Fate/Scramble   作:DF946

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自害するランサー

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。 祖には我が大師シュバインオーグ。

  降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 

 真っ暗な室内で、男は嗄れた声で呟いた。

 

 足元には自らの血で書かれた魔法陣が、板張りの床を埋めている。

  

 「閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。

  繰り返すつどに五度。 ただ、満たされる刻を破却する」

 

 

 感情のない淡々とした機械のような呪文が部屋に木霊する。

 

 部屋の四隅に置かれた燭台が、一人でに紫の火を灯し始めた。

 

              

 「―――――Anfang

  ――――――告げる」

 

 

 魔法陣の周りには小さな円陣が数個。

 円の中心に触媒が載せられ、置いてある。

 

 

 「――――告げる。

  汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

  聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 

 

 男の声が大きくなる。 

 

 

 「誓いを此処に。

  我は常世総ての善と成る者、

  我は常世総ての悪を敷く者。

 

  汝三大の言霊を纏う七天、

  抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

 

 男の詠唱が終わると、その言葉に反応するように床の魔法陣が紫色に光りだした。

 

 空間を無理に広げるかのような爆発を起こし、一瞬にして室内に煙が充満する。

 

 

 男が魔法陣の中に目をやると、そこには、召喚された英霊が立っていた。

 

 紫色のドレスを纏った、妙齢の女性。

 栗色のやわらかな髪を揺らすその頭には白銀のティアラを頂き、手には黄金に輝く五叉の槍を胸の前で握っている。

 

 それはとても美しい、儚げな女性だった。

 

「ええと……。ではーーーー問いましょう。あなたが妾のマスターですか?」

 

 

 彼女が、とろんとした優しい声で男に問いかけた。

 

 

「……はい」

 

 男が寝言のような、なんの感情も込めない声で返す。

 

 彼女が男を見る。

 彼は眼鏡の奥で、光の無い真っ黒な目でどこかを見つめていた。

 

 男の後ろにはカウンターがある。

 ここは。喫茶店だった。

 

「ランサーよ……。令呪を持って、命ずる」

 

「はい……?」

 

 困惑した笑顔のまま、彼女はマスターである男の言葉に耳を傾ける。

 

 男は、まるで操られているかのような声で、彼女に命じた。

 

 

 

 

「ーーーーー自害しろ。ランサー」

 

 

「へっ?」

 

 

 

 肉を突き破る生々しい音が部屋に響いた。

 

 彼女の腹に開いた穴から、大量の血液が床にビシャビシャと音を立てて落ちる。

 

 気づいた彼女の体には、自らの手で、黄金の槍が腹部を突き刺していた。

 

 

「ごぶっ……がはっ! ……?!」

 

 彼女の口から血が迸った。

 

 状況の理解できない彼女が目を白黒させて、男を見る。

 

「な、んで……?」

 

 男は答えない。

 

 意識が遠のき。

 力尽きた彼女は床に倒れ伏した。

 

 消えていく意識の中、彼女は、自分の意味を考えた。

 なぜこれだけのために召喚されたのだろう。

 

 ……私の出番は……?

 

 

 

 

 

 彼女が死んだのを確認して、男は佇んでいた。

 

「ふっふっふ……」

 

 男の後ろで、もう一人の人物が笑っていた。

 

「お役目、ご苦労様」

 

 もう一人の人物が男に近づいてくる。

 

 その人物が男の頭に手をかざすと、バタッと男は倒れた。

 

 一瞬にして魂を抜かれた男の死体が、魔法陣の床に横たわる。

 

 真っ暗な部屋に死体を残し、その人物はゆっくりと立ち去っていった。


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