シンジは緋咲に連れられ、昨日事件があった大学の構内にいた。
建物が点在する大きな並木道を、リュックを背負った若者たちが歩いている。
シンジは懐かしいような気持ちになった。
「魔力の形跡がある……」
立ち並ぶ研究棟を見ながら、緋咲がつぶやいた。
「わかるんですか?」
シンジが適当な質問をすると、緋咲も適当に答えた。
「ええ、魔力の系統だけね。硝煙反応で銃の種類を予想するみたいな事しか出来ないけど。……昨日、ここでサーヴァント同士の戦いがあったみたい」
シンジが緋咲の視線の方向を見てみると、建物の柱が崩れていた。
「うわあ。ほんとだ」
「令呪も使われてるみたい。……たぶん、アサシンのサーヴァントよ」
緋咲は建物を横目に、歩き出した。
✴︎
アサシンのマスターは、学校に来ていた。
帽子を深くかぶり、メガネを外してマスクをつけている。
学校に来たら殺されるかもしれない。でも授業には出なければいけない。
結局思いついたのが見た目を変えることくらいだった。
(クソ、あいつのせいで)
マスターは悪態をつきながら、次の講義の建物に向かっていた。
その時、遠くから悲鳴のようなざわめきが聞こえてきた。
向こうで何かが起こったらしい。
なんだろう。
マスターはその方向へ向かうことにした。
人の流れに逆らって走っていくと、道の木がズタズタになぎ倒されているのが見えた。
(まさか、結界も張らずにサーヴァントが?)
早くアサシンを呼ばなければ……。
気をとられていると、彼は突然の突風によろめいて崩れた。
風の中、何かが歩いている。
黄金の剣を引きずって吠える、金髪の女の子。青いドレスに銀色の装甲を纏っている。
風の中心は彼女のようだ。
(まさか、そんな)
彼は衝撃と絶望に動けなくなった。
(アルトリアだ……!)
逃げなければ。見つかったら殺される!
あとずさる彼の気配に気づいたのか、バーサーカーの殺意の視線が彼に向いた。
「うわぁぁああああああああ!!!!」
彼はおもわず叫び出していた。
あまりの恐ろしさに足がすくんで立てない!
四つん這いのまま逃げ出そうとする。
それに気づいたバーサーカーが、彼の姿を見て、目の色を変えた。
アサシンのマスター。写真で見た敵。
彼女はすぐに行動を起こした。
黄金の剣を振り上げ、彼に襲いかかる。
✴︎
「うわああああああああああ!!!」
突然絶叫が遠くから響いてきた。
「!」
それに反応したシンジは、緋咲の顔を見た。
緋咲も異変に気付いていた。
「魔力の気配……。行きましょう」
走り出す緋咲についていく。
二人が着いた現場は、恐ろしいことになっていた。
並木道の木々が切り倒され、道や標識などもバラバラに吹き飛ばされている。
吹き荒れる暴風の中、剣を持ったサーヴァントらしき女が、人を襲っていた。
「あれは、バーサーカー!?」
青いドレスの金髪の少女が、倒れる男子学生を殺そうと剣を振り上げている!
「危ない!」
シンジは叫ぶと、襲われている男子学生に駆け寄る。
「っ! あんた、何を!?」
緋咲が止める間もなくシンジは襲われている彼に飛びかかり、振り下ろされる大剣から間一髪の所をくぐり抜けた。
地面を転がり、学生の無事を確認する。
「大丈夫か!」
男子学生が震えながらガクガクとうなづく。
その後ろでまたバーサーカーの少女が、シンジたちに向けて剣を振ろうとしていた。
「逃げろ!!」
シンジが学生を突き飛ばすと、彼らのちょうど間に剣撃がかすめた。
後ろにあった建物が、剣から放たれた風の波動により砕かれて瓦礫を散らす。
怒りをあらわにしたバーサーカーが口角泡を飛ばし吠えると、今度はシンジに飛びかかった。
「うわあっ!!」
とっさに防御姿勢になりぎゅっと目を瞑る。
もう避けられない。死ぬ!
シンジが死を覚悟したその時、緋咲が放った魔弾がバーサーカーの左肩にうちこまれた。
「馬鹿シンジ! 下がってなさい!」
バーサーカーが攻撃を止められ、後ろから狙撃してきた緋咲を睨みつける。
もう許さない。絶対に殺す、という意思が眼光から滲み出て緋咲を凍りつかせた。
バーサーカーは剣を握りなおすと、緋咲に向かい横薙ぎに振り抜く。
突風の一撃が緋咲を突き倒した。
「!!」
ほぼ同時にバーサーカーは飛び上がると、緋咲の迎撃も間に合わないスピードで大剣を叩き下ろす!