Fate/Scramble   作:DF946

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相対する二人の邂逅

「ということは、この人、サーヴァントなんですか?」

 

 

 俺は気絶した男の人を背負って、前を歩く緋咲さんについていきながら聞いた。

 

 大学の敷地から出て落ち着いた頃には、もう遥か後ろにパトカーが到着していた。

 アルトリアは私服に着替え、黙って後ろをついてきている。

 

「ええ。記憶が欠如していて、自分がサーヴァントだっていう自覚もない役立たずよ」

 

 緋咲さんが言う。

 口では背負っている男の人を貶めているようだけど、少しだけ期待と信用を抱いているような感じだった。

 

「それで……」

 

 昼過ぎの街の中。視線を下げたまま、緋咲さんは聞いた。

 

「なんで、私たちを助けたの?」

 

 素直な疑問だった。当然緋咲さんも、自分の願いを叶えるために他のマスター達と戦う、魔術師の一人なのだ。

 

「それは、助けなかったら緋咲さん達が死んでたからです」

 

「あなたもマスターなんでしょう? なんで殺さなかったのか聞いてるの」

 

 質問の意味がわかってないと思われてる。この人たちにとっては、根本から理解できないんだ。

 

「……人が死ぬのが嫌だからです。俺は、聖杯戦争で誰も犠牲にしたくない。俺は、そのために聖杯戦争に参加してるんです」

 

 

 言い終わると、緋咲さんは理解できないような顔をしていた。

 

「でも俺のサーヴァントは意見が違うみたいですけどね。こいつが誰かを殺さないように見てるのが、今は精一杯なんです」

 

 ははは、と俺は乾いた笑いでごまかす。

 後ろではまだ殺意を放つアルトリアが、無言で俺たちの行き先についてきている。

 

 緋咲さんは冷たい苦笑いで言った。

 

「あなたのサーヴァントが、私のと入れ替わってたらよかったのに」

 

「そうですね。……俺の願い、だめですか?」

 

 

「そういう奴は一人知ってるわ」

 

 そして、呆れたようなため息をつく。

 

「一人でたくさんよ」

 

 

 俺は間が空いたのを感じ、また問いかけた。

 

「緋咲さんは、なんで聖杯戦争なんかで殺し合いをしてるんですか」

 

「願いを叶えるのに理由なんか必要?」

 

「えっ……」

 

「その願いが何かとか、叶える手段がどうとかは関係ないわ。

 要は、じゃんけんで勝ったら100万円あげるって言われてるのと同じなのよ。……じゃんけんに負けたくないから参加しないっていうのが、あなたみたいな間抜けの言っている事よ」

 

 

 違う。

 

 ……でも言えなかった。

 

 この人は俺とは、叶えたい願いや重さが違うんだ。

 

 じゃんけんでもらえる賞金の価値が違うんだ。

 俺にとって生活費に消えるだけの100万円と、病気で死にそうな親を治療して助けるための100万円。

 それ以上かもしれない。

 この人が背負っているものの価値や重さも知らない。

 それがたとえじゃんけんでなく。敵の命を奪ってまでも、叶えたい願いなのかもしれない。

 俺が、自分の価値観で否定したり、決め付けていいものじゃないんだ。

 

 

 

 

 俺たちは暫く歩くと、緋咲さんに連れられ、郊外にある喫茶店の中に入った。

 

 静かな雰囲気のお店だった。

 クラシカルなジャズが流れ、カウンターの奥の店員のおじいさんと、子供連れのおじいさん一組しか客はいない。

 

 

 緋咲さんはテーブルの椅子に座ると、気絶している男の人を隣に凭れさせた。

 

 俺とアルトリアも、その前に座る。

 

 気絶した男の人はカクっと倒れ、緋咲さんの肩に頭を乗せると、ほっぺを潰したまま気持ち良さそうな寝息を立て始めた。

 

 

「じゃあ。少しお話ししましょう。……敵同士のマスターとして」

 

 緋咲さんは無理やり男の人を肩で押し返すと、俺に言った。


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