カタクチイワシは虎と踊る   作:ターキーX

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第六話 イワシと眼鏡、サラミとムカデ

「──廃校の件は決定しているんです」

 

 

 執務室の机に膝を置き、指を組みつつその人物は二人に言った。

 

 文科省・学園艦管理局の局長室。

 節電の一環だろうか。部屋の照明は付けられておらず、ブラインド越しの陽光が差し込むだけの室内はやや薄暗く、局長である辻の顔も眼鏡の照り返し以外は表情を伺う事はできない。

「同席していた二人にも確認しましたが、やはりあの時の約束は『優勝すれば廃校は撤回する』というお言葉だった筈です」

「そちらの身内の方がそう言われたからといっても……何より、口約束を言った言わないと言い合った所で意味は無いでしょう」

 背筋を伸ばし、角谷杏は正面から辻を見据えて言った。それに涼しい顔で答える辻。表面上こそ穏やかな微笑を浮かべたままだが、そこから伝わるのは勝者の余裕だ。

「判例では口約束も約束と認められています。民法九十一条、九十七条等にも記されています」

 

 

 民法九十一条、九十七条。今の杏の使い方の意味を要約するならば「それが口約束でもお互いの意思表示があったのならば、それは触法しない限り尊重される」ということである。

 とはいえ、これはあくまで「その口約束を交わした」という確かな証拠があればの話だ。証拠もなく、片方が「そんな口約束はしていない」と言ったならば、その約束が成立したという証明は難しくなる。そしてそれは杏も、そしておそらくは辻も分かっている。

 では、何故そんな無駄な食い下がりをするのか。

 杏にとって、それは意味のある事だった。自分たちがあくまで抵抗するという意思を示す事と、横に居るアンチョビに「敵」がどのような人物なのかを知ってもらう事。

 

 

 案の定、杏の言葉に辻は小さなため息をつくと静かに、しかし有無を言わせぬ圧力を込めて言った。

「可能な限り善処したんです。ご理解ください」

「……分かりました」

 とりあえずはここまでか。杏は辻の言い方からそれを感じ取った。これ以上この場で食い下がれば、相手にとっての切り札である「就職斡旋の中止」を切ってくるだろう。

 杏は慇懃に礼をした。

「……ところで、そちらの方は?」

 杏の相手はし終わったと思ったのだろう。辻は視線を横に向けた。

 アンツィオ高校の制服を着たアンチョビは、一見礼儀正しく両手を横に伸ばし、姿勢よく向き合っているように見える。

「ええっと、既にアンツィオ高校に転校を済ませていますが、今大会で大洗戦車道のチームの隊長を務めた安斎……」

「アンチョビだ」

 杏の紹介を途中で打ち切り、アンチョビは呼び名を訂正する。辻はアンチョビの内心を測るように声をかけた。

「ああ、貴女が……今回は、折角頑張っていただいたのに残念な結果となり、申し訳なく思います」

 表面上だけの労いの言葉。それに対し、アンチョビは表情に落胆を浮かべた。

「……ええ、残念です」

「お気持ちは察します。ですが、こちらとしても……」

「私達の試合を、あまり見てはくれていなかったようですね」

「?」

 

 落胆から、不敵な笑みに表情が変わる。

 

「私達が戦った相手は、皆そんな顔をしていました。『勝ち目なんて無い』『せいぜい頑張ってみればいい』……今の貴方と、同じ顔です」

「………」

 辻の顔から笑みが消える。

 音も立てず、アンチョビは辻の執務机に手を置いた。

「……ここがスタートラインだ。三日以内に、アンタの首を縦に振らせてやる」

 眼鏡越しに辻と視線を交わす。辻は無表情に言った。

「なるほど、こういう方ですか」

「失礼しました。そういう方です」

 杏は僅かに微笑んで答えた。そのままアンチョビの背中に声をかける。

「行こう、チョビ子」

 それを合図にアンチョビは身を翻して辻から背を向け、ドアを出る時に一度だけ振り返り辻に礼をした。辻は動かない。それに杏も続く。

「失礼しました」

「……次からは、角谷さん。貴女だけでお願いします」

 閉まる間際、その言葉だけが届いた。

 

 

「いやー、出禁食らっちゃったね」

「そのつもりで啖呵切ったからなあ。まあ、遠慮せず次も一緒させてもらうさ」

 スーツ姿の男女が多く行き来する文科省前、愉快そうに言う杏に平然とアンチョビは答えた。

「これから蝶野さんに会いに行くけど、チョビ子はどうする? ここから連盟会館まではそんなに遠くないから、河嶋に学園艦まで送らせてもいいけど」

「いや、私も同行させてくれ。前に決勝で審判をしてもらった時にろくに話も出来なかったからな」

 桃が待機しているジープに向かいながら二人は会話を続ける。

「みんなは大丈夫?」

「出店の事なら私よりペパロニの方が仕切りは上手いからな。任せておいても大丈夫だろう」

「ならいいけど……」

「何だ?」

「……いや、なーんか嫌な予感がしただけだよ。それじゃ、行こうか」

 杏はそう言うと足を速めた。アンチョビもそれに続く。

 

 

 ──その勘が当たっていた事に気付くのは、この数時間後である。

 

 

 劇場版 カタクチイワシは虎と踊る  第六話 イワシと眼鏡、サラミとムカデ

 

 

 アンツィオ高校戦車道ガレージ。露店の出店準備で駆け回っていた少女達はその足を止め、入口で向かい合うペパロニと謎の赤い戦車を見ていた。

「……合ってるよ。ここはアンツィオ戦車道のガレージだ」

 眼前のリボンの少女から目を離さず、調理服姿のペパロニは言った。

「安心した。ならば……」

 リボンの少女、鶴姫しずかはそう答えると改めて一礼した。

「改めて伺いたい。こちらにおられるアンチョビ殿と手合わせしたいのだが、ご不在か?」

 

「(……また変なのが来たなァ)」

 その時代がかった言い方にペパロニは思った。練習試合の申し込みとかならともかく、こうやって武者修行めいて単騎で乗り込んできたのを相手するのは彼女も初めてである。

 同時に、しずかと赤い戦車の姿がペパロニの頭のどこかに引っかかった。直接会った事は無い。しかしどこかで見た事がある。どこかで。

 

 とりあえず、ペパロニは正直に答える事にした。

「……ドゥーチェなら留守ッスよ。都内に用事があって、朝からそっちに行ってる」

「む、そうか……それは失礼した」

 疑うかと思ったが、思いのほかしずかはあっさりとペパロニの言葉を受け止め、少し落胆しつつ言った。

「ならば仕方ない。改めて伺わせて頂こう」

 車内の操縦手に声をかける。今にも帰りそうな風情だ。

「………」

 ペパロニの表情に僅かな苛つきが浮かんだ。

「アンタ、姐さんとヤるつもりッスか?」

 キューポラを閉めようとしていた彼女にペパロニは声をかけた。表情に落胆を残したまましずかが答える。

「如何にも。大洗を優勝に導いた天下一の豆戦車乗りと手合わせしたかった。ちょうど学園艦が同じ港に就航したのを幸いと来てみたのだがな……」

「そうッスか」

 ペパロニは一歩踏み出した。自信ありげな笑みを浮かべ、親指で自身の胸を指す。

「だったら……この統帥代行のペパロニに勝ってからの話ッスね」

「……!」

 しずかの瞳に鋭さが増した。

 

 

 普通に考えれば、このまま帰して良い相手であった。

 しかし、しずかのアンチョビ以外が全く視界に入っていないかのような態度。それがペパロニの中の戦車乗りとしてのプライドを刺激した。

 また、彼女にとっては敵陣であろうアンツィオの戦車道メンバーを前にしての泰然自若とも言える姿、その裏にある実力の程に興味もあった。

 

 

「……エリカ、店の方を仕切ってるカルパッチョを呼んできてもらっていいッスか?」

 ペパロニは振り返り、様子を見ていたエリカに言った。

 あくまでアンツィオ内の事情とはいえ、思う所があるのだろう。エリカは少しの心配を込めて聞き返した。

「いいけど……大丈夫なの?」

「大丈夫、すぐに済ませるッス」

 軽く答え、ペパロニは再びしずかに向き合った。小走りにガレージを出てゆくエリカ。

 対して、車内に引っ込もうとしていたしずかは再びその身体を砲塔から出し、ペパロニを見据えていた。その口元には獰猛な笑み。

「──成程。よくよく見れば、貴殿も一角の者だったな。アンツィオ高校”統帥”、ペパロニ殿。失念していた事を詫びよう」

「思い出してくれて何よりッス」

「では……逆に、貴殿を倒せば間違いなくアンチョビ殿と仕合えるという事で良いか?」

「……ああ、構わないッスよ」

 頷き、そこでペパロニは今更気付いたように尋ねた。

「ところで、アンタの名前は?」

 そう言われ、しずかは目線を外さないまま答えた。

「身共の名か」

 砲塔から身を出したまま、しずかは少し腰を動かした。操縦席のハッチが開き、金髪の少女が顔を覗かせる。

 彼女が顔を出した事を確認し、しずかは名乗りを上げた。金髪の少女もたどたどしく答える。

 

「───楯無高校・百足組。鶴姫しずか」

「えっと、そ、操縦手の松風鈴……です」

 

 ”百足組”その名の通り、赤い車体には黒い百足の絵が描かれている。

「(楯無高校……百足……鶴姫……って事は、こいつら……?)」

 それらのキーワードがペパロニの中で記憶と繋がり、戦車道新聞のある記事を思い起こさせた。

「あの人たち、もしかして……」

 背後の西住みほも同様の記事を思い出したのだろう。小さな驚きと共に呟く。出店に向かう途中だった梓がみほに尋ねる。

「知っているんですか、西住さん?」

「う、うん、強襲戦車競技……軽戦車や豆戦車を使った非公式リーグで、最近よく戦車道新聞に載っている人。確か、サンダース相手に3対1であと一歩のところまで追い詰めたり、BC自由学園の10両相手に単騎で勝利したり……」

「10対1でですか!?」

 驚く梓。みほは頷き、言葉を続けた。

「相手のBC自由側の車両にあのテケ車を偽装させて、混乱させたところをフラッグ車に一撃……非公式戦だから記録には残ってないけど、そんな感じで書かれていたと思う」

 そして、その言葉はペパロニにも届いていた。

 

「(……なかなか楽しめそうな相手じゃねえか)」

 

 血が滾る。そう思いつつ、ペパロニはしずかに言った。

「で、勝負の方式はどうする?」

「時は、本日只今より」

 そこでしずかは一度言葉を切り、ペパロニの器を測るかのように言った。

「……試合方式だが、フラッグ戦・強襲戦車競技方式でお願いしたい」

「強襲戦車競技?」

「試合場は演習場でなくこの場、アンツィオ高校構内。屋台や建物を破壊した分の補償はこちら側が請け負おう」

「……!?」

 大胆な申し入れであった。このルールであれば、文字通り学内の建物や生徒まで巻き込む試合になる。

 ペパロニは少しだけ考え、しずかに言った。

「……武将ぶる割には随分とセコい事を言うんスね。アンタ、そのルールで試合慣れしているんじゃないッスか?」

「確かに、身共の方が戦慣れしてはいよう。それ故、もう一つ提案したい」

「何スか?」

 しずかは手を広げ、ペパロニに向ける。

「5両。そちらは5両で身共の相手をして頂いて結構」

 その表情には、不遜なまでの自信が浮かんでいた。

 

 

「いやー、アレは凄かったわね! 特にあのCV38がガーってなって、ドーンで、ドカーンってところが!」

「あ、は、はい、ありがとうございます……」

 

 同時刻、戦車道連盟応接室。

 眼前でハイテンションで決勝の感想を語る蝶野亜美に、アンチョビは先ほどの局長室での態度とはまるで違う緊張した様子で答えた。

 蝶野亜美。戦車道連盟役員にして、陸上自衛隊教導隊一等陸尉。高校戦車道時代には「15両単騎駆け」などの様々な伝説を残す戦車乗りで、戦車道を志す少女たちにとって憧れの存在である。

 また、ラジオ番組「蝶野が斬る!」のパーソナリティでもあり、その気風のいい態度は男女問わず人気を博している。

「……っと、ごめんなさいね、一方的に話しちゃって。それで、何の用件だったかしら?」

 話がひと段落ついたのか、亜美はそう言うとアンチョビの横の杏に尋ねた。

「はい、その大洗の事で相談が……」

 

 杏は話を始めた。

 数か月前に廃校の話を出された事。それを優勝を条件に撤回する約束を交わした事。優勝し、その後約束を反故にされた事。戦車の保護とアンツィオへの短期転校。

 杏の表情と語り出しから彼女の話の重要さを素早く察したのだろう。亜美は時折頷き、質問も最小限にしながら杏の話を聞いた。

 できるだけ淡々と、一方的な感情を込めず話をしたつもりだった。しかしそれでも廃校を再告知された部分を話す時、杏の言葉には苦渋が混じった。

「……以上です」

 

「………」

 杏が話を終えた時、亜美は目を閉じ、腕を組み、何かを考え始めた。

「正直なところ、今の大洗が実績として押し出せるのは戦車道全国大会での優勝だけです。だから、何とか戦車道連盟の力をお借りしたいのですが……」

 杏はそう言って、亜美の反応を待った。

「……ちょっと待ってて」

 亜美は目を開けると立ち上がり、応接室に備え付けられた内線用の電話を取った。

「蝶野です、理事長室に繋いでもらえる?」

 少しの間。繋がったのか、強い口調で話を始める。

「理事長、至急お話したい事があります。お時間を……そんなのは後回しにしてください! 女の子二人を泣かせたいんですか!?」

「い、いや、泣き出したりは……」

 亜美の剣幕に思わずアンチョビが呟く。

 しかし、それが効いたのだろう。亜美は素早く受話器を戻すと二人に言った。

「丁度良かったわ、理事長が在室してる。すぐに上に行きましょう」

「え?」

 きょとんとする杏に、亜美は戦意も露わに拳を固めた。

「その、学園艦管理局の局長さん、辻……だっけ? そいつをギャフンと言わせてやろうじゃないの!」

「ギャフン……」

「頭に来るじゃない! 戦車道と、戦車道を志す女の子を馬鹿にするなんて!」

 既に彼女は杏やアンチョビと同等かそれ以上に怒っているようだった。率先してドアを開け、二人を誘導する。

「まずは理事長に直談判よ!」

 彼女に話を持ってきたのは正解だった。二人は言葉を交わさずにそれを確信した。

 

 

 アンツィオ学園艦・アンツィオ高校構内。

 屋台が並び、乗船者とアンツィオ生徒が行きかう通りに放送が流れる。

 

『アンツィオ高校戦車道よりお知らせです。間もなく、構内を使用した試合が行われます。強襲戦車競技に準拠する形となりますので、ギャラリーとしての観戦は自己責任でお願いします。試合中に屋台が破損した方には補償を行いますので、その場合は……』

 

 その放送を聞いたアンツィオの少女たちは動揺もせず、むしろ客引きの声を高めた。

「試合観戦のお供にノンアルコールワインいかがッスかー!?」

「インスタントカメラ、かち割り、オペラグラス緊急入荷! 現品限りだよ!」

「手を汚さずに食べれるフォルカッチャ、焼き立て上がりましたー! 試合中の小腹満たしに最適! 今なら一枚150円!」

「……何と言うか、元気ね」 

「その、ウチの生徒は屋台に戦車が突っ込んでくる程度は平気ですから」

 屋台の様子を見ながら呟くエリカに、ひとまずの放送を終えたカルパッチョが苦笑しつつ言った。

 アンツィオの構内を一望できる大階段。その上に用意された椅子にエリカ達を含む戦車道メンバーは座り、様子を眺めていた。流石に5両分の人員を必要となると屋台を開けるのが難しく、一旦店を閉めた形だ。

「すぐに済ませる。終わったら営業再開ッスね」

 その階段下に並ぶ5両のCV33。その中央のフラッグ車に搭乗するペパロニが軽い口調で言った。高くそびえる時計塔を見る。時刻は10時57分。あと3分で試合開始となる。

 

「何だと?」

 あの時、しずかからの提案に対しペパロニの顔に現れたのは怒りだった。 

 彼女は───しずかは、明らかにこちらを格下に見ている。その事に気付いたのだ。

「5対1……これを条件に強襲戦車競技での方式を受けていただきたい。如何に?」

 その自信ある表情。ペパロニは歯噛みし、唸るように言った。

「……いいだろう。その話、受けた」

「かたじけない」

「戦車の準備がある。開始は11時ジャスト。それでいいな?」

「承知」

 短く答え、しずかは車内に戻った。静かな唸りと共にテケ車が走り出す。自分たちの開始場所を今から探るのだろう。

「………」

 それを見送るペパロニの瞳には、強い戦意が宿っていた。

 

「逸見殿、どう思われます?」

 エリカの横に座る優花里が尋ねた。少し考えてエリカが答える。

「戦車の性能で言えば、確かにテケ車……九十七式装甲車の方が機動性も火力も上だけど、装甲はCV33の8mm機銃でも十分に抜ける。普通に考えれば、ペパロニ達の圧勝でしょうね」

 そのエリカの予測は妥当なものであった。5対1という戦力差はそれだけ大きい。

 だが、そこまで言うとエリカは表情を曇らせた。

「……でも、絶対とは言い切れない」

 

 エリカは知っている。5対1、その状況で逆転寸前まで大洗を追い込んだ存在を。

 継続高校のミカ。彼女は全国大会二回戦において大洗の5両を残り1両まで撃破し、エリカ達の乗るⅣ号戦車をあと一撃のところまで追い詰めた。それと同等の技量をあの楯無高校の二人が持っていたとしたら。

 そしてもう一つ、この試合が強襲戦車競技だという事だ。

 

「ひなちゃ……コホン、カルパッチョ。強襲戦車競技って、どんな形なんだ?」

 大洗とアンツィオ勢がそれなりに分かれて座る中、一人カルパッチョの横に座るカエサルが彼女に聞いた。

「一言で言えば、『ルール無用』……10t以下の戦車を利用する以外の禁止事項なし。だまし討ちあり、建物やギャラリーを利用するのもあり。この試合では意味はないけど、乱入だって許されるわ」

「まるでコロッセオの剣闘士だな……」

 

「………」

 それらの言葉は戦車上のペパロニに届かない。しかし、ペパロニは知る。勝負に絶対は無い。それがまして、ルール無用の強襲戦車競技であるならば。

「……面白れえ」

 時間が来る。ペパロニは通信機を手に取り僚機に激を飛ばした。

「手前ら、相手が1両だからって手加減するんじゃねえぞ! アンツィオの実力を見せて、姐さんが帰ってきた時の土産話にしてやれ!」

『了解です、ペパロニ姐さん!』

『あのナメた侍野郎に、目にもの見せてやりましょう!』

 返ってくる声の戦意も高い。ペパロニは頷くと、号令をかけた。

「行くぞ手前ら、アーヴァンティ!」

『アーヴァンティ!』

 CV33が唸る。何処にいようが包囲し、殲滅せんとばかりに各車両は散開して走り出した。

 

 

「……始まったね」

「うむ」

 コロシアム外周部の木陰、テケ車はそこにいた。鈴はしずかに言う。

「大丈夫? アンチョビさんじゃなくても、相手は全国大会ベスト4 だよ?」

 その表情には不安が残る。それに対し、しずかの表情はまるで今からパーティに出かけるように晴れやかだった。

「何を言う鈴、単騎駆けこそ戦の華ぞ」

 そう言い、しずかは車長席からすっと立ちあがった。

「……!」

 鈴が息を呑む。

 靴を脱ぎ露わになった、黒いタイツに包まれたしずかの足の指が艶めかしく動いた。

 

 

劇場版カタクチイワシは虎と踊る 第六話 終わり

次回「ひとつの勝利、ひとつの敗北」に続く


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