FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS 作:マーベルチョコ
皆が雨に濡れている中、ハルトの言葉になんて反応すればいいか皆がわからないなか、ハルトたちに近づく足音が聞こえてくる。
「誰だ!!」
エルザたちが目を向けるとそこには金と銀2つが混ざった髪色のナツと同じくらいの少年が立っていた。
「久しいなハルト」
「オリオン……お前か、俺をここに呼んだのは」
少年の姿だがその声は威厳に溢れたものだ。
彼はエミリアが所持していた星霊、狩人座のオリオン。
「主をここに呼んだのは過去から目を背けている主をもう一度過去と向き直させるため、それと頼みたいことがある。…………エリオを止めて欲しい」
○
ハルトたちはオリオンを連れて、ギルドへの帰路についていた。
本来依頼されたハルトが聞くべきなのだが、追憶の谷での出来事からハルトの様子がおかしく、エルザが代わりに聞いていた。
「それで依頼の内容なんだが……」
「うむ、エリオが行おうとしている蛮行を止めて欲しいのだ」
「エリオってのは誰なんだ?」
「俺の元仲間だ………」
グレイが質問するとオリオンではなく、ハルトが答えた。
「元仲間?今は違うのかよ?」
「ああ……」
ハルトはそれ以上何も語らなかったが、それに気になったエルザがハルトに話しだした。
「ハルト、5年前に何があった?追憶の谷で見たのは5年前の出来事ではないのか?」
「………」
エルザは先の光景で今回オリオンからの依頼とハルトの過去が関係していることがわかった。
しかし、ハルトはそれでも口を開こうとしない。
するとルーシィが前に出てきてハルトに話しかける。
「お願いハルト、話して。アタシはハルトがどんなことをしたのか聞いてもハルトを受け止めるから」
ルーシィのその真剣な表情にハルトはとうとう折れた。
「……………いつまでも黙っておくことはできねぇからな。いい機会だ。話すよ、5年前のことを」
○
5年前、779年。
当時ハルトは14歳であった。
ハルトは13歳の時にS級に上がり、数々の依頼をこなして、話題になっていた。
ギルドでハルトが朝食を取っていると背後に人影が立った。
「ハルト」
「うおぉっ!?カミナかよ……気配を消して背後に立つなよ」
当時のカミナはあまり人と話すことがなく、自身を勧誘したハルト、仕事を一緒に行くラクサス、そして自分が勧誘したミラたちぐらいしか接していなかった。
「マスターが呼んでいる」
「じーさんが?わかった」
今とあまり変わりがないマカロフが朝から酒を飲みながら、ハルトとカミナに2人にやってきた仕事を説明した。
「今回は2人に長期の依頼が来ておっての。今日には出発してもらいたんじゃ」
「またえらく急だな。誰からの依頼だよ?」
「………今回はそれについては秘密じゃ。指定の場所で依頼内容と報酬の説明するらしい」
「なんだよそれ?まぁ、じーさんが許可出したんだから大丈夫だと思うけどよ。それじゃあ、行ってくるぜ」
「……………」
ハルトはいつもと違った依頼に少し首を傾けたが、外の世界を見たいと言って、ボスコから出てきた自分をボスコ出身だからと卑下することもなく、妖精の尻尾に招き入れてくれたマカロフを信頼して、それ以上何も聞かず引き受けたが、カミナは訝しげにマカロフを見て、何も言わずにハルトに続いてギルドを出て行った。
マカロフは2人が出て行ったのを確認してから、もう一度酒に口を近づけるが、途中で止めて、2人に渡した依頼のことを思い出した。
○
その時、マカロフはまだ評議員ではなく評議会の職員として働いていたナミーシャに個人的な頼みがあると言われ、2人きりで会った。
「突然申し訳ありません。マカロフさん」
「いいんじゃよ。お主はかつて妖精の尻尾の一員じゃったからな」
ナミーシャはかつて妖精の尻尾の魔導士であったが、ヤジマにスカウトされ評議会に入った。
それはさておき、ナミーシャは懐から詳しいことが書かれた依頼書を取り出し、マカロフに見せる。
「何も言わずにこの依頼を受理してください。お願いします」
ナミーシャは頭を深く下げて頼むが、依頼内容を見たマカロフは少しずつ体が震えていく。
「ナミーシャ、どういうことじゃ……この依頼書だと、ハルトとカミナに戦争に行けと言っているようなものじゃぞ」
「はい、その通りです」
「ふざけておるのか!!!ガキども戦争に行かせるだと!!?そんなことができると思っておるのか!!!?」
あまりの依頼内容にマカロフは激昂する。
マカロフはとある経験から戦争がどれほど酷いものか知っていた。
それ故にハルトとカミナを戦争に行かせるのは絶対に反対だった。
「お願いします。依頼を引き受けてください」
「断る!!」
マカロフは即座に拒否し、部屋から出ようとする。
しかし、その時ナミーシャが静かに呟いた。
「『光の神話(ルーメン・イストワール)…………」
「っ!!……お主、それをどこで……!?」
ナミーシャが呟いたその一言にマカロフは酷く狼狽した様子だった。
「私だってこんな手を使いたくないんです……しかし、人類を救うためなら私はどんなに汚れたって構いません!」
ナミーシャは力強く、マカロフに向かってそう言った。
その目には確かな覚悟があった。
その覚悟を感じたマカロフは渋々首を縦に振ってしまった。
○
「不甲斐ないワシを許してくれ……ハルト、カミナ」
辛そうな表情のマカロフの耳に荒々しくギルドの扉を開ける音が聞こえて来た。
「ねーちゃん!そんなに乱暴に扉を開けたらダメだよ」
「うるせー!!遅れちまったから急いでんだよ!!」
「遅れたのはミラ姉の支度が遅れたからでしょ?」
そこにいたのは幼いエルフマン、ミラ、リサーナだった。
今とは性格も様子も全く異なるミラはキョロキョロと周りを見渡していると幼いエルザが近づいて来た。
「おはよう3人とも。もうカミナはハルトと一緒に仕事に行ってしまったぞ」
「エルザ!!な、なんでカミナが出てくんだよ!!?」
ミラは少し顔を赤くして言うと、エルザは不思議そうに答える。
「なんでって……お前はいつもカミナのことを探しいるではないか……いなかったら寂しそうにするしな」
「そそそ、そんなわけあるか!!この鎧女!!」
「なんだと!?」
ミラは余計顔を赤くして苦し紛れにエルザに悪口を言って、喧嘩を始める。
「あーあ、せっかくミラ姉新しい化粧品で頑張ってきたのに無駄骨だったね」
「そうだね」
「ハルトはいるかー!!!」
「あっ、おはようナツ!」
そこに幼いナツが小さい火を吹き、怒鳴りながらギルドに現れた。
「ハルトはもう仕事に行っちゃったよ」
「なにぃ!今日こそ勝とうと思ったのに!!」
「またぁ?どうせコテンパンにされて負けちゃうよ?」
「んなのやってみなきゃわかんねぇだろうが!!」
そこに近くに座っていた幼いグレイがからかってくる。
「無理だって、また泣かされるだけだぜ?」
「やんのかグレイ!!!」
「やんのかナツ!!!」
2人は睨み合って、リサーナはあきれ、エルフマンはナツとグレイ、エルザとみらのどちらの喧嘩を止めるか迷っていた。
そこにまだ少年だったラクサスもギルドにやってきた。
「なんだ。ハルトとカミナ2人で行っちまったのか………帰るか」
ラクサスが早々と踵を返して出て行こうとするがナツが突っかかってくる。
「もうラクサスでいいからオレと勝負しろー!!」
「オレでいいってなんだよ……やだよ。1人でやってな」
「あばばっ!!」
ラクサスはナツに向かって弱い雷を放って簡単に追い払った。
(お主らの帰りを待つ者はこんなに多くいるんじゃ。2人とも無事に帰ってくるんじゃぞ………)
いつもの平和な光景を見ながらマカロフは切に願った。
○
2人は打ち合わせ場所の廃教会に着いたが時間になっても誰も来ていない。
「来ないなー」
ハルトが教壇の上に座って足をブラブラしたいると、顔をうつむかせて黙っていたカミナが突然顔を上げ、扉の方を向いた。
その瞬間、扉が粉々に弾け飛び、黒い針がハルトたち目掛けて飛んできた。
「うおっ!?」
ハルトは教壇から落ちるように針を避け、カミナは体を捩って針をかわしながら針が向かってきた方向に立つ男に向かって指を向ける。
「白雷」
男に向かって行く白雷は男の手前で透明な壁にぶつかり、防がれた。
「チッ」
すると今度は空間が歪んで見える直方体の柱が数本カミナに放たれる。
カミナがバク転して柱をかわすと、今度はコケたハルトがその男に向かって飛び出して行く。
「今度はこっちの番だ!!覇竜の剛拳!!」
ハルトの拳はやはり壁に阻まれるがハルトは更に連打を放つ。
「覇牙連拳!!!」
壁に亀裂が一気に広がり、粉々に砕け散るとハルトは男の首を掴み、押し倒す。
「捕まえた!」
男も黒い針をハルトの首に突きつけるが、カミナがその男の顔に刀を突きつける。
「魔法を解除しろ」
「アンタもよ」
そこに5年前なのに全く変わりがないラナがカミナに手を向けていた。
誰かが少しでも動けば一触即発の緊張した空気が流れる。
「そこまでだ」
その時、ハルトたちの側から声がかけられた。
そこには剣を背中に下げた少し幼いジェイドとマカロフに依頼したナミーシャが立っていた。
「もう十分だ。2人の実力はよくわかった」
ジェイドがそう言うと男は針を消し、ラナは手を下げ、ハルトたちも敵意がないとわかり、体と武器をどける。
「お前誰だよ?」
「……フィオーレ王国王子、ジェイド・E・フィオーレ」
「は!?王子様!?」
カミナの言葉に驚くハルトにジェイドは表情を崩さず、話しかける。
「突然のことですまなかった。お前たちの実力を知りたかったんだ」
「い、いえ、そんなことはねぇです」
「謝罪はいい。さっさと依頼の説明をしろ」
「おい!王子様だぞ!」
「いや、別にいい。今回の件では俺は王子という肩書きを捨てている。奥で話そう……あまり人に聞かれるとまずい」
ジェイドはそう言って、後ろから黒いローブを着て顔をフードで隠した2人とナミーシャとともに奥に入って行った。
ハルトは訳が分からず、頭をガシガシとかいて困惑した様子だ。
「どーなってんだ?」
「……ややこしい事になりそうなのは確かだ」
カミナのウンザリしたような呟きがハルトの耳に嫌に残った。
○
ハルトたちは教会の地下に設けられた場所で今回の説明をナミーシャからしてもらっていた。
「初めましてハルトくん、カミナくん。私は評議会に属しているナミーシャ・クライフル。今回は依頼を引き受けてくれてありがとう」
ナミーシャは笑顔を浮かべて頭を下げるが、ハルトたちは疑惑の目を向けている。
「……何であんなことをしたんだよ?」
「言っただろう、君たちの実力を知りたかった、と。今回の件では何より戦闘力が欲しかった。……まだ名乗っていなかったな。知っていると思うが俺はフィオーレ王国王子、ジェイド・E・フィオーレだ」
ジェイドが自己紹介するとハルトたちと戦った2人も自己紹介をする。
「僕はクスコ・ガーデンです。さっきはいきなり襲ってごめんね。ほら君も……」
クスコが申し訳なさそうに謝りながら、自己紹介をすると、さっきからふてぶてしく足を組みながら座っている小さな少女に自己紹介をするように促す。
「………ラナよ、1つだけ言っておくわ。私の盾を壊したからってそれが実力に繋がる訳じゃないから。弱いならハッキリ言って邪魔よ!」
そう言ってラナはハルトを睨みつけるがハルト本人は戸惑ってしまう。
「な、なんだ?このちんちくりんの子供は?」
「ち、ちんちくりんの子供!?あ、アンタねぇ……!」
ハルトのその言葉にラナは顔を赤くしてプルプル震えるがジェイドが止めた。
「止まってくれラナ。話が進まない」
「………わかったわよ」
ラナは不機嫌そうにしながらも止まってくれた。
「そしてこの2人が今回の依頼の原因となった人たちだ」
ジェイドはそう言って奥にいたフードを被った2人を前に促し、2人は自己紹介を始める。
「エリオ・バーカデンだ。そしてこっちが妹の……」
エリオがフードを脱いで素顔を露わにし、自己紹介して、隣のエリオより背が低いほうに目を向ける。
するともう1人もフードを脱ぎ綺麗な金髪の髪がなびくのがハルトの目に焼きつき、次にその顔に目が食いついた。
「エミリアです」
どこかつまらなそうに、そして悲しそうなその表情にハルトの胸には不思議な気持ちが広がった。
「よ、よろしく!」
「………」
ハルトがエミリアに向かって握手を求めたがエミリアはハルトの手を見るだけで握手しようとはしなかった。
「早速だが今回の依頼を確認したい。2人は北の方で起こっている内戦を知っているか?」
「…………」
「おい、ハルト」
「えっ、あ、あぁ、なんだっけ?」
「………ふぅ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「お、おそらく……」
ハルトがエミリアを見続けてジェイドの話を全く聞いておらず、ジェイドは少し不満そうにハルトとカミナを集めたナミーシャを疑惑の目を向け、ナミーシャは少しぎこちなさそうに答える。
「まぁいい。フラスタで起こっている内戦、通称『フラスタ戦争』だが、世間ではフラスタ国の政治に国民が不満を持ち、それが爆発して内戦になったと知らされているが、実際はそうじゃない。ゼレフを信仰している黒魔術教団が裏で手を引いている」
「なんでそいつらが内戦なんて起こすんだ?」
「それが今回の依頼に関係してくる。表向きの依頼としては武装した教団が思った以上に膨れたため、その教団の壊滅させること………後のことはエリオが話してくれる」
ジェイドがエリオの方を見て、そう言うと全員がエリオを見る。
「教団が内戦を起こしたのはあるものの封印を解くためなんだ」
「あるもの?」
「……魔神族が遺した負の遺産、超魔獣『アスラ』」
エリオは緊張した表情でそう言うと、ラナが呆れ顔で言葉を挟んできた。
「魔神族って……お伽話じゃないんだからそんなのあり得る訳ないでしょ」
前話でも言ったが魔神族はほぼお伽話となっている『聖戦』に出てくる敵で、現代の人たちはほぼ全員が知っているくらいの有名な話だが、誰も存在していたなんて思っていない。
「それがそうでもない。色々な文献を調べてみると魔神族がいたという可能性が大きくなった。それに……神器もあるしな」
ジェイドがラナにそう言いながら、背中に下げてある剣に触れる。
「じゃあ今回の依頼ってのはその教団をぶっ潰して、序でに超魔獣ってのを倒しちまえばいいんだろ?」
ハルトは好戦的な笑みを浮かべる。
しかし、エリオは首を横に振って否定した。
「そうだけどアスラを倒すのは不可能だ。言い伝えだがアスラが暴れたら世界の終わりだと思った方がいい。それに……まず倒させない、いや、戦わせない」
エリオが最後に語気を強くしてそう言った。
「どういうことだよ?」
「アスラはもうここにいる……」
そう言ってエリオは隣に立つエミリアを見る。
全員がエリオの意図が分からずにいるとエミリアが口を開いた。
「私の中にアスラは封印されています」
その言葉に少なからずともエリオとエミリア、ジェイドを抜いた全員に衝撃が走る。
「今回の依頼はそこの女を守りながら、教団を壊滅させるってことか」
カミナがようやく口を開いてそんなことを聞くとジェイドは首を縦に振る。
「ならフィオーレで守ればいい。その方が安全だ」
「悪いがそれはできない」
「何故だ?」
「……それは今言うことができない」
カミナとジェイドの間に沈黙が流れるが、ジェイドは気にせず話を続ける。
「教団は狂信者が集まった危険な集団だ。命の覚悟はしておいた方がいい。奴らは目的のためなら相手どころか自分の命さえ投げ出す奴らだ。最悪死人が出る可能性がある」
「だからこのメンバーを集めたの」
ナミーシャがジェイドの言葉に続いて話し出す。
「ラナは強力な『空間のアーク』を持つ魔導士、クスコは凄腕の魔導士、ハルトくんとカミナくんは最近妖精の尻尾で話題になっている魔導士、エリオくんはずっとエミリアちゃんを守ってきた守護者、そしてジェイド様は国で1位2位を争う剣の使い手。この強力なメンバーで国その危機を救って欲しいの!」
ナミーシャが力強く言った。
しかし、
「嘘だな」
カミナの一言が全員に聞こえた。
そしてカミナは全員の顔を見て、話を続ける。
「そこの白いガキはフリーの魔導士、そこの男は血の匂いが濃い……恐らく闇ギルドかそこらの男だろ」
ラナとクスコに向かってカミナはそう言うとラナはガキという言葉にイラッとした表情になり、クスコはバレたか……と言った表情をした。
「俺とハルトもだ。俺たちは経歴が特殊だ。………ここに集められた俺たち4人は死んでも問題ない奴らだ」
その言葉にナミーシャは苦虫を噛み潰したような表情になり、カミナはナミーシャとジェイドを睨む。
「それはちが……」
「その通りだ」
ナミーシャが弁解しようとするがジェイドがそれを肯定した。
「しかし、その死んでもいいのは俺も含めてだ」
「なに?」
「俺はこの作戦に命をかけている。死んでも構わないさ」
「……一国の王子が、か?」
「俺が死んでも妹のヒスイがいるさ」
ふざけた風に言うジェイドだが、その目に真剣なものをカミナは感じた。
「それに死んでもいい奴らを集めただけじゃない……アーウェングスは幼少ながらボスコの荒れ狂う大人どもを押し退け、勝ち上がった。ハクシロは倭国の元暗殺者……だろ?」
「なんでそれを……」
「どこで知った?」
ハルトとカミナはジェイドからの情報に警戒心を高める。
それは自分と親しい者達しか知らないことだからだ。
「他の奴らもそうだ。全員が相当な実力者だ。………ここにいるメンバーで世界を救う」
これがハルト、カミナ、ジェイド、エリオ、エミリア、ラナ、クスコの運命の7人が揃った時だった。