FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS   作:マーベルチョコ

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第134話 アスラの心臓

遺跡までに信者達が襲いかかってきて結局辿り着いたのはハルト、カミナ、ナツ、グレイ、エルザ、ウェンディ、レイン、ガジル、ジュビア、エルフマン、レビィ、ジェット、ドロイ、フリード、ビックスロー、エバーグリーンの数人だけだった。

残りは遺跡に辿り着くまでに現れた信者達と戦い、逸れてしまった。

 

「たったこれだけしか残らなかったか。信者たちのほうが数が多い。長期戦になれば我々は負けてしまう。ルーシィの救出を最優先に動くぞ」

 

エルザの言葉に全員が頷き、遺跡の中に進んでいく。

 

「おいハルト達滅竜魔導士たちはルーシィの匂いはわからねぇのか?」

 

グレイが先頭を走るハルトを始め、ナツ達に尋ねるが全員が首を横に降る。

 

「そこら中から嫌な魔力がして鼻が効きやしない。俺たちの鼻はアテにするな」

 

「それによー……なんか血の匂いがこびり付いてんだよな」

 

ナツが嫌そうな顔をして呟く。

それに同調するように鼻が効くレイン、ガジルも苦い表情になる。

 

「血の匂いって……」

 

「ここは5年前戦争のど真ん中だったんだ。まだその跡も残っている」

 

カミナの戦争という言葉に全員が暗い表情になる。

 

「戦争ってのは良いもんなんて何も生み出さない。残るのは苦痛だけだ」

 

ハルトのその言葉に全員が同じような気持ちになると前方から槍が飛んできた。

 

「覇竜の剛腕!!」

 

「断空」

 

ハルトとカミナは全ての槍を防ぐと、前から声が聞こえてきた。

 

「私たちはその苦痛の先に望みがあるから戦うのよ」

 

目の前に手をこちらに向けるミーシャが立っていた。

 

「お前があの土の軍団を操っている本人か」

 

「そうよ。まぁ、私が操っているって分かっても意味が無いでしょうけどね」

 

「そうかよ!!」

 

ハルトとカミナはミーシャに向かって突撃するが、ミーシャはそれを見越して両手を地面につけ、魔力を練る。

 

「グラウンドメイク『ビッグウェーブ』」

 

突然、地面が激しく波立ち、ハルトたちを飲み込もうと襲いかかる。

全員が狭い通路であったためか、避けることもできずに飲み込まれ、突然現れた小穴に流されてしまった。

 

 

「うぉわああぁぁっ!!?」

 

グレイは小穴から滑り落ちて地下の洞窟に落ちてしまった。

 

「ぺっ!ぺっ!身体中に土が付いてやがる……」

 

グレイは体についた土を払いながら、立ち上がろうとすると妙に腰が重いことに気づき、目を向けると幸せそうな表情のジュビアが腰にしがみついていることに気づいた。

 

「うおおぉ!?何してんだよ!?」

 

「グレイ様と急接近……!幸せ過ぎて死ぬ……♡」

 

「いいから離れろよ!」

 

「あぁん♡」

 

グレイはジュビアを引き剥がし、周りをぐるっと見渡す。

 

「ここは洞窟か?」

 

「そのようですね。だいぶと滑り落ちましたからどうにかして上に上がらないと」

 

2人がどうにか上に上がれないかと辺りを観察していると声が響いてきた。

 

「ここは罪人の死後、死体を遺棄するための巨大なゴミ穴よ」

 

声がする方を向く一番奥の壁から出口と階段が現れ、ミーシャが下りてきた。

 

「わざわざそっちから来てくれるなんてな」

 

「私の役目は貴方達を殺すこと。儀式の邪魔になる者は誰であろうと排除する」

 

ミーシャの目にはハッキリと殺意が見えた。

グレイとジュビアは共に構えて、いつでも動けるようにする。

ミーシャはそれを見て、魔力を練りながらさらに口を動かす。

 

「それにアンタに興味があったのよ」

 

ミーシャはグレイの方を見て、そう言い、ジュビアにジュビーンと衝撃が走る。

 

(きょっ、興味がある!?そ、それってつまり恋なの!?ということは恋敵!?)

 

いつもの暴走を始めてしまうジュビアを他所にミーシャは馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 

「表の世界でぬくぬくと育った同じ造形魔導士の実力がどんなものか知りたくてね」

 

馬鹿にされたことがわかったグレイは額に青筋を浮かべて、土で汚れた服を脱ぎ捨て、手に冷気を集める。

 

「そうかい!じゃあ見せてやるよ!汚ねーことに手を染めた造形魔法より俺の造形魔法のほうが強いってことをよ!!」

 

氷と土の造形魔導士同士の戦いが始まった。

 

 

一方、古代人の住処となっていた遺跡では激しい攻防が繰り広げられていた。

火炎が立ち上り、鉄の衝撃がそこら中で響いていた。

 

「火竜の鉄拳!!」

 

戦っている本人ナツが炎の拳を相手に繰り出すが、男はそれを容易く掴み止める。

手から焼ける音がするが男は焼ける痛みで顔を苦痛に歪めるどころか、笑みを浮かべた。

 

「おらおら!!どうした!?お前の炎はそんなもんかよ!?」

 

「ぐわっ!」

 

男は掴んだ拳を自分の方に引き寄せ、腹に蹴りを入れた。

常人の力とは思えない蹴りを入れられたナツは吹き飛ばされ、建物に激突してしまう。

その隙に同じく戦っていたガジルは飛び出して腕を剣に変えて、斬りかかる。

 

「鉄竜剣!!」

 

「ぐおっ!?」

 

肩から斬られた男は一瞬苦悶の声を漏らすがすぐに肩で受け止めた剣を掴んで、笑みを浮かべる。

 

「返しが付いた剣か……中々エグいもん使ってくるな!!」

 

「ぐっ!?コイツ……!」

 

男は楽しそうにしながら剣を握りしめると掴んだ所が歪み、ガジルは顔を痛みで歪める。

 

「ほらよ!!」

 

男がガジルをナツと同じところに投げ飛ばす。

ガジルはなんとか受け身を取って体勢を整えると頬を膨らませる。

それと同時にナツも頬を膨らませ魔力を高め、一気に解き放つ。

 

「火竜/鉄竜の咆哮ォッ!!!」

 

2つの属性の相乗効果により大爆発が起きる。

爆炎で男の姿が見えなくなるが、その中からゆっくりと楽しそうに笑いながら歩いて出てきた。

 

「今のは中々効いたぜ……楽しくなってきたな!!」

 

上半身の服は焼け落ち、大きく火傷してガジルのブレスによる鉄が刺さっていて痛々しい。

明らかに致命傷だが男は笑っている。

 

「おい、サラマンダー。気づいているか?アイツからする匂い」

 

「ああ、こんな奴初めてだ。……死臭がする人間なんてよ」

 

男から漂うその匂いに思わずナツとガジルは顔を顰める。

 

「まだ名乗っていなかったな……俺は『アンデッドのカイル』だ。久々に骨がある奴らと戦うんだ……もっと俺を楽しませてくれよ!!」

 

男の自己紹介にガジルは気に食わないと言った表情になる。

 

「チッ!サラマンダーとまた共闘してるってだけで気に食わねーってのに死臭に加えて、あっちも二つ名を持ってやがる」

 

「ンだとテメー!!」

 

ガジルの言葉に怒るナツだが、気を取り直してこちらも名乗る。

 

「俺はサラマンダーのナツだ!!さっさとお前を倒してルーシィを助けなきゃいけねーんだよ!!」

 

「黒鉄のガジル」

 

2人が名乗り、カイルは更に笑みを深くした。

 

 

エルザは遺跡を探索しながら、逸れた仲間達を探していた。

 

「ハルトー!ナツー!どこにいる!?」

 

しかし、声は反響するだけで誰も返事を返してくれない。

 

「それほどまでに遠くに行ってしまったのか?」

 

エルザがどうするかと悩んでいると、ふと人の気配を感じ、前を向く。

目の前には宝物庫で自分が何も出来ずに鎧と剣を破壊した着物を着た女性、サツキが立っていた。

 

「っ!」

 

ここまで接近に気づかなかったことに驚くエルザ、すぐさま剣を換装し、構える。

 

「待ってちょうだい。別に戦いに来たわけではないの」

 

「何?」

 

サツキはエルザを手で制して、話しかけ、エルザも動きを止めた。

 

「私達は儀式が滞りなく終えて欲しいだけ。それまで大人しくして欲しいの」

 

「それはできない相談だ。儀式はルーシィを生贄にするものだろう?仲間を犠牲になんてできるはずがない。それにアスラというのは世界を滅ぼしかねない危険なモノだと聞いた。世界を脅かすモノわ放っておく事などできるはずがない」

 

エルザは再び剣を構えてサツキを見据える、

サツキは臨戦体勢のエルザを見て悲しそうに目を伏せる。

 

「私にはどうしても『アスラの心臓』が必要なの」

 

「『アスラの心臓』?何だそれは?」

 

「願いが叶うと言われる物よ。正確には莫大な魔力の循環機関と言うべきかしら?莫大な魔力を生命活動のために動くそれは強靭な生命力と全ての状態異常が効かず、魔を打ち払うと言われているわ。呪いで苦しむ私の娘には必要なの」

 

「何だと……!?」

 

サツキの娘のことにエルザは驚きを隠せずにはいられなかった。

 

「私のせいで娘は呪いをかけられて、今も苦しんでいる。医者や解呪専門の魔導士に頼んだけど強すぎて何もできないと言われたわ。打つ手がないも無いと言われ、絶望した時にこの教団に声を掛けられたの。娘を助けたくないか、って」

 

「それが真実かわからないだろう?」

 

「今はもう迷信にも縋るしかないの。だから……」

 

サツキは伏せていた目をエルザに向け、僅かに殺気を向ける。

 

「邪魔するのであれば例え女子供であろうと、国であろうと切り伏せる」

 

僅かに向けられただけでエルザはバラバラに切り捨てられた幻覚を見た。

冷や汗が流れる身体に触れると斬られた所はない。

殺気を向けられただけで、ここまで怯えさせられたのだ。

実力差が天と地程も離れていることがわかっている。

しかし、世界のために仲間のために妖精女王は戦わない訳にはいかない。

 

「妖精の尻尾のエルザ。推して参るぞ!」

 

「来なさい!」

 

 

それぞれが幹部と戦っている頃、レインとウェンディ、それにマタムネ、ハッピー、シャルル、ミントは薄暗い遺跡の中を探索していた。

 

「ほ、本当にこっちで合ってるの……?」

 

ウェンディが遺跡の不気味さに怯えて、レインにしがみ付きながら質問する。

 

「うん。こっちから戦闘音が聞こえたもん。もし誰かが戦っているなら加勢しないと」

 

「そ、そうだけど〜……ヒッ!?」

 

ウェンディは足元にいた小さなトカゲにさえ怯えてしまう。

そんなウェンディの手をレインはしっかりと掴んで真っ直ぐに見つめる。

 

「大丈夫!いざとなったら僕がウェンディを守るよ!」

 

「レイン……」

 

レインの励まし、ウェンディは少し頬を赤く染めて見つめてしまう。

そんな桃色の雰囲気が漂う所に邪魔者(マタムネ)が茶化してきた。

 

「やだわぁ最近の若者ったらすぐにイチャついちゃって。どう思います奥さん?」

 

「もう人の目を気にしな過ぎな気がしますよー」

 

ハッピーも混ぜてコントじみたことをする2匹にレインとウェンディは恥ずかしくて顔を赤くして否定する。

 

「いっ、イチャついてなんかいないよ!」

 

「そうだよ!」

 

「アンタ達何やってんのよ!?ここは敵地なのよ!?」

 

「わぁー、アタシも混ぜてー」

 

「ちょっと!人の話聞いてたの!?」

 

シャルルが注意するとレインの鼻が何かを嗅ぎ取った。

 

「ちょっと待って!」

 

「ヒッ!ど、どうしたの?」

 

「誰か奥にいる!」

 

レインは匂いがする方に走り、それにウェンディ達も付いていく。

やがて辿り着いたのは大きな祭壇がある広間だった。

そしてそこにはレビィが立っていた。

 

「やっぱり!レビィさんだ!」

 

「よかった〜…合流できて」

 

レインは嗅いだことのある匂いでレビィだとわかっていた。

レビィはレイン達に背を向けており、動かない。

 

「レビィさん!無事ですか?」

 

「他の皆さんはどこに……え?」

 

ウェンディが動かないレビィを不思議に思い、前に回りこむとその様子に驚いた。

レビィは何かに驚き駆け出そうとして固まっていた。

 

「何、これ?」

 

ウェンディはレビィの様子に戸惑いを隠せずにいた。

 

「ね、ねぇ!レイン!これ見て!レインってば!!」

 

ウェンディは嫌な予感を感じとり、レインを必死に呼ぶが返事が返ってこない。

レインの方を振り向くとレインはレビィが見ていた方を向いて固まっていた。

同じくマタムネ達も固まっていた。

 

「ウェンディ……これ見てよ」

 

「嘘……」

 

レインが促した方を見るとそこにはありえない光景が広がっていた。

そこには何かに飛びかかるビーストソウルの姿になったエルフマン、空中から魔法繰り出すエバーグリーン。

同じく攻撃を仕掛けているジェットとドロイ。

そしてその衝撃で飛び散った瓦礫や土煙が止まっていた。

 

「何でごじゃる……?この光景は……」

 

「みんな止まっちゃってるよ」

 

「魔法の所為なのかな?」

 

「当たり前でしょう……だけどこんな魔法、見たこと聞いたこともない」

 

全員が戸惑いの表情でこの光景を見ていた。

すると奥の方から誰かが歩いてきた。

 

「あれ?まだ他にいたの?面倒だなー」

 

眠たげな表情の小柄な男性、レイトがナイフを持ってレイン達に気づいた。

 

「これは、貴方がやったんですか?」

 

レインが恐る恐る聞くとレイトは首を縦に振った。

 

「そうだよ。戦いになったからね。動きを止めて今から殺すところ」

 

さも当たり前のように殺すと言った男にレイン達は驚く。

レインはスイレーンを構えて皆の前に出る。

 

「そんなことさせないぞ!!」

 

「君に何ができる?見たところ君はこの中で最も魔力が低い。子どもを殺すのは気が引けるんだ。サッサと後ろの子達を連れて帰りな」

 

レイトはシッシッと追い返すように手を振る。

レイトに最も魔力が低いと言われ、レインは悔しくなった。

確かにこの場でマタムネ達を除いて最も魔力が低いのはレインだ。

だが、それで仲間を見殺しすることなんてできない。

 

「それはできない!僕は妖精の尻尾の魔導士だ!!同じギルドの仲間を見捨てることなんてできない!」

 

化猫の宿の時のような思いは二度としたくない、させてたまるものか。

必ず仲間は守る。

その一心でレインはレイトに立ち向かう。

 

「ふーん……仲間ね。そんなの僕は忘れちゃったなぁ……」

 

レイトは気怠げだが、どこか寂しそうに呟いた。

 

 

ハルトは1人、遺跡の最深部に向かって歩いていた。

向かう先からアスラの匂いが強まっていた。

更にルーシィとエリオの匂いが僅かにしていた。

 

「ぐっ……」

 

腹に巻いた包帯から血が滲むが構わず、足を進める。

 

「待ってろよ…!ルーシィ!エリオ!」

 

ルーシィを助けるため、そしてエリオと決着をつけるために。

 


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