「やめろ! 殺すなアルトリア!!!」
俺の叫びに反応して、右手の甲が光った。
令呪の発動にアルトリアが反応する。
ガツン!
アルトリアの大剣がアスファルトに突き立てられる。
倒れていた女性の顔の真横スレスレだった。
アルトリアは倒れた女性に襲いかかるところだった。
女性は、全身を硬直させたまま、ゆっくりと目を開けた。
(よかった、助かった)
俺はホッとした。
叫び声を聞いて駆けつけた時には、もうこの有様だった。
逃げ遅れていたらしい男子生徒が、一目散に駆け出していった。
並木は薙ぎ倒され、道路もめくれ上がっている。
俺は襲われていた女性の元に駆け寄った。
「大丈夫ですか?!」
女性がヨロヨロと立ち上がる。
俺は「離れてろ!」とアルトリアを引き剥がそうとした。
しかしアルトリアは俺の目をまっすぐに睨んだまま動かない。
ーー殺意が、俺の方に向いている。
一体、どうしたんだろう……。何がアルトリアをこうしたんだろう。
「ヒザキさん、大丈夫ですか!」
襲われていた女性の元に、そばで倒れていた男性が駆け寄っていた。
ヒザキと呼ばれた女性は、手に持っていた銃をアルトリアに向けていった。
「ええ。大丈夫よ」
えっ
ーーーー銃?!
「アルトリア危ない!!」
俺の叫びは遅かった。
女性の持っていた銃から撃ち出された弾丸が、容赦なくアルトリアの腹の装甲に撃ち込まれた。
轟音と爆煙がアルトリアを覆う。
この爆煙、見たことがある!
魔術師の魔弾だ!
吹き飛ばされたアルトリアが俺の足元に転がり投げ出された。
「大丈夫か!」
ボロボロになったアルトリアが苦しそうに呻く。
敵だったんだ。アルトリアは敵を見つけて暴れていたんだ!
「あなたがバーサーカーのマスターね」
硝煙が引くと、ヒザキと呼ばれた女性が俺に聞いた。
銃口は、今度は俺に向けられている。
「くっ」
まずい。殺される……。
「ヒザキさん! 何してんですか! やめてくださいよ!」
横から彼女の仲間らしき男の人が、銃口を下ろさせようと割って入った。
「邪魔しないで。こいつは敵のマスターよ」
「だからって! マスターってことは人間でしょ! 殺人になっちゃうから!」
「ちょっと、うるさいっ」
男の人が銃を取ろうとするので、もみ合いになり照準が定まらなくなっている。
「やめろってー!」
バンッ!!
銃声が轟き、暴発した銃弾が俺の横をかすめ飛んだ。
俺はとっさにビクっと体を震わせて硬直するしかできなかった。
だがその瞬間、倒れていたアルトリアが目を覚ましていた。
「あ、アルトリア……」
アルトリアがうっそりと、剣を杖のように地面に突き立て立ち上がる。
目元に影を作り、さらなる狂気と暴走を隠した様相で敵に向かい合っていた。
ヒザキが男の人を押しのけ、アルトリアに銃口を突きつける。
まずい、やばい……。
「逃げて!」
遅かった。
アルトリアの一撃が、居合斬りのような速さで女性を襲う。
ザクッという肉と内臓と骨格を瞬時に断ち切った鈍い音を響かせ、鮮血が飛び散った。
その返り血が、アルトリアが振り切った刃の後ろにいた俺の頬にも赤いしぶきを飛ばす。
横腹を切り裂かれた体が、アスファルトの地面に横ざまに叩きつけられるように倒れ伏した。
「きゃぁああああああ!!」
女性の悲鳴が上がる。
彼女の身代わりに躍り出てた男の人は、腹から大量の血を流し倒れ込んでいた。
俺はショックと恐怖で言葉を失い立ち尽くした。
女性が、彼のそばにしゃがみ込み、必死に呼びかける。
「シンジっ! いやっ! 死なないで!! ねえ!!!」
アルトリアが血に濡れた剣を振り上げ、さらなる一撃のために力を込める。
これで最後。この女の人は殺される。
アルトリアの怒りと愉悦と勝利の咆哮が大気を振動させる。
様々な感情をないまぜにしたその大剣の一撃が、その女性の脳天へ目掛け
一直線に振り下ろされた。