FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS 作:マーベルチョコ
第128話 報復を与えに来た者
オリオンを引き連れてギルドに向かう道中、ハルトたちの空気は沈んだままだった。
ハルトとエミリアの過去を聞いて、何を言えばいいかわからなかった。
あまり空気を読まないナツでも重く沈んだ空気で声を上げることはできなかった。
オリオンの頼みをナツたちは受ける気でいたが、今回の件はフィオーレ王国が関わってくるということでマスターであるマカロフと共に聞くことになった。
「あら、おかえりなさい」
「ミラ、マスターはおられるか?」
「奥にいるわよ。そちらの男性は?」
「今回の依頼人だ」
帰ってきたエルザたちにミラはいつもの笑顔で迎えてくれる。
エルザたちがオリオンを連れて、マカロフと共に話を聞こうと向かうなか、ハルトは足を止めた。
今回の依頼ではエリオが関わってくる。
もしかしたら、エリオと戦うかもしれない。
エミリアを守るという約束を守れず、死なせてしまった自分がエリオの何を止めることの資格があるのか。
そんな考えがハルトの中でも巡っていた。
するとルーシィが立ち竦むハルトの硬く握られた手をを優しく包んだ。
「ルーシィ……」
「私はエミリアさんは幸せだったと思うよ。だって好きな人と一緒にいれたんだもん」
「だけど俺はエミリアを殺した」
「それでもだよ。恨んでいた世界を全部変えてくれたんでしょ?エミリアさんにとってはそれはとても幸せなことだと思う」
「何でお前にそんなことがわかるんだ?」
そう問われたルーシィは真っ直ぐにハルトを見る。
「アタシもそうだったから」
ハルトと出会って自分は冒険の世界に踏み出せた。
エミリアも同じ気持ちだったと確信を持てる。
何故なら、同じ人を好きになっているから。
無茶苦茶なことだが、ハルトにとっては救いになり、少し気が楽になる。
「そうか……」
「だからエミリアさんのお兄さんを止めましょう!エミリアさんもお兄さんにそんなことをして欲しくないはずよ!」
ルーシィにそう言われ、ハルトも決心した。
「ああ、俺が出来ることはなんでもやってやる」
目に力を取り戻したハルトを見て、いつものハルトだとルーシィは安心する。
その時、ルーシィの背後に1人の男が立つ。
「そうか。じゃあまずは死んでくれよ、ハルト」
次の瞬間、ハルトは何かが刺さる衝撃を感じた。
違和感を感じる腹部に目を向けると蒼く光る結晶で形成された槍が刺さっていた。
「なっ……ぁ……」
「え……ハルト?」
服に血が滲みだし、耐えきれない痛みが広がってくる。
ハルトは立てなくなり、その場に蹲るが槍にもたれる。
「ハルトォッーー!!」
ルーシィの悲鳴がギルド中に響いて全員がルーシィ達の方を向き、惨状を目の当たりにする。
「え?なんだあれ?」
「おい!倒れてるのハルトじゃねぇか!?」
「ハルト!!」
突然のことに全員が騒つくなか、ルーシィは蹲るハルトに駆け寄ろうとするが男が邪魔する。
「おっと、君はこっちだ」
「離してよ!ハルトが!?」
肩を掴んで引き寄せる男の胸を叩いて離れようとするが力が強く、離れることができない。
ふと男の顔を見るとルーシィは驚愕する。
「あんた……もしかしてエリオ?」
ハルトを刺した張本人はかつてハルトの仲間でエミリアの兄だったエリオだった。
「……しばらく眠っていてくれ」
エリオはルーシィを見て一瞬目を細めながらルーシィの眼前に手を広げるとルーシィは意識がなくなり、エリオの腕に倒れた。
意識を失ったルーシィを後ろに控えた男に渡したエリオは片手でハルトに刺さった槍をハルトごと持ち上げる。
「ずっとお前をこうしたかった。エミリアを殺したお前を」
「がっ……ぇ、エリオ……!」
槍からはハルトの血が滴り、エリオの手を汚す。
しかし、エリオは嫌悪するところか笑みを深くする。
「ハルトに何すんだ!!」
そこに激昂したナツ、グレイ、レインが飛びかかってくるが、エリオは3人に目を向けた。
その瞬間3人に衝撃波が襲い、吹き飛ばされてしまう。
「邪魔しないでくれ。今、昔の仲間だけで話しているんだ。なぁ?カミナ」
エリオの背後で刀を振るってくるカミナに向かって、槍を動かしハルトをぶつける。
カミナは刀を収め、ハルトを受け止めながら後退する。
「ハルト!しっかりしろ!ウェンディ、治療を頼む!」
「はい!」
マカロフ達と話していたエルザ達のところまで下がったカミナはすぐさまウェンディにハルトを任せる。
「冷静なお前がそこまで取り乱すか。お前はハルトと仲が良かったよなぁ」
「だから何だ?」
カミナはエリオを睨みつけるが、睨まれている本人は涼しそうな表情だ。
「エミリアが死んだ時、お前はハルトを責めなかった。それが腹ただしいんだよ」
エリオもカミナを睨む。
「あの時、あれが最善だった。それだけだ」
緊張した空気が流れる中、エリオはカミナに背を向けギルドを出ようとする。
「この後、大事な仕事があるんだ。昔話はまた今度しよう。この娘はもらっていく」
「逃すと思うか?」
怒りに満ち溢れた声が響く。
エリオが振り向けば、そこには巨大化したマカロフ、剣を抜いて剣呑な眼差のエルザ、牙をむき出しにして睨むナツ、殺気を向けてくるカミナが立っている。
「ワシのガキを傷つけ、あまつさえ攫うじゃと?テメぇら死ぬ覚悟はできてんだろうな?」
怒髪天を突かんばかりの怒りの表情でエリオ達を見下ろすマカロフにエリオに付いていた男は恐怖と焦りの表情を見せるが、エリオは気にした様子はない。
エリオたちの周りをギルドメンバーが取り囲み、逃げれないようにする。
周りを一瞥したエリオは額に手を当て、俯く。
「はぁ……全く、面倒ごとを増やすなよ」
顔を上げたエリオの顔に黒いシミのようなものが広がり、左目部分を覆う。
その瞬間、エリオから感じる魔力に変化をカミナ、エルザ、マカロフの妖精の尻尾の中でも飛び抜けている実力者は明確に感じた。
その他の者もなんとなくだが嫌な感覚を感じ取っている。
エリオは人差し指を向けて魔力を練り始める。
「全員ワシらの後ろに下がっておれ!!最大防御魔法!『三柱神』!!」
「破道の八十!『断空』!」
「金剛の鎧!!」
その瞬間、マカロフ、カミナ、エルザは皆の前に出て、防御の魔法を展開する。
「『虚閃(セロ)』」
指から破壊の光線が放たれ、マカロフたちを覆った。
地面は抉れ、ギルドに強い衝撃を与える。
土煙が巻き上がり、マカロフたちの様子は見えない。
エリオは腕を下ろし、今度こそギルドから出て行った。
取り込んでいた者たちはエリオの魔法の威力に怯えてしまい、動くことができなかった。
○
ギルドの外に出ると騒ぎを聞きつけた野次馬たちがギルドの周りを囲んでいた。
エリオをそれらを無視して、人混みの中を通ろうとする。
すると人々はエリオの異様な雰囲気に自然と道を開けてしまう。
エリオはできた道を進んでいくと、ルーシィを抱えた男が後ろから耳打ちしてきた。
「エリオ様。『器』の方はまだ回収に手間取っているようです」
「そうか、『奴ら』を向かわせろ。それで片がつく」
そう言ってエリオたちは黒煙立ち込めるギルドを後にした。