FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS   作:マーベルチョコ

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すいません! だいぶ遅れてしまいました。またこれから頑張って書いていきたいと思うので、拙い作品だとはいえ思いますがよろしくお願いします。


第33話 絶望の果てに

「付加(エンチャント)……だと?」

 

ハルトは右腕に竜牙弾に付加したのだ。本来付加魔法は対象の物体に属性や効果を与える魔法だがハルトは魔法を直接体に付加させたのだ。一度体外に出した魔法は体の許容量を超えた魔力を流し続けることで成り立っているが、その許容量を超えている魔力を体の一部に留めておくことは危険なのだ。しかも、竜牙弾は爆発的な魔力を上手く一つの形に留めている魔法なのである。その危険性は跳ね上がる。

 

「ぐぅっ………!!」

 

現に付加したハルトは黄金に輝く右腕を抑え、苦しそうにしている。

 

「自殺行為だぞ……」

 

「だけど、これでお前を倒せる……!」

 

そう言ったハルトは地面を踏み込んで、ルシェドに近づく。それと同時にルシェドの魔法も完成した。

 

「ペンタグラム・イクスプロージョン!!」

 

さっきよりも光の大きさは小さいがそれでも十分に今のハルトを殺せる攻撃力だ。ハルトは迫る光に向かって右腕を振りかぶる。

 

「いっけぇぇぇっっ!!!」

 

腕から発射された竜牙弾は腕のおかげで方向性を持ち、ルシェドが放った魔法に一直線に向かって行った。やがてぶつかり、激しい火花と風を起こして拮抗する。

 

「ぐうぅ……!」

 

「うぅ……ウオオォォォォォッ!!!」

 

ハルトが雄叫びをあげると魔力をさらにあがり、竜牙弾はルシェドの魔法に打ち勝ち、ルシェドの体に直撃する。

 

「ガハッ!!」

 

その衝撃はルシェドの体を突き抜け、後ろの壁にヒビを入れ崩壊させた。

 

その衝撃はファントムのギルド全体を揺らした。

 

「うおっ! またか!なんだこの揺れ!?」

 

「下の方からだぞ!」

 

「ハルトがいる辺りかしら?」

 

ミラたちは少し不安そうにするがエルザだけは安心した笑みを浮かべた。

 

「流石だな……ハルト」

 

その揺れはルーシィたちにも伝わっていた。

 

「きゃっ! なにこの揺れ!?」

 

「ルーシィ殿……怖いのはわかるでごじゃるがビビりすぎてごじゃる」

 

「あたしじゃないわよ!?」

 

同じく戦っていたナツにも伝わった。

 

「ウオッ!? なんだこの揺れ!?」

 

「ヘヘッ ハルトだな」

 

「あぁ? ルシェドと戦っている覇王か……そいつがやったていう証拠でもあんのかよ?」

 

ガジルは侮蔑の笑みを浮かべるが、ナツは不敵な笑みを浮かべるだけだ。それを見たガジルは気に入らなかったのか笑みを消し、ナツを睨む。

 

「何がおかしい?」

 

「いや……テメェらには分かんねぇだろなって思ってよ。証拠があるから分かるっていうもんじゃねぇんだよ。仲間だから信じられるんだ」

 

 

ハルトとルシェドの魔法が激しくぶつかりあった部屋ではようやく煙が晴れてきた。そこには倒れて動かないルシェドと肩で息をしているハルトがいた。

 

「ハァ…ハァ…終わった……」

 

ハルトはその場に座り込んで一息ついた。倒れているルシェドに目を向けると立ち上がって近づき、胸ぐらを掴んだ。

 

「おい、まだ意識があるんだろ? 今すぐ煉獄砕破を止めろ」

 

ルシェドは目をゆっくり開けた。

 

「煉獄砕破は……じきに消える…… 使った俺が……こんな状態だからな……」

 

 

ルシェドがそう言った瞬間、ファントムのギルドは激しく揺れ始めた。

するとファントムMK-Ⅱの目の光が消え、腕や足が崩れ落ちた。

その瞬間、外から歓声が聞こえる。一番の脅威が去り、みんな喜んだ。しかし、その歓声が聞こえる中で怒りに震える者がいた。

 

「ルシェドすらやられたというのか!? ガキどもめぇ……!!」

 

 

ハルトはその歓声が聞こえ、安心したように一息つき、ルシェドを掴んでいた手を放し、座り込んだ。

 

「それじゃあ聞かせて貰うぞ。お前が仲間を信じられない理由を」

 

「………覚えていたのか?」

 

「当たり前だ。半分くらいそのために戦ったくらいだからな」

 

あっけらかんに答えるハルトに、ルシェドは呆れたとため息を吐いた。

 

「お前、馬鹿なんじゃないか?」

 

「んだと?」

 

ルシェドの率直な意見にハルトは額に筋を浮かべる。

 

「まあいい……どうせつまらない話だ。 ある男は魔法に夢を抱いていたんだ。将来は魔法で多くの人を救おうと息巻いていた。そして魔法学園都市ラナンキュラスを首席で卒業したが、小さなギルドに入った。まぁ、そこをスタートとして大きくなってやろうなんて考えていたんだろうな?そこで多くの仲間と出会い、数々の以来をこなし、ついには『指揮者』などと言われるようになった。しかし、そこであることに気づいた。自分が所属していたギルドは闇ギルドに繋がったいたんだ。そして多くの依頼は不正のこと繋がる物ばかりだった」

 

「なりすましってやつか……」

 

「ああ、そうだ……間違っていると思った男は仲間を頼ろうとしたが、もちろんその仲間も全員、闇ギルドのメンバーだ。愕然としたよ。信頼していた仲間に後ろから刺されたのは」

 

そう言ったルシェドは力なく笑うが、どこか悲しげだった。

 

「結局その男は仲間と思っていた奴らにその魔法だけを利用されていたんだ。そのギルドは激昂した男に壊滅され、それ以来その男は自分と自分の魔法以外を信じられなくなった……というわけだ」

 

ルシェドの頭の中で思い浮かぶのは血を流しながら、廃墟の中で静かに泣く自分の姿だ。

 

「………」

 

「これを聞いてもお前は仲間を信じられるのか? もしかしたら騙されているということを考えないのか?」

 

ルシェドは目だけをハルトに向ける。その目は真意を確かめようとする強い目だ。

 

「あぁ、信じる」

 

それにハルトは即答した。

 

「……何故だ?」

 

「信じられずに裏切られるより、信じて裏切られた方がつらいに決まってる。だけど俺は仲間を信じられなくなったら俺はそこで死ぬんだと思う。今の俺があるのは仲間のおかげなんだ」

 

ハルトも目に力を入れ、そう語る。ルシェドはそれを見て何か心に安心したようなものが広がった。

 

「そうか……」

 

「じゃあ、俺はもう行くぜ。仲間が心配だ」

 

そう言ってハルトは空いた穴から、上の階に行ける道を探しに行った。そして1人残されたルシェドは1人呟く。

 

「仲間がいたから今の俺がいる、か…… 。そんなこと仲間に裏切られたことがない甘ちゃんが言える言葉だ」

 

そのときルシェドの頭の中でハルトの仲間を欲しがっているという言葉が繰り返される。ルシェドはそれを否定することができなかった。そしてまた呆れたように笑みを浮かべる。

 

「結局、俺も甘ちゃんってことか……」

 

しかし、何か憑き物が落ちたかのようなスッキリしたようだった。

 

 

エルザたちがファントムが止まり、安心していると足音が聞こえてきた。全員が身構えると角から現れたのはルーシィとマタムネだった。

 

「みんな!」

 

「ルーシィ!」

 

「無事だったか……」

 

みんなが一様に喜んだ瞬間、その場一帯におぞましい空気が流れる。

 

『ッ!?』

 

全員が嫌な汗を流し、震える。そして鳴り響く靴音がする方に顔を向けると、そこには怒りで表情を歪めたジョゼがゆっくりと階段を降りてきた。

 

「よくもやってくれたなガキども……覚悟はできたんだろうな?」

 

その怒りは魔力となって現れ、体から溢れ出ている。周りの建物を震わせ、小さな石などは浮かび上がるほどだ。

 

「テメェを倒せば終わりだろうが!!」

 

「ウオオォォォッ!!」

 

グレイとエルフマンは意を決して、攻撃を仕掛ける。しかし、ジョゼは手を挙げるだけで地面から邪悪な魔力を吐き出させ、殴りかかろうとしたエルフマンにぶつけた。氷の造形魔法のランスも片手で魔力の塊を放ち、全て破壊する。それでも止まらない魔力にグレイはすかさず盾を造形するが、

 

「なっ!? 盾が…!!」

 

ジョゼの圧倒的な魔力の前にはグレイのシールドは紙も同然だった。なす術なく盾は破壊され、グレイはジョゼの魔力に飲み込まれた。

 

「ぐぅあぁぁぁぁっ!?」

 

「グレイ!」

 

エルザは即座に黒羽の鎧に換装し、ジョゼに肉薄する。

 

「ハアァァァァッ!!」

 

「フッ……」

 

攻撃するがジョゼは腕に魔力を纏わせ、防ぐ。

 

「ほぅ……なかなかですな。しかし、それではまだまだ」

 

ジョゼは空いた手でエルザの腕を掴み、振り投げ、エルザに向かって魔力の波動を放つが、エルザは体勢を整え、かわしながらまた肉薄する。しかしジョゼはそれよりも早くエルザに攻撃する。しかも今度は避けられないように弾幕のように魔力を放ち、エルザはなす術なく攻撃を浴びてしまう。

 

「ぐうぅっ!!」

 

「フッ……ん?」

 

すると、ジョゼは操作室で拘束されているはずのルーシィに気づいた。

 

「おやおや……ルーシィさん。なぜあなたがここにいるのですか? ガジルめ……見張っておくこともできないのか。グズめ……」

 

ルーシィは目の前で妖精の尻尾のトップクラスの3人が瞬殺されるのを見て、震えてしまう。それに気づいたジョゼは嫌らしい笑みを浮かべて、優しく語りかける。

 

「ふむ……もしルーシィさんがこちらに戻ってくるのであれば、もう攻撃を止めにしましょう」

 

勿論、そんなのは嘘だ。ルーシィに一度淡い希望を持たせて、絶望に叩き落とそうと考えて言ったのだ。しかし、ルーシィは拳を握りジョゼを睨みながら叫ぶ。

 

「ふざけないで!! あなた達のところなんか戻るわけないじゃない!!!」

 

それを聞いたジョゼは笑みを消し、手に魔力を集める。

 

「そうですか…… それじゃあ、仕方ないな!!」

 

ジョゼは怒りが頂点に達し、人質とかはどうでもよくなりルーシィに向かって魔力の波動を打ち込む。

 

「「ルーシィ!!」」

 

倒れたグレイとエルフマンを介抱しているミラも、攻撃を受けて倒れたエルザもルーシィを守るのに間に合わない。ルーシィは目を閉じて迫り来る衝撃に備えるが、いつまで経っても来ない。恐る恐る目を開けるとそこには覇竜の剛腕で波動を受け止めたハルトがいた。

 

「間一髪だったな。大丈夫か?ルーシィ」

 

「ハルトぉっ!!」

 

「うおっ!?」

 

ルーシィに安否を尋ねるが、感極まったルーシィはハルトに抱きつく。

 

「ハルトこそ! あんなにボロボロだったのに戦って大丈夫なの!? さっきよりひどい怪我じゃない!?」

 

「お、おう……一旦落ち着け……抱きつかれるのは嬉しいけど、傷が痛ぇ……」

 

「あ、ごめん……」

 

ルーシィはジュピターを受け止めた後よりひどい怪我をしていることに慌てて、ハルトに詰め寄るが、ハルトは全身傷だらけのようなものなので抱きつくルーシィに嬉しそうだが、顔が引きつっている。ルーシィはハルトに言われ、申し訳なさそうに離れた。

 

「やはり貴様がルシェドを倒したのか…… あいつは敵に甘いところがあったがそれでも私を抜いて、ファントムの中では一番の駒だった。流石だ、とここは素直に褒めておこう」

 

「全然嬉しくねぇな…… そんなこと言うならもうちょっと殺気を抑えろよ」

 

ジョゼはハルトを睨みながら、そう言う。ハルトはジョゼの殺気がさっきよりも大きくなっているの感じた。ジョゼはハルトに手の平を向け、大きな魔力の塊を放つ。

 

「くっ!」

 

「きゃあっ!」

 

ハルトはルーシィを抱き抱え、ミラがいるところまで飛び退いた。

 

「ミラ、マタムネ、ルーシィを頼む」

 

「待って!ハルトその怪我で戦う気なの!?」

 

ルーシィはハルトの腕を掴んでそう言う。ルーシィはこれ以上傷ついて欲しくないのだ。ハルトはルーシィの掴んでいる手をゆっくりと離し、安心させるようにと笑った。

 

「大丈夫だって、俺が強いのは知ってるだろ? サクッと終わらせてくるから」

 

「あっ、ハルト!」

 

ハルトはジョゼに近づくが、ジョゼは魔力の波動を横薙ぎに放ちハルトを近づけさせない。それでもハルトは踏ん張るが、そこにジョゼは容赦なく魔力の弾丸を無数に打ち込む。ハルトはバク転でかわすが着地する前にジョゼが魔法を放つ。

 

「デッドウィップ!!」

 

鞭状の魔力はハルトの体に当たり、壁まで吹き飛ばす。

 

「ガハッ!」

 

「デッドショット!!」

 

壁から落ちる前にハルトに向かって魔法を放つがハルトもやられてばかりではない。

 

「覇竜の咆哮!!」

 

ジョゼに向かって放った咆哮はジョゼの魔法弾をかき消し、ジョゼに迫るがジョゼはそれをひらりとかわす。

 

「ふむ……威力、スピード共に申し分ないがキレがないですね。ルシェドとの戦いでだいぶ消耗しましたか?」

 

「ハァ……そんなんじゃねぇよ……それにお前を倒すのにこれくらいで丁度いいぜ」

 

「……そうか、ならやってみろ! デッドウェイブ!!」

 

ハルトは虚勢を張るが、ジョゼには腹をたてるしかなかったようで、地面から魔力の波が押し寄せる。ハルトは横に飛び退いたが、そこにジョゼが分かっていたかのように先回りしており、至近距離で魔法を放つ。

 

「デッドショット!」

 

「ガハッ!?」

 

突然のことに防御が間に合わなかったハルトはもろに受けてしまう。

 

「ハアァァァァッ!!」

 

魔法を放って隙ができたジョゼにエルザが斬りかかるが、ジョゼは静かに手をエルザに向ける。

 

「デッドネット」

 

手から蜘蛛の巣状の魔力がエルザに絡まり、身動きを取れなくする。

 

「ぐっ……くそっ!」

 

「フン……」

 

なんとか抜け出そうともがくエルザだが、ネットはさらに絡まり取れなくなる。ジョゼはネットが伸びている手を立ち上がろうとしているハルトに向けるとネットをそれに続いて動きハルトにぶつける。

 

「がっ!」

 

「ああっ!」

 

ジョゼはそこに追い打ちをかける。

 

「デッドスパイラル!!」

 

ハルトたちの足元から二つの魔力が螺旋状に上がっていく。それに巻き込まれる2人は上まで行くと重力に従って地面に叩きつけられた。

 

「ハァ……くそ、 魔力の質が違いすぎる!」

 

「流石、聖十大魔導士の1人というわけか……」

 

「貴方達もなかなかのものですよ。全快の状態なら結果も変わっていたのではないですか?」

 

ハルト、エルザはルシェドの戦いでダメージを負いすぎて、思った以上に動けなかった。すると、ジョゼは戦いを見ていたルーシィ達に視線を向けると、嫌らしい笑みを浮かべた。ルーシィ達に向けて手を払うと地面から幽兵が2体現れた。

 

「行け」

 

幽兵はルーシィ達に向かって走り出す。それにいち早く気づいたハルトは幽兵よりも速く動き、ルーシィ達の前に立って、幽兵を迎え撃つ。

 

「らぁっ!!」

 

ハルトが幽兵を殴った瞬間、幽兵は紫色に輝き爆発した。

 

「ハルト!?」

 

間近で爆風を受けたルーシィは風を防ぎながらもハルトの安否を気にする。煙が晴れると、そこにはあまり傷は増えていないが、顔色を悪くしたハルトが片膝を着いていた。

 

「どうですか? 私の『幽兵爆弾』(シェイドボム)のお味は? ルシェドみたいに威力も無く、大量に作ることはできませんが、呪いの効果付きです。一撃を貰うだけでもその体では相当効く筈ですよ?」

 

ジョゼはそう言いながら新たに幽兵を三体作り出し、ハルトに向かって幽兵を突撃させる。

 

「ハルト!」

 

「マタムネ……全員逃げさせろ……庇いながら戦うのは厳しい」

 

ルーシィがハルトに声をかけるも、返ってきたのはのは緊張した声で不味い状況だということだけだ。

 

「覇竜の咆哮!!」

 

ハルトはなんとか立ち上がり咆哮を放つ。一体には当たったが、他の2体はハルトを通り過ぎ、ルーシィたちに迫った。

 

「!? くそっ!」

 

ハルトは慌てて通り過ぎた幽兵に向かって覇竜の断刀で斬りかかるが、切られる前に幽兵は自分で爆発した。

 

「フン……貴方達は仲間などのくだらないものを大切にしますからね。こうすれば自ずと倒れるのは分かりますよ」

 

「ジョゼ! 貴様ぁっ!!」

 

エルザは果敢に攻撃を仕掛けるが、ジョゼはかわしてしまう。

 

「くだらない、何度やっても当たらないものは当たらな……ぐふぉっ!?」

 

ジョゼがエルザの剣戟をかわし、防ぎながらエルザを馬鹿にした瞬間顔に向かって魔力の塊が飛んできた。もろに食らってしまったジョゼの顔に僅かに傷がつく。

 

「ぐっ……貴様ぁっ!!」

 

ジョゼが睨む先には、顔色を悪くさせながらもジョゼに向かって拳を突き出しているハルトの姿があった。

 

「へへっ……油断大敵だぜ」

 

「貴様、よくも……」

 

「ハアァァァァッ!」

 

「グファッ!」

 

ハルトを睨むジョゼにエルザの追撃が当たる。

 

「お前が言ったくだらないものが、ようやくお前に攻撃を与えたぞ」

 

とっさに魔力で防御はしたが、エルザの一撃は強烈で服に血が滲んでいる。エルザの一言にジョゼは怒りで震える。

 

「いい加減にしろよ……クソガキ共ぉっ!!」

 

「「!?」」

 

怒りが頂点に達したジョゼは目が黒く変色し、魔力が溢れ出た。

 

「きゃあっ!!」

 

「魔力がさっきよりも上がったでごじゃる!」

 

突風が吹き荒れ、ハルト達を巻き込む。風で目を塞がれ、開けた瞬間目の前に魔力の塊を持った手が迫ってきていた。ハルトは何もできず爆風に巻き込まれる。

 

「ハルト!?」

 

エルザは隣で突然のことに驚くが、ジョゼは間髪入れずエルザの鎧の襟を掴み投げると、エルザに向かって魔力の弾丸を無数に打ち込む。

 

「くうぅぅぅっ!」

 

エルザは剣で弾いたりして防ぐが、数が多く、捌き切れない。そこに爆発から脱出したハルトがジョゼに迫るが、ジョゼは即座に魔法を放ち、ハルトに攻撃する。

 

「デッドウェイブ!」

 

「ぐあっ!」

 

ハルトは突然のことに体は止まらず、そのまま突っ込んでしまい、ルーシィ達がいる近くまで転がる。

 

「ハルト、大丈夫!?」

 

「あ、あぁ…大丈夫だ」

 

ハルトはそう言うが冷汗は流れ、疲労が目に見えている。ハルトがジョゼに目を向けるとジョゼはすでに空中に大きな魔力の塊を多数作っていた。

 

「デッドラッシュ!」

 

一斉に打ち出された魔力は真っ直ぐにハルトたちに迫ってくる。

 

「覇竜の剛腕!」

 

ハルトは巨大な剛腕を出し、後ろにいるルーシィ達も守るようにしたが、多量に打ち込まれてくる魔力弾の威力が強く。剛腕にヒビが入る。

 

「ぐわっ!」

 

そしてとうとう剛腕は破壊され、ハルトも疲労が来たのかそこに座り込んでしまう。

 

「ハァッ!」

 

「邪魔だぁっ!!」

 

「あぐっ!?」

 

エルザも応戦するが本気を出したジョゼにあっさりと魔力で捉えられてしまう。するとジョゼは手から今までで最も大きい魔力の塊を作る。その魔球は怨念みたいな物が取り巻き、見ただけで危険なものだとわかる。

 

「ルーシィ・ハートフィリア!! 選べ!!私たちの元に戻って来れば仲間は助けてやる!!来ないならばお前ごと仲間も殺すぞ!!」

 

それを聞いたルーシィはさっきとは打って変わって迷った。ハルトもエルザも戦える状態ではない。この危機的な状況を救えるのは自分だけなのだ。

 

「わ、私がそっちに……」

 

「行くなルーシィ」

 

ハルトがルーシィの手を前を向きながら握り、力強く言った。

 

「で、でもハルト……」

 

「俺もエルザもそんなことされたら、自分を許せなくなってしまう。だから、行くな」

 

振り向いたハルトの目には、まだ諦めていない意思が見えた。

 

「どうした! 殺してしまっても構わないのか!!」

 

ジョゼはエルザを縛る力を強める。苦しそうに呻き声をあげるエルザを見て、ルーシィ達は辛そうな表情をするが、ハルトは何かに気づいた。

 

「おい! その前に聞きたいことがある」

 

「……何だ?」

 

「お前なんでこんなとをしたんだ?」

 

突然のハルトに質問にジョゼだけでなくルーシィ達も目が点になる。

 

「は、ハルト!今はそんな場合じゃないでごじゃる!」

 

「いいから! ルーシィを連れ去るだけならもっと他のやり方もあったはずだ。なのに今回のやり方は明らかに俺たちが攻撃を仕掛ける前提での作戦だよな。なんでこんなことをした?」

 

ハルトの質問に、訝しげな表情を浮かべたジョゼだがハルトたちになす術はないと思ったのか答えた。

 

「前までは我が『幽鬼の支配者』はこのフィオーレで一番のギルドだった。しかし、最近になって『妖精の尻尾』が大きくなり始め、ついには『幽鬼の支配者』と並び始めた。ラクサス、ミストガン、ギルダーツ、カミナ……そして『妖精女王』、『覇王』と名高い、エルザとハルト。『火竜』の名は大陸全土に知れ渡った。ただの弱小ギルドになぜこんなにも優秀な駒が集まる? 気にくわない……気にくわないだよ…… たかが弱小ギルドが粋がってんじゃねぇっ!!! さらにはハートフィリア家の令嬢がギルドに入っただと? ふざけるな!!『妖精の尻尾』にハートフィリア家の財力が合わさってしまえば、今度こそ『妖精の尻尾』が大陸一のギルドになってしまう!!そんなことあってはならない!!!」

 

「じゃ、じゃあアンタは『妖精の尻尾』が大きくなるのが嫌だからこんなことをしたっていうの? そんなのただの嫉妬じゃない!!」

 

「小娘に何がわかる!? 今まで積み上げて来たものが脅かされるのだぞ!? これほどの恐怖があってたまるか!! それにお前にも一因があるんだぞ!! お前が『妖精の尻尾』に入ったことでハートフィリア家の財力が入るのだからな!貴様らはいったいどれ程大きくなれば済むんだ!!!」

 

ジョゼはルーシィに向かってそう言うとルーシィは辛そうな表情になり、俯いたが、ハルトはその頭に優しく手を乗せ、撫でた。

 

「ハルト…」

 

「大丈夫」

 

ひとしきり撫でたあとハルトはジョゼのほうを向いた。

 

「お前は馬鹿か?」

 

「何?」

 

「ルーシィは家の金なんか一切持ち出して来てないんだよ。俺たちと同じように働いて、笑って、泣いて、暮らしているんだ。お前らが思ったみたいなことは一切なかった。だから、お前らが俺たちを攻撃してきたことは完全にお前らが悪い。私情でギルド間の抗争を起こしたんだ。評議院に罪に問われるのはお前達だな」

 

ハルトが言ってることは正しい。もし妖精の尻尾が金がつるんでルーシィや、ハートフィリア家に関係があり、幽鬼の支配者との抗争が起こったなら一人娘と財産を守る幽鬼の支配者が正しいことをしていることになるが、今回のことは幽鬼の支配者側の私情が優先して起こったことなので、悪いのは幽鬼の支配者だ。しかし、ジョゼは馬鹿にしたかのように笑みを浮かべる。

 

「そんなことどうでもいいんですよ」

 

「何だと?」

 

「ルーシィ・ハートフィリアを確保したところで父親のところに返すつもりなんてありません。監禁し、それを種にしてハートフィリア財閥から金を搾り取れるだけ搾り取るんですから、評議院なんて怖くはありませんよ。一体幾つの『幽鬼の支配者』の支部がフィオーレ王国にあると思うんですか!? 身を隠すなんて簡単なことだ!! 貴様らがいくら足掻こうがどうにもならんのだ!!」

 

ジョゼの高笑いが部屋に響く。ルーシィは事実を知り、悔し涙を流し、エルザ達も悔しがる。しかし、ハルトだけは依然としてジョゼを静かに睨み続ける。

 

「貴様は自分のせいと思い、仲間が傷つく姿を見て涙を流すルーシィの気持ちがわからないのか!!?」

 

耐えかねたエルザがジョゼに叫ぶが、この圧倒的有利な立場であるジョゼには全く意を返さない。

 

「全く。わかる必要すらないな。しかし、ルーシィ・ハートフィリアはこれから底のない絶望に苛まれるのはわかるがな」

 

ジョゼは嬉々とした声でそう告げる。エルザ、目を覚ましたグレイ、エルフマン、ミラ、マタムネは激怒の表情を露わにするがこの状況では何もできない。

 

「それでは幕引きと行こう。まずは覇王からにしようか」

 

ジョゼは巨大な魔力の塊をハルトに向かってゆっくりと投げつける。迫る魔球にハルトは動けない。すると、涙を流したルーシィが手をぎゅっと握ってくる。

 

「ごめんね。せめて一緒にいさせて……」

 

「ハハハッ!! 絶望の果てに落ちろ!!妖精の尻尾ぅぅぅっ!!!」

 

ルーシィはもうダメだと思い、最後まで一緒にいようとするが、ハルトは一息つき、口を開いた。

 

「遅いんだよ。馬鹿」

 

「すまない。遅れた」

 

その瞬間、ハルトに迫っていた魔球は一筋の白い光が差し込むと弾けて消えた。そこには鍔がない日本刀が刺さっている。すると天井から白い外套を来て、髪に白いメッシュが入った男が降りて来た。

 

「みんな、待たせたな」

 


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