アルトリアの振り下ろす斬撃が、女性魔術師を襲う。
その瞬間に俺は、その剣撃の前に飛び出し、両腕を広げていた。
それ以外に出来ることはなかった。
俺はただ目をつむり、敵である女性を庇い、自分の契約したサーヴァントからの一撃で死ぬのを、歯を食いしばって覚悟した。
爆風のような衝撃波が真上から叩きつけ震える。
恐ろしい風切り音が迫ると、バンッという音とともに止まった。
死んだ。
そう思った。
ゆっくりと目を開けた俺の前では、剣が俺の額を割る寸前で止まっていた。
途端に全身から汗が噴き出す。
「かはっ」っと、止めていた呼吸が堰を切ったように流れ込んできた。
バンッという音は、剣をとてつもないスピードで止め風を叩いた時の衝撃音だったのか。
助かった。
そう理解した俺の眼前には、煮えたぎるような激昂と憎悪の目で俺を睨む金髪の少女の顔があった。
「やめろ、アルトリア……。わかるだろ。令呪で命令したよな」
恐る恐る彼女の目を見ながら語りかける。
アルトリアは憎々しげに歯を噛み締めながら、ゆっくりと剣を下げた。
マスターである俺を殺したら彼女も存在できなくなる。狂気の中でも無意識に、それがわかっていたのだ。
俺は「ふぅっ」と息を吐くと、後ろを振り返った。
そこには敗北と恐怖で震え、目に涙を溜めた女性が、俺を見上げていた。
「なんで……助けたの」
彼女の下では、茶髪の男性が血を流して倒れている。
「そんなことよりこの人を」
俺もしゃがみ込み、その男の人の容体を伺った。
かなり酷い。下の方の肋骨も砕かれ、体は横から体幹の半分まで切り込まれていた。
まず助からない……。
「大丈夫よ」
「え?」
女性が手をかざし呪文を唱えると、男の傷口が光りだした。
そしてみるみるうちにその傷口が塞がっていく。
そうして完全に外傷がなくなっていた。
「す、すごい……」
俺が度肝を抜かれ見入っていると、彼女が話し始めた。
「体の傷や欠損ならいくらでも修復できるわ。……でも魔力が回復するには時間がかかるけど」
気づくと、どこからかパトカーのサイレンが聞こえ始めていた。
これだけ損害が起こっていれば当たり前だ。誰かが通報したんだ。
女性は立ち上がると俺に言った。
「私の名前は|緋咲煉〈ヒザキ レン〉。とりあえず、ここじゃないところに移動しましょう」
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