FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS   作:マーベルチョコ

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第130話 王国からの依頼

クロッカスに着いた2人はすぐさまかつて仲間だったジェイドと会うために宮殿『華灯宮メルクリアス』に赴いた。

ジェイドは王族で多忙であるため、2人はすぐに会うことはできないと思っていたが、そのまま城内に案内され客室で待つように言われた。

客室まで行く際に城内では多くの人間が慌ただしく動いているのが目についた。

 

「意外だな。こうも早くお会いにできるとは」

 

客室で待つエルザはカミナの隣に座りながら意外そうに呟く。

すると顎に手を当てていたカミナはボソリと呟いた。

 

「………もしかしたら、少しマズいことになっているかもしれない」

 

「どういうことだ?」

 

カミナのその言葉に聞き返そうとしたが扉が開かれ、ジェイドとその付き人と思わしき男性、そして13、4歳くらいの書類を持った少女が入ってきた。

カミナ達は礼を取ろうとするがジェイドがそれを手で止めた。

 

「よく来てくれた。早速だが話に入ろう」

 

ジェイドが促すとエルザが話し始める。

 

「はい、昨日私たちのギルドが襲撃されました。その主犯が……」

 

「エリオだろ」

 

話に被せてきたジェイドにエルザは知っていたのか?と訝しげに思う。

今まで黙っていたカミナがジェイドをまっすぐ見て口を開く。

 

「ジェイド。お前達も襲われたのか?」

 

「王子に向かってその口調は……!」

 

「いい、やめろ。話が続かない。……その通りだ。実際にここが襲われたわけじゃないがな」

 

「なっ……!」

 

その言葉にカミナはどこか納得し、エルザは驚いた。

妖精の尻尾だけを襲撃したなら1つのギルドとの戦争になるがフィオーレ王国を襲ったというなら話は変わってくる。

国を襲った、つまりこの国と全面的に戦争をするということだ。

評議会、ギルド、軍の3つの勢力と争うということになる。

そこまであのエリオは無謀な蛮勇なのか、それともそれに打ち勝てるほどの力と自信があるのか。

 

「どこが襲われたんだ?」

 

「レナ、資料を」

 

「はい!」

 

ジェイドが促すと黒髪の少女は持っていた書類を2人に渡した。

 

「襲われたのはフィオーレ王国に点在する宝物庫のいくつかだ」

 

書類にはフィオーレ王国が所有している宝物庫の地図と襲われた詳細が書かれていた。

 

「宝を狙われたのですか?」

 

「いや、宝は一切奪われていなかった。被害は宝物庫の多少の破壊と警備の騎士達が重傷を負った程度だった」

 

「一つも盗んでいない?奴らの目的は宝ではないのか?」

 

エルザが呟くとカミナは確信を持った口調でジェイドに話しかける。

 

「エミリアの体をフィオーレ王国で保管しているな?」

 

「なに!?」

 

エルザ達が見たハルトの記憶ではエミリアは死んだとされていた。

しかし、彼女の星霊オリオンは本当に死んだわけではないと言っていた。

その体をフィオーレ王国が保管しているというのだ。

 

「エミリアの体にはアスラが封じられている。今は厳重に保管されているが奴らに奪われるのは時間の問題だ。そこで君たち、妖精の尻尾に依頼したい」

 

「何をでしょうか?」

 

「エミリアの体が保管されている宝物庫を警護して欲しい」

 

ジェイドの依頼に2人は驚く。

宝物庫は言わば国の機密が集められた場所だ。

その場所を外部の者に警護して欲しいとは前代未聞だ。

 

「理由はある。今、フィオーレ王国中の宝物庫が襲われて警備を強化するために殆どの兵士を各地に派遣した。そのためエミリアを保管してある宝物庫に派遣した兵士の数が少し心足りないんだ」

 

「相手が来るとわかっているなら、そこに集中して守ればいいのでは?」

 

エルザの質問に側近の男が説明する。

 

「各地に宝物庫を分けているのは危険な代物を一つの場所に集めておかないためだ。下手したら国が滅ぶほどのものもある」

 

「勿論、行って欲しいところには兵士を多く派遣したが奴らの実力は未知数だ。予防をしていて損はない」

 

エルザは人の体を保管しておくのはどうかと思ったが、概ね受ける気であった。

横に座るカミナを見て、どうするかを伺う。

 

「一先ず、マスターに相談させてくれ。ギルド一つに依頼をするとなるとマスターに指示を仰がないといけない」

 

カミナ達は城にある通信用の魔水晶を借りて、妖精の尻尾で待機していたマカロフに連絡を取る。

 

「というわけで俺はこの依頼を受けたいと思う」

 

『ふむ……国からの依頼となれば受けるしかあるまい。それにルーシィを攫った奴らに会うことができるとなれば願っても無いわい。王子には受けると伝えておいてくれ』

 

「わかりました」

 

魔水晶の動力を切ったカミナは背後にいたジェイドの方を向く。

 

「聞いた通りだ。俺たち妖精の尻尾は依頼を受ける」

 

「よし。早速宝物庫の場所に向かってくれ。道案内は俺の側近の1人に任せる。頼むぞスイク」

 

「はっ、わかりました。ラナ、私がいない間の王子のサポートを頼むぞ」

 

「わかりました!」

 

ジェイドの側近、スイクとカミナ達はエミリアの体が保管されている宝物庫を目指した。

 

 

攫われたルーシィは薄暗い部屋の中に備えられてある簡素なベッドの上に寝かされていた。

部屋には頭の大きさくらいしかない小窓が天井近くにあるだけだ。

漸く目を覚ましたルーシィはゆっくりと体を起こし、どういう状況か徐々に思い出す。

 

「ここって……どこ?それにアタシ……そうだ!ハルト!!」

 

ハルトが刺されたことを思い出し、思わず立ち上がるルーシィに声がかけられる。

 

「自分の心配より好きな男を心配するか、呆れたな」

 

後ろを振り向くとエリオが椅子に座っていた。

ルーシィは警戒しながらどこからか逃げられないか、周りを見る。

今のところ逃げられるのはエリオの背後にある扉だけだ。

 

「アンタ、ハルトの仲間のエリオでしょ?何でこんなことをするの?」

 

「元仲間だ、アイツには恨みしかない。お前をエミリアを復活するための生贄にする。それまでは何もしない。安心しろ」

 

「安心って……できるわけないじゃない」

 

睨むルーシィにエリオは何も言わず、出て行こうとして背を向ける。

その瞬間ルーシィは一気に駆け出し、エリオを押し退けて扉から出ようとする。

 

(とにかく外に逃げないと!)

 

「無駄だ。レイト!」

 

エリオが叫んだ瞬間、ルーシィの動きが急激に遅くなる。

まるでテレビのスロー再生のようだ。

 

「な、何………これ?」

 

すると彼女の側に1人の小柄な男性が通り過ぎる。

 

「ダメだよー、逃げちゃ」

 

「レイト、部屋まで連れてこい」

 

「嫌だよ。面倒くさい」

 

レイトと呼ばれた男は気怠げにエリオの命令を却下する。

エリオは仕方なしと思い、ついに動かなくなったルーシィを捕まえようと手を伸ばすがふとルーシィの顔を見て、止めた。

ルーシィの顔とエミリアの顔が重なってしまい、一瞬どこか悔しそうな顔をしてしまった。

手のひらを向けるとまたルーシィは気が遠くなる。

 

(ハルト……)

 

薄れていく意識で最後に思い浮かんだのは自分の想い人だった。

倒れるルーシィを受け止め、エリオは宝物を扱うかのように大切に抱えて、ベッドに寝かせた。

 

「もうすぐだ。エミリア……」

 

エリオの寂しさを含ませた声が響いた。

 

 

辺境の土地に存在する宝物庫の前に多くの兵士と妖精の尻尾のメンバーが集結していた。

妖精の尻尾の魔導士はカミナ、エルザ、ナツ、グレイ、レイン、ガジル、ジュビア、エルフマン、雷神衆と今用意できる最大戦力を用意した。

 

「ハルトの容態はどうだ?」

 

「ポーリュシカさんが言うには傷は完治したが、あの男の魔力が毒のように体に回っているらしい。全快には時間がかかるとのことだ」

 

「そうか……」

 

フリードの言葉にカミナは少し安心する。

 

「カミナ、あの男の魔力は何だったんだ?今までに感じたことがない異質な魔力だった。解呪のプロであるお前ならわかるんじゃないか?」

 

エルザにそう問われたカミナだが首を横に振った。

 

「わからない。以前会った時の奴は確かに強かったが俺やハルトほどではなかった。5年近く経っているとはいえあそこまで急激に強くなるのは異常だ」

 

カミナは何か思い当たる節がないか記憶を探る。

そこにカミナ達の案内役をしてくれたスイクが妖精の尻尾の面々に話しかける。

 

「君たち、しっかり守ってくれたまえよ」

 

上からの態度に何名かはスイクを睨むが、それを流すように受け止める。

 

「王子は君たちを信用しているみたいだが、私はそうじゃない。混乱に乗じて宝を盗まないようにな」

 

あまりの物言いにナツが吠える。

 

「俺たちがンなことするわけねぇだろ!!」

 

しかし、スイクはナツの言葉を無視して宝物庫の方に戻った。

 

「待てよ!テメー!!」

 

「やめとけ!ナツ!」

 

「落ち着いてください!」

 

追いかけようとするナツをエルフマンとレインが止める。

全員文句はあるがそんな不毛なことをするより、ここに現れる敵を捕まえてルーシィの居場所を聞くのが優先だと考えたのだ。

 

「なあ、ここで待ち構えていて大丈夫なのかよ?あからさまに待ってますって感じだろ」

 

グレイがカミナにそう聞いてきた。

 

「そっちの方がいい。相手の戦力も数も未知数なんだ。待ち構えるしかない」

 

そう言って眼前に広がる森を見た瞬間、カミナは違和感を感じる。

 

「どうしたカミナ?」

 

「来るぞ……」

 

その言葉に全員が身構える。

緊張した空気が流れた、その瞬間!

 

宝物庫からの爆発が響いた。

 

「なっ……!」

 

「っ!宝物庫に行くぞ!!」

 

全員が呆気に取られるがカミナがいち早く正気に戻り、宝物庫に向かう。

宝物庫は簡単な構造になっており、扉を開くとそこには多くの人が倒れており、その奥で数人の男女が立っていた。

 

「何だぁ?もう来たのか?」

 

「だから爆破はやめようって言ったのに……」

 

「やるなら派手にやらないとな!!」

 

柄が悪い大男がカラカラと笑い、小柄な少女が呆れた様子だ。

エルザが代表として問いただす。

 

「お前達がやったのか!?」

 

「ああ!そうさ!俺たちがやった!ここにあるお宝を手に入れるためにな!」

 

「それはエミリアの体か?」

 

「その通がふっ!?」

 

カミナが質問すると男の方がバカ正直に答えようとするので少女が男の顎に掌底で打ち上げた。

 

「黙ってて、バカ」

 

「はひしひゃはる!」

 

コントめいたことをする2人だが、2人とも強者として風格がある。

 

「まだ目標を達成していない。ここでこいつらを食い止める」

 

「ひょーはい」

 

たった2人の敵が妖精の尻尾と激突する。


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