ふたりは、剣を構えたまま睨み合っている。
「いい判断だ」
男はいつの間にか手にしていた銃を懐にしまった。
「狂戦士になった騎士王との一騎打ちなんて、私のセイバーでも勝てるか分からなかったからね」
「勝てます」と赤い髪の女騎士は憮然として呟いていた。
「君が彼女を止めていなければ、私は君を殺して逃げていただろうな。マスターさえ居なくなればゲームオーバーだからね」
男が落ち着いた声で言う。
聞き違いじゃ無ければ、この男は俺を殺すつもりだったって言ったのか!?
「もう一度聞くが、私と手を組まないか? そうすれば休戦関係を約束する」
「ちょっと待ってくれ、最初から説明してほしいんだけど。とりあえず休戦しよう!」
男はほっとしたような表情を見せた。ように見えた。
「いいだろう」
男は俺に説明してくれた。
「私の名前は畔野巣終始。クロノスとでも呼んでくれ。友人に付けられたアダ名でね、気に入ってるんだ」
クロノスは感情の無いような真っ暗の目で微笑む。
「こっちは私のサーヴァント、セイバーだ」
「よろしくね」
赤髪の子が微笑んだ。
「よ、よろしく。あ、俺は|間森(まもり)|闌蹴〈たける〉です」
「で、あっちがお前の契約した英霊。バーサーカーだ」
クロノスがバーサーカーを顎で指す。
バーサーカーと呼ばれた金髪の少女はまだ敵意を剥き出しにした目で「グゥゥ……」と唸っている。
バーサーカーの見た目は16〜18歳くらいだろうか。普通にしていれば見た目は気品があり、美少女といって差し控えないのだろうが、行動はものすごく獰猛な猛獣か狼人間みたいな雰囲気だ。
クロノスの説明によると、俺は「聖杯戦争」という、魔術師同士の抗争に強制参加させられたらしい。
魔術師などという非現実的な単語を言われても、今更俺に信じない理由は無い。
聖杯戦争は召喚者(マスター)と英霊(サーヴァント)の2人一組が、計7組。それぞれ殺し合い、最後に残った一組の2人が、自分の願い事を叶えられるらしい。
英霊(サーヴァント)は過去と未来における伝説の戦士の事であり、聖杯戦争を仕切る「聖杯」というものに選ばれて、マスターの元へ召喚させる。
サーヴァントは半霊体のような存在で、人間には不可能な強力な魔力を使って闘えるらしい。
そしてマスターとサーヴァントは、令呪と呼ばれる絆で結ばれている。
「右手の甲にそれが浮かんでいるだろう。それが令呪だ。それは3回まで使えて、使用するごとに消えていく。君はさっき戦いを止める為に命令したから、残り2回だな」
令呪は3回まで、サーヴァントに拒否権の無い命令を強制する事ができるらしい。
そして3回令呪を使い果たすと、契約は解除されて聖杯戦争から除外される。
……もし俺が3回の命令を使い果たし、バーサーカーとの契約が切れたら、殺戮に餓えたバーサーカーは……
「そこで君と私は停戦協定を結んだんだ。敵は2人一組、こちらは4人一組になり優位に立てる。君は分けも分からず殺される事はなくなるし、私は騎士王の力を借りて闘う事ができる。利害が一致するだろう?」
「うん。そうですね……」
でも、もし
「もしその戦いで、俺達4人が最後に残ったら、どうなるんですか?」
クロノスは、感情の見えない声で断言した。
「もちろん、そのときは全力で倒しにかからせてもらうよ。それまでの停戦協定だ」