「なるほど。わかりました」
予想はしていたが、クロノスと俺との協定は単純な利益関係の仲間だった。もしバーサーカーが騎士王と呼ばれているこの子ではなかったら、この協定は無かったのかもしれない……。つくづく運が良かったらしい。
「それより、さっきの男に追われて勝手にここに逃げ込む途中で、ここのおじさんが殺されたんです!」
俺はさっきから心にひっかかっていた事を言った。
「ぁぁ、殺されたか……」
やっぱり、クロノスの知り合いだったらしい。
「こっちです。来て」
俺はクロノスとセイバーに合図すると、元の廊下を戻った。
あのおっさんと、銀髪の男と、ひげ面の大男の血が混ざり、グロテスクな赤に染まっている。
クロノスとセイバーがついてくる後ろで、バーサーカーが立ち止まっている。
俺が「お前も」と小声で呼ぶと、彼女もついて来た。
屋敷の玄関の三和土まで来ると、その殺人の凄惨さが物々しく広がっていた。
爆発した身体を中心に円状に血しぶきが広がり、バラバラになった腕や、骨肉片や、上半身の吹き飛んだ下半身が転がっている。
俺は再び込み上げて来た吐き気を抑えつつ、クロノスに現場を見せた。
「ほぉ。実用的な魔法だな……」
クロノスは、この惨状を見ても平静でいられるのか、眉一つ動かさずに眺めていた。
「け、警察に連絡しましょう」
俺はケータイを取り出す。
バラバラの死体を見たセイバーの子は、さすがに気分が悪そうな顔をしていた。
「いや、いいよ。面倒な事になる。こいつも魔術師だからね。後始末は私がするよ」
クロノスは俺にケータイを下げさせると、何か呪文を唱えだした。
「うわっ!」
とつぜん俺の身体が青く燃え始める。
「あつっ!なんだこれ!あつっ……くない」
俺の身体にまとわりつく炎は、全く熱くなかった。
それと同時に死体の破片や壁についた血痕や血溜まりも燃え始め、次第に炎がおさまっていく。
その炎が消え去ったあとには、血溜まりも死体も、俺についていた返り血も、まるで最初から無かったかのようにきれいに消えていた。
「す、すげぇ……。綺麗になった」
「彼が生きていた生体的痕跡は全て消しておいた」
クロノスが抑揚のない声で説明する。
「彼はこの家の主人だったんだ。聖杯戦争に参加する為に、私と手を組み、サーヴァントを召喚する儀式を始める最中だった。ーーそこに君が乱入してきたんだよ」
セイバーの子が言葉を次いだ。
「わたしはその間、屋敷の周辺を見張っている時に、敵のサーヴァントの攻撃を受けていたんです。思わずあの男との戦いに夢中になってしまい、このような事に……」
「いやいいさ。逆に私に有利に働いた。この屋敷の男のことなんてどうでもいい。だから防衛結界も張らなかったんだ。私は〈鋼鉄のロザリオ〉を持っていたから無傷だしね」
俺はだんだん、クロノスという男の性格が分かって来ていた。
合理的で常に自分の利益だけを考えている。きっとこんな戦いを、幾度も無く続けて感情が摩耗してしまった魔導士なんだろう。
「さあ、これでここに用は無くなった。間森くん、君の家に行こうか」