Fate/Scramble   作:DF946

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殺戮のバーサーカー

 ーー数分前ーー

 

 

 

 アルトリアはマスターに言われた通り、一人で食堂の中で待っていた。

 

 午前中の大学には大勢の人がいる。

 

 マスターに買ってもらったパンを食べながら、何もせずに待つのが命令だった。

 

 ……眠たい。

 

 

 

 

 彼女が暇を持て余しウトウトしていると、誰かが彼女の元に近づいてきた。

 

 トレーニングウェアにキャップ帽をした女性だった。

 赤い髪でポニーテールを揺らしている。

 

「こんにちわ。バーサーカー」

 

 近づいてくると、女はアルトリアに話しかけてきた。

 

 アルトリアはそれが誰なのか理解した。

 セイバーのサーヴァント、召喚されて初めて対峙した敵だ。

 

「ガルル……」

 

 アルトリアは殺意が込み上げてくるのを感じた。

 

 殺したい。

 殺したい殺したい殺したい

 殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい殺したい

 

 

 でもセイバーとの戦いは令呪によって禁止されていた。

 

 アルトリアは今にも襲い掛かりたい衝動を抑えながら、セイバーの顔を睨み続けた。

 

「そんなに怖い顔しないでください」

 

 セイバーは苦笑いをすると、アルトリアの前に座ってくる。

 

「ジョギングをしてたら疲れてしまって……。相席失礼しますね」

 

 セイバーが平然と敵の前でくつろぎ、ペットボトルのスポーツドリンクを飲みながら休んでいる。

 ーー殺したい。今すぐコロシタイ

 

 アルトリアの殺意の視線に耐えられなくなって、セイバーが少し冷や汗をかき始めた。

 

「バーサーカー。じ、実は私、今敵のマスターを探しているの」

 

 セイバーが話題を作るようにアルトリアに話しかける。

 会話は通じないが、伝えることはできるだろうと考えたらしい。

 

「これが敵のマスターよ」

 

 セイバーはポケットから写真を取り出すと、アルトリアに見えるようテーブルの上に置いた。

 

 写真には、もじゃもじゃ髪で黒ぶち眼鏡をかけた野暮ったい男が写っている。

 

「小林くんって人。昨日調べたら身元も割れたわ」

 

 アルトリアは写真の男をじっと見つめる。

 

「この大学の学生で、間森くんと同学年みたいね。出身は大阪で下宿先も判明してる」

 

 アルトリアが歯を食い縛る。恐ろしい凶器の目で男を睨みつける。

 

「たぶん学校内のどこかにいるはず。たぶん、この街で集団昏睡事件を起こしてる犯人もこの子よ」

 

 食いしめた歯の間から息が漏れる。

 鼻息も徐々に荒くなり、よだれが滴った。

 

 殺したい。

 

 サイバーはそんな彼女の目を見ながら、試すように、言った。

 

 

 

 

「彼がアサシンのマスター。ーーーーあなたの、  敵よ」

 

 

 

 

 

 突然、アルトリアはキレた。

 

 一瞬にして鎧を纏い、爆風が彼女の周りのものを吹き飛ばす。

 

 食堂にいた学生全員がその爆発に振り向いた。

 椅子から転げ落ちたセイバーも驚いてお尻と手を床につけてアルトリアを見上げた。

 

 セイバーは殺せない。殺したい。誰でもいい。殺していい敵を!

 

 殺意。

 写真の男。

 

 アルトリアは叫び、剣を床に叩きつけた。

 衝撃が窓ガラスを叩き割る。

 

 

 そこにいた学生たちは悲鳴をあげ、阿鼻叫喚となった。


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