何が行われたのか理解はできないが、俺は助かったらしい。
魔法陣から突然現れた金髪の女性が、(有り得ない程の暴力的な力で)追い払ってくれたのだ。
そして銀髪の男を助けに来たひげ面の大男は、彼女に貫かれて、光になって消えてゆくところだった。
「凄いぞ。あれは〝騎士王〟ーーアルトリア・ペンドラゴン……。過去二回の聖杯戦争を戦って来た最強のセイバーじゃないか」
「え?」
見ると俺の後ろに、男が立っていた。
黒髪で黒シャツの、30代くらいの男。
さっき爆発する銃に撃たれて壁に叩き付けられた、この家の人だ。
無傷のようだけれど、身体が丈夫なのかな。
「君は運がいいな」
男が、俺の方を向いて言う。
「君は最強の英霊の召喚者だであり、彼女の
男は表情の読みづらい顔で、少しだけ口角を上げた。
どういう事なんだろう。
何を言っているんだろう。
「敵対するのなら今ここで君を殺すのは容易だ。だが折角のセイバーだぞ。彼女の力を使わないのは、私にとっても君にとっても勿体無いじゃないか?」
「えっと、あの……」
俺は内容を理解出来ていないので苦笑いしながらおたおたした。
「……なるほど。自分の置かれた状況を理解していらしいな。……まぁ、彼女に話を付けた方が早いか」
男はそう言うと、廊下の奥で背を向けている、金髪の彼女のほうへ歩いて行ってしまった。
「騎士王よ。交渉がしたい」
男が声をかける。
「お前のマスターは聖杯戦争について理解していないようだ」
彼女がその声に、ゆっくりと振り返える。
「私の名前は|畔野巣〈くろのす〉|終始〈しゅうじ〉。セイバークラスのマスターだ。仲間に……」
彼女が振り返り、男に目を向けた。蒼い瞳と、凛々しくも、少女のような美しい顔立ちだった。
でも、なにかがおかしい……
「あれっ……セイバー……?」
男が近付く脚を止めた。
振り返った彼女の顔は怒っていた。
歯を剥き出してグルルルと唸り、口の端からよだれを垂らしている……
その目は、知性のある人間のようには見えなかった。
「まさか……バーサーカ……っ!?」
男が飛び退く間もなく、彼女は振り向き様に剣で男に襲いかかっていた。
ドン!
爆風が吹き荒れ、男が俺の方にぶっ飛んでくる。
俺は彼を受け止めてしまい、ふたり同時に背後の壁に叩き付けられた。
「ぐはっ」
「うわっ」
彼女が近付いてくる。
強風を纏った黄金の剣をふりかざし、殺意に目が燃えている!
そこで俺は気付いた。
もしかしたら彼女は、俺を助けたわけじゃないのかもしれない。
ただ単に、銀髪の男にほうが、先に目に入った獲物だっただけでーー
「セイバー! 助けろ!」
「はい」
近付いてくる彼女と俺達の間に、不意に鎧を着た少女が現れた。
この男の呼びかけに応じて瞬間移動してきたようだ。
赤い髪をなびかせ、肩と太ももの空いた甲冑を着込み、双剣を構えている。
道の真ん中でひげ面の大男と戦っていた相手の女性だ。
「ぐぁあああっ!」
八重歯を剥き出し、黄金の剣が襲いかかってくる。
セイバーと呼ばれた赤髪の女が双剣でそれを防いだ。
すぐに数度、目にも止まらぬ連撃が繰り広げられる。
「や、やめてくれ! 俺を助けてくれたんじゃなかったのかよ!」
俺はさけんでいた。
男は俺が彼女を召喚したと言った。だったら、俺の言う事を聞くはずだ!
「やめろ……。戦いを、止めろ!!」
俺は全身の力を振り絞って、大声で叫んでいた。
ふいに、……剣撃の音が止む。
見ると、戦っていたふたりの動きは止まり、全員が俺を見ていた。
「ん?」
俺の右手の甲に突然現れていた熱が引いて行き、そこには紋章のような痣が浮かんでいた。