俺が食堂に行くと、意外にも大人しくアルトリアは座って待っていた。
「アルトリア、ただいま」
近づいて声をかけると、アルトリアの対面の席に座っていた男も顔を上げた。
「敵のマスターがどっかに潜んでるらしいんだ。早く移動しよう……」
小声で声をかけ、手を引いてアルトリアを立ち上がらせる。
出口に連れていく時、対面の男が驚愕に顔が引き攣っていたのが、なぜか記憶の端に残った。
*
アルトリアと間森が食堂を出て行ったのを見送った彼は、ガタッと椅子を引いて立ち上がった。
「マジかよ……マジかよ」
状況に混乱して椅子の周りを歩き回る。
信じられないことに、今まで目の前に座っていた女の子は、敵のサーヴァントだったのだ!
彼はアサシンを呼ぶと、食堂から外へ出た。
確かに言われてみればさっきの少女は、話で聞いていた伝説の英霊にそっくりだった。
どうして気づかなかったんだろう!
騎士王である彼女らしくない、よだれ垂らしながらアホみたいなだらしない顔で、焼きそばパンみたいな貧乏くさい物をを食べていたせいか!
「どうしましたマスター」
飛んできたアサシンが走るマスターに問いかける。
「いたんや! セイバーが! いくぞ!」
霊体化しているアサシンに伝える。
「お前は後ろからついてこい。俺が暗殺対象を示すから、お前はいつも通り人気のないとこで殺すんや」
「……了解です」
✳︎
俺がアルトリアと歩いていると、建物のそばにクロノスが立っているをみつけた。
「あ、クロノス」
俺とアルトリアに気づいたクロノスが、挨拶を返してきた。
「やあ、間森くん」
「さっきセイバーさんにも会いましたよ。クロノスさんも、この学校にいるサーヴァントを探しているんですか?」
俺が聞くと、感情のない笑顔でクロノスが答えた。
「そうだね。ここの関係者か学生がマスターの可能性も高い……。間森くんも気をつけるんだよ」
「わかりました……。でもなんか今日、授業がなくなっちゃたのでもう帰ります」
クロノスは何か思案顔になったが、「そうか。お疲れ様」といっただけだった。
もしかしたら一緒に敵と戦って欲しかったのかもしれない。
でも俺はもう戦いたくない。
クロノスと別れると、植木を引き抜いていて遊んでいたアルトリアと共に帰路へ向かった。
✳︎
クロノス、間森、アルトリアの様子を自動販売機の陰から窺っていたアサシンのマスターは、彼らが別れて帰るのを見送っていた。
「あいつだ……」
彼は畔野巣終始を知っていた。
以前から要注意人物として目をつけていた魔導師の一人だ。
畔野巣が冷酷非道で強力な魔法使いであり、何かの英霊と契約しているマスターである事も把握している。
その畔野巣が、尾けて行ったアルトリアと繋がっていたのだ。
「やべぇな。敵は一組だけじゃなさそうだぜ」
「マスター。どうします?」
声だけのアサシンが命令を求める。マスターが答えた。
「アルトリアの方は泳がそう。マスターはここの学生っぽいし、いつでも殺れるやろ。それに霊体化もせず二人一組であんなに堂々と居られたら逆に怖ええもんなー。
それより畔野巣の方がやばい。あいつは絶対今仕留めんとマズいで。アサシン、尾行して暗殺してこい」
「了解」
アサシンは突然マスターの前で実体化すると、すぐさま自動販売機に飛び移り建物を登り始めた。
畔野巣を殺すために。