ぐるるるぅぅぅう……
大きな音でシンジのお腹が鳴った。
朝から何も食べてない。
シンジは屋敷を抜け出し、街の様子を見て探検していた。
「お腹減った……」
疲れたシンジは公園のベンチに座ると、ぐったりと項垂れた。
緋咲がずっと寝ているため、やることがなくて暇なのだ。
シンジは正真正銘のヒモニートになっていた。
でも自分がいる場所は把握することができた。
ここは冬木市という場所らしい。おそらく神戸の近くだ。
だが自分の本来の居場所を覚えていないシンジにとっては、あまり意味のない情報だった。
なにせ英霊になってしまったのだから、元の人格がどんな人物なのか自分でもわからないのだ。
聖杯に記憶された人格のコピーであるサーヴァントは、狂人になったり性別や年齢が本来と変わっていたりするらしいということを緋咲から聞いていた。
自分はもしかしたら本当はムキムキマッチョな英雄だったり、魔法を使える幼女だったりする可能性もあるのだ。シンジは楽しくなってきた。
ぐるるるぅ……
「うぅ」
お腹が鳴って、またシンジが落ち込む。
「だいじょぶ?」と通りかかった小学生くらいの男の子に心配された。
「お腹減った……」
「飴あげようか?」
「ほんと!?」
シンジは小学生に飴をもらい、小学生と遊んだ。
ついでに食べられる草を教えてもらっていると、少年の保護者らしき男が来て男の子は帰って行った。
また一人になったシンジは、ぼーっと、帰っていく男の子と保護者らしき老人を見送った。
ぐるる、とまたお腹が鳴った。
「何をなさっていたんですか?」
背の高い、外国人らしき老人が、少年に聞いた。
「べつに。お話してただけ」
少年はニタっと笑った。
「そろそろ帰ろうかな……」
シンジはベンチから立ち上がると、帰ることにした。
ーーーーーーー
緋咲邸に着くと、起きているか確認するために彼女の部屋へ向かった。
部屋を開けると、まだ緋咲は寝ていた。
「あ、あの……緋咲さん? 起きてる?」
緋咲は寝息ひとつたてずに、石のように眠っている。
シンジは揺り起こす事にした。
「緋咲さーん。もう午後ですよー」
遠慮気味に肩を揺すってみると、「うぅ……」と綺麗な眉を顰めて反応した。
「夜ご飯食べたいです」
「うるさい。眠いのよ。…………え、夜ご飯?」
緋咲は起き上がり、時計を見た。
半日以上寝ていることに気づき、目が覚めたようだ。
「もしかして、疲れてる?」
「そうみたいね」
緋咲はフラフラ立ち上がって言った。
「なんであなたの実体を維持するだけでこんなに魔力を使うのかしら……」
真名が分かったとき有名な戦士じゃなかったらぶっ飛ばす、と緋咲は悪態をつく。
暗にいるだけで迷惑と言われたような気がしてシンジは肩身が狭くなった。
その日の夕食は出前のピザになった。
シンジは少し嬉しくなった。