カタクチイワシは虎と踊る   作:ターキーX

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劇場版・カタクチイワシは虎と踊る
予告編PV


※本作は制作中のプロットを劇場版PV風にしたものです。実際の本編とは内容が異なる可能性がありますのでご了承ください。

 

 

 特  報

 

 

 「西住みほが存在しない大洗」において、一匹のイワシと虎が繰り広げた壮絶な戦い。それは西住姉妹の敗北と、大洗女子学園の優勝で幕を閉じた。

 隊長を務めた元アンツィオ統帥・アンチョビはペパロニ、カルパッチョと共にアンツィオに帰り、副隊長を務めた逸見エリカは大洗戦車道の隊長となり、それぞれがそれぞれの日常に戻っていた。

 だが───

 

 

 Trrrrrrr………

「……ああ、杏か。珍しいな、そっちから電話をしてくるなんて。この前のエキシビジョンの雪辱はまた今度晴らす……え? 何、どうしたって? 廃校? おいおい、その件ならもう解決……は? ちょ……な、何だってえ”え”え”え”え”!?」 

 アンチョビの叫びがガレージ内に響く。暫く話を続けた後、彼女は叩き付けるように受話器を戻しつつ言った。

「ペパロニ、カルパッチョ! 緊急事態だ、すぐに大洗に行くぞ!」

 

 

 ───この世界でも、戦いはまだ終わってはいなかった。

 

 

劇場版・カタクチイワシは虎と踊る 予告編

 

 

 踏み倒される口約束、封鎖される学園艦、再び大洗に迫る廃校の危機。

 新たなる戦いを余儀なくされる少女たち。しかし、彼女らを取り巻く環境は「本来の世界」よりなお厳しい。

 

 

「オオアライ……ああ、前の大会で優勝したところでしょ? そこがどうしたの?」

 バケツサイズのポップコーン容器に手を伸ばしつつ彼女、サンダース大学付属高校戦車道隊長であるケイは眼前の赤毛の少女、アリサに尋ねた。

「それが、この8月で廃校になるそうです」

「優勝したのに? Why?」

「噂程度の情報ですが、もともと廃校が決まりかけていたのを、優勝を条件に見直すという話だったそうです。ただ、それが結局通らなかったようで……」

「Oops! 酷い話ね」

 ポップコーンを頬張りつつ、ケイは憮然とした表情で言った。

「……ふぁふぁかっへみははったわね」

「……『戦ってみたかったわね』でいいんですよね?」

 

 

───サンダース大付属との接点なし。

 

 

「ダージリン様、出撃準備整っています! 何時でも行けますわ!」

 整備直後だったのだろう。顔にオイルを付けたままローズヒップはダージリンに言った。その背後には搭乗員が並び、すぐにでも搭乗できるよう備えている。

 しかしダージリンの表情には日ごろの穏やかな様子はなく仮面のように無感情で、その瞳には冷たさを感じる程の静けさがあった。

「……出撃許可は出しません。各員、元の持ち場に戻りなさい」

「え? ダ、ダージリン様?」

「この戦、聖グロリアーナは静観します」

「お、お待ちくださいませ!」

 今にも背を向けそうなダージリンに、ローズヒップは慌てて言った。

「この状況、大義は間違いなく大洗にありますわ! ええと、英国淑女がこの理不尽を見過ごすんですの!?」

 自分の語彙から何とかそれらしい言葉をひねり出し、ローズヒップは訴えた。

 だが、その言葉はダージリンの表情筋ひとつ動かせなかったようだ。

「……ローズヒップ、持ち場に戻りなさい」

 もう一度言い、ダージリンは彼女に背を向けた。その後ろに控えるペコが気遣うように呟く。

「ダージリン様……」

 

 ローズヒップの言葉の正しさは、ダージリンも当然分かっている。

 だがここで大洗側に加担して大学選抜と事を構えれば、その背後に居る島田流に弓引く事になる。そうなれば、良好な関係を築けてきていた聖グロと島田流の関係にも当然亀裂が入る事になるだろう。

 翌年の優勝のためにも島田流との繋がりを切る事はできない。冷酷な隊長と思われようとも、後輩の勝利のためにここは動かない。それがダージリンの決断だった。

 

 

───聖グロリアーナ、動かず。

 

 

「……まずは先の大会の優勝、おめでとう。高校戦車道連盟の理事長として、新しい流れの誕生を祝わせてもらうわ」

「ありがとうございます、理事長」

 檜の大机を挟み、西住しほの言葉に杏は頭を下げた。

 

(まずい、見誤った)

 

 杏の背中に悪寒が走る。

 将棋の達人同士の勝負は、最初の一手でその趨勢が見えるという。杏が感じたのがそれだった。

 

 なるほど、確かに戦車道連盟理事長としては高校戦車道が盛り上がる事は歓迎すべきことだし、ここ10年の黒森峰の連続優勝で少なからず硬直化していた大会も過去最大の反響だった事は喜ぶべき事だろう。しかし、ひとりの母親としては?

 

 もっと交渉の武器を用意してから来るべきだった。表面上の笑顔を崩さないまま杏は後悔していた。

 高校生ながら杏は3万人の学園艦を管理する生徒会長として海千山千の相手と交渉を繰り広げてきた。その嗅覚ゆえに彼女は感じ取ってしまったのだ。眼前のしほが理事長としての落ち着いた姿勢の影に、苛烈なまでの怒りを抑え込んでいる事に。

 

 

───西住流の支援は絶望的。

 

 

 果たして戦車を守る事はできるのか?

 各校の支援を得る事はできるのか?

 そして、そもそも文科省の決定を覆す事はできるのか?

 更にそれを乗り越えたとして……『彼女』たちに勝てるのか?

 

 

「……まるで映画だ」

 屋上から降ってきたCV38が煙幕をまき散らす。

 決勝戦の録画映像を見る4人の内、眼鏡をかけたスレンダーな女性が呟いた。

「噂通り、随分と破天荒な戦術を仕掛けるチームのようね」

 その横、ストレートの黒髪を肩口まで伸ばした女性がそれに返す。

「でも技量そのものは高校生レベル……隊長、どう思いますか?」

 更にその横に座っていた、4人の中でも最も豊満なプロポーションの女性が背後に声を向ける。

「……問題ない、この程度なら安定した勝利が可能だ」

 子供用のかさ高の椅子に座りつつ、その小柄な少女は外見と不相応な泰然とした態度でそう答えた。

 

 

 そこに加わる新たな戦車乗りたち。彼女らは敵か、味方か。

 

 

「……のんな隊長、以上ガ現在ノ大洗ノ状況デス」

『良いタイミングでそちらに行って貰えて幸いでした、同志クラーラ』

 撤収準備に生徒が駆け回る大洗学園校舎の影、大洗の制服を着た金髪碧眼の少女が物陰で何かの通信を行っていた。それに返ってくる落ち着きのある声。

「イイエ、コノ程度ハ容易イ事デス」

『引き続き偵察をお願いします。今晩の副隊長の子守歌役は私が代行しますので』

「イイエ、其レマデニハ必ズ戻リマス」

 クラーラは即座に言うと通信を切った。

 

 

「ンだコラァ!? ベルウォール舐めてっと怪我じゃ済まねえぞコラァ!」

「あァ!? そっちこそ去年負けといてアンツィオ馬鹿にしてんのか!? 病院でリゾットしか食えなくさせてやんぞオラァ!」

 そこでは二組の少女たちが睨み合っていた。片方はベレーと白シャツにネクタイ、白タイツに揃えたアンツィオの生徒たち、もう一方は『鐘壁魂』『夜露死苦』等と背中に書かれた特攻服やらロングスカート、ボア付きの毛皮のコートなど、全く服装に統一性の無い少女の集団である。

「やれるモンならやってみろやコラァ!」

「あ”あ”!? そんなにリゾット食いたいなら食わせてやんよオラァ!」

「今朝トマト畑で採れた新鮮な完熟トマトと、畜産科が育てた今朝搾りの牛乳をたっぷり使ったリゾットだオラァ!」

「普通に美味そうじゃねえかコラァ!」

 

「……何をやってるんだ、アイツらは」

 その光景を呆れたように見つつ、アンチョビは制止しようとした。

「おーい! お前ら……」

「コラ────!!」

 それをかき消すほどの大声が周囲に響いた。

「アンタたち、今日は大人しくしててって言ったでしょ!」

 アンチョビが声の方に振り向く。

 そこには、赤銅色の髪をツインテールに結わえた少女が怒りも露に立っていた。

 

 

「頼もう! 天下一の豆戦車乗り、アンチョビ殿はおられるか!?」

「……何スか、アンタ?」

 

 一言で言えば、「赤」が映える少女であった。

 頭に巻いた大きな赤いリボンに、胸元に小さく飾られた赤い水玉のリボン、そして搭乗している豆戦車、テケ車もこれまた赤く、そこには百足のマーキングが施されている。

 だが、応対したペパロニの眼を引いたのはその瞳だった。

 瞳の色が赤いという訳でもない。普通の黒い瞳だ。

 だが、その瞳の奥には炎めいた熱意があった。戦いを求める、熱狂めいた熱意が。

 

「名誉統帥なら留守ッスよ。今は大洗に行ってる」

「そうか……それは失礼した」

 思いのほか、その少女はあっさりと引き下がり礼をした。まるでアンチョビ以外には興味が無いかのように。

「……アンタ、アンチョビ姐さんとヤるつもりッスか?」

 そしてそれが逆に、ペパロニの戦車乗りとしてのプライドを刺激した。

「ああ、だが居ないのでは仕方な……」

「それなら」

 ペパロニはCV33から身を出し、自身の胸を指した。

「……この現統帥、ペパロニに勝ってからにする事ッスね」

 

 

 そして───

 

 

「西隊長殿、た、大変であります!」

 隊長室の扉を蹴破らん勢いで、一人の少女が駆け込んできた。福田との話を一旦止め、絹代は入って来た隊員、玉田に声をかけた。

「どうした玉田、そんなに慌てて」

 そう言われ、玉田は改めて敬礼すると背筋を伸ばし答えた。

「は! その、第十三番倉庫の封印が壊され、中の戦車が……!」

「何!?」

 絹代はその報告に衝撃を隠せなかった。即座に机の電話機を手に取り、ある場所に電話をかける。

「こちら西、非常事態が発生した。入院中の前隊長殿の所在確認を!」 

 

 

「あらあら、お嬢様……」

 のんびりとした口調。しかしその手足は高速で操縦桿を動かし、ペダルの踏み込みに緩急をつけ速度を調節する。動きにくい和服姿だというのに、その動きにはまったく扱いづらさを感じさせない。

「……それは、悪手ですよ?」

 菊代はそう呟くと、Ⅱ号戦車をティーガーⅠの背面に回り込ませた。

 

 

 果たして───『取り戻せ』るのか?

 

 

「やるしかないだろ、そりゃ」

 アンチョビはそう言うと、まだ湯気を立てるカプチーノを飲んだ。

「アンタね……それ、根拠があって言ってるの?」

 相変わらずの様子にエリカは安堵と不安が入り混じった表情で尋ねた。

「根拠を今から作るんだよ」

 

 

「それで、どうするの?」

「刹那主義には賛同できないね」

 焚火を囲む三人の少女。その内のひとり、ミカはアキの問いにそう答えるとカンテレを鳴らした。

「ミカ、勢いで皮肉っぽい事言うのは悪い癖だと思うよ? そんじゃ何でここ連日、BT-42のメンテナンスを徹底的にやってたのさ?」

「………」

 ミカは無言でカンテレを鳴らした。

 

 

 麻子は無言でCV38の操縦桿を握った。まるで暫く乗っていなかった愛馬の毛触りを確かめるように。

「……扱いづらいな」

「そうか」

「ああ、前と全く同じで、扱いづらい車体だ」

 全く変わっていない。操縦桿を動かす感触も、自分の挙動に対してどう動くかも。

「これなら行ける。勝つぞ」

 

 

「合わせるわよ、みほ!」

「はい、逸見さん!」

 

 

 劇場版・カタクチイワシは虎と踊る  

 現在執筆中 2017年夏 更新開始予定

 

 

「……この際、全員アンツィオに転校するってどうッスか?」

『それだ!』

 直後、発言したペパロニとカバチームの4人は桃と柚子に資料で頭をはたかれた。


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