俺はコンビにで食パンを買ったあと、駐車場に止めたバイクの元へ向った。
涼しくていい夜だ。帰ってアニメでもみよう。
そう思っていたら、何か変な音が聞こえてきた。
車の通らない道の真ん中らへんだろうか。
なにかをぶつけ合っているような、ガンッ、ガンッという重い金属音だ。
……喧嘩だろうか、野次馬しにいこう。
俺はバイクに食パンを置くと、歩いて、音のする方へ見に行った。
民家と畑の間の通学路だった。
そこには、おかしな光景が繰り広げられていた。
鎧を着た男と女が、武器をぶつけて戦っている。
男の方は東洋の鎧に長い槍を持ったひげ面の大男だ。
女の方は双剣を持っていて、太ももや肩が露出した西洋風の鎧を着ている。外国人のお姉さんだ。
ふたりは踊るように武器をぶつけ合いなあがら、殺し合いをしているようだった。
「クッ、女。貴様なかなかやりおるわ。さぞ手練だと見受けた。名はなんと申す」
「あなたのような東洋の武人は、わたしのことなど知らないでしょう。これから死ぬ相手に名乗る必要もありません」
「はっ。ははは、ぬかしおる!」
男が笑いながら、槍を思い切り叩き付けた。
そのまま彼らは話ながらも戦いを続けている。
そんな様子を、俺はぼーっと眺めていた。
気づくと、俺の横にもう一人、しらない男が立っていた。
俺が顔を向けると、その男も俺に気付いて目を合わせた。
銀色の髪の毛に、真っ黒いコートを着た長身のおっさんだった。
俺はよく分からない笑みを向け「これ、どういう状況なんでしょうね」という意味の目配せをする。
男は首を傾げると、
「一般人か?」
と呟いた。
「え?」
俺が聞き返す間もなく懐から取り出した者を俺に向けて来た。
俺はそれが何なのか頭で理解するよりも早く、体勢を低くして走り出した。
男が引き金を引くと俺のそばを弾丸がかすめて飛んで行き、近くに止めてあった誰かの乗用車が轟音とともに爆発四散する。
何が起きたんだ!!
俺は近くにあった民家の塀の裏に駆け込むと、その瞬間塀に銃弾が炸裂し、石のブロックが弾け飛んだ。
駆け込んだのは城みたいなデカイ屋敷の敷地内だった。屋敷の玄関口には「子供110番の家」のステッカーが張られている。子供じゃないけど利用するなら今だ。
俺は玄関に飛びつくとチャイムを連打した。
ピポピポピポピポピンポーン。
さっき銃を向けて来た男の足音がカツカツと塀の裏から近付いてくる。
(早く早く早く早く早く!)
男が廃から顔を出した瞬間に、ガララっと引き戸が開いて中から住人のおじさんが出て来た。
「なんだねうるさい……」
背後で銃声が轟いたと思った瞬間、家主の身体が爆発した。血と肉片をぶちまけ粉々になったおじさんが、俺と玄関一帯を真っ赤に染め上げた。
「うわあああああああああ!!!!!!」
俺は発狂し走り出すと屋敷の中へ駆け込んだ。
廊下と壁を赤いスタンプで汚しながらドタドタと走り回る。
逃げろ。死ぬ。こんな分けの分からない状況で死んでたまるか!
俺は屋敷の奥まで逃げ込むと、素人が改装したような妙な通路に辿り着いていた。
その奥で開きかけていた扉に駆け寄ると、その重い扉の隙間に身体をねじ込むように滑り込んだ。
「ん?」
そこには、男が居た。
部屋は暗い。
まるでここの家主が自力で増設したような空間だ。
住人の男が俺に話しかけようと口を開くと、
その瞬間に彼は爆発して吹き飛び、部屋の壁に叩き付けられて動かなくなった。
俺は「はっ」と振り返る。
後ろには、重たい木製の扉を開きかけ、俺に銃を向けている銀髪の男が立っていた。
その目には迷いが無い。確実に仕留められるよう、俺に狙いを定めているところだった。
「まって! なんで俺を殺すんだよ!」
俺は腕で顔を庇いながら、死を悟ってただ叫ぶ事しかできなかった。
「不運だったな……」
追いつめた余裕からか、銀髪の男が言葉を発する。
「聖杯戦争に巻き込まれた犠牲者くんーーーーさよならだ」
言い終わると同時に引き金を引いた。
俺は男が何か言っていた間に、「助けて!!!」とだけ叫んでいた。
誰にともなく。
その瞬間、暗かった部屋が光で輝きだした。
光は床から、円形の魔法陣の線の形をとって、赤い輝きが視界を埋め尽くしていた。
その光で照準を外した銃弾が俺の後ろの壁を破壊する。
光が収まった時、ゆっくりと顔を上げた俺の前には、男に立ち塞がるようにして、一人の女性の後ろ姿がそびえ立っていた。
青いスカートのついたドレス。
胸部と腕についた銀色の鎧。
艶やかな金色の髪は、頭の後ろで留められてある。
その姿は、さながら、俺を守る為に現れた、守護者のようだった。
「サーヴァント……ま、まさか」
銀髪の男が動揺する。
目の前に現れた女性が、ガリッと鋼鉄の爪先で石床を踏み込んだかと思った次の瞬間
男との間合いを一瞬にして詰めた彼女が、もの凄い勢いをもって男を蹴り飛ばしていた。
ドンッ!
肋骨が体内で破砕する鈍い音を伴って、数メートル後ろへ吹き飛ばされた男が壁に叩き付けられて止まる。
「ぐっ……ガハッ!」
男の喀血が廊下を赤く染めた。
彼女は右手を身体の横で開くと、彼女の周りに風が集まり始める。
一瞬。電流が流れたかと思うと、彼女が握った右手には金色に輝く剣が握られていた。
「宝具……不味い……」
俺には分からない。だか彼女が何をしようとしているかは理解出来た。
男は殺されるんだろう。
男は最後の力を振り絞り右手の甲を向けると、何かを叫んだ。
直後、彼女が飛びかかる。
数メートルの距離を一気に消し、水平に下剣を男に目掛けて突っ込んで行った。
「やめろっ!!!!」
俺の叫びは、遅かった。
動きが止まった彼女の足元には、血溜まりができはじめていた。
「ぐっ…… マスター、ご無事 で……」
彼女の前には、どこから現れたのか、先程道路で戦っていた、ひげ面の大男が、その腹に大剣を突き刺されて血を流していた。
「すまない……。わたしの、負けのようだ」
男が項垂れると、大男は口許から血を流しながら言った。
「まだ、令呪は一つ残っていますぞ。こ、これで……」
銀髪の男は頷くと、また右手の甲に力を込め、呟く。
爆発音のあとには、もうそこに、銀髪の男の姿は無かった。
何が起こったのだろう。
でも今更俺にも驚く気力は残されていなかった。
男は逃げたのだ。
身体を貫かれた大男は、ゆっくりと光の粒子になって消えていった。