カタクチイワシは虎と踊る   作:ターキーX

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第七話 虎は潜み、イワシは踊る

「……まずい、気付かれた!」

 回避行動を続けるCV33から顔を出し、アンチョビはIS-2が砲塔を回転させるのを確認して慌てて回線を開いた。

 「エルヴィン下がれ! IS-2がそっちを狙っ……!」

 だが、その声はIS-2の122mm砲の轟音にかき消された。

 

 

カタクチイワシは虎と踊る 第七話 虎は潜み、イワシは踊る

 

 

 IS-2の砲撃と砂丘のⅢ突からの砲撃はほぼ同時だった。

 Ⅲ突の75mm徹甲弾はIS-2に当たり、IS-2の122mm弾はⅢ突を捉えた。

 

『……大洗・三号突撃砲、走行不能!』

 

 一秒の間の後、アナウンスが流れる。一方のIS-2は煙を出してこそいるが旗は上がらない。致命傷には至らなかったようだ。

 直後、IS-2は唸りを上げて前進し、混戦からの脱出を図った。他のT-34シリーズもそれに続く。

「Ⅲ突がやられた! 一旦撤退、無理はするな! M3は砂丘を下りて合流してくれ」

 アンチョビは苦渋の表情を浮かべると通信を行い、車内に戻った。

「行掛けの駄賃、貰ってくよ!」

 38(t)車内。砲手席に座る角谷杏はそう言うと柚子に再度の接近を指示すると撤退する最後尾の車体に砲身を向け、ギリギリの所まで接敵して撃ち込んだ。無念そうにT-34/76は白旗を上げ、稼働を止める。

「よし、撤収ー!」

 白旗を確認した38(t)はそのまま転身すると全速力で逃げ出した。八九式もそれに続く。

 プラウダの5両と大洗の3両の戦車はそれぞれ反対方向に向かって進む。無論、それはほんの一時的なものに過ぎない。態勢を立て直し損害を確認したプラウダはすぐに取って返して反撃してくるだろう。今度は最初に使った精神的な攻撃封じは使えない。

 

「……作戦失敗か?」

「フラッグ車撃破まで行きたかったが……流石はプラウダのノンナとカチューシャ、そう簡単にはいかないな。まあ、上出来だ」

 横目で尋ねてくる麻子にアンチョビは答えた。改めてⅢ突に通信回線を開く。

「エルヴィン、そっちは無事か?」

「こちらエルヴィン。全員怪我は無いが……すまない、仕留められなかった」

「仕方がないさ。それに損害は与えられたんだし十分だ」

 状況を確認したアンチョビはそう言うと、今度はⅣ号に回線を開いた。

「……エリカ、そっちはどうだ?」

「こちらⅣ号。状況は完了しているけど、早めに済ませたいわね。このままじゃサウナの中で茹で上がるわ」

「もうちょっとかかる。それまでは薄着になるなりして我慢してくれ」

「ところで、本当に合図はアレでいいの?」

「ああ。やっぱりそれ位しないと、あの二人は倒せない」

「……了解」

 半分呆れたような口調でエリカは通信を終えた。

 

 改めてアンチョビは全車両に向けて通信を送った。

「みんな、聞いてくれ。残念ながらフラッグ車の撃破には失敗したが、三両を撃破できた。また、一部車両はエンストを起こしているようだ。これで相手のフラッグ車や隊長車は後方に下がって部下に任せる事が難しくなった。これは十分な戦果だ」

 一息つき、額の汗を拭って続ける。

「……ここからが大事だ。今、相手は警戒している。今のが私達にとって一発勝負の策で、次の手は残っていないのか、あるいは次の策を残しているのか」

 砂丘上にいたM3Leeがこちらに向かっているのが見える。攻撃前に合流はできそうだ。

「この警戒を解く。私達に他の手段はなく、逃げて逃げて、敵の隙を伺うしか出来ないと思わせるんだ。八九式と38(t)、M3はこの先の砂丘の稜線の裏で接近する敵を迎撃。撃破を狙う必要はない。むしろ雑に、こちらが焦っていると思われるように撃ってくれ」

「了解ー」

「了解しました!」

「任せてください!」

 杏、梓、典子がそれぞれ返事を返す。

「それでは各自、健闘を祈る! アーヴァンティ(前進)!」 

 

 

「……良くないですね」

 プラウダ側、IS-2内。隊長のノンナはIS-2のエンジンの音が先ほどより悪くなっている事に気付いていた。最後のⅢ突の一撃で冷却部をやられたか。

「各車両、停止してください。IS-2のエンジンが止まる前に搭乗員を交代させます」

「りょ、了解しまスた!」

 陣形を整えたまま全車両が停止し、エンジンが無事なT-34/85とIS-2の乗り換えが素早く行われた。白旗が上がれば行動不能車の搭乗員は戦死扱いになり、他車輌との乗り換えが出来なくなるからだ。

 果たしてIS-2は停止後しばらくして、煙を吹いて白旗を上げた。

「これで残り6両……」

 エンジン不調を直した後続の車両の接近を確認しつつ、ノンナは呟いた。

 予測はしていたが、やはりこの地形はプラウダに厳しい。

「長期戦はこちらが不利ね。このままだと暑さでやられる。すぐ戻りましょ!」

 二号車のT-34/85から身を乗り出してカチューシャが言った。

「……そうですね。相手で一番警戒すべき三号突撃砲は撃破できました」

 ノンナは頷くと、三号車のT-34/85の車長席から通信を送った。

「陣形を維持しつつ転回、再度相手のフラッグ車を追います。今度は発見後即座に各自砲撃しなさい。正面からの撃ち合いで、我々に負ける要素はありません」

『ウラー!』

 一斉の勇ましいかけ声。カチューシャの判断とⅢ突の撃破で、乱戦で下がった士気も戻ってきたようだ。圧倒的火力による圧倒的制圧。それこそがプラウダの流儀。

「……行きましょう。Она способствует(前進せよ)!」

 

 

 観客席。ペパロニとカルパッチョはクーラーボックスからジェラートを取り出しつつ表示板の両戦力の動向を見ていた。

「仕切り直しですね……」

「あそこでフラッグ車を落とせず、更にⅢ突が撃破されたのは大洗には相当に痛いな……何で最初にプラウダが撃たなかったのかは分からないが、途中から普通に攻撃してたし同じ手は通じないんじゃないか?」

 その時、カルパッチョの携帯が鳴った。小声で話し、ペパロニに報告する。

「……統帥、次の試合ですが相手が決まりました。知波単学園です」

「ヴァイキング水産は急な攻撃に弱いからな……素早い突撃が決まったか」

「それと、『例の車両』もアンツィオ艦への搬入が完了したそうです」

「……何とか二回戦には間に合ったな」

 二つ目の報告にペパロニは安堵の息を吐くと、バニラジェラートをひと匙食べた。

「すぐアンツィオに戻りますか?」

 ラズベリー味を掬いつつ、カルパッチョが尋ねる。

「……いや、最後まで見よう。大洗が負ける姿を見届けてからでも十分だ」

 口元を固く結び、ペパロニは再び表示板を見た。

 

 

 砂漠の風が強くなってきていた。砂塵が巻き上がり、視界を遮る。

 プラウダの車両は陣形を維持したまま先ほどの戦場を過ぎ、大洗側が撤退したと思われる方向に向かっていた。地図上、幾つかの砂丘を越えた先は岩場になっている。火力に劣る大洗が迎撃するとなれば、そこがベストの筈だ。

 直後、先行していたT-34/75の付近に着弾があった。

『敵攻撃! 前方二時!』

 カチューシャの報告にノンナは車輌から体を出し、双眼鏡を手にした。

 砂丘の向こうに稜線に隠れるようにして3台の車両。CV33がいないのは大きさで確認できる。大洗の残りは5両、だとすると……

「……まだ態勢が整っていないようですね。4両は前方の車両に一斉砲撃。榴弾を使って、相手が動けないよう足止めしてください。カチューシャ?」

「分かってるわ! 砂丘を迂回してフラッグ車を追うのね」

「はい。残っているのはフラッグ車のCV33と1両。おそらく先ほども姿を見せなかったⅣ号を潜めての迎撃と思われます」

「なら、そこに行かれるまでにCV33を撃破ね! 任せなさい!」

 言うが早いかカチューシャは左前方に向けて前進を始める。それに続きながらノンナは他の車両に指示を飛ばした。

「撃て!」

 4両のT-34が一斉に砲火を放つ。砂丘上に着弾した榴弾が爆発し、砂を噴き上げさせる。砂丘上の大洗側の三両も隠れつつ反撃してくるが、その攻撃はタイミングもバラバラで狙いも甘く有効打を与えられていない。果たしてそれは本当に焦りによるものか。

 認識を改める必要がある。既にノンナはそれを理解していた。今自分が相手をしているのは弱いネズミではない。狡猾な狐であると。

 

 

 CV33は一路、岩場へと向かっていた。

『こちらウサギチーム、戦闘開始しました! 敵4両、こちらに攻撃してきています!』

「了解! 無理に前に出る必要はない。砂丘の裏に隠れて『足止めできている』と相手に思わせておいてくれ。こちらもじきに……うわっ!?」

 応答していたアンチョビはCV33の間近の着弾に悲鳴を上げた。

『だ、大丈夫ですか!?』

「大丈夫だ! こっちも交戦に入る!」

「……近いな」

「行進間射撃でここまで狙ってくるか! 回避行動!」

「分かってる」

 あくまで冷静な麻子に、アンチョビは後方のT-34/85二両を確認しつつ言った。

 若干速度を落としつつ左右に車体を揺らす。接地の弱い砂漠で全速のまま急な回避をすれば転倒の危険があるからだ。軽量なCV33はそれだけで白旗は上がらないが、あのノンナであればこちらが復帰させる前に間違いなく直撃させてくるだろう。

「……見えたぞ」

 前方に岩場が見えてきた。大小の様々な岩が巨人めいて立ち、砂混じりの風に身を削りながら砂漠に影を作り上げている。

「行くぞ、ここからが勝負だ!」

「複雑な動きになる。できるだけ通信はするな、舌を噛むぞ」

 麻子はそう言うと、CV33を岩場の影に走りこませた。

 

 

「ああもう、岩場に逃げ込まれたわ!」

「……カチューシャ、いつもの戦法でいきましょう」

 悔しげに言うカチューシャに、ノンナは静かに言った。

「私が追って、ノンナが仕留めるパターンね!」

「カチューシャ、追撃中ですが決して停止しないでください。止まらなければ相手の迎撃は行えません」

 

 ここまでの敵の動きでノンナはアンチョビの戦略をほぼ見抜いていた。十中八九、岩場に潜めたⅣ号によるフラッグ車の迎撃。だが、これには問題点が二つある。

 一つはⅣ号にIS-2のような貫通力は無く、おそらくは特殊弾による一撃をT-34の急所に撃ち込まねばダメージをこちらに与えられない事。つまりこちらが停止し、相手が急所を狙えるという限られた状況でなければならない事を意味する。

 もう一つは敵フラッグ車のCV33に足止めするだけの戦闘力が無い事。相手の8mm機銃では牽制程度にしかならず、こちらの85mm砲は一撃で相手に白旗を上げ得る。つまり相手は停止できず逃げ回るしかない事を意味する。

(Ⅳ号戦車を潜めていた事を考えると、最初の奇襲が失敗した時の保険的な作戦。しかし三号突撃砲が撃破されて綻びが出来ている……という所でしょう)

 ノンナはそう分析した。

 

「了解! 行くわよ!」

 カチューシャのT-34/85が岩場へ進む。

 ノンナは若干下がった、全体を俯瞰できる箇所から岩場の間の狙撃可能な地点を探る。CV33の足は速い。カチューシャとの同士討ちを避ける意味も含めて狙撃のタイミングは限られるだろう。だが、ノンナには仕留め損ねの危機感は無かった。カチューシャが追い、ノンナが仕留める。前大会で猛威を振るった二人のコンビネーションの型である。

 やがてノンナはある箇所に目を止めた。岩場の中でもひと際大きい岩、周辺にはそれが砕けたものか細かい岩が散見され、高速機動には困難な地点。

「カチューシャ、そちらから11時の方向へ追い込んでください。そこで仕留めます」

「敵車両発見。了解、そっちへ追い込むわ」

 岩場を抜ければ遮蔽物のない所で狙撃されると分かっているのだろう。CV33は岩の間をぐるぐると周回していた。そこに接近するカチューシャ。

「撃て!」

 85mm砲が火を噴いた。慌ててCV33が反転して逃げ始める。その至近に着弾。

「精密に狙う必要はないわ。ノンナの所まで追い込みなさい!」

 追撃戦が始まった。時折CV33は思い出したかのように走りながら反転して8mm機銃を打ち込んでくるが、T-34の90mmの前面装甲に火花を散らすだけだ。

「そんな豆鉄砲、赤の広場の鳩も食わないわ!」

 勝ち誇るカチューシャ。やがてCV33はカチューシャの砲撃を避けながら特定の方向に誘導されていった。あと一度左に曲がらせれば狙撃ポイントだ。

「機銃、右前方に撃って!」

 機銃が音を立てる。戦車相手には牽制程度だが、背面装甲8mmのCV33にとってはそれでも十分に脅威だ。咄嗟に左に回避し、そのまま曲がろうとする。

 その瞬間、CV33の片輪が浮いた。高速の勢いのまま浮き上がった車体は横転から更に一回転して、仰向けのまま停止した。まだ復帰可能だからか白旗は上がっていない。

「しめた! ノンナ、敵は横転したわ。ここで仕留める!」

『横転?』

 止めの一撃を打ち込むため、カチューシャのT-34/85が止まる。

「これで最後よ! 撃て!」

『……駄目です! カチューシャ、それは……!』

 二つの砲声が同時に響いた。 

 カチューシャの85mm砲は正確にCV33に撃ち込まれた。

 エリカのⅣ号の75mm砲からの成形炸薬弾はT-34/85の背面に撃ち込まれていた。

 二両の戦車から、ほぼ同時に白旗が上がる。

 

『―――プラウダ高校、フラッグ車走行不能。よって、大洗女子学園の勝利!』

 

「……え?」

 ハッチから体を出したカチューシャは、衝撃の方向を見た。

 砂の中から、硝煙を上げる砲身だけが突き出ている。

 やがて、砂を被せられたシートを破りつつそこからⅣ号戦車が姿を現した。

「やれやれ、何とか上手くいってくれたな。見事だ、エリカ」

 180度さかさまのCV33の車内で、アンチョビは呟いた。

 

「本当、もう当分砂風呂には入りたくないわね」

 汗だくのシャツを扇ぎつつ、Ⅳ号戦車の蒸し風呂めいた熱さの車内でエリカは答えた。

「とりあえず終わったらすぐシャワー行こう! これじゃ制服着替えられないよ~……」

「何だか、1kgぐらい痩せた気がします……」

「うぅ、アフリカ戦線の兵士の気分が分かりました……」

 通信席の沙織がぐったりと言う。華や優花里も同様に汗だくの状態だ。

 エリカはハッチを開けて外気を入れつつアンチョビに言った。

「色々な命令を聞いてきたけど、『私達が転んだら撃て』と言われたのは初めてだったわ」

『普通の足止めはできないからな。絶対勝てると相手に思わせる必要があったんだ』

「……ひとつ聞いていい?」

『何だ?』

「私達の成形炸薬弾が通るとは限らなかったわ。その時はどうするつもりだったの?」

『その時は……負けてたな』

「……アンタとギャンブルはしたくないわね」

 

 

「………」

 ハッチを開けたT-34/85の車上で、ノンナは無言で下を向いた。

「………」

 そこに歩み寄る少女がひとり。カチューシャだ。

「カチューシャ」

「……よっ、んっ、よいしょ……っと」

 車上に小柄な体を苦心して上げ、ノンナの前に座り込む。

「………」

「……ごめん、ノンナ。私が先走ったから……!」

「……いいえ、カチューシャ。謝るのは私の方です」

 頭を下げるカチューシャに、ノンナは逆に謝った。

 確かに最後の決め手はカチューシャが停車したからかもしれない。だが、それ以前の味方の損害は全て自身の采配ミスだとノンナは理解していた。プラウダの強化のために導入したシステム、新設校と侮った編成。それらを大洗は全て把握し、逆に利用してきた。

 ―――いずれにせよ、これで今年のプラウダの戦いは終わってしまった。

「ああ……あぁ……!」

「ノ、ノンナ!?」

 慟哭がノンナの口から漏れ、涙が焼けた戦車の装甲に零れる。

 結局、私は何も残せなかった。カチューシャを隊長にする事も、彼女を英雄にする事もできなかった。私より遥かに優れ、戦車道に名を残すべき人に何もできなかった。

 自分の無為に対しての涙を拭う事もせず、ノンナは俯いたまま泣いていた。

「……ノンナ」

 カチューシャはノンナに少し寄ると、その肩を抱きしめた。カチューシャの小さな腕では肩に手を回すので精一杯だったが、それでも彼女はノンナを抱きしめようとした。

「……カチューシャ?」

「負けを……負けを受け止めましょう。負けたという現実は変わらない。それなら、次の勝利を目指して今から頑張りましょう」

「しかし、もう次は……」

「え?」

「……え?」

「……ノンナ、貴女、高校で戦車道を辞めるつもりだったの?」

「い、いえ、そんな事は……」

「戦車道に終わりはないわ。大学、社会人、まだまだ挽回できる時は来る。その時までまた鍛え、備え、勝てばいいのよ!」

 涙に濡れた顔を上げたノンナは、カチューシャの顔を見た。

 彼女も泣いていた。だが笑っていた。悔しさの涙と、決意の笑顔を一緒に浮かべていた。

「………!」

「だから、その時まで一緒にノンナが来てくれるならカチューシャも嬉し……ちょ、ノンナ、どうしたの?」

 ノンナは無言でカチューシャを抱き返した。少し戸惑った後、カチューシャは無言でノンナの肩に置いた手をポンポンと優しく叩いた。

 

 

「……どうなるのかしらね、彼女たちは」

 戦車の回収を待ちつつ、エリカは車上の二人を見て言った。

「まあ、少なくとも今までのプラウダよりは良くなるんじゃないか?」

 携帯の戦車道サイトの情報を検索しつつ、アンチョビは答えた。

「それに我々も他所を気にしている余裕は無いからな。次の相手は……」

 

 

「―――え? 何、聞こえな……ええっ!? それ本当? 分かった!」

 携帯を切り、両の髪を後ろで短く結んだ少女が大声で言った。

「大変大変! プラウダ高校負けちゃったって!」

 彼女の視線の先。戦車の上に座り、独特な弦楽器を奏でる少女は答えた。

「へえ。驚きだね」

「……あんまり驚いてないね」

「そうでもないさ。特に今年のプラウダは危険な風が吹いていたからね」

「あちゃ、プラウダ対策が無駄になっちゃったか」

 戦車前面のハッチを開け、赤毛の少女が顔を出した。

 車上の少女がお下げ髪の少女に尋ねる。

「……何といったかな、あの……」

「大洗女子学園」

「そう、そこ。なかなか面白い戦い方をするみたいじゃないか」

 

 彼女らの周囲には、竜巻でも起きたかのように幾両もの戦車が煙と白旗を上げていた。

 その中で無傷で立つ自走砲・BT-42。その側面には「継」と書かれた盾形のマーキングが施されている。

 

「彼女たちがどんな戦車道を見せてくれるのか、楽しみになってきたよ」

 自称「名無し」、仲間からは「ミカ」と呼ばれるその継続高校隊長は、そう言って微笑み愛用の楽器・カンテレに指を走らせ新たな曲を奏で始めた。

「楽しみだ」

 

 

 二回戦・第二試合 大洗女子学園 VS 継続高校

 

 

カタクチイワシは虎と踊る 第七話 終わり

次回「強くなってもイワシはイワシ」に続く


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