についてもっと詳しく教えて欲しい」

 

「待ってゴメン大層な事言っちゃったけど実は俺も全然詳しくないっすから! すんませんっ!」

 

 

 倉田が覚えている軍事心理学についての知識は入隊直後の教育課程で習った程度に過ぎず、おまけに講義内容もほとんどの記憶が薄れている有様であった。むしろ教育課程で覚えさせられた内容よりも創作物から得た仮想の存在だったりリアルな学術からは程遠い知識の方が多いぐらいである。

 

 だものだから、いっそ無垢に思えるほど純粋な知識欲に目を光らせたレレイからの視線を浴びせられてしまった倉田は、彼女に対してこれ以上自分の頭ではまともな知識は教えてあげられないと素直に降参したのであった。

 

 

「お前ら、いい加減騒ぐのを止めて潜入に集中しろ!」

 

 

 そうこうしているうちに潜入部隊一行はフォルマル伯爵邸に到着していた。流石にしっかりと見張りが巡回していたが、暗視装置を使えば暗闇の中でも警備兵がいない位置を見分けるのは容易であった。

 

 こうして先程から不気味なほど静かな栗林を伴いつつ、窓を塞ぐ鎧戸をこじ開けて隊長が捕らえられているであろう建物の内部へと彼らは潜入し――

 

 

「ようこそ、イタミ様の配下の皆様方。ご来訪の方、心よりお待ち申しておりました」

 

 

 そしてマミーナとペルシア、2人の亜人メイドに出迎えられたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(リアルケモノ系猫耳メガネメイドキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!)

 

 

 なお、倉田は重度のケモナー趣味であった。

 

 

 

 

 

 

『暴力は、常に恐ろしいものだ。たとえそれが正義の為であっても』 ――シラー

 

 




サブタイはどちらも戦場のトラウマに関わる用語や作品から。
栗林と黒川の初陣が偵察隊編成以後なのは原作の外伝+での記載から判断しました。



以前同様、一部感想を抜粋して返信~


>伊丹の事そっとしてあげて!

だが断る(AA略
やっぱり主人公なだけにそっと放っておくわけにはいかないんですよ話の都合的にも(鬼

>手記経由~

気づいてる方もおられましたが伊丹の吸ってた葉巻はMW3限定版付録のソープの手記からです。
手記ネタは何気に今後の展開にも関わってきたり…分からない人には申し訳ない。

>伊丹すげえな。完全武装の女性陸自隊員一人と重たいハルバード持ってるロウリィを同時に担げるなんて~

原作でも各媒体でもハルバードごとロゥリィ運んでたしそれぐらい体力あるなら女1人分追加されても余裕なんですよきっと(棒

>栗林、もしかしたら今後web版の立ち位置に近く~

書けば書くほど何故か栗林がヒロインっぽくなる不具合。

>海外だと酒の勢いで伊丹に銃を向けたのを滅茶苦茶言われてたな~

現役退役問わずガチの軍役経験者が多数視聴者に混じったみたいですからねぇ。
アニメ空挺回では「あの暗殺法は教本の~」とか議論してたのが印象に残っております。

>世界中で銃撃戦して休む間も無く世界飛び回って~

MW3でソープが復帰してから大統領親子を救出するまでの8日間で、
・アフリカ・シエラレオネ→ソマリア・ボサソ→チェコ・プラハ→ ロシア・東シベリア
合計約18200キロとの結果が出ました。
…ハードスケジュールってレベルじゃないですね(汗)

>伊丹デザートイーグルで撃たれたのか~

ゲーム内での装弾数から判断してMW3のデザートイーグルは.44マグ仕様という設定で本作では扱っています。
よく生きてるなって?
……どてっぱらに食らった原作ユーリも1週間足らずで戦線復帰してましたしCoDでは死ななければすぐに回復する体質なんですよきっと(※ユーリについては公式でそんな感じです

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