Fate/Scramble   作:DF946

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停戦協定

 店に入ってきたクロノスとセイバーが、俺たちのいるテーブルへと向かってきた。

 

 

「クロノス」

 

「やあ、間森くん」

 

 

 クロノスの名前を聞いた緋咲さんが彼を見て、驚愕していた。

 知り合いだったのだろうか。

 

「クロノス……まさか、畔野巣終始……?」

 

 聞く緋咲さんにクロノスが答える。

 

「そうだが。わたしを知っていると言うことは、魔術師……。いや、マスターかな」

 

 二人の間で、敵意の視線が交錯した。

 セイバーも帽子のつばの下で緋咲の様子を見据えていた。

 

 緋咲さんは令呪の覗く右手を握った。

 シンジさんは会話に入れず困惑している。

 

 

「わたしを知っているのなら自己紹介はいらないな。間森くん、敵と顔を合わさせて、わたしに何をさせようというのかな?」

 

 二人とも今にも戦いだしそうなので俺が慌てて割って入る。

 

「戦わないでくださいね。この人は緋咲さんです。今、停戦をしているところなんです」

 

「緋咲……。もしかして、あのカーティス魔術協会の緋咲煉かな。こんなところで会えるとはね」

 

 緋咲も反応する。

「こちらこそ。そちらから出ていただけるなんて、光栄ね」

 

 

「ところで……間森くん、停戦だって? よく緋咲煉に出会って殺されなかったね」

 

 クロノスに話しを振られ、俺が説明した。

 

「はい。俺に戦う意思がないって伝えたら、わかってもらえました。……それで、クロノスと緋咲さんも停戦しませんか?」

 

 

 俺が本題の意図を言うと、緋咲さんは俺に目を向けてきた。

 多少強引だったけど、緋咲さんの合意をとる暇はなかったんだ。

 

「間森くん何言ってるの? 私は停戦なんかしないわ。今すぐにでもここで戦うかもしれないのよ?」

 

「同意だね。今戦いが起きていないのは、君がそこにいるというだけの理由だよ」

 

 両陣が殺気立っている。

 まずい、静めないと。

 

 

「停戦と言っても、クロノスが俺に望んでいたような共闘関係じゃなくていいんです。ただ……殺しあわないでほしいんです」

 

 クロノスが俺に疑問の顔を向けてくる。

 

「マスター同士で殺しあうのには反対っていうか……、知り合いに死んでほしくないから……」

 

 横でシンジさんが、うんうんとうなづいてくれていた。

 

「ううん」クロノスが顎を触りながら唸った。

 

「なるほど。君は優しいんだね。……わかったよ。緋咲さん、あなたを殺さない事を約束するよ」

 

「えっ……」

 

 あっさりと了承され、緋咲さんの気が抜けた。

 「いいんですか?」とセイバーの子が困惑している。

 

「ああ、無駄な敵や犠牲は増やしたくないからね。……ところで、そちらの彼は?」

 

 クロノスはシンジさんに目を向けていた。

 

「あっ、シンジです」

 

 慌てて立ち上がり、シンジさんが軽く会釈をする。

 

 下の名前だけの自己紹介に違和感を感じさせると思ったのか、緋咲さんが付け足した。

 

「彼は記憶喪失なの。苗字も職業も思い出せないのよ」

 

 それを聞いて、目を細めたクロノスが聞き返す。

 

「ということは、彼があなたのサーヴァントですか。召喚時に、術者の魔力が足りないとよく起こる現象だ」

 

 力不足だと言外に侮辱されたと感じたのだろう。緋咲さんの纏った雰囲気に、また剣吞とした敵愾心が混じったように思えた。

 

「つまり、こういうことだね間森くん」

 

 クロノスが感情の見えない笑顔で言う。

 

「サーヴァント同士の戦いで緋咲さんを巻き込まなければいい。ーーわたしは、シンジくんを殺せばいいって事だよね」

 

 

 その一言でまた、一瞬にして重苦しい敵視の空間が戻った。

 空気中にあった敵意の粒子が針になり、お互いに先端を向け合っている。

 

 シンジさんは突然のセイバーからの殺意に身構えた。

 

「そんな事させると思う? シンジを殺すのは私を倒してからーー」

「いいよ」

 

 シンジさんが立ち上がっていた。

 

「俺もそれがいいと思ってた。サーヴァント同士で戦う戦争なのに、マスターを殺すなんて卑怯だ。緋咲さんを殺さないって約束するなら、俺が相手になります」 

 

 シンジさんとクロノスが真剣な目で見合う。

 

 その横でセイバーが苦笑いしていた。

 負ける気など全くないのだろう。

 

 俺も付け加える。

 

「約束ですよ。もし殺しあうことがあったら、俺がアルトリアに戦わせることを許可します」

 

 

 冷戦のような、三つ巴の沈黙ができる。

 

 

 緋咲さんは椅子を引いて立ち上がると、カバンを持った。

 

「下らない。私たちは帰るわ。……実のある話し合いもできたし、これ以上日和るつもりもないから」

 

 緋咲さんがテーブルにお代を置いて立ち去る。

 「待ってくださいよ」とシンジさんが追いかけていた。

 

 俺はシンジさんに目線で挨拶すると、店から出て行く二人を見送った。


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