クロノスとセイバーとバーサーカーを引き連れて、俺の家に来た。
夜だからあんまり人が居なくてよかった。鎧を着た女の子二人といっしょに歩いているのは、だいぶ恥ずかしかった。
俺の家はボロボロの安アパート4階の角部屋だ。
ーーーーお察しの通り、俺は苦学生だ。
「ここかい?」
クロノスがボロアパートを見上げながら聞く。彼のトーンに感情がなくて救われた気がした。
「はい」
階段を上がり、最上階の俺の家のドアの前までみんなが来る。
「言っておきますけど、めちゃくちゃ汚いですよ。あと狭いからみんな入れません」
「ああ、いいよ。間森くんの家が確認できたから、私たちはすぐに帰るよ」
「そうですか。すいません、なにもおもてなしできずに」
「とりあえずこのバーサーカーを君の家で飼っておかないとな」
俺達は後ろのバーサーカーを見た。
バーサーカーは階段の手すりをガジガジとかじっている。
「あの鎧、脱いでもらえないですかね」
嵩張って、部屋の中だと邪魔になる。クロノスが答えた。
「英霊はみんな実体を消す事ができるはずなんだが、……君の魔力が足りないせいで常に実体化したままのようだね。
君が頼めば着替えてくれるかもしれないな。まぁ、彼女の意思次第だが」
「そうですか……」
バーサーカーは唸りながら、隣の人の壁に頭を打ちつけ始めた。
「バーサーカー、ちょっ、お隣さん起きちゃうから! しー! あ。えっと、この子の名前なんでしたっけ?」
「アルトリアだよ」
「あ、アルトリア! はいはい、いい子だから。どうどう」
アルトリアは暴れるのをやめると、俺の事を睨みながら歯ぎしりした。
クロノスは俺と連絡先を交換したあと、階段を下りて行った。
「じゃあ、また今度。君の家には結界を張っておいてあげるよ」
クロノスはセイバーに「行くぞ」と声をかけると、俺達を残して階段を下りて行った。
俺は、アルトリアと2人だけになった。
「ーーえーっと、……とりあえずウチ入る?」
ドアを開けると、俺はアルトリアと一緒に家の中に入った。
電気を点けると、俺の四畳半が貧乏臭く照らされる。
床は畳んでいない洗濯物が無造作に散らばり、テーブルの上はプリントやカップ麺のゴミで埋め尽くされている。本棚の漫画は乱雑すぎて雪崩を起こしかけていた。
「ち、ちょっと散らかってるけど、すぐ片付けるよ」
俺はアルトリアが手に取ったアダルト本を取り上げると、床にあるものを一通り、母さんが送って来た仕送りの段ボール箱に放り込んだ。
部屋が狭いのと、家具がほとんどない事もあり、片付けはすぐに終った。
アルトリアは不貞腐れたような顔で立っている。
「とりあえずその鎧、脱がない? 邪魔でしょ」
「がるる……」
全身すごい重そうな鎧だ。
俺がどう説得しようか迷っていると、アルトリアが突然光りだした。
「おっ!?」
光が消えると彼女は、一瞬にして服を着替え終わっていた。
「おおー」
青いリボンのついた白シャツに、ひらひらの無い青いスカート、黒いストッキングだ。普通にかわいい。
全然騎士らしさが無くなった代わりに、彼女の性格の狂い具合が強調されたように見えた。
鎧が無くなって心もとなくなったのだろう。破壊衝動を抑えられなくなったらしく、ティッシュの箱を破き始めた。
「んー……、まあいいや。お風呂どうしよう……」
この家は狭すぎて、友人と遊ぶ時などはいつも友人の家の方に行く。ましてや人を泊めた事など一度も無い。
「あの、アルトリア? お風呂入る? ユニットバスだからシャワーだけど……」
ティッシュを200枚まとめて引きちぎっていたアルトリアは、苛ついた顔をこっちに向けた後、一回だけ頷いた。
「あ、うん。じゃあバスタオルここ置いとくから適当に入って。あとパジャマないから、俺のジャージでもいい?」
彼女がシャワーを浴びに行ったので、その間に部屋を片付けておく。
もう一つ重大な問題が浮かんで来たんだけど、……うちには布団が一枚しかない。
一人暮らしの寝床として使っているだけの家だから当然だ。まさか女の子を泊める事になるなんて思ってもいなかったのだからどうしょうもない。
まさかそんな一つの布団で2人なんてそんな
いろいろ考えた結果、敷き布団も掛け布団も横にして、脚とか飛び出す形にすれば2人とも寝れるんじゃないかと思い至った。
俺が布団を敷いていると、風呂から上がったアルトリアが、バスルームから出て来るところだった。
あ。
俺のジャージを着ている……。
濡れた髪をバスタオルでフードみたいに覆い、上気した頬で満足そうな表情をしていた。
なんかドキドキする。
俺は初めて見た彼女の怒っていない顔に、一瞬だけ見蕩れてしまった。
ぶんぶん、頭を振る。
「あ、上がったんだ。じゃあ俺もシャワー浴びてくる」
アルトリアは敷かれた布団に飛びつくと、俺の枕に噛み付く。
家の中をメチャクチャにされそうで怖かったけど、入れ替わりで俺もバスルームに入った。
シャワーを浴びながら、今日の事を考える。
なんか現実味がなくて不思議な気分だ。今日は長い一日だったな……
バスルームから出ると、布団はアルトリアが占領していた。
疲れて眠ってしまったらしい。
静かに寝息をたてる彼女の寝顔は、女の子らしい見た目相応で、とても可愛らしかった。
「……しょうかないな」
俺は苦笑いすると、部屋の隅で座布団をしいて寝る事にした。
俺の枕の綿が、床に散らばっていた。