疲れ切って俺は、アルトリアと共に家に帰ってきた。
山本が心配だった俺は、さっきまで病院に行っていたところだ。
山本には会えなかったが、相当やばい状態らしい。
同じ症状の人が何人も入院していた。
話によるとみんな一応は息をしているらしい。
体は完全に健康で生きてはいるが、意識はなく、植物人間のような容態だということだった。
クロノスが言っていた通り、サーヴァントに魂を抜かれているんだ。
抜け殻の体は死んでるも同じだ。吸われた生命エネルギーを魔力として消費される前にサーヴァントを倒さないと元には戻らなくなってしまう。
俺は焼肉のタレをぐびぐび飲んでいるアルトリアを見ながら考えた。
確かに聖杯戦争には参加したくない。
でも山本や、大勢の巻き込まれた人たちを救うには戦わなきゃいけない。
自分の正義に従うなら、俺の行動はもう決まっていた。
(俺は、人を救うために戦おう。ーーーー聖杯戦争を止めるために、聖杯戦争に参加すればいい!)
「って、えっ、焼肉のタレ飲んでる!? ストップ! アルトリア待って!」
俺は慌ててアルトリアから焼肉のタレを奪い取ると、食いかかってきた彼女に押し倒され、床の上でボコボコにされた。
「分かったから! ごめん! ごはん出す!」
夜ごはんは、もやし炒めにした。
だんだん食費が嵩みそうなので節約志向になってきている。
アルトリアをお風呂に入れて髪を乾かしてあげて歯磨きをしてあげていたら遅くなってしまった。
女の子なのに野蛮すぎて扱いが困りすぎる。
清楚にしていれば絶対美少女なのに。石鹸とかバスタオルとかなんでも食べちゃう。
今夜はアルトリアが暴れるせいで、疲れてる俺はなかなかねれなかった。
久々に隣から壁ドンが来た。
✳︎
アーチャーは路地裏で座り込んでいた。
夜の街中で、人通りに多い道の隙間に開いた、ビルの隙間のゴミ捨て場のような路地でただ、膝を立て壁に凭れて座っていた。
アーチャーにはもう目的が無い。
聖杯戦争で生き残る意味も感じない。
彼のマスターである入月ミリアが死んでから、彼の魔力供給がなくなり、もう数日で魔力が切れた彼はこの世界から消えてしまうだろう。
彼の願いは、ミリアの願いの成就だった。
アーチャーは生前果たせなかった、愛する人を自分の手で守るという願いを叶えるため、代わりに自分のマスターを守ることを自分の願いにしていた。
ミリアは優しい女性だった。
彼女の願いも優しく、彼はそれを守ることに決めた。
他の邪悪な願いを叶えさせるくらいなら、彼女を勝ち残らせるのにためらいはなかった。
……でも、その願いも潰えてしまった。
今となってはこの世界に留まることですら無価値なことでしかなかった。
(いっその事……)
「アーチャーだな」
突然の声に、彼は顔を上げた。
気づけば目の前に立つ男の人影が、彼を覆っていた。
「誰だ」
「取引をしたい。……私と再契約を結ばないか?」
男の声にアーチャーは身構えた。
男の右手の甲に令呪が見える。ーー敵の
「何者だって訊いてるんだ!」
アーチャーは自分の銃を男に向けた。
銀髪の男が答える。
「お前と同じ、サーヴァントを失ったマスターだ」