間森たち四人は、昨日話し合いに使った喫茶店に行くことにした。
歩きながら、間森は緋咲から昨日あった出来事を聞いていた。
ーー
「ってことは、その公園で死んだサーヴァントは誰が殺したのかも、誰がマスターだったのかもわからないんですね?」
「ええ。それどころか、どうやって死んだのかも分からないわ」
6人目だった名前も知らないサーヴァントの死因が、緋咲の心を不安にさせていた。
「もしかして、寿命じゃないかな……」
シンジが仮説を話し出す。
「マスターを失ったサーヴァントは消えるんですよね? だから魔力が切れたサーヴァントがあそこで消えたのかも」
確かにそれなら他のサーヴァントからの魔力が検出されない場所で死んだ説明はつく。
「でも、あのサーヴァントは腹から血を流して死んでいたわ。何かしらの物理攻撃はあったと思うけど」
緋咲が不整合を指摘した。
それを聞いていたセイバーが口を挟む。
「自殺では?」
「状況は説明づけられるけど、それじゃあもっと意味が分からないわね。わざわざ召喚したサーヴァントを、その場で殺すマスターはいないわ」
そのサーヴァントが死んだ公園には、概念化された触媒が散在していた。
つまりあいつは、あの公園で召喚された直後だったと言うことになる。
召喚された直後に、敵に襲われたのか。
それとも召喚したマスターに殺されたのか。
どちらにせよ、殺した相手は魔力を持たない、サーヴァントでもないただの人間だったと言うことになる。
「わからないですね……」
間森は首を振って思考を放棄した。
「その消えたサーヴァントって、何のクラスだったんでしょうね」
間森の問いに、緋咲が答える。
「唯一残ってたサーヴァントの痕跡はライダーだった。だからあいつはきっと、ライダーで間違いはなさそうよ」
ライダーのサーヴァント……。
名前もわからないまま消えてしまったそいつに、間森は歯がゆさを覚えた。
「と言うことは、シンジさんのクラスは《魔道師》〝キャスター〟と言うことになりますね。消去法で、今までに遭遇していない最後に残っているクラスは、キャスターだけですから」
セイバーにそう言われ、シンジは曖昧にうなづいた。
自分が《キャスター》だと言われても、魔道師だったなどという自覚は全くないのだった。
「一番シンジに似合わないクラスね……」
緋咲も納得しかねる様子で呟いた。
しばらく歩くと、喫茶店の近くの通りまで歩いてきていた。
空は少しだけ薄暗くなっている。
四人は喫茶店が見える道に出た途端、違和感を感じて歩速を緩めた。
「えっ……」
間森が声を出す。
一番最初に気づいた異変を、緋咲が呟く。
「お店が……無い?」
四人が立ち止まり、店があったはずの場所に目を凝らす。
昨日まであったはずのその場所には、瓦礫が積み上げられた空き地ができていた。
その周りに数台のパトカーと救急車が止まって騒がしく人が集まっている。
「何だ……」
シンジが眉を寄せて、人に囲まれた瓦礫の山を見る。
その散らばっている残骸は、紛れもなく昨日まであったあの喫茶店の建物の一部だった。
喫茶店がなくなってる。
昨日、聖杯戦争参加者が6人も集まった場所。
偶然とは思えない。
間森たち四人は不穏な気配に騒然となった。
一旦四人はその場を離れ、建物の間で話し合いが起きる。
「サーヴァントの仕業ですね」
セイバーが呟く。
「今までの事件と同じです。店に居た人の霊力を吸収した犯人が、隠滅のために建物を壊したのでしょう」
「そんな」
シンジは困惑した。
今まで何度も起こっていた事件が、不意に身近なものに感じる。
建物まで倒壊させるなんて。
「それに、サーヴァントの魔力の痕跡が残ってる。ここで、召喚されたサーヴァントが一人死んでるわ」
「え? どういうことですか??」
サーヴァントが死んだだけじゃない。緋咲は、ここで召喚されて殺されたと言ったのだ。
「何が起きてるのかは私にもわからないけど、サーヴァントが殺されてるのだけは分かったわ。この魔力は、《ランサー》のサーヴァントよ。しかも、それ以外の魔力は感じない……」
シンジと間森は顔を見合わせた。
昨日、公園で死んだというライダーと同じ状況だ。
「それは確かなんですか?」
懐疑的にセイバーが、緋咲を問いただす。
「ええ。私には魔力の痕跡を感じる力があるの。あの場所にはランサーの魔力が確かに存在してて、他のどのサーヴァントの干渉もなく死んでるわ」
「……ありえない。何かの間違いです。だって……」
セイバーが動揺した声で、目線を外したまま呟く。
「……それじゃあ、サーヴァントが8体になります」