GATE:Modern Warfare   作:ゼミル

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いやぁウイルス性胃腸炎は強敵でしたね(甥っ子から移された)
戻し過ぎて胃腸も喉も全身の筋肉も悲鳴あげてます(死んだ目)


7:Apocalypse Now/イタリカ防衛戦

 

 

<イタリカ到着までマイナス3分>

 健軍俊也 特地派遣部隊第4戦闘団・一等陸佐

 フォルマル伯爵領上空/UH-1J改多用途ヘリコプター

 

 

 

 

 

 

 

 明るさが増しつつある薄暗闇の中で鋼鉄の羽が激しく空気を叩く。

 

 第3偵察隊からの救援要請を受けてアルヌスより出発した、ヘリコプターを主力とした第4戦闘団の編隊である。

 

 

「到着まであと3分!」

 

 

 副操縦士(コ・パイ)からの報告がUH-1Jに乗り込んだ健軍達普通科隊員へと伝えられた。

 

 機内の隊員達は既に64式小銃にマガジンを装着して戦闘態勢にある。隊員の中にはわざわざヘルメットを尻の下に置くという、某映画に肖った真似事をしている者まで存在した。

 

 戦意に満ちた部下達の顔を見回した健軍は1つ満足そうに頷いてから、開け放たれたままのドアへ視線を移すと並走して飛行中の僚機、自らの指揮下に置かれたヘリ部隊の雄姿を改めて目に焼き付ける。

 

 地平線の彼方からゆっくりと顔を覗かせつつある朝日に照らされる完全武装のヘリ部隊。

 

 その光景は現代に光臨した鋼鉄の天馬の如く健軍の目に映り、彼の記憶野へと雄々しさ5割増しでもって深く刻まれた。

 

 

「くうっ、どうせなら広報班にこの光景も記録させてやりたかった!」

 

 

 とは口には出さない。何せもうすぐ戦場の真っ只中に突入するわけで、そんな時に口走ってしまっては流石に調子に乗り過ぎではないかと、寸でのところでグッと呑み込む事に成功する健軍であった。

 

 もし地球側の人々がアルヌスヘ向かう第4戦闘団のヘリ部隊を目撃したとしたら、21世紀の陸上自衛隊ではなく1960年代か70年代辺りの、ベトナム戦争真っ只中なアメリカ軍を連想しただろう。

 

 AH-1S攻撃ヘリにOH-6偵察ヘリ、そしてUH-1J汎用ヘリ(Jは自衛隊仕様を示す)。

 

 いずれも半世紀前に開発された古強者……言い換えれば骨董品な機種ばかりである。

 

 しかも第4戦闘団で運用されているUH-1Jの一部は独自の改修が加えられた、通称UH-1J改と呼称される存在であった。

 

 1番の改修点は従来型の兵装がドアガンのみに限定されていたのに対し、スキッド上部へのロケット弾ポッドが追加されている点である。火力に特化した攻撃ヘリには負けるが、これにより限定的な対地爆撃や装甲目標の撃破も可能となった。

 

 ドアガン用のマウントも変更が加えられ、搭載可能な火器の種類も幅広くなっている。ある機体には従来通りのM2重機関銃かミニミ軽機関銃が、ある機体には米軍からの有償援助調達で入手したM134ミニガンを装備。

 

 また別の機体には車載用から改造した96式40ミリ自動てき弾銃が搭載されており、それらを操作するドアガンナーは発射許可が下される瞬間を今か今かと心待ちにしているのであった。

 

 非武装機から武装型への改造が施されたのはUH-1Jだけでなく、OH-6の中には普通科隊員を載せる代わりに両側面に追加したハードポイントへロケット弾ポッドとミニガンをぶら下げるという改修が加えられた機体も混じっている。

 

 

 

 

 

 このようないわゆるガンシップ化が行われた理由は、やはりアメリカ東海岸と欧州全土に対するロシア軍侵攻が原因である。

 

 ロシア軍機甲部隊によるはるか海の彼方の北米大陸、そして欧州各国への大規模同時侵攻。

 

 対抗するアメリカ軍も大西洋を横断し大量の歩兵と兵器を即座に欧州へ投入。

 

 期間自体は極めて短かったが双方がWW3に投入した戦力と被害はまさに甚大であった。

 

 そしてそんな常識外れの物量戦を見せつけられた自衛隊はこう思ったのである。「こんな物量戦に巻き込まれたら火力がまったく足りない!」と。

 

 だからといってすぐに兵器とそれらを操作する人手が集まるわけでもなし、ならば現在自衛隊に配備されている既存の兵器類にアップグレードを行って対処しようという結論に至るのは、ごくごく当たり前の帰結であった。

 

 そうして実施されたアップグレード案の1つがこのUH-1やOH-6の重武装化なのである。でもってこれらはとっくの昔から米軍が行っていた手法でもある。効果のほどは世界各国の戦場で実証済みという事で、これらの改修案は採用から試験配備まで比較的スムーズに進んだのであった。

 

 特地でこれら改造機が運用されている理由は2つ。改修元となった機体は新型のUH-60やV-22などを新たに採用しつつある自衛隊においても旧式であり、また異世界の空であれば、各国の情報機関やマスコミに四六時中駐屯地に張り付くほどヘビィなミリオタの目を気にする事無く運用試験を行えるのだ。

 

 これら改修機が配備された第4戦闘団は意気揚々と戦場での活躍を夢見ながらも、しかし出番は中々回ってこないまま、アルヌス攻防戦や深部偵察隊に参加した隊員達の活躍を耳にしては悶々とする日々を送っていた。

 

 そしてついにイタリカ救援という大義名分を得て初めての実戦へ送り込まれたのである。溜まりに溜まっていた鬱憤を吐き出す機会がとうとう回ってきたとあって、彼らの戦意はまさに最高潮である。

 

 なお溜まり積もった鬱憤に精神がやられちゃったのか、どっからともなく調達してきた大音量スピーカーとワーグナーの音楽データを嬉々として機体に積み込む健軍らの姿に、特地派遣部隊の全てをまとめる立場の狭間が頭を痛めていたのは余談である。

 

 それこそベトナム時代の米軍は空中騎兵部隊よろしく、派手なノーズアートが描かれた重武装のUH-1の編隊がワーグナーを流しながら編隊飛行を行っているともなれば、どっからどう見ても地獄の黙示録的な光景なのであった。

 

 もしUH-1だけでなく次世代のUH-60(ブラックホーク)も特地に持ち込まれてイタリカ救援に動員されていたのであれば、武装したOH-6の編隊と相まってベトナムではなくソマリアの空が似合う絵面となったであろう。

 

 不謹慎ネタが大好きな野党の政治屋(政治『家』ではないのがミソだ)や平和を愛する市民団体の皆様(ただし大部分が日本以外の国籍)がこの事を知ればさぞ盛大に騒ぐに違いないが、それはともかく。

 

 

 

 

 

 

 とうとう晴れ舞台であるイタリカの街が視認できる距離まで近づいた。

 

 

「あと2分! 目標視認!」

 

「現在の戦況を現地部隊に確認しろ!」

 

『こちら第3偵察隊の伊丹二尉! 東門より内部で現在敵軍と戦闘中! 富田ぁ、スモークでこっちの位置を援軍に知らせろぉ!』

 

 

 少しして東門の辺りから緑色の煙が立ち上り始めた。

 

 

「こちら健軍一佐。緑のスモークを確認した!」

 

『煙の根元から東側にいる連中は全員敵だ、皆殺しにしちまえ!』

 

 

 伊丹という名前には聞き覚えがある。確か『銀座事件』で散々暴れ回って有名人になった英雄ではなかったか。派遣部隊の間ではだらしないオタクだとも噂されていたが、中々どうして血の気の多い人物であったようだ。

 

 健軍はこれが終わったら彼にビールを奢ってやろうと決心した。伊丹という男は第4戦闘団念願の初実戦を実現してくれた立役者のみならず今や世界に名だたる英雄でもある。きっと彼となら旨い酒が飲めそうだと、健軍は一方的に決めつけるのであった

 

 

「全部隊攻撃開始! 奴らを石器時代に戻してやれ!」

 

 

 健軍の命令の下、AH-1SのTOW対戦車ミサイルを皮切りに、鋼鉄の天馬達による蹂躙が開始された。

 

 オーケストラの調べと共に飛翔音を奏でたミサイルは見事城門を直撃し、南門に雪崩れ込もうとしていた盗賊達を城門ごと爆砕する。

 

 

「城門内部の友軍へ流れ弾が飛ばないよう、命令した時を除いで城門への攻撃を禁ずるがそれ以外は撃って良し!」

 

 

 城壁外には未だ数百の盗賊が集結していた。そこへ散開した各機が四方八方から襲いかかったのである。

 

 ドアガンから5.56ミリ弾が、7.62ミリ弾が、12.7ミリ弾が、40ミリ擲弾が盗賊の大群へと次々に降り注ぐ。

 

 5.56ミリ弾や7.62ミリ弾を受けた敵はまだ幸運であった。防具を易々と貫通する高速弾を食らったとはいえ、彼らはまだ人の原形を保った状態で死ねたのだから。装甲目標への攻撃も前提とした大口径弾や高性能爆薬入りの擲弾が直撃を食らった者などは、文字通り爆散して無残な肉塊と化していったのであった。

 

 もちろんドアガンのみならず、荷物役の普通科隊員達も盗賊への攻撃に加わる。ミニミ軽機関銃を持つ隊員はドアガンに負けじと派手な掃射を行い、64式小銃持ちの隊員は「正しい見出し、正しい引きつけ……」などと教練の内容を呟きつつ、無駄弾を使わぬ丁寧な射撃で盗賊を撃ち倒していく。

 

 すると馬に乗った盗賊の一部隊が集中砲火を浴びる集団の塊から抜け出して離脱を開始したという報告が、地上への攻撃部隊よりも上空に陣取ったOH-1偵察ヘリのパイロットより報告が入った。

 

 

「逃走を阻止しろ!」

 

 

 健軍の命令を受けて数機のOH-6が離脱部隊の行く手を横切るコースへ侵入する。

 

 ハードポイント内側に吊り下げたミニガンの銃身が回転し、毎分数千発の7.62ミリ弾が先頭の騎兵を馬諸共蜂の巣へ変えた。

 

 あまりにも高速な連射速度のせいで、後続の騎兵には今の光景は空から降り注いだ光線によって地面が切り裂かれてしまったかのように目に映ったものだから、彼らは慌てて方向転換を行う。しかし地面を空から切り裂いてみせたのとは別の鋼鉄の騎兵がまた行く手を塞ぐかのように降下し、結局他の騎兵は空から袋叩きにされている仲間達の下へと戻らされてしまう。

 

 そして最早瓦解を通り越して殲滅寸前の盗賊集団に対し健軍はこれっぽっちも手を抜こうとしなかった。

 

 

「ロケット弾搭載機は横列を組んで敵部隊に爆撃を実行せよ!」

 

 

 彼の命令の下、横一列に編隊を組んだ十数機にも渡るヘリ部隊が盗賊集団の上空を横断していく。

 

 煙の尾を引いて一斉に放たれるロケット弾。TOWには威力が劣るが直撃すれば装甲車の1台ぐらい軽く破壊できるロケット弾が、合計100発以上の規模でもって盗賊集団へと襲いかかる。

 

 紅蓮の爆炎が局地的な噴火かと見間違わんばかりに、広範囲に渡って人体ごと地面を耕していった。

 

 こうしてヘリ部隊は、残存していた城門外の盗賊集団を完膚なきまでに爆砕せしめたのである。

 

 3桁に及ぶロケット弾の一斉爆撃が生み出す光景はナパーム爆弾のそれにも見えなくもなかった。

 

 なので健軍はついついこう口走っちゃうのであった。

 

 

「朝のナパームの匂いは格別だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<空爆開始数分前>

 伊丹耀司 第3偵察隊・二等陸尉

 イタリカ城壁内

 

 

 

 

 ロゥリィが勝手に戦場と化した東門へ向かってしまった。

 

 この世界の神々について知識を持つレレイ曰く、戦場で倒れていく兵士の魂魄がエムロイの使徒であるロゥリィの肉体を通してエムロイへと召される際、麻薬じみた効果を彼女へもたらすのだという。

 

 暴れ回るなりして発散できれば良いのだが、伊丹達が配置された南門には盗賊が1人も襲ってこない現状にある。仲間である自衛隊やイタリカの市民に衝動をぶつけるわけにもいかないという事で、東門が激戦区になってる間、ロゥリィはひたすら艶やかに悶え続ける事しか出来ずにいたのだ。

 

 そしてとうとう我慢の限界を迎えた彼女は、独り驚異的な身体能力でもって東へ走り去ってしまったのである。

 

 ロゥリィを放置しておくわけにもいかず、またそろそろ到着予定のアルヌスからの援軍に攻撃誘導を行う必要もあるという事で、伊丹も一部の隊員を南門に残した上で東門へ向かう決断を下した。

 

 

「富田、栗林、あと黒川も来てくれ。この分だと東門は何人負傷者が出てるか分かったもんじゃないからな。俺らは東門に向かうんでこの場はおやっさんに任せます!」

 

「了解!」

 

「富田ぁ! お前は機銃に着け! 運転は俺がする!」

 

 

 城壁を駆け下りた伊丹らは近くに停めてあった輸送防護車に乗り込むとロゥリィを追って東門へ向かう。

 

 エンジンの咆哮を暁闇の空へ轟かせながら輸送防護車が中世風の街並みを爆走する。

 

 その走りっぷりは凄まじく、狭い石畳の道を速度計が振り切れんばかりの勢いでぶん回すものだから、栗林達は必死になって座席にしがみつくのであった。銃座から上半身を車外に出している富田を振り落とさんばかりに荒っぽい運転である。

 

 

「た、たいちょお、ちょっと運転抑えてぇ~!」

 

「もう少しで到着するから我慢しろ!」

 

 

 部下の悲鳴などお構いなしに装甲車を走らせる伊丹。

 

 そうこうしているうちに戦場と化している東門が自衛隊員達にも見えてきた。スピードを落としながらも車両を柵と土塁で構築した第2防衛ラインの前まで突っ込ませる。クラクションを鳴らすと人垣が慌てて道を開けた。

 

 柵のすぐ前に輸送防護車を停めるなり64式小銃を構えた伊丹が運転席から飛び出していく。日頃からは信じられないほどの身のこなしであった。

 

 これまでとはガラリと印象が違う隊長の姿に顔を見合わせながらも、栗林と黒川も続いて下車。富田は機銃手として車に残る。

 

 そして伊丹達は城壁内まで侵入を果たした盗賊の大群の中心で暴れまわるロゥリィの姿を目の当たりにしたのである。

 

 下手な大の男より重量がありそうな大型のハルバードを彼女が振り回すたび、数人の盗賊が血しぶきをあげながらまとめて吹き飛ばされる。或いは両断された肉体が宙に舞う。そのような光景が、城門と柵の間の空間を縦横無尽に跳ね回るロゥリィの手によって生み出されていた。

 

 

「無双ゲーの主人公か何かかよ!?」

 

 

 そう伊丹が口走ってしまうほどの暴れっぷりであった。

 

 これが筋肉モリモリマッチョマンの蛮人(バーバリアン)が繰り広げているならまだしも、ロゥリィの外見は華奢で小柄な黒ゴス少女である。違和感だらけの光景であるがロゥリィが敵陣のど真ん中で孤立してしまっているのも事実なので、彼女の加勢として参戦する方針は変わらない。

 

 

「かなりの乱戦だな。富田は機銃で盗賊が押し寄せてる城門へ掃射を行え。黒川もてき弾で城門を攻撃しつつ合間を見て負傷者の救援を。栗林は――」

 

「でぇえやああぁぁぁぁぁー!!!」

 

 

 指示を飛ばす伊丹の声が女声の雄叫びによって中断される。同時に小柄な緑色の背中が柵の隙間から飛び出していった

 

 銃剣を装着した64式小銃を槍のように構えた栗林が、伊丹の指示を最後まで聞かぬまま激戦地の真っただ中へと勝手に突撃してしまったのである。

 

 

「あぁんの大馬鹿野郎が! とにかく2人は言われた通りに動いてくれ! あんの馬鹿とロゥリィは俺が何とかする!」

 

「りょ、了解」

 

 

 普段の昼行灯っぷりはどこへやら、険しい表情で荒々しく悪態を吐き捨てる伊丹の姿に黒川は目を白黒させるばかりだ。伊丹も栗林の後を追って柵を乗り越える。

 

 64式小銃を構えたままの姿勢で前進しながら、向かってくる敵へ手当たり次第に短連射を加えていく。

 

 移動速度自体はそう速いわけではないが、決して足を止める事無く移動と射撃を繰り返す伊丹の身のこなしは、自衛隊の訓練に数多の実戦経験が加わった事でより洗練され無駄が削ぎ落とされた、独自の戦闘スタイルにまで昇華されていた。

 

 進む、狙う、発砲。進む、狙う、発砲。

 

 言葉にすればこれらの動作を繰り返しているにすぎないが、実際には1つ1つの挙動が非常に滑らかで、機械のように正確無比な短連射を繰り返している。

 

 1人の敵につき胴体の正中線へ2発。鎧を貫通し胸骨を砕いて心臓や肺などの重要な臓器を破壊するには、64式小銃の7.62ミリ弾は十分過ぎる威力だった。

 

 時折リロードを挟むとここぞとばかりに盗賊が迫るが、刃が伊丹に到達するよりも先にリロードが完了したり、自衛隊お得意の銃剣格闘術でもって鎧の隙間へと的確に銃剣を突き立てられ、切り裂かれ、あるいはストックで叩きのめされていく。

 

 暴走して飛び出した栗林もまた白兵戦でもって大暴れしている。伊丹の戦いぶりが最小限の動作で的確に命を刈り取る死神じみたやり方ならば、栗林のそれは高い身体能力に任せて俊敏に動き回るネコ科の猛獣を思わせる暴れっぷりであった。

 

 ちなみにロゥリィの場合は、人間の姿をしたヘリコプターがその鋼鉄の回転翼でもって哀れな犠牲者の肉体をことごとく刻むかのような、つまり凄惨なまでに人としての範疇を超越した暴れ具合である。

 

 独断で突撃していった女2人はいつの間にか背中合わせになって互いの死角をカバーし合いながら大暴れしていた。彼女らに少しでも近づこうと伊丹も前進しながらの掃討を続ける。

 

 そんな3人から数歩引いた柵の向こう側から、富田と黒川も援護射撃を行っている。

 

 富田が輸送防護車前部銃座からM2重機関銃をぶっ放す。2メートル半ばを超える車高の上から撃つ形となるので、時折アクロバティックな跳躍を行うロゥリィが射線に飛び込まないよう気をつければ、仲間の頭越しに城門へ殺到する敵軍へ狙いを定めるのは楽勝であった。

 

 12.7ミリ弾は人体を簡単に貫通するどころか命中した部分を文字通り粉砕してしまう威力を持つ。それが密集する敵軍へ水平射撃でもって発砲したともなれば、生み出される光景は地獄絵図以外のなんでもなかった。

 

 最前列の敵兵の頭部を粉砕した銃弾が威力をほとんど減少させぬまま後ろに続く敵兵の側頭部を抉り取る。胴体に大穴が空き、手足が吹き飛び、爆発的に飛散した血煙が城門を鮮血に染めていく。仲間の死体から撒き散らされた肉片交じりの血糊に足を滑らせた後続が転倒し、将棋倒しになるという2次被害も発生。

 

 そこへ黒川が発射する06式小銃てき弾も加わり、集団の中心部で爆発が起きる。

 

 小銃てき弾の威力は手榴弾よりも大きい。時折爆風で千切れた手足や頭部が防具ごと宙に舞い上がった。それを為した張本人である黒川は吐き気を覚えたが、上官と同僚が敵陣の中心部で戦い続けている真っ最中である以上、攻撃の手を緩めるわけにはいかなかった。

 

 今や城壁内の戦いは、背中合わせに暴れるロゥリィと栗林を包囲した敵が、四方八方から襲いかかる構造に変貌していた。2人より先に盗賊と戦っていた一般市民は今や柵の内側まで退却して自衛隊員らの暴れっぷりを唖然呆然と見守るばかりである。

 

 そこへ包囲網を突破した伊丹も遂にロゥリィと栗林の下へ辿り着く。彼も2人に背中を預け、未だ城壁内に多数残る敵へと相対した。

 

 

「よくここまで来れましたね隊長!」

 

「うるせぇ馬鹿野郎! 勝手に突っ込みやがってこんの馬鹿! 突撃馬鹿!」

 

「そこまで言うのは酷くないですか!?」

 

 

 長剣の振り下ろしを64式で防御しながら栗林は上官からの罵声に反論した。剣を受け止めた体勢のまま強烈な前蹴りを繰り出して敵を吹き飛ばす。

 

 とどめの銃弾を見舞おうと引き金を引く栗林。だが銃声の代わりに金属同士が不気味に噛みあう異音が小銃から生じた。見れば剣を小銃で受け止めた拍子に装弾を行う為のボルトが歪んでしまっていた。

 

 

「隊長! じ――」

 

「もう少し丁寧に扱え!」

 

 

 今度は栗林の声に伊丹が被せる形となった。ほとんど栗林を見やる事無く、新しいマガジンに代えたばかりの自分の64式小銃を投げ渡しながら、9ミリ拳銃を抜いて間髪入れぬ銃撃を続行し続ける。

 

 こんな乱戦でよく分かるものだと、殺し合いの場のど真ん中で栗林は初めて伊丹に対し尊敬の念を抱いた。ロゥリィまでも意味ありげな熱い視線を伊丹に送るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ふと、いつの間にかオーケストラの音色と鋼鉄の羽音が鳴り響いているのに彼らは気づいた。自衛隊員が装備する個人無線機から声が流れる。

 

 

『こちら第4戦闘団、用賀二佐。第3偵察隊、現況を知らせ』

 

「こちら第3偵察隊の伊丹二尉! 東門より内部で現在敵軍と戦闘中! 富田ぁ、スモークでこっちの位置を援軍に知らせろぉ!」

 

「分かりましたぁ!」

 

 

 重機関銃に新しい弾帯を装填途中だった富田が輸送防護車の車上から発煙手榴弾を柵の向こうへ投じる。発煙弾は柵と伊丹達の中間地点へ落下してから、緑色の煙を吐き出し始めた。

 

 

『こちら健軍一佐。緑のスモークを確認した!』

 

「煙の根元から東側にいる連中は全員敵だ、皆殺しにしちまえ!」

 

 

 物騒な援護要請の直後、東門外部で大爆発が起きた。続いてこれまで伊丹や富田達が奏でた銃声を、更に何十倍もひどくしたような多種多様な銃撃音が上空で轟く。

 

 援軍である第4戦闘弾のヘリ部隊による航空攻撃が開始されたのである。

 

 それを証明するかのように、緑混じりの黒煙を切り裂きながらAH-1Sと武装型OH-6が城門内部上空へ舞い降りた。

 

 あるものは細長く、またあるものは丸く小さい鋼鉄の天馬に、イタリカの住民も盗賊の生き残りも等しく圧倒され、呆然と見上げた。亜神であるロゥリィですらも同様であった。我を保っていられたのはこれらヘリに慣れ親しんだ自衛隊員達のみである。

 

 そんな彼らもヘリ部隊から告げられた無線内容に血相を変える事となる。

 

 

『これより門内を掃討する。友軍は至急退避されたし!』

 

 

 AH-1S機首下のM197・20ミリガトリング砲、OH-6両側部のM134・ミニガンの銃口が、城門外部への空爆と城門内部での伊丹達の活躍に板ばさみにされた結果過剰に密集しつつある盗賊の残党が集まる東門へと向けられる。

 

 このままでは下手をすると伊丹達も流れ弾を食らう羽目になる。近過ぎて(Danger)巻き込まれる(Close)羽目になるのはいい加減こりごりなのだ。

 

 そんなわけで伊丹は左右の肩にロゥリィと栗林をそれぞれ俵担ぎすると、スタコラサッサと後退したのであった。

 

 

「ちょっと隊長、走れます、自分で走れますからぁ!」

 

 

 伊丹達が柵の内側へ撤退し終えるのと同時、大小2種類の連続した砲声が彼らの頭上で鳴り響いた。

 

 ミニガンの連射速度は毎分平均3000発。M197ガトリング砲は毎分700発前後だが、砲弾の口径はM2よりも大きな20ミリ。

 

 どちらにしても人体がまともに食らえばひとたまりもない火力である。そんな品々が逃げ場を失い城門へ逃げ込むしかなかった盗賊集団めがけて同じタイミングで火を噴いた。

 

 7.62ミリ弾の豪雨が敵をハチの巣に変え、20ミリ弾がM2重機関銃よりも更に激しい勢いで人体を破裂させた。肉体を貫いても威力を失わなかった弾丸が地面を穿ち、城壁を構成するレンガを砕き、発煙手榴弾をも上回る勢いで粉塵が城門に広がっていく。

 

 噴煙のおかげでこれ以上敵の死体が人型を留めぬほど破壊されていくさまが覆い隠されていったのはイタリカの住民、そしてピニャにとっては幸いだったであろう。

 

 なお味方の攻撃に巻き込まれずには伊丹達であるが、ちょうどホバリングしながら銃撃を行うヘリ部隊の位置がちょうど伊丹達の真上に来る形になってしまい、

 

 

「熱っつ、あっつぅ!」

 

「ちょっとぉ、何よこれぇ!?」

 

 

 機関砲から大量に吐き出された熱々の空薬莢の雨を浴びて悶絶する事になったが、これについては敵殲滅の為の致し方のない犠牲として、耐えるしかない伊丹らであった。

 

 空薬莢の雨が終わる頃には、オーケストラの演奏も城壁内外の戦闘もまた終結しつつあった。弾薬の大半を消費した武装ヘリの編隊が伊丹達の頭上を離れ、入れ違いに普通科隊員を満載したUH-1Jがホバリングに移り、ロープを使って降下してくる。

 

 

「生存者がいないか確認しろ。負傷者も多いぞ! 衛生へーい!」

 

「あ、はいこちらに!」

 

 

 散開した援軍の隊員は、ボロボロの現地住民に代わって周囲を警戒したり、敵味方の生存者を探したり、詳しい現在の状況を把握すべく現地の責任者の下へ向かったりした。負傷者を見つけた隊員の叫びに黒川が慌てて向かうのが伊丹の視界の端に映った。

 

 頼もしい友軍が駆けつけ、敵の増援が来る気配もなし。

 

 完全に気を抜く気にはなれないが、とりあえずこの場での戦闘は今は終結したようだ。

 

 それでも伊丹はいつでも使えるよう9ミリ拳銃のマガジンをフル装填の物と交換した上で、暴発防止に撃鉄を戻してからホルスターに戻した。

 

 

「ふぅー、終わったか……」

 

「終わっちゃいましたねー。でももう少し暴れたかったなー」

 

 

 妙にすがすがしい声が上がった方向へ伊丹はゆっくりと視線を向ける。

 

 血煙と硝煙に満ちた戦場で暴れまわったにもかかわらず、やけに肌の色艶が良くなった栗林が、元は伊丹の銃だったボロボロの64式小銃を弄びながら唇を尖らせていた。

 

 戦闘服内に入り込んだ空薬莢を取り除こうとした名残か、防弾チョッキの下に着た迷彩服の襟元が緩んでチラチラと女性らしい色気のある首筋が見え隠れしている。

 

 

「なぁ栗林」

 

 

 そんな小柄な部下に声をかける伊丹。

 

 

「何ですか隊ちょ――」

 

 

 栗林が振り返った瞬間、彼女の両足が地面から離れた。

 

 彼女の胸倉に手を伸ばした伊丹が、冴えない見た目からは信じられない程の腕力でもって掴み上げたからである。

 

 

「2度と俺の目の前で今日みたいな真似はするな。お前の無茶な突撃の尻拭いをする為に仲間が犠牲になったらどうするつもりだったんだ、あぁ!?」

 

 

 

 

 そして「敵陣に生身で突っ込んで無傷で済むのは2次元だけなんだよ!」と、伊丹は栗林を怒鳴りつけたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『計算されたリスクを取れ。それは軽率な猪突猛進とはまったく違うのだ』 ――ジョージ・パットン

 

 




戦闘中のCoDキャラは大体口が荒いので伊丹にもそれが移ったという事で…
猪突猛進プレイオンリーでノーダメノーコンティニュークリアできれば何事も苦労しませんというお話。

2/11:東門と南門がごっちゃになってた部分を修正

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