FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS   作:マーベルチョコ

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第107話 化猫の優しい幻

六魔将軍、ニルヴァーナとの激闘を終えたハルトたちは近くにあった化猫の宿で休息を取っており、さらに化猫の宿のマスターが今回の事件は自分たちの先祖がしたことが原因のため、礼がしたいともてなしてくれた。

 

「わぁ!!かわいい!!」

 

「私の方がかわいいですわ」

 

そのギルドのテントの一つでは、ルーシィたち女性陣がボロボロになった服を着替え、ギルドから提供された服に身を包んでいた。

 

「ここは集落全部がギルドになってて、織物の生産も盛んなんですよ」

 

「ニルビット族に伝わる織り方なの?」

 

「えっと……そうなのか?」

 

ルーシィの質問に首を傾げながらウェンディは答える。

 

「あなたたちは、ギルド全体がニルビット族の末裔って知らなかったんでしたわね」

 

「はい」

 

「私たちだけ後から入ったからねー」

 

そう言ってシェリーの言葉に頷きながら答えるウェンディとミント。

そんな会話をしていると、ルーシィの視界に…テントの隅っこの方で一人座っているエルザの姿が映った。

 

「エルザも着てみない? かわいいよ」

 

「ああ…そうだな……」

 

ルーシィはエルザにそう話しかけるも、返って来た答えはどこか上の空。ジェラールの一件があって以降、ずっとこの調子なのである。

 

「ところでウェンディ、化猫の宿っていつギルド連盟に加入しましたの?私…失礼ながらこの作戦が始まるまでギルドの名を聞いた事がありませんでしたわ」

 

「そういえばあたしも!」

 

シェリアがそう尋ねるとウェンディは少し微妙な顔になった。

 

「そうなんですか?うわ……ウチのギルド、本当に無名なんですね……」

 

ウェンディはその事実に少しショックを受けており、ルーシィは苦笑いをする。

 

「ハハハ……そういえばハルト、どうしてるんだろう?」

 

「あら?さっそく彼氏のことを考えていらっしゃるの?」

 

「だ、誰が彼氏よ!!?」

 

「ふふふ……照れてますわよ」

 

シェリーの揶揄いにルーシィは顔を赤くして言い返す。

 

「ふあぁ…やっぱりルーシィさんってそうなんだぁ……」

 

「色気付いてるわね」

 

「かわいいなー」

 

ウェンディは純情なため顔を赤くして、シャルルとミントはそれぞれがそうコメントする。

 

「もう!!だからそうじゃなくて!!ハルトが気になることを言ってたの!!!」

 

ルーシィがそう言うのは皆が化猫の宿に来る前にニルヴァーナの瓦礫で一休みしている時だった。

 

『ニルヴァーナのこと、化猫の宿のマスターに聞かないといけねぇな……』

 

ハルトがそう神妙な顔で言ったのだ。

ルーシィはそれがとても気になっていた。

 

「ハルトさんが?マスターに何の用だろう?」

 

ウェンディはそう言ってマスターローバウルがいる化猫の宿のギルドのほうを向いた。

 

 

ハルトはニルビット族の民族衣裳に身を包み、化猫の宿のテント型のギルドでマスターローバウルの前に立っていた。

マスターローバウルとハルトの周りには連合に参加していたウェンディたちを除く全員がいた。

 

「アンタがマスターローバウルだな?話がある」

 

「なぶら……」

 

マスターローバウルはグラスに酒を注ぎ……やっぱりボトルでラッパ飲みした。

 

「いや!グラスで飲まねえのかよ!!」

 

「なぶら……いや、すまない……」

 

「口から酒がこぼれてるし……」

 

「マスター!!客の前だぞ!!しっかりしてくれ!!!」

 

ハルトのツッコミと周りのギルドメンバーの注意でやっと話ができるようになった。

 

「それで……ハルト殿。話とは何でしょうかな?」

 

「………ニルヴァーナのことについてだ」

 

ハルトは一呼吸置いてニルヴァーナの名を言うと、周りのギルドメンバーが一気に騒ついた。

 

「落ち着かんか!!」

 

「ジュラさんやルーシィたちにニルヴァーナはアンタたちの先祖ニルビット族が造ったってのは聞いた。……それでニルヴァーナのなかにいたあの化け物のことを何か知ってるなら教えてほしい」

 

ローバウルは目を伏せ、小さな声でつぶやく。

 

「超魔獣ニルヴァーナ………」

 

「やっぱり何か知ってるんだな!教えてくれ!!アレはいったい何なんだ!!?」

 

ハルトは声を大きくして頼むと重い表情で顔を伏せていたローバウルは顔を上げた。

 

「わかりました。………しかし条件があります。それを飲んでくれるなら教えましょう」

 

「なんだよ。条件ってのは?」

 

「それは………」

 

 

それから少し時間が経ち、連合軍全員と化猫の宿のメンバーが広場に集められた。

 

「妖精の尻尾、青い天馬、蛇姫の鱗、そしてウェンディ、レイン、シャルル、ミント。よくぞ六魔将軍を倒し、ニルヴァーナを止めてくれた。地方ギルド連盟を代表して、このローバウルが礼を言う。ありがとう、なぶらありがとう」

 

ローバウルが頭を下げ、礼を言う。

ハルトとエルザを抜いた全員がそれを聞いて誇らしげな顔になる。

 

「どういたしまして!!! マスターローバウル!!! 六魔将軍との激闘に次ぐ激闘!!!! 楽な戦いではありませんでしたがっ!!! 仲間との絆が我々を勝利に導いたのです!!!!」

 

「「「さすが先生!!」」」

 

そう言って盛り上がり始める一夜とトライメンズの3人。

 

「ちゃっかりおいしいトコ持っていきやがって」

 

「あいつ、誰かと戦ってたっけ?」

 

「さあ?どうでごじゃろう?」

 

「お前たちもよくやったな」

 

「ジュラさん」

 

「終わりましたのね」

 

お互いに労いの言葉を掛け合う蛇姫の鱗ラミアスケイルの面々。

 

「この流れは宴だろー!!!!

 

「あいさー!!!」

 

ナツが声高々にそう宣言し、みんなも宴をする気満々だった。

 

「一夜が」

 

「「「一夜が!?」」」

 

「活躍」

 

「「「活躍!!!」」」

 

「それ」

 

「「「ワッショイワッショイワッショイ!!!!」」」

 

ナツの宣言を皮切りに、さっそくお祭り騒ぎになる一部の連合軍のメンバーたち。

 

「さあ、化猫の宿ケット・シェルターの皆さんもご一緒にィ!?」

 

「「「ワッショイワッショイ!!!」」」

 

そう言って一夜は化猫の宿ケット・シェルターの面々も煽り始めるが……

 

「ワ…」

 

ヒュゥウウウウ……

 

と、冷たい風が吹き抜けるほど、ウェンディたち以外の化猫の宿の人々の表情は暗く、ほとんど無反応であった。

あまりの温度差に、お祭り騒ぎをしていたナツたちも思わず静かになってしまう。

 

「皆さん……ニルビット族の事を隠していて本当に申し訳ない」

 

「そんな事で空気壊すでごじゃるか?」

 

「別に気にしてなんかいないのに…ね?ハルト。……ハルト?」

 

ルーシィがハルトに同意を求めようとしたがハルトの表情は少し暗かった。

 

「マスター、僕もウェンディたちもそんなこと気にしてないよ?」

 

レインの言葉にウェンディたちもうなづくが、ローバウルの表情は優れない。

そしてローバウルは口をゆっくりと開いた。

 

「皆さん、ワシがこれからする話をよく聞いてくだされ」

 

 

そう言って連合軍たちに語り始めるローバウル。

 

 

「まずはじめに……ワシらはニルビット族の末裔などではない。ニルビット族そのもの。400年前ニルヴァーナを作ったのは、このワシじゃ」

 

「何!?」

 

「うそ…」

 

「400年前!?」

 

全員が衝撃の事実に驚きを隠せない。

 

「いや……ニルビット族というのも少し間違っておる。ワシらの本当の一族の名は……『妖精族』の末裔……ニルビット族じゃ」

 

「妖精族……?」

 

「何言ってますの?」

 

するとローバウルの背中に虫の羽のような透明の羽が生え、耳は尖ったものになった。

 

「なっ!?」

 

「羽!!?」

 

「マジの妖精なのかー!!?」

 

全員がローバウルの容姿の変化に驚く。

 

「まさか……亜人か?」

 

ジュラの言葉に全員が注目する。

 

「ジュラさん……亜人とはなんですの?」

 

「人間とは異なる容姿を持ち、異なる力を持った者たちのことだ………フィオーレ王国にはもういないと思っていたが………」

 

「実際にはワシはもうこの世にはおらん。我が肉体はとうの昔に滅び、今は思念体に近い存在じゃ………」

 

「そんな………」

 

「400年前……ワシらニルビット族は世界の調和を保つために禁忌に手を出し、善悪反転の魔法ニルヴァーナを作った」

 

「調和?」

 

「禁忌とは何のことでごじゃる?」

 

「調和は400年前に突然起こった戦争のことじゃ……ワシらはそれを止めるために禁忌……魔神が遺した兵器『超魔獣ニルヴァーナ』を元にニルヴァーナを造ったのじゃ」

 

「魔神!?」

 

「おとぎ話じゃねえのかよ!!」

 

「もう何がなんだか………」

 

エルザ達は驚きの真実が多すぎて混乱してしまい、ナツは頭から煙が出そうな勢いだ。

 

「超魔獣ニルヴァーナを元に造ったニルヴァーナはワシ等の国となり、平和の象徴として一時代を築いた。しかし、強大な力には必ず反する力が生まれる。闇を光に変えた分だけ、ニルヴァーナは〝闇〟を纏っていった。ニルヴァーナも調和をとっていたのだ。人間の人格を無制限に光に変える事はできなかった。闇に対して光が生まれ、光に対して必ず闇が生まれる」

 

「確かに……」

 

ローバウルの説明を聞いてグレイは味方から敵になったシェリーと、敵から味方になったリチャードを思い出した。

 

「人々から失われた闇は、我々ニルビット族に纏わりついた」

 

「そんな…」

 

「…………」

 

ローバウルの言葉にウェンディとレインは言葉も出ない様子だった。

 

「地獄じゃ。ワシ等は共に殺し合い、全滅した」

 

それを聞いた連合軍の面々は言葉を失い、静かに息を飲んだ。

 

「生き残ったのは、ワシ一人だけじゃ。ワシはその罪を償う為……また…力なき亡霊ワシの代わりにニルヴァーナを破壊できるものが現れるまで、400年……見守ってきた……今……ようやく役目が終わった」

 

そう言い放つローバウルの表情は、どこか満足げであった。

 

「マスター……!」

 

「い、いやだ……」

 

ローバウルの言葉からウェンディたちは最悪なことを想像して目を伏せて体が震える。

そしてそれと同時に化猫の宿のギルドメンバーが突然消え始めた。

 

「マグナ!!ペペル!!何これ…!?みんなが…」

 

「そんな…!!みんなぁ!!」

 

「アンタたち!!」

 

「やだよー!!!」

 

突然のことにハルトたちは驚く。

 

「騙していてすまなかったな、ウェンディ…レイン。ギルドの者は皆…ワシの作り出した幻じゃ……」

 

ローバウルのその言葉に、ウェンディたちは目を見開く。

 

「何だとォ!!?」

 

「人格を持つ幻だと!?」

 

「何という魔力なのだ!!」

 

目の前にいるギルドメンバー全員が幻だと言う事に皆が驚愕の言葉を口にする。

 

「ワシはニルヴァーナを見守る為に、この廃村に一人で住んでいた」

 

ローバウルの言うと、村のあちこちに廃れた形成が現れ始めた。

村の形さえローバウルの幻術で作られたものだった。

 

「7年前、一人の少年がワシの所に来た」

 

ローバウルが昔のことを思い出す。

 

『この子たちを預かってください』

 

その少年こそ、ウェンディたちを助けたと言うジェラールである。

 

「少年のあまりにまっすぐな眼に、ワシはつい承諾してしまった。一人でいようと決めてたのにな……」

 

そう語るローバウルの脳裏には預かったばかりの頃の、ウェンディとレインの思い出が蘇る。

 

『おじいちゃん、ここ…どこ?』

 

『魔導士ギルド……?』

 

『こ……ここはじゃな……』

 

『ジェラール……私たちをギルドに連れてってくれるって…』

 

『ギ…ギルドじゃよ!!ここは魔導士ギルドじゃ!!!』

 

『『本当!?』』

 

『なぶら。外に出てみなさい。仲間たちが待ってるよ』

 

「そして幻の仲間たちを作り出した」

 

「そ…それじゃあ…化猫の宿って……!!!」

 

「ウェンディたちの為に作られたギルド……」

 

 

たった2人の少年少女の為だけに幻の仲間で結成されたギルド。

それを聞いてルーシィたちは眼を見開いて驚愕する。

 

「そんな話聞きたくない!!!!」

 

「イヤだ……そんなのイヤだよ!!!!」

 

2人は耳を塞ぎながら、消えないでと涙を流し、懇願するように叫ぶ。

 

「ウェンディ、レイン、シャルル、ミント……もうお前たちに偽りの仲間はいらない」

 

そう言うとローバウルはゆっくりと3人の後ろにいるナツたち連合軍を指差す。

 

「本当の仲間がいるではないか」

 

 

優しい笑顔を2人に向けながらながらそう言うと、ローバウル自身の姿も消え始める。

 

「お前たちの未来は始まったばかりだ」

 

「「マスターーーー!!!!!」」

 

消えていくローバウルに、手を伸ばして駆け寄るウェンディとレイン。

 

「皆さん、本当にありがとう。ハルト殿……約束通りウェンディたちを頼みます」

 

「ああ……」

 

ハルトは消えていくローバウルに静かに返事した。

2人の伸ばした手は届くことなく.ローバウルはそう言い残して、静かに消えていった。

それと同時にウェンディたちの体に刻まれていたギルドマークも、存在しなかったように消えていく。

 

「「マスタァーーーーーー!!!!!」」

 

そして残された2人の悲しい叫び声が、その場に響き渡る。

ウェンディとレインは家族同然の仲間をたった一瞬で失ってしまい、その悲しみはとても大きなものだ。

悲しみに暮れるウェンディたちにハルトは歩み寄る。

 

「愛する人との別れの辛さは……仲間が埋めてくれる」

 

ハルトは2人に手を差し伸べる。

 

「来い……妖精の尻尾に」

 

 

 




用語集
超魔獣ニルヴァーナ……ニルヴァーナの核となった化け物。顔には口以外のパーツが無い。体全体を布で巻かれている。背中から太い腕が6本生えており、それを使って移動している。また全て手のひらに目が付いており、それで敵を認識している。正体は昔魔神族が兵器として使用した生物。物理攻撃、魔法攻撃を全て反転させてしまう魔法と反転魔法を利用した洗脳魔法が使える。

亜人……人と似た容姿をしているがどこかに異なる部分がある人間に似た種族。人間にはない力を持っている。現在はフィオーレ王国では目撃されていない。

妖精族……亜人の一種類。長く尖った耳と虫の羽に似た羽を持っており、その模様、形は個人個人で異なる。また妖精族は生まれながら魔力が高く、妖精族全員が個人で一個中隊を殲滅できるほどの力を持つと言われていた。

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