シンジは夢を見ていた。
自分が死んだ夢。
怪物から女の子を守ったら、背中を刺されて死んだ。
目を開けろ。死ぬな、と言う声が聞こえる。
目を開けると、自分が喫茶店の中にいることに気がついた。
「あれっ……?」
「あ、起きた」
「やっと気づいたみたいね」
キョロキョロ見回す。
シンジは四人座りのテーブルで緋咲の隣に座っていた。
緋咲の前には見覚えのある少年が座っている。
そして自分の眼の前には、碧眼で金髪の少女が座っていた。
「うわっ!!」
シンジは思い出した。
目の前にいる少女に自分は斬り殺されたのだ。
「えっ、えっ?!」
シンジは自分の脇腹を触って確認する。
確かに斬られたはずの傷がなくなっている。
「傷は直したわよ。あなたにしては珍しく、役に立ったわね」
緋咲が言う。シンジはそれが命を救われたことに対する礼だとは気づかない。
「えっと、どういうこと?」
混乱するシンジに、緋咲が説明した。
目の前にいる彼らはバーサーカーとそのマスターで、間森くんというらしい。
狂戦士とは思えない女の子と、バーサーカーを従えるマスターとは思えない純朴そうな少年だった。
紹介された間森くんが「どうも」とお辞儀をした。
「あ、どうも」
「今は停戦中よ。……令呪を使ってまで助けてもらったから、今は」
緋咲の声が尻すぼみになっていった。
そうだ。間森くんが令呪を使って止めてくれなかったら、緋咲は死んでいたのである。
その負い目で停戦するとは、緋咲にも殊勝な心があるんだなとシンジは思った。
「でも、なんで助けてくれたの? マスターなのに?」
シンジが聞くと、間森は答えた。
「俺、実は聖杯戦争に巻き込まれただけで、本当は戦いたくないんです。だから、マスター同士の戦いを止めようと思って……」
「おお!!」
それを聞いてシンジは跳ね上がった。
「よかったぁ〜。初めてだよマスターでまともな人に会ったの。あ、俺シンジ。よろしく!」
シンジは握手をすると、間森くんも手をとって笑った。
「間森たけるです。もしかして、マスター同士の戦いを止めようとしてる人って、あなたのことですか?」
「そうなんだよ! やったー! やっと分かり合える人と話せる!」
緋咲はやれやれと言うような表情で横を向いた。
「でも聖杯で叶えたい願いとかないの?」
シンジが聞くと、間森は小恥ずかしそうに答えた。
「はい。なんか、聖杯戦争に巻き込まれた人とかを見てると、他のマスターたちの身勝手が許せないっていうか……、僕の友達も被害にあってて。そこまでして叶えたい夢とか無いし、他の人の命を奪ってまでやる戦争なら、僕が止めたいと思って」
「うんうん。全くそのとおりだよなー」
シンジが感心したように何度もうなづいているのを見て、緋咲はボソっとつぶやいた。
「そんな事で邪魔されたらたまらないわ……」
シンジは無視すると、間森の目を見て言った。
「俺も同じ事考えてたんだ。……と言うか気が付いたときからその考えが先に頭にあって。
とにかく、こんな戦いなんかやめるべきなんだ。俺は、この戦いを止めたい。きっとそれはすげー辛い思いをしたり、させたりすると思うけど。それでも俺は戦いを止める。それが正しいとかどうかじゃなくて、俺もサーヴァントの一人として、叶えたい願いがそれなんだ」
「…………」
緋咲はそれを聞くと、何も言わなくなった。
アイスコーヒーを一口飲む。
シンジは、間森くんと叶えたい思いが繋がったのを感じた。この子なら一緒に願いを果たせる。そう感じた。
バーサーカーの少女は言葉が解るのか、シンジに対する敵意が強まったように感じた。
「……そういえば、私に会わせたい人っていうのは?」
緋咲は口を開くと、間森に聞いた。
「あ、はい。もう呼んでます。もうすぐ来ると思うんですけど……」
その時ドアが開き、カランカランとカウベルが音を鳴らした。
誰かが入ってくる。
見ると、黒いコートを纏った30代の男と、
トレーニングウェアを着た、赤髪の若い女だった。