「待って。私のシンジがサーヴァントじゃないって言うの?」
緋咲がセイバーに問い返した。
「まだわかりません。ですが、シンジさんだけが明らかに存在がおかしいじゃないですか」
「おかしいってどういうことよ」
「いまだに真名を思い出せていないし、サーヴァントにしては弱すぎます」
二人が議論する横でシンジはどうすればいいかわからなくなっていた。
「召喚酔いが残っているだけよ」
「長すぎます。緋咲さん程の魔力で召喚されて、よほど強力な英霊でない限りこんな長い記憶障害が起こるはずありません」
「じゃあ何が原因だって言うの? 私にはちゃんと令呪が出てるのよ」
聞かれて、セイバーは考えを答えた。
「シンジさんは、サーヴァントじゃないと思います。聖杯の不備で間違えて召喚されたどこかの一般人です。……聖杯戦争に参加した魔術師全員のサーヴァントが、シャッフルされているのかも……」
「なん……」
緋咲は何かを言おうとして、口を閉じた。
シンジと間森も、その可能性に思考を奪われ何も言えなくなっていた。
ーー他の魔術師とサーヴァントが入れ替わっている。
そんな事があり得るのだろうか。聖杯のシステムに故障など起こるのか?
それなら、緋咲のサーヴァントは別にいるのかもしれない。
魔術師の相性と違うサーヴァントが多すぎる理由もここに?
「くだらない」
考えるシンジの隣で、緋咲が声を出した。
「あなたの空論なんてあてにできないわ。私たちはもう帰る」
行きましょう。とシンジに声をかけ、緋咲は帰ろうとする。
「ええっ、ちょっと、待っ」
シンジは間森とセイバーに別れの言葉を言い残すと、慌てて緋咲についていった。
「どこ行くんですか緋咲さん!」
早足で歩く緋咲の後ろから、シンジは声をかけた。
緋咲は振り返らずに答える。
「帰るのよ。攻撃されたくないもの」
「……俺が、サーヴァントじゃないと思われたら、狙われると思ったんですか?」
セイバーは間森に従うように命令されているはずなので大丈夫だと思いながらシンジが聞くと、緋咲は憮然として言った。
「あなたはサーヴァントよ。絶対に。じゃなかったらあんな夢……」
緋咲は自分に言い聞かせるように呟いた。
「緋咲さん……」
彼女は、シンジが英霊である事を信じているのだろう。
シンジはその期待を感じてしまい、少しだけ下を向いた。
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