FAIRYTAIL SEVEN KNIGHTS   作:マーベルチョコ

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第99話 希望のギルド

ルーシィがエンジェルに辛勝し、ハルトとともに滝壺に落ちて行ってしまった。

その頃、エルザは解毒により意識が朦朧とするなか、ナツのジェラールがいるという言葉がハッキリと聞こえニルヴァーナに向かっていた。

 

(ジェラールが生きて……どうやって、いや……なぜここに……)

 

かつての友であり…仲間であり…そして怨敵であるジェラールが生きていると聞いた時から、彼女は複雑な表情をしていた。

しかし、その顔の裏腹にエルザは少し希望も抱いていた。

ハルトからジェラールは最後の最後で正気に戻り、自分を助けてくれたと言っていた。

 

(私は……どんな顔をすればいいのか……)

 

そんな事を考えながら、エルザはジェラールが居るであろう黒い光に向かって走って行ったのであった。

 

 

時間が経ち、太陽が傾き、夕暮れになった空をエンジェルから逃げて来たレインたちは岩山で休息を取っていた。

 

「私……来なきゃよかったかな……」

 

「まーたそういう事言うの? ウェンディは」

 

「だってぇ」

 

「あまり考えない方がいいよ。ニルヴァーナの影響を受けちゃうよ」

 

「そうだよー」

 

「うん……」

 

落ち込むウェンディにレインたちが戒めるが、表情は暗いままだ。

 

「私…ルーシィさんたち置いて逃げてきちゃったんでしょ?」

 

「仕方ないよ。ウェンディは気絶してたんだし……僕も逃げたようなもんだもん」

 

「ウェンディとレインがいても役に立てたかわからないもんねー」

 

「「あう……」」

 

ミントの容赦ないひとことにウェンディとレインは呻く。

 

「やっぱり私……」

 

「でも、ウェンディがいなかったらエルザさんは助からなかったんだよ」

 

「でも、ニルヴァーナも見つかんなかったよ」

 

「それはどうかしらね。アンタだって、ジェラールって人に会えて嬉しかったんでしょ? ウェンディだけじゃなくてレインも」

 

「それは…」

 

「そうだけど……」

 

シャルルの言葉に2人は少し困りながら返事をする。

再開できたのは嬉しかったが、あのジェラールは明らかに2人のことを覚えていなかった。

 

「ねえ? 何なのあのジェラールって。恩人とか言ってたけど、私……その話聞いた事ないわよ」

 

「そうだね…話してなかったね。あれは7年前…天竜グランディーネが姿を消して、私は一人……路頭に迷ってたの」

  

そう言うと、ウェンディは当時の事を思い出しながら話し始める。

  

「その時、助けてくれたのがジェラール。てゆーか、彼も道に迷ってたんだって。そして私たちは、一月くらい一緒にあてのない旅をしてたの。その旅の途中でレインと出会ったの」

 

「僕もウェンディと同じで水竜シーペントがいなくなって途方に暮れていたときにジェラールとウェンディに出会ったんだ」

 

「それから3人で旅をしてたんだけど……ある日急に変なことを言い出して」

 

「うん、確か『アニマ』って言ってたような……」

 

「『アニマ』!?」

 

「何それー?」

 

レインが言った意味不明な言葉にミントはいつも通り間延びした声で首を傾けるが、シャルルは目を少し見開き驚いた。

 

「うん…私たちにもよくわからなんだけど……ついてくると危険だからって、近くのギルドに私たちを預けてくれたの」

 

「それが今のギルド……化猫の宿だよ」

 

「で……ジェラールはどうなったの?」

 

「わからない……ジェラールとはそれっきり……その後…噂でね、ジェラールにそっくりの評議員の話や、最近はとても悪い事をしたって話も聞いた」

 

「もちろん、僕たちはあのジェラールが悪い事したなんて話はとても信じられなかった」

 

2人は…恩人であるジェラールの事を懐かしそうに語る。

 

「ジェラール、私たちのこと覚えていないのかな……」

 

ウェンディは夕日を眺めながら悲しそうにそうこぼした。

 

 

ニルヴァーナの封印が解かれている場所にたどり着いたエルザ。

そこにはジェラールがいた。

エルザは複雑な気持ちでジェラールを呼ぶが、ジェラールは自分のことを何も覚えていないと言う。

ただエルザと言う名だけは覚えていた。

 

「エルザとは誰なんだ?何も思い出せない」

 

ジェラールのその言葉にエルザの目から涙が流れた。

 

(コイツ……記憶が無えのか!だから声が聞こえなかったのか!!)

 

ジェラールの後をつけていたコブラはジェラールの声が聞こえず、ニルヴァーナに先回りができないでいたが、その理由がジェラールの記憶が無く、考えが聞こえなかったのだ。

エルザは少し思いつめた表情でジェラールに近づく。

 

「ジェラール……」

 

「く…来るな!!」

 

ジェラールは警戒してエルザに向かって魔法弾を放つ。

エルザは真正面から受け止め、額から血が流れるが強い眼差しでジェラールを見る。

 

「ならばお前が来い。私がエルザだ」

 

エルザは記憶がないジェラールに彼がした悪行を説明し、ジェラールはそれを聞くたびに辛そうな顔をする。

 

「お前がした悪行を忘れたと言うなら、心に剣を立てて刻み込んでやる!!!ここに来い!!!私の前に来いっ!!!」

 

エルザはジェラールを真っ直ぐに見て、そう言うとジェラールは顔を手で覆って、記憶がないとは言え自分が犯してしまった罪に涙を流す。

 

「オレが…仲間を…そんな……オレは……なんという事を……オレは…オレはどうしたら……」

 

ジェラールのその姿を見て、エルザ自身も、体を小刻みに震わせていた。

 

(これが……あのジェラール? まるで……昔のジェラールに戻ったようだ……)

 

 

一方、滝に落ちたハルトとルーシィは岸に上げられていた。

 

「ん? 痛たた……」

 

目を覚ましたルーシィは痛む腕を抑えながら起き上がった。

 

「あれ? 治療……てか何!?この服!」

 

よく見ると、腕のキズには治療が施されて包帯が巻かれており、服装も先ほどまでとは違う綺麗なものへと変わっていた。

 

「星霊界の御召し物でございます。ボロボロでございましたので」

 

「バルゴ!!?」

 

ルーシィが驚いているところに答えたのは、ルーシィの星霊であるバルゴであった。

どうやら彼女が滝壺へと落ちたルーシィたちの救出、および治療と着替えを行なったようだ。

 

「お?ここ……どこだ?」

 

「ハルト!!」

 

ハルトの気づいた声が聞こえ、そっちを振り向くとルーシィとよく似た服を着ていた。

 

「お揃いの服となっております」

 

「何やってんのよ!!!」

 

「これも姫の恋を応援するためです」

 

ルーシィはハルトとのペアルックに内心バルゴにナイス! と思っていたが恥ずかしくてそんなこと言えなかった。

 

「ちっくしょー……頭がぐわんぐわんしやがる……いったい何があったんだっけ……?」

 

ハルトは乗り物酔いの影響か少し記憶が曖昧な状態だったのでルーシィが説明してくれた。

 

「ハルト、エンジェルに捕まってずっと乗り物酔いの状態だったのよ」

 

「そうか……記憶も見られたんだっけ……」

 

ハルトがようやく状況を飲み込むことができ始め、立ち上がり、周りを見る。

 

「そういや、なんで俺とルーシィはペアルックなんだ?」

 

「えっ!?そ、それは……!!」

 

「でぇきぇてぇるぅ」

 

「は?」

 

「巻き舌風に言わない!!」

 

「なあ、ルーシィ。あの光の柱は何だ?俺が気絶する前にはなかったよな?」

 

「あの黒い柱のこと?あれはニルヴァーナよ。封印が解かれたみたいなの」

 

「黒い柱?白い光の柱に見えるけどな」

 

ハルトが指差す先には黒から白色に変化したニルヴァーナの光の柱があった。

 

「近いわ……てか色変わってない?」

 

「えぇ、お二人が気絶していらした間に黒から白へと」

 

ハルトはニルヴァーナの光の柱を見る。

ルーシィはこのときハルトが闇に飲み込まれるのではないかと心配したが、ハルトは少し息を吐いて落ち着いた様子を見せた。

 

「ありがとうな。ルーシィ」

 

「う、うん……」

 

ハルトはルーシィに礼を言うとルーシィは少し照れた。

 

「でぇきぃてぇるぅ」

 

「二回目よ!!どこでマタムネとハッピーのマネなんて覚えたのかしら」

 

「そういえばマタムネはどうしたんだ?エルザは?一緒じゃなかったのか?」

 

「マタムネたちとははぐれちゃった……エルザは無事よ。ウェンディが治してくれたの」

 

「そっか、よかった」

 

ハルトは安心して、一息吐き、ニルヴァーナの光の柱が伸びている場所を見る。

 

「なら俺たちはあそこに向かおう。みんなも向かっているはずだ」

 

「それでは姫、私は星霊界に戻ります」

 

「あっ、ちょっと!!」

 

ルーシィが止まる前にバルゴは自分で星霊界に戻った。

 

(今バルゴ、自分の力で戻った?もしかしてアタシ今……魔力0の状態!?)

 

ルーシィは自分の体の状態に戸惑う。

するとルーシィのそばの茂みが揺れた。

 

「ヒッ!」

 

「なんだ?」

 

揺れた茂みの中から現れたのは傷ついたシェリーだった。

 

「お前は……」

 

「シェリー!!よかった!!無事だったのね」

 

「他の奴らとは一緒じゃねえのか?」

 

ルーシィが声をかけるが、シェリーは顔を俯かせて何も話さない。

 

「見つけた……妖精の尻尾の魔導士」

 

「シェリー?」

 

「ルーシィ、下がれ!」

 

「くくく……」

 

僅かに口を開いたシェリーの言葉にルーシィは首を傾け、ハルトは本能が危険だと判断し、ルーシィを後ろに下がらせた。

するとシェリーの背後から木がねじり曲がり、人の形を成していくがいつもの可愛らしいものではなく邪悪なものだった。

シェリーの魔法がハルトたちを襲おうとした瞬間……

 

「バカヤロウが!!!」

 

「「グレイ!!!」」

 

「なっ!!貴様!!まだ生きていたのか!!!」

 

「無事か!!お前ら!!!」

 

突然グレイがシェリーの首に腕を回し、攻撃を止める。

 

「放せ!!!くそっ!!!リオン様の仇!!!!」

 

「こいつ、あの光が現れた瞬間おかしくなっちまったんだ」

 

グレイがレーサーとの戦いは兄弟子であるリオンの協力もあり、勝利することができたがレーサーは最後の最後に捨て身の自爆によりグレイたちを亡き者にしようとしたが、リオンがグレイたちをかばい、レーサーと共に崖に落ちて爆発したのだ。

シェリーはそれを見て、リオンが死んでしまったのはグレイ、妖精の尻尾の魔導士のせいだと思い、闇に落ちてしまったのだ。

 

「誰の仇だって?」

 

また茂みから声が聞こえてきてそちらを向くと死んだと思われていたリオンが立っていた。

 

「勝手に殺すんじゃない」

 

「コイツはしぶてぇんだよ」

 

「リオン様……」

 

どうやらグレイが見つけて一緒に連れてきたようだ。

シェリーはリオンを見ると安心して涙を流して気絶してしまった。

するとシェリーの体から光が抜けていき、ニルヴァーナの光の柱に取り込まれた。

 

「何だ!?」

 

「やっぱ、なんか取り憑いていたみてぇだな」

 

「これが……ニルヴァーナ」

 

空に消えていく光を見ながらルーシィはそう口に出した。

 

 

一方エルザたちの方ではジェラールが微かに聞こえたニルヴァーナの封印を解くと言う言葉とニルヴァーナが危険だということがわかっており、を破壊するために封印を解き、自律崩壊魔法陣を仕込んだ。

そしてそれは罪を犯した自分にも施した。

 

「くそ!どうやって解けばいいんだ!!!」

 

ジェラールのあとをつけていたコブラもまさかの事態に慌てて、自律崩壊魔法陣を解こうとするが魔法陣が高度すぎて解けない。

 

「エルザ……君は俺から解放されるんだ。君の憎しみも……悲しみも……俺が連れていく……君は自由だ」

 

「ジェラール!!!」

 

ジェラールが自身に仕組んだ魔法陣は体を確実に蝕んでいき、ジェラールはとうとう倒れてしまった。

エルザはジェラールが悪だとわかっていても、大切な仲間だったジェラールに手を伸ばし、生きろと叱咤する。

その時エルザはジェラールのことを思って涙を流す。

 

「生きろ!!生きてあがけっ!!!ジェラール!!!」

 

「何故君が涙を……?」

 

「これは……!!」

 

「優しいんだな……君は……」

 

「これはいったい何事だ?」

 

するとそこにブレインが現れた。

ブレインはニルヴァーナに施されている魔法陣を目にした。

 

「ブレイン!ジェラールがニルヴァーナに魔法を仕込みやがった!!」

 

「自律崩壊魔法陣……そうか自分もろとも消すつもりだったか。だが無駄だ。私はかつて魔法開発局にいた。この魔法はそこで開発したものだ。解除コードがなくとも……」

 

ブレインが魔法陣に向かって手を向けると自律崩壊魔法陣はところどころが破裂するように破壊されていく。

 

「そんな……」

 

「おお!!!」

 

ジェラールはそれを見て声を震わせて、コブラは歓喜の声を上げた。

そしてブレインは、ジェラールの体にも浮かんでいる自律崩壊魔法陣に気がつく。

 

 

「自らの体にも自律崩壊魔法陣だと? 解除コードと共に死ぬ気だったというのか?」

 

 

「エーテルナノの影響で記憶が不安定らしい。どうやら自分が悪党だった事も知らねえみてえだ」

 

 

「なんと…滑稽な…ふはははははっ!!!哀れだなジェラール!!!!ニルヴァーナは私が頂いたァ!!!!」

 

倒れるジェラールを笑い飛ばし、そう言い放つブレイン。

 

「させるかァ!!!!」

 

「目覚めよ!!ニルヴァーナァッ!!!!!」

 

「!!!」

 

エルザが剣を換装し、ブレインに向かうがたどり着く前に地面から光が溢れ、爆発するように地面が盛り上がる。

 

「姿を現せェ!!!!」

 

 

「おおおおっ!!!!聴こえるぞっ!!!! オレたちの未来が!!!! 光の崩れる音がァ!!!!!」

 

ブレインとコブラがそう言うと同時に、地面から更に光が溢れ出す。

 

 

「ジェラール!!!」

 

 

「エルザ!!!」

 

その光の中で、エルザとジェラールは互いに手を伸ばして掴もうとする。

その瞬間、今までで一番巨大な光の柱が立ち上り、その光景を樹海にいる全員が目撃した。

そして光の爆発と共に樹海中の地面から触手が起き上がる。

 

 

とうとうニルヴァーナがその全貌を見せた。

8本の巨大な足で支えられた巨大都市が善悪反転魔法ニルヴァーナの姿なのだ。

 

「ついに…ついに手に入れたぞォ!!!!光を崩す最終兵器、超反転魔法ニルヴァーナ!!!!正規ギルド最大の武器である結束や信頼は、今……この時をもって無力となる!!!!」

 

ブレインの歓喜の叫びがニルヴァーナの頂点から高らかに響く。

 

「く…うう……」

 

そしてそのニルヴァーナの側面には、エルザがジェラールの手を掴み、もう片方の手で足場を掴んでいる宙吊り状態となっていた。

 

「エルザ…」

 

「自分の体にかけた自律崩壊魔法陣を解け。お前には生きる義務がある。たとえ醜くても…弱くても…必死に生き抜いて見せろ……」

 

そう言って自分の体とジェラールを足場に引っ張り上げるエルザ。

 

「オレは…ニルヴァーナを止められなかった。もう……終わりなんだ……」

 

「何が終わるものか……見てみろ」

 

諦めの言葉を口にするジェラール対し、そう言い放つエルザ。

そしてそんな彼女の視線の先には、

 

「行くぞォッ!!!!!」

 

ニルヴァーナの足の一本にしがみつきながら、街を目指して這い上がっていくハルトたちの姿があった。

 

「このまま本体のほうに行くぞ!!!!」

 

「うん!!」

 

「つーかなんで2人はペアルックなんだよ?」

 

「そ、それは……」

 

そしてニルヴァーナを目指していたのはハルトたちだけではない。

 

「僕たちも行こう!!」

 

「うん!シャルル!!」

 

「わかってるわよ!!」

 

「行くぞ〜」

 

レインたちも飛び立ち、ニルヴァーナを目指す。

 

「しっかり捕まってくださいデス!!!」

 

「うむ!!!」

 

ジュラとニルヴァーナにより改心したホットアイはニルヴァーナの足に捕まり、都市を目指す。

ニルヴァーナが目覚めたにも関わらず、誰一人として諦めていない光景に、ジェラールは言葉を失う。

 

「私たちは決して諦めない。希望は常に繋がっている。生きて、この先の未来を確かめろ、ジェラール」

 

そんなエルザの言葉はジェラールの心にしっかりと響いた。

 


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