カタクチイワシは虎と踊る   作:ターキーX

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第四話 イワシの帰還

 

 

 街灯が点き始める学園艦の夜の街並みに、チャイム音と共に放送が流れる。

 

 

『……大洗女子学園から緊急のお知らせです。本学園艦は学園艦統廃合計画の一環として、今月末をもっての廃校と解体が決定しました。誠に急な話ではありますが、現在、各所の掲示板に詳細の告知を貼り出していますのでそちらの確認をお願いします』

 

 

 くろがね小型貨物自動車を生気の無い顔で運転する風紀委員たち。掲示板の近くで停まり、『大洗女子学園廃校とそれに伴う学園艦撤収について』と書かれた一枚の大きな紙を貼ると、また乗り直して別の掲示板に向かう。

 何両もの同型の車両が走り、それと同様の作業を行っていた。

 

 

『明日13時、本校体育館におきまして今回の決定と今後の就職支援等の補償についての説明会を行います。本学園艦に搭乗されている生徒、及び家族の方々は撤収の準備をお願いします……梱包用段ボール、包装材等については、24時間体制で無償支給を行っていますので、ご、ご要望の方は、本校中央エン、トランス、まで……』

 

 

 放送の声が次第に涙声になってゆく。

 

 

『じ、迅速な、撤収の、ご協力を……』

 

 

「桃ちゃん、代わるよ?」

 大洗女子学園放送室。

 マイクを前に言葉を出せなくなった河嶋桃に、小山柚子は優しく声をかけた。

「……いや、だ、大丈夫だ」

 その言葉に桃は一度頼もうとしたが、目元を拭うと顔を上げた。

「これは、私にやらせてくれ……広報としての、最後の仕事かもしれないからな」

 震える声を必死に戻し、桃は再びマイクに向かって声を出した。

『お、大洗女子学園から緊急のお知らせです……』

 

 

 劇場版 カタクチイワシは虎と踊る  第四話 イワシの帰還

 

 

 校内の掲示板の告知文を見つつ、何人もの少女が話し合っている。部活動や選択科目を終え、帰宅しようとしていた女生徒たちだ。

 

「ねえ、これってどういう事かな?」

「分からないよ、そんなの。いきなり撤収って言われても、どうしよう……」

「船舶科の友達も何も聞いてなかったって」

「二学期どうなるの?」

「お母さん、ここの事務員なんだけど……ひょっとしてリストラ!?」

「それってヤバくない?」

「またあの生徒会が何かやったんじゃないの?」

 

 誰にとっても急な話であった。今後の不安や推測、憶測、噂などが飛び交っている。

 それらの騒ぎから一歩引いたところで掲示板を見詰める、同様に大洗の制服を着た一人の少女。

 セミロングまで伸ばした艶やかな金髪と澄んだ色の青い瞳は、彼女が純粋な外国人である事を示している。

 その端正な顔に僅かの動揺を乗せつつ、その少女は携帯を取り出すと流暢なロシア語で小声で言った。

「……のんな隊長、大洗デ緊急事態デス」

 

 

「会長、学園艦表層部の全掲示板への告知の貼り出しが完了しました。艦内は船舶科の半舷休息中の生徒にも協力してもらいながら進めています」

 長さだけ異なるおかっぱ頭の風紀委員たちが書類を手に慌ただしく駆け回る生徒会室。

 その光景を横目に柚子は奥の会長室に入室し、報告を行った。

「お疲れー。みんなの反応はどう?」

 革張りの椅子に腰かけて足を組みつつ、杏は軽い口調で彼女に尋ねた。

 各方面への対応や指示で一番忙しい立場の筈だが、それをこの状況でなお感じさせないのは彼女なりの姿勢の顕れだろうか。

「流石に動揺はあるようですが、今のところ大きな騒ぎにはなっていません。包装材の配布、引っ越し業者との仲介も順調に進んでいます」

「業者さんからすれば大歓迎だろうね。3万人、数千世帯の大移動だ」

 机の上に置かれた干し芋の袋から一枚取り出し、杏は口に含んだ。

「ちゃっちゃと進めて行こう。転校先決定までの一時預かり先への移動用のバスのチャーター、まだ間に合うかな? 多分10社くらいに連絡しないと……」

「……どんどん、進んで行きますね」

 柚子は呟いた。自分たちが思い出を積み重ねてきたこの場所がいとも簡単に無くなってしまったという喪失感と、その作業を自身で進めねばならない辛さ。当然ながら、それを感じているのは涙を流した桃やエリカだけではない。

「まずは何をするにしても、こっちから隙を見せる事はできないからね。文句のつけようも無いくらいの綺麗な撤収にしないと」

 杏はそれを知りつつもきっぱりと言った。

「あの、会長……」

 その時、ひとりの風紀委員が入室して来た。

「お話し中すみません、あの、輸送船の接舷申請が来ています」

「あー、引っ越し業者さんの? それならそっちで進めていーよ」

「いえ、それが……」

 軽く答える杏に、その風紀委員は首を横に振った。

「……?」

  

 

 学園艦上、住宅地の一角のマンション。

「……ふぅ」

 ボクササイズ用のサンドバッグを梱包材で巻き終え、制服姿のエリカは一息ついた。

 元々それほど物の無い部屋である。荷物のまとめは思った以上に早く終わってしまった。

「これで明日には学園艦から退艦……か」

 呟き、今後の事を考える。

 

 退艦後の生徒は次の転校先が決まるまで、生徒会が内地で用意した宿泊所──廃校などを宿泊可能に改装したもの──で生活を行い、決まって手続きが終わった物から順次そちらの学校へ移動する事になる。

 実家に戻る事も許可されているが、多くの生徒は残る。とりあえず戦車道メンバーは全員行動を共にするようだ。

 

「……はぁ」

 思わずため息が出た。

 自分は今まで何をやってきたのだろうか。その徒労感と絶望感に潰されそうになる。

「どうも、駄目ね」 

 この状況だ。部屋で一人でいるとどうしても悪い事ばかり考えてしまう。とはいえ皆も撤収の準備で忙しい中、誰かの家に行くのも失礼だろう。

「………」

 エリカは無言で立ち上がると、部屋を出た。小走りで階段を降り、マンションから何処かへ向かう。

 皆、慌ただしいのだろう。大荷物を積んだトラックが行き来しているが、夜の街という事もあり通行人は僅かだ。

 エリカは息をつきながら走った。やがてその先に見えてくる大洗女子学園の正門。

 その門を抜け、校舎を横切り更にエリカは走る。

 

「……?」

 

 見慣れたガレージが見えて来た。そこに何人もの人影がある。

「あ、隊長!」

 その中のひとり、澤梓がエリカに気付き声をあげた。それによって他の少女も気付き、エリカに視線を向ける。

「隊長!」

「隊長も来たんですね!」

 そこには梓達一年生だけではなく、他の戦車道履修者も大勢が揃っていた。

「貴女たち……」

「戦友との最後の別れを惜しもうと思ってな」

 思わず呟くエリカに、軍帽を直しつつエルヴィンが答えた。

「折角だから、最後のメンテナンスもしておきたかったしね」

 今まで整備をしていたのだろう。ツナギ姿のままのナカジマが言う。

 

「と、撮るよ……えっと、1たす1は?」

「根性ーっ!」

「『2』です、キャプテン……」

 八九式中戦車の前では体操着姿のアヒルチームの面々が並んでおり、それをねこにゃーがデジカメで撮影している。お約束の声かけに勢いで返す典子に妙子が呆れ声で言う。

「……は、はい、大丈夫だよ。撮ったのはクラウドにして、皆で共有できるようにしておくから」

 フラッシュを焚き、仕上がりを確認しつつねこにゃーが言った。ひと段落ついたのを見計らい、エリカが声をかける。

「猫田さん?」

「あ! い、逸見さん……こ、こんばんは」

 予想外の人物からの声にねこにゃーは弾けるように背を伸ばし、律儀にお辞儀をした。

「貴女たちも来てたの?」

「う、うん。戦車が回収されちゃったら、もう次に乗れるか分からないから……記念撮影しておこうかなって」

 その言葉に、エリカの顔に寂しさが浮かぶ。

 

 夕方のガレージでの杏の話した内容には戦車の回収も含まれていた。

「文科省預かり」と言えば聞こえは良いが、要するに実質的な没収だ。今いるチームメイトが全員同じ学校に行くとは限らず、当然乗っていた戦車も各所に分かれる事になるだろう。

 つまり、この戦車達がこうして並ぶのを見るのはこれが最後になる。

 

「………」

 エリカは中央に停められたⅣ号戦車を見上げた。

「あ! エリカも来てたんだ!」

 後ろからの声。振り向くと、そこには沙織と華、優花里、そして麻子が並んでいた。

「貴女たちまで?」

「その、お別れをしておこうと思いまして……」

 はにかみつつ優花里が言った。

「何処ででも花は咲ける……それでも、寂しいものですから」

 華はそう言うとⅣ号戦車に歩み寄り、丁寧に頭を下げた。

「……本当に、お世話になりました」

「絶対に、忘れません!」

 優花里が敬礼し、同じくⅣ号に向けて声をかける。

 その時、眠そうな目のまま麻子が言った。

「……あいつは、これを見てどう思うだろうな」

「………」

 その言葉に、エリカは今までの寂しさと異なる表情を浮かべた。悔恨。申し訳ないと思う気持ち。

 

 ”彼女”が大洗を去ってから、既にひと月が経とうとしている。しかし、大洗戦車道メンバーの中には彼女の存在があった。

 戦車道を楽しみ、その中で強くなってゆく。

 それはエリカが隊長となってからも大洗のあるべき姿として、確かに残っていた。

 無論、この件で憎むべきは約束を反故にした学園艦管理局であり、更に言えばその上の文科省であり、エリカ等が負い目を感じる必要は全くない。

 しかしそれでも、辛さがあった。彼女の残した戦車道がこのような形で幕を閉じる事への罪悪感があった。

 

「……アンツィオに行って、お詫びに行かないといけないわね」

 そうエリカが返すと、更にその後ろから声が聞こえた。

「良かった、何とか間に合ってくれたか!」

 そう言うとアンチョビはⅣ号戦車に駆け寄り、その状態を見た。

「よし、これならすぐに動かせそうだな」

「姐さん、ちょっと待ってくださいよー!」

 紙袋を持ったペパロニがその後に続く。

「よし……よし、他の車両も大丈夫かな」

 その間にもアンチョビは並ぶ他の戦車に触れ、清掃からメンテナンスまで完全な状態である事を確認して満足そうに頷いた。

「早速行くとするか! エリカ、悪いがこれを……」

 

「………」

「………」

「………」

 

 振り向いたアンチョビは、そこで周囲の一同が無言で自分を見ている事に初めて気が付いた。

「……ん?」

「いや、『ん?』じゃないだろう」

 小首を傾げるアンチョビに麻子が冷静なツッコミを入れる。

 そこでようやくエリカは我に返り、驚きつつ彼女に尋ねた。

「ちょ、ちょっと!? 何でアンタが居るのよ!?」

「いや、何でって言われても……」

「ほんと大変だったんスよ。演習してた広島から飛んできて……あ、これお土産のはっさく大福っス」

「あ、ありがと……」

 戸惑うアンチョビを他所に、ペパロニはそう言いつつ聞き慣れない名前の土産を沙織に手渡した。

「……って、ちょっと待って。広島?」

 エリカが問いかける。アンチョビは少し考え、やがて納得したように頷いた。

「なるほどな……杏のやつ、言ってなかったのか」

 そう呟き、アンチョビは改めてエリカに向き直った。

「今日の昼に杏から電話をもらって、話を聞いたんだよ……それで、飛んできた」

「………」

 言葉も無くエリカはアンチョビを見た。

 

 突然の事への驚きはあった。

 「アンツィオはどうしたのか」等の聞くべき事はあった。

 この状況において、彼女が何が出来るのかという疑問はあった。

 しかし、エリカの中に浮かんだ感情は別のもので──それがそのまま言葉になった。

 

「……お帰りなさい、”隊長”」

「……ああ、ただいまだ」

 アンチョビは僅かの沈黙の後、微笑みつつ答えた。

 

 その言葉を契機にしたように、周囲の他のメンバーも一斉にアンチョビに駆け寄ってきた。

『”隊長”ーっ!』

「お、おいおい!?」

「こんな事になって、すみません隊長!」

「根性足りませんでした隊長!」

 口々にアンチョビに詫びを口にする一同にアンチョビは驚き、そして口元にいつもの根拠があるのか分からない、しかし自信に満ちた笑みを浮かべた。

「お前たち、何故謝る?」

「え? えーっと……あれ?」

 尋ねられた宇津木優希はそう言われ、初めて違和感に気付いたようだった。

「お前たちが謝る必要なんて無い! 諦めるな、まだ打てる手はある!」

「……流石に根拠無しで言ってないわよね?」

 その姿にエリカが聞く。アンチョビは頷いた。

「まあ、最初の一手だけは、何とかな」

「おー、こっちに直接来てたんだね、チョビ子」

 そこに別の声。見ると、杏が桃と柚子を連れてガレージに歩み寄ってきていた。

「会長……」

 エリカが呟く。杏は大きく手を鳴らすと皆に呼びかけた。

「みんな! 急で悪いけど戦車に乗ってくれるかな? すぐに搬入口に移動させて!」

「……搬入口?」

 怪訝な顔をする優花里の耳に、遠くから聞こえる汽笛の響きが届いた。

 

 

 大洗港に寄港する大洗学園艦。

 全長10㎞を超えるサイズも存在する学園艦の中では比較的小型ではあるが、それでも全長7600mほどの大きさを誇る。周囲の大型客船などが小型のボートに見えるほどだ。

 その中、一隻の砕氷船が学園艦下部の一角に接舷していた。フィンランドのMTテンペラに酷似した外観のそれには表面のマーキングや船名は無く、どこか不気味な空気を漂わせている。

 

 その謎の砕氷船と結ばれた搬入口に、大洗の8両の戦車が到着した。

「この船……まさか」

 呟くエリカ。Ⅳ号に便乗していたアンチョビが言った。

「正直、連絡が取れるか微妙だったが……思ったより早く動いてくれたよ」

 他の戦車に乗っているメンバーも砲塔から顔を出し、搬入口の先の暗闇を見つめている。

「………」

 M3Leeに搭乗する紗希がぴくりと反応し、耳を澄ませる。

 やがて、その奥から戦車の履帯音が聞こえてきた。同時にどこかで聞いたような弦楽器の音も。

「……夜分に失礼するよ」

 継続高校隊長車BT-42。その砲塔の上で愛用の楽器、カンテレを鳴らしつつ隊長のミカは言った。Ⅳ号の砲塔から身を出したアンチョビが答える。

「ありがとう、急な頼みに答えてくれて」

「電報じゃなくても良かったと思うんだけどね」

「……それなら、メンバーの誰かに携帯を持たせてくれ」

 

 Ⅲ突のカエサルがその様子を見て言った。

「継続高校……彼女らに何を?」

「ウチの戦車を一旦預かってもらう事になったんだ」

 それに対し、ヘッツァーの杏が説明する。M3の梓が尋ねる。

「そ、それって大丈夫なんですか?」

「書類上では紛失したって事にしといたよ」

「会長、風紀委員の前で平気で横紙破りをしないでください」

 B1bisのそど子が微妙な表情で言う。明らかな不正への不満はあるが、それを受け入れなければならないという気持ちの板挟みだ。杏はひらひらと手を振った。

「ま、その辺りは後でね」

 

 彼女らがそう言う内にBT-42は停車し、中から砲手のアキと操縦手のミッコも出てきた。後方には他の継続高校戦車道メンバーも控えているようだ。

「えーっと、これで全部でいいのかな?」

「んじゃ、早速始めよっか。あんまり長くいると色々なところが煩いしね」

 そう言いつつ、各車両の状態を確認しつつ砕氷船内に誘導してゆく。タンカーを兼ねた砕氷船の容量は広く、重戦車を含む8両を十分に迎えるだけの余裕はあるようだ。

「………?」

 ふと、ミカは何かに気付いたように視線を別方向に向けた。

「これは……」

 呟き、BT-42を降りると何処かへ向かう。

「あ、ちょ、ミカ!?」

 慌ててそれを追うアキ。

「どうしたの?」

「あー、気にしないで。いつもの事だから」

 珍しい事ではないのだろう。尋ねるエリカに残されたミッコは軽く答えた。

 

 その間にも戦車の搬入は進む。タンカーへ移動し、揺れないよう結束される戦車たち。

 作業は迅速に進められたが、それでも最後尾の三式中戦車の固定が終わるまでには一時間近く経過していた。

「お疲れー」

「移動先が決まったら、また電報でいいから連絡して。メンテナンスはウチの整備の連中の練習がてらやっておくから」

 労いの言葉をかける杏にミッコは言った。その後ろに立つアンチョビとエリカ。

「すまない、助かった」

「……大変な事になっているようだね」

 頭を下げるアンチョビに、いつの間にか戻ってきていたミカがミッコの後ろから言った。頷くエリカ。

「ええ……なかなかに、ね」

「この程度で良ければ何時でも助けさせてもらうよ」

 そう言いつつ、またミカはカンテレを鳴らした。

「……それに、お土産も貰えたしね」

「お土産?」

 怪訝な顔をするアンチョビ。ミカはそれ以上答えず、BT-42に向かった。

「あ、ちょ、ちょっとミカ!? すみません、それじゃ、預かりますから!」

「そんじゃね」

 アキとミッコも一言残してそれに続く。

 彼女らを乗せ、再び砕氷船の奥に消えてゆくBT-42。その姿を戦車から降りた一同は見送った。接舷が切り離され、夜の闇に砕氷船が出港してゆく。おそらくは継続高校学園艦に戻るのだろう。

「……これで、とりあえず戦車だけは守れましたね」

 嬉しそうに優花里が言った。アンチョビが不敵に笑う。

「ああ……そして、これからだ」

 

 

 実際、まだ戦車の文科省預かりを防げたというだけで状況は何ら好転してはいない。

 全てはここから始めてゆくのだ。戦車に頼らない、心と言葉での戦いを。

 

 

「それで杏、お前たちはどうするつもりなんだ?」

「とりあえず、次の転校先が決まるまでは陸地に用意した廃校とかの宿泊所に泊まってもらって、そこで待機って感じになるかな。戦車道履修者は全員一か所にまとめるつもり」

 アンチョビの問いに杏が答える。

「転校先……うーん」

 その言葉にペパロニが腕を組んで何かを考え始めた。やがて、顔を上げて言う。

「……いっそ、全員アンツィオに転校するってどうっスか?」

『それだ!』

 カバチームの四人が勢いでペパロニを指さす。

 直後、ペパロニを含める五人は桃と柚子に丸めた資料で頭を叩かれた。

「冗談でもそんな事を言うな!」

「みんなで決定を何とかしようって言っているんだから……」

 柚子も表面上は笑顔のままだが、流石に聞き捨てならなかったようだ。

 

「いや……待てよ? ペパロニ、その提案……」

 

 その時、アンチョビが口を開いた。

 

 

 大洗女子学園、校舎の片隅で金髪碧眼の少女が携帯を手に何処かと連絡を行っていた。先ほど掲示板の告知を一歩引いて見ていた少女だ。

「……以上ガ現在ノ大洗ノ状況デス。のんな隊長」

『了解しました……良い時に潜入してもらえたようですね、同志クラーラ』

 通信機の向こうから聞こえる落ち着いた声。強豪校・プラウダ高校の隊長を務める『鋼の君主』──かつての『鋼の暴君』から僅かに異名が変わった──こと、ノンナの声である。

 クラーラと呼ばれた少女は流暢なロシア語で言葉を続ける。

「大洗戦車道めんばーハ、マダ諦メテハイマセン。廃校案ヲ覆ス、何カノ策ヲ狙ッテイマス」

『分かりました。引き続き潜入を続けてください』

「Понимание(了解しました)、アト隊長、モウ一ツ報告ガ……」

 そこまで言うと、クラーラは表情に申し訳なさを浮かべた。

『何かあったのですか?』

「……潜入時ニ乗ッテ来タT-34ガ、継続高校ニ鹵獲サレマシタ」

『………』

 

 

劇場版カタクチイワシは虎と踊る 第四話 終わり

次回「虎の宿借り、ムカデの名乗り」に続く


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