Fate/Scramble   作:DF946

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中立継続

 緋咲さんが店を出て行った。

 それに続くように店にいた客の最後の一組も居なくなる。

 

 急に静かになった店内で、クロノスと俺が顔を見合わせる。

 

 

「今日は大変だったみたいだね。大学に警察が集まってるのを見たよ」

 

 

 クロノスが俺に言った。

「あれは君のバーサーカーが戦ったんだろう? 普通のサーヴァントならあんな人目のつくところでは戦わないからね」

 

 

「はい……」

 

 クロノスの微笑みに苦笑いする。

 

 本当は戦いたくなんてなかったのに、アルトリアが暴走したんだ。

 

「でも、なんかおかしいんです」

 

「ん?」

 

「俺がいない間にアルトリアは、緋咲さんを見つけて戦っていました。でも、どうやってアルトリアは緋咲さんを敵のマスターだって認識したんでしょう」

 

 俺が疑問を呈すると、クロノスは事も無げに答える。

 

「それは、たまたまだろう。アルトリアが暴走して襲いかかった対象が、偶然、敵のマスターだったんだよ」

 

「たまたま……」

 

 俺はクロノスの目を見ながら、聞いた。

 

 

 

「なんでアルトリアが〝暴走した〟って、知ってるんですか?」

 

 

「…………」

 

 クロノスの目が険しくなった。

 

 

「確かにアルトリアは突然暴れ出したんです。でもたまたま襲いかかった相手が緋咲さんなんて、おかしくないですか? それにアルトリアは、今まで突然おかしくなることなんてなかったんです」

 

 俺が言うとクロノスは「はぁ……」とため息をついた。

 

 

「君を甘く見過ぎていたよ」

 

 クロノスが俺を見くびっていた非礼を詫びるように正直に語り出す。

 

「君の考えている通り、バーサーカーを暴走させたのは私だ。セイバーに、私たちが知っている敵の情報をバーサーカーに聞かせてね」

 

 なんだって。

 

「君が授業中にバーサーカーをあの食堂に待たせておくのは確認済みだったからやりやすかったよ。敵と戦いたがっている彼女に敵の顔写真を見せたら、きっと暴れ出すだろうと思っていたからね」

 

「なんでそんなことを……」

 

「バーサーカーを暴れさせて目立たせるためだ。敵のマスターをおびき寄せ、あわよくばバーサーカー自身に倒してもらおうと考えていた」

 

「そんなの……、そんなのアルトリアが囮みたいじゃないですか!」

 

 俺が憤りをあらわにすると、クロノスは無表情のまま謝った。

 

「君に危害を加えるつもりはなかった。せっかくの騎士王の力を借りようと思っただけだよ。彼女なら倒される心配もないしね」

 

「そんなこと言ってるんじゃありません。俺が毎日使ってた食堂が壊れたじゃないですか!」

 

 クロノスが、今気づいたように反応する。

 彼にとっては聖杯戦争でどんな損害が出ても、全く気にしていなかったのだろう。

 

「これからどうやってアルトリアを待たせておけばいいんですか。もう学校にも連れて行けなくなっちゃいましたよ」

 

「それは、……すまない」

 

 声のトーンに謝っている気持ちは現れていないが、クロノスがおとなしくなる。

 

「…………やっぱり、緋咲さんもクロノスも同じです。今までに人が死ぬのを見すぎてきたせいで、価値観がおかしくなってるんだ」

 

 

 クロノスはそれを言われ、押し黙ってしまった。

 

 セイバーがそんなマスターを横に見ている。

 

 

「……クロノスは、なんで戦ってるんですか?」

 

 

 俺の質問に、クロノスは顔を伏せる。

 

 

「それは……、ただの、私的なことだ」

 

「そうですか……」

 

「…………」

 

 

 数秒、沈黙が続いた。

 

 セイバーが気遣わしげな視線でクロノスを見てた。

 

 

 気まずくなったので俺が話題を変えた。

 

 

「そういえば、アルトリアに教えた敵のマスターの情報ってなんだったんですか?」

 

 クロノスが顔を上げる。

 

「アサシンのマスターの個人情報と顔写真だ。集団昏睡事件を起こしている犯人だと私は思っている」

 

「もうそんな情報つかんでたんですか!? 俺に言ってくださいよ」

 

「あぁ。また停戦協定を結んだりしないでくれよ。……こいつだ」

 

 

 クロノスはコートの懐から写真を取り出して俺に見せた。

 

 そこには、もじゃもじゃ頭で眼鏡をかけた男が写っている。これが事件の犯人……

 

 ……どこかで見た覚えがある。

 

 

「小林くんと言うらしい。君と同じ大学の学生だ。昨日アサシンに襲われた時に近くにいるところをセイバーが見つけた。間違いはないだろう」

 

「同じ大学の学生? それって、危険じゃないですか!」

 

「ああ、まだ授業には通っているらしい。気をつけるんだよ」

 

 

 クロノスは写真をテーブルに置いて、俺にくれた。

 

 


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