俺は、戦場に立っていた。
どこか知らない場所。
死体の山。
夕焼けの空。
でもなぜか、また戻ってきてしまったと、感じた。
ランスロットが俺の腕の中で消えていく。
俺の叱責を求めていたと言って。
ランスロットって誰だろう。……鎧を纏った男、円卓の騎士。
聖杯戦争で、俺が倒した。
俺の大親友……。
グィネヴィア……。俺にどうすればよかったって言うんだ。
「みんな……ランス……ロット……」
震える泣き声が俺の口から溢れた。
涙が止められない。
「ごめんなさい。……ごめんなさい」
俺が、彼女の声で泣く。
みんな俺のせいだ。
「私が……私なんかが!」
……王になるべきは、私ではなかった。
いつか、必ず、聖杯を手に入れなければならない。
俺が歴史を変えなければ。
こんな結末は許せない! 俺が王だったせいで! 俺が剣を引き抜いてしまったせいで!
気づいたら目の前に聖杯があった。
巨大な、コンサートホールのような建物の中。
金色の杯が宙に浮いている。
求めていた物。
あらゆる願いを果たす万能の成願具。
自らの手には、黄金に輝く聖剣が握られ、それが聖杯に向かうように天高く掲げられていた。
「第3の令呪を持って、重ねて命ずる」
マスターの言葉が俺に向けられてくる。
俺に、聖杯を破壊させようとしている。
いやだ。絶対にいやだ!!
「やめろぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
俺の悲痛な叫びが迸る。
マスターの非情な命令が下った。
「セイバー。聖杯を、 破壊しろ 」
俺は抵抗した。
全神経を持って。
しかし体は令呪に従い、聖杯に向けて剣を降り下させる。
剣から光が発し、辺りがおぞましい爆発に包まれる。
俺が求めてきた聖杯が、一瞬のうちに、自らの手で破壊されようとするのを見ながら、俺の体は消滅するのを感じた。
ああ、これは、すべて
人の気持ちがわからない王に課せられた、罰だったのかもしれない。
爆発が、すべてを掻き消した。
怒りが、衝動が、俺の頭の中を満たした。
何が妄執だ。何が妄想だ!
この程度で何が王だ!!
なんで俺の邪魔をする! 聖杯は俺のものだ!!
みんな殺してやる!!
俺の邪魔をするやつら全員!!!
聖杯は俺のものだ!!
聖杯は俺の! 俺のものだああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああ
ああああああ あああ
あああああ ああああ
あああ あ あ あ
ああ あ あ
あ
あ
あ あ
ああああああああああああああああああああ!」
ガバッ!!
俺は汗だくになって布団から跳ね起きた。
朝だ。
自分の、叫び声で目が覚めた。
全く同時にアルトリアも飛び起きていた。
俺と目が合う。
アルトリアも全身に汗をかいて恐怖で目が引きつっていた。
息が荒い。
何だ今の。何なんだ。半分ほど何を見たのか、記憶が消えかけている。
毎晩この夢を何度も見た気がする。俺じゃない。アルトリアが毎晩見ている夢だ。
今のは彼女の記憶。トラウマの全て。今までで一番強烈に思い起こされた過去。
手が震えている。
アルトリアも放心で目が小刻みに震えている。
「あ、アルトリア……」
俺が声をかけようとすると、彼女は飛びずさり、壁際で体育座りのまま自分を庇うように肩を抱いてしまった。
俺にはわからない。何を見たのかも忘れてしまった。
でも彼女の抱える願いの、
闇の一端を、垣間見たような気持ちになった。