FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS 作:マーベルチョコ
ハルトがエルザを抱きしめていると今まで若干蚊帳の外の状態であったグレイが話しかけてきた。
「な、なあエルザ。ちょっといいか?」
「あ、あぁ……なんだ?」
「話の中に出てきたゼレフって……」
「ああ、魔法界の歴史上最凶最悪と言われた伝説の黒魔導士……」
「ララバイの時に出てきた化け物も“ゼレフ書の悪魔”って言ってたよね?」
ルーシィが言ったのは鉄の森の事件で、ララバイから出てきた化け物のことだった。
「そうだ。それにガルナ島の時のデリオラもゼレフ書の悪魔だろう」
デリオラの名前を聞いた瞬間、グレイの背中に冷たいものが走る。
「いったい何のメリットがあって……」
「わからん……だがあんな化け物たちを簡単に作れる魔導士を甦らそうとしている。ショウ……かつての仲間の話ではゼレフ復活の暁には“楽園”にて支配者になれるとかどうとか……」
ゼレフの恐ろしさに空気が静まりかえってしまう。
「でも、おかしくない?裏切ったのはエルザじゃなくてジェラールじゃないの?」
「たぶんジェラールがエルザの仲間たちに何か吹き込んだろうな」
「しかし私は8年も彼等を放置した。裏切ったことにはかわりない」
ハルトたちが話していると奥から人影が現れた。
「さっきの話……どういう事だよ……」
「ショウ……」
現れたのはエルザに気絶させられたシモンだった。
エルザの話を聞いてしまったショウは信じられずひどく狼狽していた。
「ウソだ……!姉さんはオレたちを裏切ったんだ!!姉さんはオレたちが逃げるはずだった船に爆弾魔水晶を仕掛けて1人で逃げた!!ジェラールが気づいてくれなかったら僕たちは死んでいたんだ!!ジェラールは言った!!姉さんは魔法の力に酔ってしまって俺たちのような過去を全て捨て去ろうとしてるんだと!!!」
「『ジェラールが言った』?お前が知ってるエルザはそんな事をするのか?」
ショウはハルトにそう言われた瞬間、緊張の汗が止まらなかった。
「お…お前たちに何がわかるんだ!!オレたちのことを何も知らないくせに!!オレにはジェラールの言葉だけが救いだったんだ!!だから!!8年もかけてこの塔を完成させたんだ!!ジェラールのために!!!」
悲痛な叫び声を上げるショウ。
まるで自分にそう言い聞かせているようだ。
「その全てが嘘だって?正しいの姉さんで間違っているのはジェラールだって言うのか!!?」
「そうだ」
ショウの叫びにエルザたちではない者がそう返した。
「シモン!?」
現れたのはグレイとジュビアを襲ったシモンだった。
「てめぇ!!」
「グレイ様、待ってください!!あの人はグレイ様が偽物だとわかって攻撃してきたんです!」
「何!?」
「流石は噂に名高い元エレメント4の1人。誰も殺す気なんてなかった。ショウたちの目を欺くために気絶させるつもりだったんだか偽物とわかり、わざと攻撃したんだ。その方がよりリアルにできるからな」
「でもハルトはどうなのよ?」
ルーシィは苦しんでいるハルトのほうを向いて、そう言うとシモンは申し訳なさそうにする。
「それについては済まない。ハルト・アーウェングスはエルザを除いた中で一番の脅威と言われ、念入りに動かないようにしろとジェラールに命令されたんだ」
シモンはそう言うとエルザと対面する。
「お前もウォーリーもミリアーナも、みんなジェラールに騙されているんだ。機が熟すまで、オレも騙されてるフリをしていた」
「シモン……お前……」
「俺は始めからエルザを信じている。8年間ずっとな」
そう照れ臭そうに言うシモンは少し、顔は隠れているがエルザには昔と何も変わらない仲間の顔が見れた。
「エルザ会えて嬉しいよ。心の底から」
「シモン……」
シモンとエルザは互いを抱きしめ、周りはそれを微笑ましく眺めているとショウが崩れ落ちた。
「なんで……みんなそんなに姉さんを信じられるんだ……なんで僕は……姉さんを信じられなかったんだ……くそぉおおおおおっ!!!うわぁああああああっ!!!!」
とうとう泣き出してしまった。
「何が真実なんだ!?俺はなにを信じたらいいんだ!!?」
そう泣き喚いているショウをエルザは優しく抱きしめた。
「今すぐに全てを受け入れるのは難しいだろう。だが、これだけは言わせてくれ。私は8年間、お前たちの事を忘れた事は一度もない。何も出来なかった……私は…とても弱くて……すまなかった」
エルザはそう謝罪し、ショウは涙を流す。
「だが今ならできる。そうだろ?」
シモンの言葉にうなづくエルザ。
「ずっとこの時を待っていたんだ。強大な魔導士がここに集まるときを」
「強大な魔導士?」
「ジェラールと戦うんだ。まずは火竜がウォーリーたちと激突するのを防がねば……そのあとに覇王の血清を手に入れよう。ジェラールと戦うにはこの2人の力は絶対に必要だ」
○
ハルトはシモンに背負われながら、エルザたちとともにナツが行ったであろうミリアーナの場所に向かっていた。
「くそ!ウォーリーとミリアーナのやつ、念話を切ってやがる!」
「念話って?」
「一種のテレパシーですね」
「あいつらの衝突をなんとしても防がねば……アーウェングスは大丈夫か?」
シモンが背負ったハルトに聞くと弱い声で返事をする。
「お、おう……なんとかな」
「すまない。まさかカルバートが作ったウィルスがここまでは強いと思ってなかったんだ。覇王と名高いアーウェングスなら自力で治せると思ったんだがこちらの検討違いだった」
「おい。その言い方だとうちのハルトが思ったより弱いって言いたいのかよ?」
シモンの言葉が気に障ったのかグレイが喧嘩腰になる。
「いや、そうじゃない。カルバートの能力が思ったより優れているということなんだ」
「ねぇ、そのカルバートって、どんなやつなの?ハルトが簡単に倒されると思えないんだけど……」
ルーシィがシモンにカルバートのことを聞くが、シモンは困った表情をする。
「……実際よくわからないんだ。あいつは俺たちが楽園の塔を建設しているときに突然現れて、協力してくれた男なんだ。ジェラールもさいしょは疑っていたが楽園の塔の効率的な建設方法を次々と教え、ジェラールに気に入られたんだ。カジノ襲撃もカルバートが計画したことだ」
「つまり参謀ってことですか?」
「そうだな。あいつなら俺たちが裏切ることもわかっていたのかもしれない」
すると突然あっちこっちの壁が奇妙に動き出し、口が現れた。
『ようこそ。楽園の塔へ。俺はジェラール。この塔の支配者だ』
「ジェラール……!」
エルザはジェラールの声を聞いて戦慄する。
『互いの駒は出揃った。始めよう楽園ゲームを………』
「ゲームだと?」
『ルールは簡単だ。オレはエルザを生け贄にしてゼレフ復活の儀を行いたい。すなわち楽園への扉が開けばオレの勝ち。もし……それをお前たちが阻止できればそちらの勝ち。ただ……それだけでは面白くないのだな。こちらは四人の戦士を配置する」
「四人の戦士?1人はわかるがあとの三人は誰だ?」
「そこを突破できなければオレにはたどり着けん。4対8のバトルロワイアル。そして最後に一つ特別ルールの説明をしておこう。評議院が衛星魔法陣でここを攻撃してくる可能性がある。全てを消滅させる究極の破壊魔法エーテリオンだ』
「はぁっ!?」
「そんな……」
「嘘でしょ!?」
ジェラールの特別ルールに全員が驚く。
『残り時間は不明。しかしエーテリオンの落ちる時、それは全員の死……勝者なきゲームオーバーを意味する。さあ、楽しもう』
「そ……そんな……何考えてんのよジェラールって奴………自分まで死ぬかもしれない中でゲームなんて……」
ルーシィはジェラールの考えがわからず、戦慄してしまう。
「エーテリオンだと?評議院が?あ…ありえん!!だって……」
エルザが言葉を続けようとした瞬間エルザはショウの手でカードの中に閉じ込められた。
「エルザ!!」
「ショウ!!お前何を……!!」
「姉さんは誰にも指一本触れさせない。ジェラールはこのオレが倒す!!!」
ショウの顔には凄まじい怒りが表れており、そのまま走ってどこかに行ってしまった。
「くそ!!オレはショウを追う!!お前たちはナツを探してくれ!!!」
ハルトをルーシィに託したシモンはショウを追っていき、グレイたちは置いてきぼりにされてしまった。
「だー!!!どいつもこいつも!!!」
「ジュビアはグレイ様と向こうへ。ルーシィさんとハルトさんはあっちね」
「ちょっと一番弱っちいのと病人を二人っきりにするき!!?」
「騒ぐなぁ……気分が悪く……うぷっ」
○
放送を終えたジェラールはチェスの盤上を動かす。
「ショウとシモンは裏切り、ウォーリーとミリアーナは火竜が撃墜……と、さてヴィダルダス。お前も行くか?」
「よろしいので?」
ヴィダルダスがそう聞くとジェラールは新たに三つの駒を盤上を置いた。
「次は……こちらのターンだろ?」
ジェラールがそう聞くとヴィダルダスは笑みを浮かべ、茹でを交差し、魔力を滾らせる。
するとき、ヴィダルダスがいたところには髪が異様に長いヘビメタに出てきそうな男、ヴィダルダス・タカと長刀を持った和服姿の女斑鳩、そして頭部が梟で背中に大きなミサイルを背負った大男梟がいた。
「暗殺ギルド髑髏会、特別遊撃部隊三羽鴉(トリニティレイブン)……お前たちの出番だ」
「ゴートゥーヘール!!!!地獄だ!!!最高で最低の地獄を見せてやるぜェーー!!!!」
「ホーホホゥ」
「散りゆくは愛と命のさだめかな……今宵は祭りどす」
三人は各々自分のところの配置につくため、玉座を離れた。
「お前も行くんだ。カルバート」
「………」
ずっと沈黙していたカルバートはジェラールに従い、玉座から離れた。
玉座から出たカルバートは自分にしか聞こえないように独り言を話した。
「たくっ……。これだからガキは嫌なんだ。悪役の自分に酔って何しでかすかわからん。こっちにはこっちの計画があるんだがな……」
○
その頃、ハッピーとマタムネを取り返すために塔を探し回り、猫のグッズだらけのファンシーな部屋にたどり着き、ウォーリーとミリアーナを倒し、ハッピーとマタムネをとり返した。
そしてその直後ジェラールの楽園ゲームの開始が告げられた。
「楽園ゲームだぁ?なんじゃそりゃ?」
「物騒でごじゃるな」
「何が何だがわからねーが、ジェラールって奴を倒せばこのケンカは終わりか。おし!!燃えてきたぞ!!!」
「相変わらず単純でごじゃるが、その通りでごじゃる!」
「やっぱり一番上にいるのかな?」
ナツがやる気を見せていると、ウォーリーが悔し涙を流していた。
「な…何なんだよジェラール……エーテリオンってよう……そんなの喰らったら、みんな死んじまうんだゼ。オレたちは真の自由が欲しいだけなのに……」
それに気づいたナツはウォーリーのほうを向き、屈託のない笑顔を見せた。
「どんな自由が知らねえーけど、妖精の尻尾も自由で面白いぞ」
ナツの言葉にウォーリーは呆然としてしまう。
「ハッピー。どんなゲームにも裏技ってあるよな?」
「あい!」
ハッピーはナツを抱え、ナツは足から炎をブースターのように出し、窓から一気に飛び上がった。
「一気に最上階まで行くぞ!!!!」
「あいさー!!」
「せっしゃも行くでごじゃるー!」
マタムネもナツたちを追って出て行くと、ウォーリーはどこか清々しい顔になった。
「いい……マフラー……だぜ」
そして謎の言葉を残して気絶した。
そのころナツが一気にジェラールのところに行こうとした瞬間、塔から壁の一部が柱のようになり、ナツに迫ってきたのだ。
「うおっ!?なんじゃこりゃ!?」
「避けながら進むよ!」
ハッピーが次々の迫る柱を避けて行くが、やがて柱と柱に挟み撃ちにされてしまった。
そして柱に囲まれると、その囲んだ柱からまた柱が出て、ナツたちを塔の中に叩き戻した。
「ぐへっ!」
「あう!」
「!? ナツ!」
運良く、窓から塔の中に入り、そこにちょうどシモンが通りかかった。
「無事だったか」
「ん? 誰だお前?」
「ハッピー殿ー、ナツ殿ー待って欲しいでごじゃるー」
マタムネも合流し、シモンから事情を聞く。
「しかし、なぜあんなところから転がるように入ってきたんだ?」
「なんか塔から柱伸びてきてよぉ」
「迫ってきたもんね」
「柱? この塔にそんな防御機能はないぞ?」
シモンがそういうと前の廊下の一部分に微かな電気が流れ、流れた廊下の一部分が陥没した。
すると、そこからある男が姿を現した。
「カ、カルバート!?」
「よぉ、シモン。裏切るとはわかっていたがまさかこのタイミングだとはな」
カルバートが現れ、シモンを睨みつける。
「誰だかわかんねーが邪魔すんならぶっ倒してやるよ!!!」
ついに楽園ゲームの開幕だ。