「また、あなたに助けられたみたいね……」
立ち上がった緋咲が、間森に言った。
体裁が悪く、素直に喜べないようだ。だが命を助けられた感謝が込められていた。
「大丈夫でしたか? 緋咲さん、なんで二対一なんかで戦っちゃうんですか」
間森が心配そうに緋咲のそばへ歩いていく。
「大丈夫よ。あの程度のサーヴァントなら負けないわ。……でも、ありがとうね」
その隣でセイバーも近づいてきた。
セイバーの姿を見て、緋咲が目を細める。
「なんでセイバーがいるの?」
セイバーと緋咲、二人の間に敵意が見え隠れしていたので、シンジが口を挟む。
「今、間森くんとクロノスさんが、サーヴァントを交換してるんだ」
「交換……? へぇ、あの男は結局、間森くんの持ってる最強のバーサーカーを使いたかったって事ね」
間森はその緋咲の言葉に、少しだけ顔を伏せた。
彼女の言う通り、クロノスとの協力関係は一方的な彼の利益に基づいているのだ。
そんな彼の様子を見て、セイバーが口を挟んだ。
「間森さんは、私と一緒にいる方が安全です。制御できないバーサーカーと一緒にいる事で被害を増やさないようにという、マスターのお考えなんです」
セイバーの発言に、緋咲は冷ややかに言葉を返す。
「そうかしら。リストラされたことに対して自分なりに正当化しようとしてるみたいに聞こえるけど」
セイバーは冷静なままだが、少しだけムっとしているような目になった。
「まあまあ。せっかく集まったんだし、みんなでちょっと話そうよ! どこか座れるところ行こう!」
シンジはその場をとりなすと、全員でどこかに行くことにした。
*
アルトリアは、クロノスの後ろを歩いていた。
まばらに木の生えた林の中。
どこかの古民家へ向かうような道。
(コロシタイ……)
アルトリアは男の背中を睨みながら歯を食いしばった。
今、剣をこいつの頭に降り落とせば殺せるだろうか。
こいつを殺せば敵が一人減る。
マスターに怒られる。殺しちゃいけない。
剣を固く握りしめながら彼女は、殺戮衝動に抗っていた。
「バーサーカー。もうすぐ敵陣の結界内だ。背後は頼んだぞ」
クロノスが後方のアルトリアにつぶやく。
アルトリアの息が荒くなった。
もう我慢できない。早く誰かを殺したい。
騎士道精神が痛まないように、武器を持った強い奴を真正面からブチのめしたい。敵が欲しい!
「バーサーカー……?」
様子がおかしいことに気がついたクロノスが、後ろに目を向ける。
白い息を吐きながら、食い縛った歯の間からヨダレを滴らせた彼女が、煮え滾る狂気の目でクロノスを睨みつけていた。
「ーーーッ!?」
その直後、彼女の大剣が振り降ろされていた。
バゴン!! っと鈍器が叩きつけられたような重い衝撃を響かせ、頭上に構えられた彼の左腕が剣を受け止める。
やっとこっちを向いた。これで正面から剣をぶつけられる……
「やめろバーサーカー!」
ビリビリと大気が震え、電流と風が周囲に拡散して消えていった。
そのまま睨みあう。
クロノスの腕は鋼鉄でできているかのように、素手であるはずなのにアルトリアの大剣を受け止めている。
「私が死にそうになったら、令呪を使ってセイバーに間森くんを殺させる」
クロノスは抑揚のない冷酷な声で、彼女の目を見ながら言った。
「わかるだろ。ここで戦ってもお前に勝ちはない。……もうすぐ敵の本拠地だ。力は、そこで存分に振るうがいい」
「Grrrrr……」
アルトリアは数秒間睨み合った後、ようやく力を抜き剣を収めた。
クロノスが背を向けて、また歩き出す。
もうすぐだ。
なんでもいい、早く戦いをーーー