葉山になっちまった   作:町歩き

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ある意味、はやはちです。


困ったことになっちまった。

──比企谷。頼む、起きてくれ、比企谷! 比企──

 

 

「……あ? まだ暇つぶし機能付き目覚まし時計がなってねーだろが」

 

誰かの声が聞こえたような気がして、俺は瞼を開く。

見たこともない天井が目に映る。身体を起こし周囲を見やると知らない部屋。

そこに置かれたベットで俺は眠っていたようだ。

 

頭を振る。どこだ、ここ?

 

比企谷……。良かった、起きてくれたか。

 

すぐ傍で安堵したような男の声が聞こえた。いや違う。これは……。

 

葉山か?

 

そうだ、比企谷。葉山だ。葉山隼人だ!

 

やばいな俺、どうやら疲れているようだ。頭の中に直接、葉山の声が聞こえるなんて。

こんなの海老名さんに知れたら大変なことになちゃうぜ。

 

ははっ、全くだ。姫菜に知れたら大変だよ。

 

葉山は苦笑しながらいう。

いやちょっと待て。そんな事よりもっと大変なことが起こってないか?

 

なあ葉山。ちょっといいか?

 

なんだ? 

 

なんでお前、俺の頭の中で喋ってんの? つーかこれ、どんな手品なんだ?

 

葉山が考えるような仕草をする。

それが理由はわからないがなんとなくわかった。というか感じた。

 

俺も比企谷が起きる少し前に起きたんだが、起きたらこうなってたんだ。

それで目覚めても体が全然動かせなくて、それでもなぜか比企谷がいるってわかったから

ずっと呼びかけていたんだが……

なかなか比企谷が起きてくれなくて困ってたよ。

 

そうか……。なんか悪かったな。

夕べ遅くまでアニメを見てたからな。寝たのが明け方近くだったんだ。

リゼロって知ってるか? すげえ面白いからお前も見てみるといいぞ。

社会の厳しさを教えてくれる良いアニメだ。まあ少し厳しすぎるところがあるがな。

 

ああ。この状況がどうにかなったら見てみるよ。

 

おう、そうしてくれ。

まあなんだ。葉山お前さ、取り敢えず出っててくんない? 俺の頭から。

 

いや、それは……。

 

葉山が言いづらそうに口篭る。ったような気がした。

 

つーかここ、どこなんだ? 見たことない部屋なんだが。

 

いって、ぐるりと部屋を見渡す。

広さは大体十二畳くらい。高そうな黒檀の机にセンスの良い家具がモデルルームみたく

お洒落な感じに配置されている。

窓の外に目を向けると、見覚えのない景色が広がっていた。

 

……ここは、俺の部屋だよ。

 

ほーん。これが葉山の部屋か。

やっぱイケメンリア充は、部屋のインテリアまでイケてるのね。

 

比企谷……。インテリアにイケメンやリア充、関係なくないか? 

 

うるせー、あるんだよ。てか葉山。人の考えてること勝手に読むんじゃねーよ。

個人情報保護法知らねーのか、お前は。

 

いや、比企谷。比企谷の考えてることが、勝手に流れ込んでくるんだが……

 

えっ? マジで?

 

ああ。

 

いわれてそちら、上手くどちらとは言えないが、葉山のいるような気がする方へ意識を集中すると

葉山の困っている気持ちがありありと感じることが出来た。

 

いやほんと、なんだこれ……。

 

全くだよ。比企谷が起きるまで俺もあれこれ考えたんだけどな。

わけがわからないってことしかわからないんだ。

 

葉山……。つかえねーな、お前。

 

いや、そういわれても……。ところで比企谷。

 

なんだよ。

 

その……。トイレに行きたくないか?

 

いわれてみると、確かに尿意を感じる。

 

いやちょっと待て。それってなんか困ったことにならねーか?

嫌な考えが頭に浮かんだので、頭の中にいる葉山に尋ねてみる。

 

なあ葉山。お前って今、俺と同じものが見えてんの?

 

ああ。多分だが、五感を共有しているんだと思う。

ただ……。比企谷、ちょと右手を持ち上げてみてくれないか。

 

いわれてその通りに右手を軽く持ち上げてみる。

ってあれ? この手誰の手?

 

見覚えのない手、しかし動かしているのは自分の意思。

慌てて布団を引き剥がし、全身隈なく視線を走らせる。

血の気が引く。誰の身体だ、これ。

 

普段の、というと変な言い方だが他に言い様がないからそういうが、

それとは違うがっしりとした筋肉質な体つき。俺の、比企谷八幡の身体じゃない。

 

それに気づくと心臓の鼓動が早くなる。

ついでに頭皮にはじわりと汗が滲み、呼吸が詰まり、背中に冷たい汗が流れる。

あまりに現実離れした状況に気分が悪くなる。

 

比企谷。大丈夫か?

 

心配そうな葉山の声。

 

大丈夫じゃねーよ……

 

ふらつく足でベットから降りると、壁に掛かった鏡に向かって歩き出す。

多分、俺が予想しているものが、そこには映るだろう。

そんなもの見たくはないが、どうしても確認しないわけにはいかない。

 

鏡の前に立つ。

深く息を吐き出来るだけ気を鎮めてから、ゆっくりと顔をあげる。

 

鏡に映ったのは案の定、葉山隼人の顔だった。

 

 

 

 




あるかわかりませんが、それでは次回で。

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