カタクチイワシは虎と踊る   作:ターキーX

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第三十三話 小さな軍人の大きな戦い

「オラァ!」

 

 遊園地南西部、ウェスタンゾーン。西部開拓時代をモチーフとした建物が並び、風に砂埃が舞う。

 突如、雄叫びと共に張りぼてのサルーンを突き破って出現したP40に、通りまで向かおうとしていたパーシングは完全に背面を見せる形になった。

 

「律儀に逃げてると思ったか? 遅いッスよ!」

 

 車上のペパロニの言葉と共に徹甲弾が放たれる。

 P40の34口径75mm砲はエリカの乗る長砲身仕様のⅣ号戦車と比べて砲身が短く、その分貫通力は劣るがそれでも1000mで82mmの装甲を貫通できる。パーシング背部の51mmを抜くには十分。直撃を受けたパーシングが大きく揺れ、やがて白旗が上がる。

「よしッ!」

 砲塔から身を出して拳を突き上げ、ガッツポーズをするペパロニ。

 このウェスタンゾーンの建物の大半は、プレハブですらない張りぼてで出来ていた。戦車が突撃すれば容易に破壊できると分かったペパロニはそれを利用し、逃げるふりをして敵を引き付けて建物を通ってショートカット、相手の裏をかいたのだ。

「こちらペパロニ、ウェスタンゾーンで一両撃破……」

 そう言おうとした時、通信機から聞こえてきたのは福田の声だった。押し殺すような、決死の覚悟を決めた声。

 

「………!? 九五式の支援に向かう、動物エリアに向かうぞ!」

 

 咄嗟に車内に戻り、ペパロニは北西部へとP40を向けた。だが、その先を幾つもの重機が横切り進路を妨げる

「な、何だぁ?」

「すみませーん! 連盟車両通過します!」

 徐行で走る先頭の女性ドライバーがペパロニに声をかけた。よく見れば、全ての車両に戦車道連盟の印が書かれている。試合中に撃破された車両を回収するドラゴンワゴンや搭乗員を乗せる小型トラック、更にその後方からは大型のショベルカーやクレーン車まで続いている。

 

 おそらくは観覧車とオイ車の激突で完全に破壊されたラーテゾーンの瓦礫の撤去と、今もなおその下にあるオイ車、そしてそれを足止めした絹代と細見のチハ二両の回収のための導入であろう。基本的にこれら連盟車両は主戦場を回避して回収地点まで移動するが、今回はたまたま遭遇してしまった格好だ。これだけ散開した局地戦ともなれば、確かに完全回避は難しい。

 

「ああ畜生。何でこんな時に!」

 連盟車両の付近では作業の妨害となるため戦闘行為は禁止される。ペパロニは苛つきつつも、その通過を待つしかなかった。

 

 

 

劇場版カタクチイワシは虎と踊る 第三十三話 小さな軍人の大きな戦い

 

 

 

 九五式軽戦車。

 アヒルさんチームが搭乗する八九式中戦車の機動性を強化した、機動部隊と騎兵旅団支援を兼ねる戦車として1934年に試製車が作られ、1935年(皇紀2595年)に仮制式化された軽戦車である。

 軍用トラックに随伴できるよう設計された九五式は最高速度40㎞/hと八九式のそれを大きく上回り、また故障が少なく、信頼性の高い戦車として長く使われた。

 火力面では初期型は歩兵支援を目的とした短砲身37mm砲を搭載しており、対戦車能力は非常に低かった。そのため後に37口径37mm砲に改装されている。福田が乗っているのはその後期型で、カタログスペック上では500mの距離で42mmの装甲を貫通できる。これは何気に、チハ(旧砲塔型)の57mm砲よりも性能は高かったりもする。

 ただし装甲の薄さについては八九式すら下回る最大厚12mm、最も薄い後部で僅か8mm。今回の大洗勢の中では下から数えてアンチョビのCV38、柏葉姉妹のⅡ号戦車、鶴姫しずかのテケ車に並ぶ薄さで、これは相手の戦車砲どころか機銃で貫通可能なほどである。「騎兵旅団支援には機動力が重要であり、装甲は薄くとも大丈夫」というコンセプトで作られたからだ。

 

 

 対して現在、福田が相対するチャーフィー軽戦車はどのような戦車か。

 M3スチュアート軽戦車の後継機と作られたチャーフィーは大戦末期の1944年に生産開始された、当時の先端技術を惜しみなく導入された軽戦車である。

 特筆すべきは20tを切る軽量化を実現しつつ、当時の軽戦車としては破格の火力である39口径75mm砲を搭載しながらも最大時速56㎞/hという高い機動性を両立させている点であろう。

 「ツイン・キャデラック」と呼ばれたエンジンと「ツイン・ハイドラマチック」という先進的な変速機を組み合わせた「ツイン・ドライブ」というシステムを導入しており、これは日本の戦車開発が追い付くまでに40年必要だった程に時代を先取りしたものだった。

 また装甲面においても砲塔の最大厚38m、最も薄い車体後部でも19mmと、前述したチハ(旧砲塔型)の短砲身57mm程度ならば弾き返すだけの防御性能を備えている。

 本格的な導入が1944年12月の「バルジの戦い」であった事もありWWⅡでの活躍の場こそ少なかったが、後の朝鮮戦争などで運用され、その性能の優秀さから世界各国でも導入された名戦車だ。

 

 

 その年代差、約10年。

 1935年から1945年という、戦車が爆発的な発展を遂げた10年。それが意味するものは余りに重い。

 九五式の砲塔から身を出しつつ、福田はその重圧に耐えていた。

 

 

「車長殿、突撃でありますか!?」

 九五式の車内から操縦手が福田に尋ねる。

「う、うむ! 突げ……」

 「き」まで言おうとする寸前、福田は言葉を止めた。

 なるほど、確かにこの場面において知波単の戦車乗りが行うべき姿は「正面からの突撃」なのであろう。

 

 しかし──それで、勝てるのか?

 

 相手が如何な強敵であろうとも正面から勇敢な突撃を敢行し、力及ばずとも潔く散る。それが知波単戦車道の伝統。

 福田自身もその在り方に疑問を抱いた事は無かったし、自身もそうあるべきと考えていた。

 だが、その考えはここまでのアンチョビやアヒルチームの典子の知恵を振り絞りつつ戦う姿勢や、絹代たちの犠牲でオイ車を撃破するに至った観覧車作戦を見届ける中で変わりつつあった。

 

 勇敢である事は大切だ。

 だが、闇雲に突撃し、無為に負ける。

 皆が力を合わせて懸命に戦っている今の状況で、それが正しい事には思えなかった。

 勝たねばならない。仮に勝てなかったとしても、精一杯の「勝つ為の努力」をせねばならない。

 

「しょ、正面を敵に向けたまま後退であります!」

「敵から逃げるのでありますか!?」

「これは撤退にあらず、牽制であります!」

 福田からの予想外の指示に操縦手が驚く。福田は表現を変えて言い直した。

「了解であります!」

 どうやら納得したのか、操縦手がギアをバックに入れた。停車していた九五式の転輪が急激に逆回りし、インパラの模型の横を後退してゆく。

「うわっ!?」

 果たしてそれはギリギリのタイミングであった。チャーフィーの75mm砲が火を吹き、直前まで95式がいた位置の地面を深く抉る。

「くっ……!」

 

 福田は懸命に頭脳を働かせた。

 どうすればいい? どうすればこの状況において、勝ちを見込める展開に持ってゆける?

 自分の知る知識や経験の中からそれに役立つものはないか。福田はそう考えつつ歯噛みした。

 

 ──無い。

 

 自分は、突撃以外の戦法を知らない。

 自身の胸中の怯えを押さえ込むだけの勇敢さはあると思っている。勝ちたいという気持ちもある。しかし、それらを活かすための知識と経験が無い。

「どうすれば……!」

 こちらが退くと見たのだろう。チャーフィーは前進を始めた。ゆっくり思案している時間は無さそうだ。

 やはり自分には突撃しかないのか。福田は覚悟を決めた。

 

 

『福田殿、聞こえるか!?』

 

 

 突如、福田の耳に通信が飛び込んできた。聞き慣れない声。確か、同じ日本戦車の赤いテケ車に乗っていた──

「つ、鶴姫殿!?」

『まだ撃破されてはいなかったか、僥倖なり! 福田殿、現在のそちらの戦況を教えよ!』

「は、はっ! 現在、我が九五式は後退中。敵チャーフィーの追撃を受けております! 敵味方共に増援は無し!」

『ならば反転せよ! 急停止し躍進射撃を行った後、側面に向けて走り出せ!』

 福田はしずかの事をさほど知る訳ではない。非公式の強襲戦車競技(タンカスロン)で最近名を上げてきた、無頼の戦車乗りという程度の認識だ。

 彼女からの一方的な指示に従う必要は本来は無い。しかし、彼女の言葉には強い意志があった。自分を助けようという強い意志が。

「りょ、了解であります! 徹甲弾装填、完了次第急停車!」

「了解!」

 福田の指示に即座に砲手が答え、手慣れた動きで徹甲弾を薬室に叩き込む。ほぼ同時に停車する九五式。

 

「撃てっ!」

 

 37mm砲が火を吹き、チャーフィーの正面に火花を散らした。防盾に当たったか、損害を与えられていないようだ。

「申し訳ありません、弾かれました!」

「問題なしであります! 敵、右方向に向かって突撃!」

「了解!」

 後退していた転輪が逆に回り始め、履帯が草原の土を噛む。

 対してチャーフィーは動きを止めていた。キューポラを開けてチャーフィー車長が姿を見せると、こちらの動きを探るように砲塔を回す。

「鶴姫殿! 敵、動きを止めたであります!」

『……やはりか』

「やはり?」

『突然の遭遇に戸惑っていたのは貴殿だけではなかったという事だ、福田殿』

 

 

「ひ、姫! 福田さんを助けるのはいいけど、こっちも……ひあぁっ!?」

 福田への通信に専念しているしずかに、テケ車操縦手の鈴が振り向こうとする。その首筋をつるりと撫でる、タイツに包まれたしずかの足の親指。蛇行しつつ右の路地へ後退。

 直後、数秒前まで彼女らのいた位置に撃ち込まれるT-28の105mm砲。

 

 現在、しずかの鈴の乗るテケ車は単身でT-28の足止めを試みていた。テケ車に搭載された37mm砲ではT-28の300mm装甲を抜く事は不可能だが、相手の周囲を牽制し、動きを鈍らせ他への支援を妨害するのが狙いだ。

 僅かな気の緩みを許せば105mm砲の直撃を受け、一撃で白旗が上がる状況である。しかし、しずかは福田の苦境を看過できなかった。

 

「聞こえるか、福田殿? 僭越ながら我ら百足組、一対一の戦においては強襲戦車競技(タンカスロン)で多少場慣れしている。我が助言、聞き入れてもらえるか?」

『りょ、了解であります!』

「善き哉! まず福田殿、あの“ちゃーふぃー”についての性能は把握されているか?」

『はっ、試合前に敵編成の概要は読み込んでおります!』

「ならば、相手の車体の性能が貴殿の九五式を凌駕している事は理解されているな?」

『……はい』

「だが、搭乗者の性能に関してはその限りでは……っ!」

「きゃあっ!?」

 テケ車に至近弾。しずかは脚を動かし、悲鳴をあげる鈴に更なる指示を出した。T-28の位置を伺いつつ、一本横の路地に入り込む。

 

「良いか、福田殿。相手にとっても貴殿との遭遇は想定外だったはずだ。待ち構えていたならば、ちゃーふぃーの砲性能であれば先制は取れていた。故に相手はまだ決めかねている。退くか、攻めるか、あるいは味方の増援を待つかだ」

『つまり、自分が最初に退いたから相手は攻めてきたと?』

「左様。だからこそ……」

 

 

「……了解であります!」

 チャーフィーの右側面を進む九五式の車体に影がかかった。見上げると、巨大な象の模型が福田を見下ろしている。

「ここで停車であります!」

「了解」

 操縦手に指示を出し、象の模型から少しだけ車体を出すような形で福田はチャーフィーの様子を伺った。

「装填完了次第発砲、その後すぐに次の模型の陰へ向かうであります!」

 九五式の37mm砲が放たれた。やはりチャーフィーの砲塔に当たるものの弾かれる。

 こちらが先に撃つのを待っていたのだろう。チャーフィーは直後に反撃を撃ってきた。コンクリート製の象が破壊され、瓦礫が周囲に飛び散る。

 九五式は素早く次のキリンの模型の陰に移動する。

 

「装填、いけるでありますか!?」

「現在装填中であります!」

「ならば次の箇所に移動……くうっ!?」

 

 砲手からの声。福田は次の指示を飛ばそうとしたが、それとほぼ同時にキリンの首が破壊された。九五式の搭乗員3名に対し、チャーフィーの搭乗員は5名。装填手がいる分、当然ながら相手の方が攻撃速度は速い。

「怯むなであります! 次!」

 今度は九五式はサイの群れの陰に隠れた。今までの模型に比べればやや低いが、全高約2.2mの九五式ならば隠れる事が可能だ。

「装填完了!」

「よし、次の敵の攻撃が勝負であります!」

「了解!」

 果たして数秒後、サイの模型は粉々に吹き飛んだ。福田は前の攻撃から今回の攻撃までの秒数を確認し、叫んだ。

 

 

「……吶喊(とっかん)!」

 

 

 九五式の履帯が唸り、砕かれたサイの角を越える。

 今までの逃げの行動とは一変し、九五式はその車体をチャーフィーに向けると相手のやや左側面に向けて全力で進み始めた。500mほどあった距離が急激に縮んでゆく。

 

(良いか、福田殿。相手にこちらが『逃げている』と思わせ、そして反撃せよ。そこに必ず焦りが生まれ、相手の判断を狂わせる)

 

 しずかの言葉を思い起こしつつ、福田はこちらに向けられるチャーフィーの砲身を睨んだ。装填完了から発射まであと数秒。

 回避行動を取るならば、ここが指示を出すタイミングである。しかし福田は九五式を止めない。

 ここで臆し、下がれば相手は落ち着きを取り戻す。気持ちの上で相手を呑もうとするならば、こちらも覚悟を決めねばならない。

 その数秒後、チャーフィーから再び75mm砲が放たれた。

 

「ふあぁっ!?」

 

 頬を風切り音と共に強烈な衝撃が福田を煽った。至近弾が文字通り福田の横を掠めたのだ。悲鳴をあげつつも、何とか涙を流すのだけは我慢する。

「大丈夫でありますか、車長殿!?」

「しっ、心配無用!」

 声を震わせつつも福田は答え、更に九五式を走らせる。

「至近まで接近し急停車、即発砲であります!」

 回避しようとせず更に突っ込んできたのはチャーフィー側にとっては完全に予想外だったのだろう。九五式の進路から回避しようとするが、その反応は鈍い。

 

「こ……根性でありますっ!」

 

 福田の小さな体が大きく揺れた。走りつつ姿勢を変えた九五式が横づけのような状態でチャーフィーに衝突したのだ。

 倍以上の重量の相手にぶつかっただけに、大きな衝撃を受けて車体が歪む。しかし、福田は涙目で九五式の砲口がぴたりとチャーフィーに定められるのを確認し、指示を出した。

 

「撃てっ!」

 

 37mm砲がチャーフィーのターレットリングに撃ち込まれる。

 大きく車体が揺れ、やがてチャーフィーの車体に白旗が射出された。

「敵ちゃーふぃー、沈黙! 大戦果であります!」

 足元から砲手の興奮した声が聞こえてくる。思わず腰が抜けそうになりつつも、福田は砲塔に手を置いて身体を支えながら通信機に手を伸ばした。

「こ……こちら福田。鶴姫殿、敵ちゃーふぃー撃破に成功したであります」

『見事也、福田殿!』

 

 しずかの声を聞きつつ、福田は考えた。

 火力が脆弱な知波単の戦車にとって、突撃して肉迫する戦法は確かに有効であり必要だ。

 しかし、その突撃を成功させるまでの『組み立て』を疎かにしては、突撃は只の玉砕となってしまう。

 知波単の未来の糸口が今の──この試合全体から見れば、ごくごく小さな規模の──戦闘にあるのではないか。

 これで絹代に伝える事ができた。そう思い、福田は微笑んだ。

 

 

 

『こちらチャーフィー1号車、敵九五式に撃破されました。申し訳ありません!』

「……そうか」

 

 遊園地を俯瞰する高地に単騎で佇むセンチュリオン。その砲塔から福田以上に小柄な身体を覗かせつつ島田愛里寿は報告に淡々と答えた。

「これで“眼”は奪われたか」

 偵察車両の全滅。これが意味するところは単純な火力面以上に大きい。偶発的な戦闘だったとはいえ、これで大学側は小回りの利く車両を失ったのだ。

「……組織的戦闘が可能な内に西住姉妹を仕留める。T-28、後退して合流を」

『現在、敵テケ車からの散発的な攻撃を受けていますが……』

「無視して下がれ。相手をする必要は無い」

 静かに、しかし鋭い語調で愛里寿は言うと別の車両へと通信を切り替えた。

「トウコ、そちらの状況はどうだ。修繕は完了したか?」

『隊長? あー、今ちょうど直り切ったところ。まだ転輪から変な音がするけど、復帰はできるよ』

「お前はメグミ達と合流しろ。西住姉妹撃破の後、私も合流する」

『おー、いよいよ隊長のご出陣って訳だねー。フヒヒッ、いいね、いいねっ、楽しみだねっ!』

「こちらのメンバーの今後の課題は大凡判明した。“演習”としては十分だ。ここまでとしよう」

『りょうかーい』

 緩い返答と共に、トウコとの通信が終わる。

 

 格下のはずの高校生相手に予想外の戦力の消耗を強いられ、既に車両数では逆転している。普通の指揮官ならば少なからず動揺と焦りを感じる場面である。

 しかし、愛里寿の表情には些かの動揺も、不安も、焦りもなかった。まるでここまでの全てが想定内であるかのように。

 風にきめ細やかな髪を揺らしつつ、愛里寿はポケットから小さなボコのぬいぐるみを取り出すと、その手を指で摘まんでくいくいと動かした。

 

 

 

「フヒヒッ、いいねっ。大洗の子たちが頑張ってくれてるお陰で、だいぶ場が温まってきたねっ!」

 愛里寿と通信を終え、T-34のトウコは愉快そうに笑った。

「まあ……リリ、あんた等には損な役をさせたと思ってるけどね」

 ふとその笑みが止み、視線が車内に向けられる。

「……搭乗員を元継続メンバーで揃えた時点で、こうなると予想はできてましたよ」

 砲手を務めるポニーテールの少女、かつて継続高校の戦車道でトウコの副官を務めていたリリは諦めたようにトウコに言った。

「フヒヒッ。まあその分、この後の展開は特等席で見せてあげるよっ」

 再び視線を上げ、前方のラーテゾーン跡地に目を向ける。複数の車両が重々しく動き、瓦礫の撤去を迅速に進めているようだ。

「……さあ、お目覚めの時間だよっ!」

 

 瓦礫が横に避けられ、上から覆い被さるようになっていた大きな屋根の残骸が持ち上げられる。少しずつ、下敷きになっていた戦車の姿が露になってゆく。

 その瓦礫の中から、唸るような音が鳴り始めていた。

 

 

劇場版カタクチイワシは虎と踊る  第三十三話 終わり

次回「アリスの弓」に続く


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