Fate/Scramble   作:DF946

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緋咲家の朝

 彼は目を覚ますと、周りを見渡した。

 

 知らない天井。広い部屋。

 大きな窓から差し込む朝の光。鳥のさえずり。

 

 天蓋のあるおおきなベッドで寝ていたようだ。

 

 

 そこで思い出す。

 彼は昨晩ヒザキ・レンに召喚され、記憶喪失のままだったのだ。

 

 一晩経って変わっているかと思えば、これが夢ではないと思い知らされただけだったようだ。

 

 彼はベッドから起き上がると、シーツに足が絡まり床に転がり落ちた。

 

「うわへっ」

 

 バタン、とコケて頭をぶつける。

 

「いってて……つっー」

 

 その音で気付いたのか、緋咲が部屋の入り口で、彼の事を痛々しそうに見ていた。

 彼女はもう外行きの服に着替えている。黒のジーンズにグレーのタートルネックだ。

 

「やっと起きたのね」

 

「あ、うん。おはよう」

 

 緋咲はそのまま、リビングの方へ歩いて行ってしまった。彼が急いでその後をついて行く。

 

 

 

 ダイニングに行くと、いいにおいが漂っていた。

 

 マホガニー材の大きなテーブルの上には既に、高級そうな食器が並べられている。

 真ん中には籠に入ったバゲットや、花が替えられたばかりの花瓶が立てられていた。

 

「うわーすげえ」

 

 彼がソワソワしている横で、緋咲はスープを皿に注いでいる所だった。

 

「ミネストローネ。口にあうといいけど」

 

 彼の前にも朝食が置かれ、緋咲が対面の椅子に据わる。

 

「あ……ありがとう」

 

 彼も椅子に座った。

 

 緋咲が長々と祈りの言葉を口にしている間に、彼は「いただきまーす」といってスープをすすった。

 

「うわ、これおいしい! 緋咲さんが作ったの?!」

 

 緋咲は祈りを止めると、そっけなく「そうよ」と言った。その割に少し嬉しそうだった。

 

 明るい中改めて彼女を見ると、彼よりも少し大人びて感じた。

 20代後半くらいだろう。落ち着いたセミロングの黒髪が似合っている。

 夜中に話した感覚ではただ若い女性というだけの印象だったが、しっかりした性格の美人だと思った。

  

 

 

 

 2人が食事をしていると、部屋の隅からテレビのニュースが聞こえていた。

 なにやら、このところ連続で起きている事故について話しているようだ。

 

『被害者は意識不明の重体で病院へ搬送されました。原因不明のこの症状は今月に入り5度目で、現在ガス漏れ事故の疑いがあるとみて調査が進められています』

 

 

「ーー今月5度目ね」

 

「ん? この事故ですか?」

 

 彼が聞くと、彼女はつまらなさそうに答えた。

 

「あれは事故じゃないわ。どこかのマスターが動いてるのよ。サーヴァントに人間の生命力を吸わせてるんだわ」

 

「は?! サーヴァントに?! なんでそんな事!」

 

 彼の驚きに緋咲が答える。

 

「マスターの魔力消費を抑えるためよ。サーヴァントは活動の為にマスターからの魔力供給を必要とするの。その魔力を供給する代わりに、サーヴァントに人を食わせてるんだわ」

 

「そ、そんな。それじゃ、まるで……」

 

 彼は憤りで何かを言おうとして、考えた。自分が何を想像したのか、自分でも分からなかった。

 

「まるで、怪物にエサを食わせてるみたいでしょ」

 

「そうだよ、それだよ! なんで関係の無い人を巻き込むんだ!」

 

 彼は聖杯戦争への不快感が強まるのを感じた。

 

「勝つためでしょ。正攻法の一つよ。……ただ活動範囲を私たちに知らせてる、愚かなやり方だけどね」

 

 ふざけてる。例え令呪とやらで命令されても、絶対に人を襲ったりしない。と、彼は心に誓った。

 彼もサーヴァントとして召喚された身なのだ。

 

 

「ところで、あなたの名前が無いのは不便ね。クラスも不明だし、何て呼べばいいのか分からないわ」

 

 緋咲にそう言われ、彼は一瞬だけ、考えた。

 

 

「ーーシンジ」

 

 

「え?」

 

「なんか、今思い浮かんだんだ。俺の名前。……かどうか分からないけど、〝シンジ〟だった気がする……」

 

 緋咲はふっと微笑む。

 

「じゃあ、今はシンジでいいわ」

 

 

 

 食事を終えると緋咲は立ち上がって言った。

 

「敵陣調査するわよ。仕度して」


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