丘の中腹、簡易な擬装が施されたエレファントが木々の隙間から砲身を覗かせる。
「思ったようには、いってないようね」
車長の“ベルウォールの熊”土居千冬はそう呟くと、自ら砲手席に座った。照準を見つ
つ、砲身の角度を微調整する。
その視線の先に見える数両の戦車、本来は巨大な戦車も2000mの距離では豆粒程度の大きさだ。その中で標的であるセンチュリオンを見定める。
「……ここ」
トリガーに構えられた指が引かれる。
2000mをして約150mmの装甲を貫く長砲身88mm砲が、轟音と共に火を吹いた。
劇場版 カタクチイワシは虎と踊る 第二十二話 アリスとカンテレ
『に”ゃあ”あ”あ”あ”ぁぁぁ!?』
丘の西側の平原に飛来した榴弾が大爆発を起こす。
至近弾を受けた三式中戦車が文字通り弾け飛び、そのまま腹を見せて横倒しになる。排出音と共に白旗が飛び出し、走行不能のサインを示した。
「ア、アリクイチーム、大丈夫!?」
通信機から届いたねこにゃーの絶叫に、エリカの指示を待たず沙織は安否の確認を行った。
『だ、大丈夫、生きてるにゃ……』
『一体、何が起こったモモ!?』
『ラピュタ王の雷だっちゃ!?』
すぐに返ってくるアリクイチームの三人の声。とりあえず怪我などは無かったようだ。
安堵の吐息をつくと、沙織は車長席のエリカに言った。
「エリカ! アリクイチーム、怪我は無いって!」
「りょうか……」
頷こうとするエリカの耳に、再度の爆発音。今度は丘の上か、東側への砲撃か。
「くっ……何だってのよ、これは!」
その表情には隠しきれない焦りが浮かんでいた。確かに大学側のシークレット枠には警戒していたが、これ程の攻撃は想定の範囲外だ。
「ええっと、これだけのおっきな砲弾なら……」
沙織は傍らに置いていたノートを広げた。そこには丁寧に描かれた戦車の絵が何種類も書かれている。何かどの戦車か判別できるよう、沙織が自作した戦車ノートだ。
「……あった!」
パラパラとページをめくる指が止まり、どこかずんぐりした恰好の戦車の絵を広げる。
「エリカ、きっとこれだよ! ブルムくまっ!」
ブルムベア。正式名称・Ⅳ号突撃戦車。
幾つかあるⅣ号戦車の派生形のひとつで、Ⅳ号戦車をベースに戦闘室を拡張し、150mm43式突撃榴弾砲を搭載した自走砲である。
戦時中に作られた密閉型の自走砲であり、学生戦車道レギュレーションにも適用される機体。長距離から榴弾が撃ち込まれる状況において、確かに最も可能性の高い車両だ。
「いえ……爆発が大きすぎます。あの規模は150mm榴弾の爆発ではありえません」
「ええ~……?」
しかし、沙織の発言を間髪入れず優花里が否定した。エリカが彼女に尋ねる。
「優花里、貴女はどう思うの?」
「可能性としては380mm砲を搭載しているシュトゥルムティーガーか、あるいは……隊長殿、ハッチを開けさせていただいて良いでしょうか?」
「お願いするわ」
腕を組み、少し考えた後に優花里はエリカに言った。頷くエリカ。
優花里は付近のハッチを押し開け、そこから頭を出し耳を澄ませた。
「………」
相手側も、この砲撃で足並みが乱れているこちらを叩く好機と見ているのだろう。激しい砲撃を浴びせてくる。それに対しモッツァレラ中隊の面々は個々に反撃を行っているが、上空からの砲撃を警戒してか積極的な攻勢をかけられずにいる。
その砲声の飛び交う中、優花里は眼を閉じ、意識を集中させた。
今度は丘上に撃ち込まれたのだろう。遠くからの爆発音。だが───
「……やっぱり、ロケット推進音が無い」
優花里は小さく呟いた。
シュトゥルムティーガーの380mm砲は海軍の爆雷投射機を改造したロケット推進式の臼砲である。単純に砲で発射するだけでなく、砲弾自身がロケット推進する事により5000m以上の射程を有する。敵の位置が把握できない程の長距離からの艦砲クラスの榴弾となると、それが最も可能性が高いと優花里は考えていた。
しかし、このロケット推進榴弾には大きな特徴がある。それが音だ。推進剤を使うため、特徴的な推進音と共に飛んでくる。映像資料の中でこそあるが、優花里はそれを知っていた。
そしてこの攻撃には、その音が無い。
「と、いう事は……!」
優花里の背中をぞくぞくと戦慄が這い上がり、同時に表情が緩む。
決して笑うべき場面ではない。むしろこの推測が正解なら、大学側はとんでもない車両をシークレットにしていた事になる。
しかし優花里は戦車乗りである以前に戦車マニアである。その性とでも言うべきだろうか、おそらくは戦車道史上、初めて導入された戦車と相対しているという事実に彼女は興奮を抑えきれなかった。
「ん?」
その顔に、一粒の雨が当たった。見上げれば接近してきていた黒い雲は空を覆い、まだ昼前だというのに薄暗くなってきている。やがて砲声の中、静かな雨が降り始めた。
優花里はハッチを閉じ、緩む顔を何とか引き締めようと努めつつ言った。
「分かりました、隊長殿! 相手は……!」
「どうやら、ここで隊長は終わらせるつもりのようね」
丘の東、大学側。各所への爆撃で大きく足並みを乱れさせている大洗側の陣形を確認しつつメグミは言った。マイクを手に並走するアズミへと通信を送る。
「こちらメグミ。分隊を丘正面に戻し、敵中央部隊を叩きます」
『こちらアズミ、了解。こっちはそろそろ遊びをやめて、一気に動くとするわ』
「お願いするわね」
砲塔から身を出し、雨の中で周囲の状況を確認する。敵も装甲の薄い戦車で頑張ってはいるが、それももう持つまい。
そうメグミが考えている中、前方で大規模な爆発が起きた。駆け抜けようとしていた敵部隊がその速度を落とす。すかさずそこに撃ち込まれる砲撃。一両のチハが90mm砲の直撃を受け、横転して白旗を上げた。
「メグミ中隊各機転進。丘へ向けて、全速で」
一方のアズミ中隊は、唸りを上げて森の敵部隊に向けて前進を開始する。
「……あっけない勝負ね」
無感動にメグミは呟き、車内に戻った。
『こちら玉田、奮戦するも撃破されました! 申し訳ありません!』
「やられちまったのは仕方ねえ、そこで休んでな!」
丘の東側、チェダー中隊。エリカからの通信を一旦切り替え、中隊長の音子は労いの言葉をかけた。ここまで粘って被害が一両ならば上出来だ。改めてエリカとの通信に戻る。
「すまねえ! チェダー中隊、チハ一両走行不能! ええっと……それで大隊長、カール自走臼砲だあ? ンだそりゃあ!?」
『あくまで可能性だけど……それが一番あり得るわ』
「どうも攻め手が足りねえと思ってたが、そういう事か……!」
そう言うエリカの声は重く、緊張が通信機越しにも伝わってくる。
音子は頬を流れる汗を拭いつつ、思考を巡らせた。
「ゴルゴンゾーラ中隊はどうなったんだ?」
『通信は届いているようだけど、応答が来ない。厳しい状況のようね』
「……となりゃあ、もうひと踏ん張りするしかねェか」
チェダー中隊の目的は『アンチョビ達がセンチュリオンを撃破するまで敵を引き付ける』だ。それより先に撤退してしまっては、彼女らの逃げ口を塞ぐ事になってしまう。
「姐さん! 副隊長の西さんから打診来てます!」
「こっちに回しな!」
その時、通信手の広能からの声が向けられた。音子は頷き、再度通信を切り替える。
「こちら山守! どうした、西?」
『こちら副隊長の西! 中隊長殿、敵部隊が動きを変え、突撃してきます!』
「何ぃ!?」
慌てて音子はハッチを開け、双眼鏡を構えて敵方向を見た。降り出した雨と木々で視界は悪いが、今まで横隊で防御に徹していたパーシング部隊が、こちらに向かってきている。
同時に音子の背後で新たな爆発。ここで一気に勝負を決める気か。
「……正面からじゃ撃ち負ける、速度落とさず、部隊を縦隊に移行しつつ前進! 敵側面を抜けるぞ!」
『了解!』
パーシングの90mm徹甲弾の前には、音子のヤークトパンターの正面装甲でさえ紙同然だ。駆逐戦車として側面を見せるリスクはあったが、それでも正面から撃ち合うよりは生存確率の高い賭けと言えた。
音子のボア付きコートが雨を吸い、重さを増す。次第に距離を詰める双方の部隊。
「来るぞ、各車攻撃開始! 当てなくていい、とにかく撃ちまくれ!」
敵射程内に入った事を把握し、音子は部隊に警戒と共に攻撃指示を送った。後続のクルセイダーやチハが散発的な攻撃を放つ。
「……何?」
攻撃が──来ない。
再度双眼鏡をあて、敵の動きを確認する。
パーシング部隊は、砲門をこちらに向ける事すらせず直進していた。既にその部隊はチェダー中隊と完全にすれ違い、互いが全速に近い速度を出していた事もあり急速に相対距離が離れてゆく。
「……ッべぇ! 各車、方向転換!」
そこで音子は初めて敵部隊の本当の目的を理解した。部隊の転進を指示しつつ、丘のまほ達に通信を送る。
「こちらチェダー! すまねえ、敵部隊がこっちを無視して丘背面に向かってる! 下手すりゃ回り込まれんぞ!」
『了解、丘上からの支援を中止し撤退に移る』
同じような状況だろうにも関わらず、まほの声はあくまで落ち着いていた。流石は黒森峰の隊長を務める女傑だけの事はあるか。
状況が混乱している。せめて島田愛里寿撃破の成否だけでも分かれば──
音子はそう考え、今度はエレファントの千冬への通信を開いた。
「おい千冬! そっちはどうなったんだ? センチュリオンは撃破できたのかよ!?」
『……やかましいわね、全く』
落ち着いた千冬の声が返ってくる。その声に幾らかの安堵を感じた音子だったが、それに続く言葉にその表情は強張った。
『島田愛里寿なら……目の前にいるわ』
その数分前。
「何?」
着弾状況を確認していた千冬は、その眉を寄せた。
センチュリオンを射抜くはずだった射線上に見える、白旗を上げたパーシング。
標的に意識を集中させていた事もあり、千冬がそれに気付いたのは発砲した直後だった。突如割り入るように走ってきたのだ。
そこで千冬は先ほどのアンチョビの報告を思い出した。前線に向かっていたというT-34とパーシング。
自らを犠牲にして盾となったのが、そのパーシングなのは間違いないだろう。では、島田愛里寿が乗っていたとされるT-34/85は?
「……すぐに移動。第二狙撃ポイントに隠れてから次の攻撃を仕掛けるわ」
嫌な予感を覚え、千冬は操縦手に指示を送った。
「ち、千冬さん、前!」
だが、その操縦手は悲鳴めいた声をあげた。素早く覗き窓に千冬は顔を近づけ、雨の中状況を確認した。
前方500m、T-34/85。
「角度付けて!」
千冬の鋭い指示が放たれたのとT-34が砲火を放ったのはほぼ同時だったが、ここはやや千冬の判断速度が上回った。85mm徹甲弾を、角度をつけたエレファントの装甲が受け流す。
「くっ……!」
車体を揺らす衝撃を堪えつつ、千冬はアンチョビに通信を送った。
「こちらエレファント、T-34/85と遭遇。そっちのセンチュリオンに別人が乗ってるなら、おそらく島田愛里寿が乗ってるわね」
『何!?』
「やられたわね、伏兵の私達の存在まで読まれてた」
驚くアンチョビに、千冬は淡々と言った。しかしその表情に浮かぶ焦りは隠しきれていない。
『何てことだ……土居さん、撤退できそうか?』
「無理ね。背中は見せられないし、逃げ切れる足も無いわ」
そこまで言うと、千冬は通信機を握る手に力を込めた。
「ここで彼女を相手にする。やれるだけやってみるわ」
「千冬さん、音子さんから通信来てます!」
通信手の国広からの声に、千冬は頷いた。
「それじゃ」
アンチョビからの返事を待たず千冬は通信を切り替えた。直後に飛んでくる音子の大声。
『おい千冬! そっちはどうなったんだ? センチュリオンは撃破できたのかよ!?』
「やかましいわね、全く。島田愛里寿なら……今、目の前にいるわ」
『……何?』
「後は、頼んだわよ。マネージャーにはよろしく言っておいて」
至近弾の衝撃がエレファントを揺らす。短く言葉を伝えると、千冬は音子との通信を切った。
「……クク」
含み笑いが口元から漏れる。砲身の回らない駆逐戦車では、正直分の悪い勝負だ。相手もおそらくはそう思っているだろう。
見せてやろう、ベルウォールの喧嘩を。千冬はそう思い、血を滾らせる。
土居千冬。
普段のクールな態度から、彼女の異名である「ベルウォールの熊」のイメージとの違和感を覚える者は少なくない。
しかし彼女に近しい者は知る。千冬こそ、喧嘩上等のベルウォールにおいて最も凶暴な人物である事を。
「常に相手の正面を向きつつ突撃。ベルウォールの流儀、島田のお嬢様に教えてあげましょう。気合入れなさい、貴女達」
『はい、千冬さん!』
舎弟でもある搭乗員たちが一斉に答える。
エレファントの65tの巨体が重々しく動き始める。T-34はぴたりとこちらに砲身を向け、再度の砲火を放った。
『撤退だね』
BT-42のミカが静かに言った。
丘の南部、一目散に逃げてゆくセンチュリオンと、それの盾となりつつ撤退してゆくパーシング。
それらの光景を目にしつつ、アンチョビはミカの言葉を聞いた。
「……それしかないな」
苦渋の表情を浮かべつつ、アンチョビは答えた。当初の目的だった島田愛里寿の撃破には失敗。センチュリオンへの奇襲も阻まれ、更には上空からの砲撃により各部隊は混乱に陥りつつある。ここで迷っていれば、完全に総崩れとなるだろう。
『アンチョビ、鶴姫さん、二人は全力で後退して再結集と態勢の立て直しを行ってくれるかい?』
「お前はどうするんだ?」
『T-34や敵部隊を引き付ける囮をさせてもらうよ。下手をすれば撤退しようにも君たちの逃げ道を塞がれかねないからね』
「待て、それじゃお前たちが!」
ミカの提案を止めようとしたアンチョビだが、そこに更にミカが言葉を重ねてきた。
『優先順位を間違えちゃいけないよ? 私がここで居なくなっても勝利への道は残るけど、君や逸見さんが撃破されれば、本当に勝てなくなるからね』
『……すまぬ、ミカ殿』
しずかが同周波で詫びを伝える。
『気にする事はないさ。ただ今回は相手の方が上手だった。それだけだよ』
ミカは気にする風もなく答え、カンテレを鳴らした。
『鶴姫さん。君のその強気さや、それに依る攻め手は大事な強みだ。それを一度の失敗で鈍らせるような事は、ないようにね』
『すまぬ……』
再度のしずかの言葉。声だけではあるが、彼女が車内で深々と頭を下げている姿がアンチョビには容易に想像できた。
「……よし! 麻子、行くぞ!」
アンチョビは両の頬をぺちぺちと叩き、傍らの麻子に言った。
「おうよ。ルートは選ばず行く、荒い帰り道になるぞ」
「分かった! しずか、私が先導するからお前は後方を警戒しつつ追ってきてくれ!」
『承知!』
『気をつけてね』
ミカのBT-42はそう言うと通信を切り、CV38の走り出した向きと別方向に進みだした。進路の先はエレファントの潜伏先、そして、おそらく愛里寿のT-34がいる位置だ。
アンチョビは20mm機関砲の状態を確認しつつ、モッツァレラ中隊への通信を開いた。
「こちらゴルゴンゾーラ! すまない、島田愛里寿はセンチュリオンからT-34に乗り換えた! 彼女、及びセンチュリオンの撃破には失敗、これからそちらに再合流する!」
『……やられたわね』
「ああ、やられた。だが、幸い撃破を食らったのは三両。まだ立て直せる」
『その前にやる事があるわ。この砲撃を何とかしないと、再結集したところに撃ち込まれる』
「それなんだが……優花里の話、それは本当なのか?」
その名前を聞いた時、アンチョビはイメージが思い浮かばなかった。隊長として色々な戦車を知ってはいるが、少なくとも普通の状態で戦車道の試合に出せる車両ではないからだ。
カール自走臼砲。
要塞攻略用にドイツにおいて開発された兵器で、600mm重コンクリート貫通弾、もしくは軽コンクリート貫通弾を撃ち出す自走式の臼砲である。
一応の自走能力は持っているが、それは短距離移動や目標補正のための補助的なもので、長距離移動には列車を利用する。
また、戦闘室は開放型のオープントップになっており、選手の安全性から戦車道の試合においてはレギュレーション違反になる車両のはずであった。
『彼女の戦車知識は確かよ。副隊長も知ってるでしょ?』
「だとすると……」
エリカの言葉には優花里への信頼があった。アンチョビはその言葉を受け、逃亡中ながら懸命に頭を働かせる。
この混乱した状況の中で、各部隊から抜けても戦線を維持できて、かつ隠密性に長けていて敵の目を逃れる事ができる車両となると──
アンチョビは通信を全体に切り替え、声をあげた。
「アヒルチーム! カメチーム! あと、ベルウォールのⅡ号戦車と知波単の九五式軽戦車! 頼みがある!」
「さて、頑張るとしようか」
Bt-42車内、ミカはカンテレを調律しつつ前方を見据えた。
「そうだね、アンチョビさん達のところに行かさないようにしないと」
肩を回しつつ、アキは分離薬莢を組み合わせて装填を行った。成形炸薬弾はさほど弾数がある訳ではないが、相手が島田流の天才少女とあっては手加減はできないだろう。
「……島田流、か」
「どーしたのミカ? 相手したくなかったりする?」
ミカは小さく呟いた。操縦席からそれを聞き留めたミッコが背中越しに尋ねる。
「………」
沈黙とカンテレの演奏でミカは答えた。速度を上げて、予定ポイントに直行で。
丘の麓に近づくにつれ、木々が増えてくる。その合間を抜けてBT-42が走る。
ミカはカンテレを小脇に抱えつつハッチを開け、身を出した。周囲から響く砲声。近いもの、遠いもの。その中から必要な音のみを聞き分ける。
やがてその耳に近くからの砲声が届いた。特徴的な88mm長砲身の発射音。
「……まだ生きてるね、急ごう」
麓を駆けあがるようにして、BT-42はやや開けたところに出た。同時に別の砲声。
「……!」
ミカの眉がひそめられる。
重駆逐と戦車が向き合うには余りに近い距離で戦うエレファントとT-34、弾け飛ぶ履帯。T-34の85mm徹甲弾がエレファントの履帯を破壊したのだ。
「アキ!」
車内に素早く戻り、ミカはアキに声を飛ばすと再びカンテレを膝に置き、それに指を走らせた。
「……行くよ、島田愛里寿」
車内に弦楽器の澄んだ、それでいてどこか物悲しげな音が響く。
T-34の砲塔から身を出したままの愛里寿は、無表情にBT-42の方を見ると砲身をこちらに向けた。
劇場版カタクチイワシは虎と踊る 第二十二話 終わり
次回「吼えるカンテレ、アヒルの円陣」に続く